それでは、どうぞ
「ん、それで話って?」
大惨事の後、呆然とする周囲を置き去りにして早々に入り組んだ路地裏へと入った2人の姿は閑散としたカフェの中にあった。手元にはペンシルゴンが頼んだと思われるケーキセットが置かれており、それをつつきながらジョシュアは尋ねる。
「そうだねぇ……まず君に色々聞きたい話があるんだけど良いかな?」
「良いよ、僕も分からない事だらけだし長い事シャンフロやってる先輩の意見聞きたい」
「うーん、素直でよろしい」
真っ直ぐこちらを見つめてくる瞳に微笑みを返して一度会話を切る。ピンと立てた人差し指をそのままケーキをハムスターの如く頬を膨らませて頬張る。
「じゃあまず1つ目、ホントにリュカオーンと戦ったの?」
「ん、一昨日殺し合ったよ、楽しかったしまたやりたい。次はいつ会えるかな」
「ユニークモンスターと戦ってその感想吐ける辺り最ッ高にイカれてんね」
「しょうがないでしょ?これが僕だから」
「イヤイヤ、何とも頼もしいなぁって思っただけだよ」
普通の初心者であればトラウマになってもしょうがない状況だとしても、根本が狂っていれば娯楽と化すのだろう。ポワポワとした満足気な雰囲気を漂わせる後輩を前に苦笑いがこぼれてしまう。
「で、どのくらい持ち堪えたの?」
「大体……10分位?装備が貧弱すぎて殆どダメージ入ってなかったと思う」
「確か始めてまだ1日目の時だっけ?そりゃあそんな状態で討伐されたら他のプレイヤーの立つ瀬がないってもんでしょ。特に
「
「私のリア友がリーダーやってる、このシャンフロのトップクランだよ。夜襲のリュカオーン討伐を目標に据えててねぇ、特にリーダーのモモちゃんの執着がもうすごいの何の」
余程その友人との出来事が記憶に残ってるのか、ヤレヤレと首を横に振る姿からは少し疲れが見えた。
「というか、ジョシュアくんはマーキングされなかったたんだね、いがーい」
「マーキングって何」
「条件は知らないけど、何か善戦した後にぶっ殺されたら身体の部位の1つに装備不可とかのデバフが付くらしいんだよね。しかも聖女ちゃんレベルじゃないと解除出来ないレベルの呪いだって……でもソロで10分相手出来たんなら条件満たしてそうだけどなぁ」
「あぁ、色々偶然が重なったけど僕は殺されずに逃がされたから。まさか戦ってる最中にワープで誘拐されるとは思わなかったけど」
「えぇ……」
聞いたこと無い方法で絶対的な死から逃れた事実を何でもないかのように語るジョシュアにドン引きするペンシルゴンだったが、まだ本題にすら入ってない事を思い出し気を取り直して話を続けた。
「それじゃあ2つ目、その装備何?」
「ユニークシナリオで手に入れたやつ。他にもあるよ」
「……まじ?」
「ん、マジ。ネットで調べても出てこなかったし、正真正銘僕が初めて見つけたシナリオだと思う」
「…ちなみに私もそれに便乗することは?」
「申し訳ありませんが、それはオススメしないのです」
実質独占状態である情報に目を光らせた瞬間、ヒョコリとオルトがジョシュアの肩に足をかけて顔を出した。
ジョシュアが一切動揺無く左頬にモフモフを感じながらケーキをフォークで削って頬張っている一方、ペンシルゴンは突如として現れた存在に目を剥いていた。
「うわっ、ウサギ!?ってかヴォーパルバニー!?」
「はじめましてなのです!ワタクシはオルト、司書見習いとしてジョシュア様と行動を共にさせていただいているのです!」
喋るモンスター、というかそもそも喋るヴォーパルバニー自体は有名なユニーククエストである『兎の国ツアー』で会う事は出来る。
しかしそのクエストで訪れる兎の国『ラビッツ』でしかその存在を確認されておらず、ジョシュアに肩車をしてもらうような形で顔を出している黒毛のヴォーパルバニーが何故ここに居るのか等の疑問がペンシルゴンの中で湧き出しては渦巻いていく。
「ん、出て良かったのオルト?」
「ジョシュア様が気を許していらっしゃる相手だと判断致しましたので……不味かったのです?」
「いや、話すタイミングを伺ってたから丁度良かった」
混乱する先輩を他所に、ずっと己のフードの中で丸まって隠れていたオルトと言葉を交わす。その和気藹々とした雰囲気に冷静を取り戻したのか、ペンシルゴンは姿勢を戻しながら身振り手振りの激しいオルトを観察し始める。
「喋るヴォーパルバニー……テイムした、ってわけじゃなさそうだね」
「この子はシナリオの関係で組んだパーティーメンバー、レベルも僕の3倍近くあるつよつよウサギさん」
「待ってジョシュアくん今レベルは?」
「ん……エリアボスの時に上がったから大体32位?」
「てことは大体90かぁ、どんな風にプレイしたらそんな事になるんだか……」
実は先程の幻想体戦後にレベルアップ後のスキルの確認と共にオルトのステータスを覗いていたのだが、段違いのレベルに数秒間固まってしまったのは良い思い出である。
因みに職業はジョシュアと同じ《司書補》で副職業は《エージェント》というこれまた見たことの無い物だった事をここに記しておく。
「それで?『オススメしない』って言った理由は何かなオルトちゃん?」
「単純に貴女様は『図書館』へと訪れる事が出来る資格を有して居ないのです」
「資格ぅ?てか何その図書館って」
「僕らが拠点にしてる場所、詳しい事は僕にも分かってないけど蔵書は軽く見積もっても数千万以上はある。モンスターについての生態を各種類毎に一冊位に纏められてたりするし、何ならこの世界の過去のことについて記されてるやつもあるかもしれない」
「それはまた……他のクランが血眼になってその資格とやらを得ようとする代物だねぇ。ライブラリのおじいちゃんなんか興奮で血圧上がってぶっ倒れるんじゃない?」
カラカラと笑っているがその目元はギラついている。
「ちなみに何だけど、その資格の取得条件って分かる?」
「……何が資格かは分かってるけど、ホントに偶々手に入れた物だから僕からは何とも言えない」
「オッケー、今はまぁそれでいいや」
嘘を言ってないと判断したのか、それ以上の追及を止めたペンシルゴンは自身の分のコップを掴み取り中のジュースを飲み干して喉を潤した後、不思議そうにこちらを見てくるジョシュアの目を真っ直ぐ見つめて口を開いた。
「それじゃあ最後の3つ目、これが本題何だけど……ジョシュアくん、他のユニークモンスターに興味ある?」
「ある」
「わぉ、即答」
今までの話の中でもトップクラスの食いつきを見せ、目を大きく開いてキラキラと輝かせる姿は普段とは真逆の印象を与える。
そんなやる気まんまんの後輩を見て思わずクスリと笑ってしまったペンシルゴンは大変愉快そうだった。
「私は今『阿修羅会』っていうクランの副リーダーやってるんだけどね、そのクランが情報を独占してるユニークモンスターが居るんだよね」
「情報の独占?倒さなかったの?」
「倒さなかったんじゃなくて
「ん……同意」
愚痴を吐くように語り、それ以上は無駄と判断してか言いたいことを飲み下すかのようにジュースを流し込んで喉を潤すペンシルゴン。向かいの席のジョシュアも何とも言えない雰囲気を漂わせながらケーキの上の苺を頬張った。
「それで、先輩はクランを裏切ってでもそのユニークモンスターを倒したいと」
「そ、セッちゃんとの約束もあるし私はアイツ……『墓守のウェザエモン』を張っ倒したい」
そう告げる姿は確固たる意志を感じ取れる。真剣そのものの目線を受けてかジョシュアは少し佇まいを正した。
「まだ協力者をどうしようかっていう段階だけど、その討伐メンバーとしてジョシュアくんを迎え入れたい。さて、どうするジョシュアくん?」
「ん、断る理由は無い。よろしく先輩」
差し出された手をジョシュアは握り返す。
「ウェザエモン…なのですか」
「ん、オルトは知ってるんだ」
「はいなのです、館長様の『図書館』はこの世界の全ての情報を蒐集する為の貯蔵庫としての側面を持つ、と仰られているのです。確かその中には七つの最強種について記された書物もあった筈……」
「マジで!?」
予想していなかった所から新たな情報の糸口がもたらされた事に驚愕と共に興奮が押し寄せたのかガタリと大きな音を立てながら立ち上がって前のめりで問いかけられる。しかしその相手であるオルトは未だ頭を悩ませるように目を閉じていた。
「その本、私にも見せてもらう事って出来る?」
「ふむむ、複製は可能ですが持ち出しは厳禁……その上あの億を超える蔵書から目的の本を掘り出すのは困難を極めるのです。ペンシルゴン様には申し訳ありませんがご期待には応えられないかと……」
「一応こっちでも探してみる」
「……あんがと、それじゃあお願いするね」
興奮が収まったのか椅子に座り直して残ったケーキに舌鼓を打ち始める。その後、近況報告も兼ねた雑談をオルトも交えてしていた所で徐ろにペンシルゴンがスケジュール帳のページを出してスクロールし始めた。
「さて、と。ジョシュアくん、明後日の夜空いてる?」
「特に予定は無いよ。仕事も早めに終わるだろうし」
「それは何より、それじゃあその日の午後9時にサードレマからフォスフォシエへと向かう道……千紫万紅の樹海窟の入り口に集合ね」
「ん、了解」
「それじゃ、私そろそろログアウトするね〜」
組んでいた足を解き、椅子から立ち上がって歩き出す。
「あ、そうだ先輩」
「ん、何かな?」
出入り口のドアに手をかけるかどうかの瞬間、ふと思い出したかのようにジョシュアはペンシルゴンを呼び止めた。
「さっき殺しに来た阿修羅会って、先輩が副リーダーやってるクランなんだよね?」
「うん、そだよー。いやぁごめんねー、獲物になりそうな相手には見境無くってさぁ」
「ん、別に気にしてない。それより先輩に一応言っとかないとかなって」
既に中身を飲み干し、カランと残った氷がぶつかる音を響かせながらコップを置いて、徐ろに入り口に顔を向ける。
「次殺しに来た時も遠慮なく殺し合っていいよね?」
「勿論だよジョシュアくん、むしろ積極的に殺っちゃって♡」
恍惚とした笑みからはとても考えられないような台詞。しかし、それに答える側もまた満面の笑みあった。
「わーい、副リーダーさんからの許可だ〜。いっぱい殺し合うぞ〜」
「物騒なのです〜」
「『殺し合う』、ねぇ……まぁ何とも物騒な事で」
サードレマの裏路地、人気も無くただひたすらに暗い道を歩く。目指す先は宿屋だろうか。
「でもまぁ、丁度いっか。あの子のプレイヤースキルならレベル90代の連中に囲まれたりしない限りどうにかなるだろうし……何だったらジョシュアくんも誘っちゃお」
ぼやくように思考を纏め、未来を描く。その中では自らが可愛がる後輩や愉快な仲間達と共に行おうとする決定事項が確かにあった。
「さぁて、何時にしようかなぁ
阿修羅会殲滅パーティー♡」
己の所属組織の解体を願うその顔は、その容姿の端麗さを加味したとしても酷く邪悪な物だった。
ジョシュアくんは来るものを拒みません
ただ去るものはその行動を起こす前に仕留めるので居ません
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……