司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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畔の街に待ち構える変態

第六の街、シクセンベルト。

その入り口にいた衛兵のNPCに挨拶しながら門をくぐったジョシュアを出迎えたのは巨大な噴水のある広場だった。

 

「ん、水路が多いね。ヴェネツィアみたい」

(ヴェネツィア?というのはわかりませんが、図書館の本にあった情報だとシクセンベルトとニーネスヒルの間には大河があるらしいのです何でもモンスターでさえ呆気なく流されてしまうほどの水量と流れを成しているのだとか)

「ふーん、ニーネスヒルに行くまでに何か足場でもあるのかな」

 

散策がてら街のメインストリートを歩く。絢爛さ、というものは無いものの街中を通る太い水路には小舟が浮かんでおり、住民や開拓者達に商売や移動と頻繁に利用されている様子が見えた。

そんな街の様子を興味深そうに観察していたジョシュアだったが、今現在彼の意識は別の物へと向けられていた。

 

(………ジョシュア様)

「ん、大丈夫、気付いてる」

 

コソコソと静かにやり取りをしながら何でもない風に取り繕いながら石造りの街を歩いてゆく。

初めて訪れた街を気ままに探索する新人開拓者を装い、曲がり角を通る際にチラリと後方を見やる。

 

 

 

「んふふへへへへ………良い、とっても良い美少女だぁ……!」

 

「ん、変態が居る」

(変態が居るのです)

 

そこにいたのは、変態だった。

 

ビジュアルはかなり整った女性アバターなのだが、だらしなく緩められた口からは涎が滴り、目はジョシュアの後ろ姿を捉えて離さず嫌らしく歪んでいた。

折角の美女アバターが台無しである。

 

(は、初めて見るタイプの方なのです…!ジョシュア様、どうするのです?)

「取り敢えず早歩きで撒いてみよう」

 

困惑しきっているオルトを落ち着かせつつ、背中に刺さるネットリとした視線をシカトし、街の散策を続けるジョシュア。

本来ならゆっくりと回りたいのだがこんな状況では楽しめるものも楽しめないと足早にその場を去ってゆく。

 

 

 

そして数分後、

 

「んん〜…!キョロキョロしながらウキウキで早足になってるの可愛過ぎない……!?お姉さんがよしよししてあげたいなぁ……!」

 

「ぜんっぜん撒けない……」

(それどころか段々近づいてるのです……!?)

 

変態はほぼ一定距離を保ちながらジョシュアを追跡し続けていた

 

垂れ流される気色悪い文言は一旦置いておいて、先程よりも近くなった変態を一切撒ける気配が無い事実に冷や汗が流れ始める。

チラリと後ろを確認すれば、一応建物の影に隠れては居るものの周囲のプレイヤーやNPCからは普通に見えており、その変態を見た瞬間奇妙な物を見た表情になりそそくさと視線を逸らしてスルーしていくのが見えた。

と、そうして後方確認の為に後ろに視線を向けて居たのその時、

 

パチンッ

 

「……あ」

 

偶然ジョシュアと変態の視線が合わさった。

 

合わさってしまった。

 

 

「…………

 

目、合っちゃったぁ♡」

 

「ッ」ダッ

(ヒエッ)

 

ドッロドロの情欲が詰まった声が聞こえたと同時にジョシュアは走り出す。それはもう脱兎の如く、人混みの間を縫いながら隠れるように建物の隙間に入り込む。

陽の光が遮られて暗くなった路地裏を駆け抜けつつ、後方の表通りをチラリと見れば誰も追いかけて入ってくる様子は無かった。

しかし安心は出来ない為暫くの間隠れながら移動しようとジョシュアは前を見る。

 

 

「んーふふふふ……歩き慣れてない街の路地裏に入っちゃダァメ♡こんな風に先回りさ・れ・ちゃ・う・ぞ?♡」

 

「うぇあ」

 

変な声が出た。

逆光のせいで表情は見えないもののその欲に濡れた声でどんな顔になってるかは想像が付いてしまう。

今まで遭遇したことのないタイプの脅威を前に足を止めてしまった故か、向こうも逃さないと言わんばかりに唯一の道だった路地裏の水路の上に掛かる手摺の無い小さな橋の上に歩み出てこちらに近寄って来る。

 

「んふふへへへへ……近くで見ると更に可愛いし色っぽくて…うふふふふふふ、大丈夫大丈夫、お姉さんに任せておけば何も心配しな……」

「何やってやがんだこの色ボケ」バシッ

「あぶっ」

 

ザッパーンッ

 

手をワキワキさせて立ち塞がる変態を前に剣を抜こうと覚悟を決めるジョシュアだったが、それよりも前にその後ろから現れた存在が後ろから頭部を棒のような物で引っ叩いて水路に落とした。

呆気なく水飛沫を上げながら水路に落ちた変態を宇宙を背負いながら目で追ったジョシュアは変態を退けた者の溜息で漸く目の前に立っていた男の存在に気が付いた。

 

「ったく、すまねぇな嬢ちゃん……いや、坊主つったほうがいいか?」

「………村正さん?」

 

その容姿はジョシュアにとって見覚えがある物だった。

真っ白になった髪の中に記憶にある赤茶色がメッシュのような形で入っているが、それでもその声と笑い方は『幕末』で関わる中で知った物と変わらなかった。

 

「おう、案外早い再会だったな。あとここでは村正じゃねぇ、シェロだ。ま、改めてよろしく頼むぜジョシュアの坊主」

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、ごめんなさいねジョシュアちゃん!私美少女と美少年に目が無くて!あ、私《むっちゃん》ってPNでやってるから遠慮なく呼んでね♪」

「さっきとキャラ違くない?」

「これがこいつの平常運転だ、慣れろ」

「ちょっとシェロさん酷くない?」

 

先程の変態性は鳴りを潜め、パッと明るく笑う女武者……むっちゃんにジョシュアは困惑したように助けを求める目でシェロを見るが当人我関せずと受け流しながら罵倒する。むっちゃんも抗議するがシェロは閉じていた目を開いてギロリと睨む。

 

「元々手前が「新しい刀が欲しい」つってここを集合場所にしたんだろうが。ガキの尻追っかけて交渉ほっぽり出した奴に文句言われる筋合いなんざねぇよバカタレ」

「えぇ~、でもちゃあんと私の事探してくれる辺り、もしかして私に気があったり……!?」

「おう坊主、新しい武器は入り用か?今ならこいつの支払いで幾らでも良いもん拵えてやるぞ」

「嘘嘘嘘嘘、冗談だって!……ん?『坊主』?」

 

額に青筋を浮かばせながら笑顔で堂々と商品を横流ししようとする鍛治師を止めようとする女武者だったが、ふと会話の途中の単語に引っ掛かりを覚えて首を傾げる。

 

「気付いて無かったのか、コイツ男だぞ」

「えっ、その見た目で付いてるの……?」

 

目を見開き、そのままジョシュアの全身を舐め回すように観察し、むっちゃんはポツリと呟いた。

 

「嘘、なんてお得……!?」

 

「シェロさんこの人大丈夫?」

「これがこいつの通常運転だ、慣れろ」

 

口元を押さえて変な方向に驚く変態の頭の心配をしてシェロの方を向けば死んだ魚のような遠い目でコップに入ったジュースを煽りながら返答される。

和風テイストの白黒の着物を装備している為西洋ファンタジー風のシクセンベルトの街並みでは若干浮いているが、堂々としている姿は何とも様になっていた。

 

「こんなどうしようもねぇ変態でも一応お得意様の1人だからな。金払いは良いんだよコイツ」

「そりゃまぁ、斬り合うには武器の質は肝心ですからね。そこら辺は妥協しちゃいけないところよ」

「ん、それは分からなくもない」

「素手でも人体破壊する奴が言っても説得力がねぇな」

 

ジョシュアが『幕末』にて無手の状況から完全武装した10人グループを天誅していた光景を見たことがあるシェロとしては「どの口が」と悪態をつきたいが、自身の顧客の中でも頻繁に刀の買い付けにくる1人なのでその言葉を飲み込んで軽口を叩いておく。

 

「つぅか、お前さん何で坊主の事知ってんだ?コイツまだシャンフロ初めたばかりって聞いたんだが?」

「知ってるも何も、ジョシュアちゃんって最近色んなとこで話題になってるのよ?」

「んう?」

「はぅアッ!?かわわわわッ!?」

「一々反応すんな話が進まねぇ」

 

不思議そうに首を傾げる姿に心を穿たれたむっちゃんは胸を押さえてヤバい顔になり始めるが、それよりも前に動いたシェロが持っていた刀の鞘で頭を引っ叩いて正気に戻す。

 

「ハァ、ハァ……ふぅ………うん、落ち着いた。それで、ジョシュアちゃんを知ったきっかけだっけ?それについてはコレ見て」

 

正気かどうか怪しいものの一応表面上は戻ったむっちゃんが画面を他2人の前に出す。

どうやらシャンフロ内で使われている掲示板の1ページのようで、そこには1つの動画が繰り返し再生されていた。

 

「あ、セカンディルで絡まれたときの。撮られてたんだ」

「ほぉ、良い蹴りだな」

「初心者相談の板にこの動画が貼られて、更にその後サードレマ前で阿修羅会の集団相手に大立ち回りしてたでしょ?それを実況してた人が何人も居たの。期待の新人現る、ってね?」

「アレかぁ……ん、もうちょっと骨のある人達が来て欲しかった。途中で心折れちゃったし、次来る時はもうちょっと歯ごたえのある人が良い」

「阿修羅会か……こないだ刀狙いでオレを殺しに来たやつ居たな。試し斬りのモンスター探してたから丁度来てくれて助かった」

 

中々に物騒な感想だが、これでも『幕末』のノリを出さないように自重しているのである。

もし『幕末』ならばプレイヤーNPC関係無く全員斬り殺してると言えばどのぐらい抑えられているかが伺えるだろう。

しかしそれを知らぬむっちゃんは驚いたように目を丸くしていた。

 

「え、シェロさんは兎も角もしかしてジョシュアちゃんってそういう感じ?」

「オレは兎も角ってどういう意味だ」

「だってシェロさん、槌以外のスキル使えない鍛治師メインにしてるにも関わらず刀振ってるし。スキル使うのが基本のこのゲームでそのプレイスタイルは結構イカれてると思うけど?というか最近普通に刀のスキル使ってたって聞いたけど、なんかあった?」

「良いだろ別に、刀が一番手に馴染むんだよ………コイツは根っからの戦闘狂いだ。それもお前さん以上のな」

「命のやり取りって、たのしいよね」

 

ニッコリと綺麗な笑みを浮かべて宣う言葉はおおよそその清純な乙女のような容姿からはかけ離れている血に濡れた物だった。

 

「お前さんそのうち阿修羅会の拠点に殴り込みに行ったりしそうだよな」

「いや僕がやりたいのは殺し合いであって殺す事じゃないから……大義名分とか依頼とかでも無い限りしない。一方的に嬲り殺しても何も楽しくない。やっぱ殺し合う時の命と精神を削る感覚が無いと」

「相変わらずイカれてんなぁ、まぁオレも人の事言えた義理じゃあねぇんだが」

 

真面目に己にとっての殺し合いの定義を語るジョシュアとカラカラと笑うシェロ。

根本からぶっ飛んでいる2人の会話を聞いていたむっちゃんは俯きながらプルプルと震えていた

 

「何それ、可愛い上に戦闘狂なんて………

 

最っ高じゃない!ねぇジョシュアちゃん、PVPに興味無い!?」

 

しかしその震えは歓喜と武者震いが混じり合った物である。

美形の少年少女を見た瞬間理性を溶かす変態ではあるものの、彼女もまた強者との戦いを求める戦士なのだ。

 

「ある、けど辻斬りはしない主義。向こうから突っ込んで来るなら話は別だけど」

「大丈夫大丈夫!合法かつ同意の上での殺し合いだから!」

「ん、なら教えて」

 

食い気味なジョシュアの返答にニヤリと笑った女武者はインベントリから1枚の封筒を取り出してジョシュアに差し出す。

 

「首都のニーネスヒルにある闘技場なんだけどね、そこで血気盛んな連中がよく闘技大会を開いてるの。私もよく参加するし、ジョシュアちゃんが出たら話題性抜群間違い無し!どう、興味ない?」

 

紋章のようなシーリングスタンプで封をされたそれは、戦場への招待状だった。




PN:むっちゃん

2本の刀を腰に携えた美女で、美形の少年少女をこよなく愛する変態。
変態ではあるのだがその実力は高く、シャンフロ内で開催されている武闘大会では一部殿堂入りしていたりする。PKは基本しない主義だが、強そうなプレイヤーを見かけたら鯉口を切ろうとしちゃうタイプ。
所属は無いものの傭兵のように色んなクランから協力要請を請けていたりする。
メイン職業は剣客、サブ職業は神秘(アルカナム)隠者(ハーミッド)
レベルダウンも使って難しいスキルを覚えまくるタイプ
クランリーダーs「実力は確かだが、変態行動で問題起こすから手元に置きたくない」

元ネタ・容姿 FGOの宮本武蔵(第二再臨)


村正改めPN:シェロ

「鍛治師はハンマー系以外のスキルを使えない」というシャンフロの仕様をガン無視してメインを鍛治師、サブを戦士にして刀振ってた化け物。
ちょくちょくメインとサブを入れ替えて両方のジョブを育てた結果、どちらも最上位職の名匠と剣客になった。
シャンフロの鍛治師界隈でも聖槌ムジョルニアの担い手であるイムロンに次ぐレベルで有名だったりする。
現在のメイン職業はユニークジョブの『刀匠』、サブ職業は細工師の上位職である『装飾師(デザインクラフタ)


元ネタ・容姿 FGOの村正
       (第三再臨 肌のみ一、ニ再臨)
       (『幕末』は第二再臨)

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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