司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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そろそろ本格的に暑くなる時期ですね。
シャンフロの3期が楽しみです。




それでは、どうぞ。


世界が止まる事は無く

「あーあ、振られちゃったなぁ……」

 

座ったままカフェのテーブルにもたれ掛かるように体を乗せ、足をぶらつかせながらいじけたようにぼやく女武者。

その対面に座る鍛治師はその様子を見て呆れながら、手元の刀の組紐を調節しながら口を開く。

 

「仕方ねぇだろ。受けるかどうかはアイツの意思だ」

「そりゃわかってますとも。だから無理強いはしなかったでしょ?」

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

「ん、お誘いは嬉しいけど、今はユニークシナリオとレベル上げを優先したい。そっちが落ち着いたら必ず参加する」

「んー……そっかぁ。じゃあコレは貴方にあげるからね!絶対いつか参加してよ!」

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

しっかりと理由を述べて断られた上代替案まで出さている。

これ以上を要求するのは無理だと察したむっちゃんはそこで引いたのだが、それでも未練は残っているようで体を起こして背凭れに体を預けながらぼやき続ける。

 

「でもなぁ、一回斬り合ってみたかったなぁ」

「別に機会が無くなった訳じゃねぇだろ。多分そのうちフラッと出場して優勝商品かっさらうぞ」

「あら、優勝するのは確定なの?」

 

何でもないかのようにサラリと告げられた言葉に反応し姿勢を直して前を見る。その視線には若干の殺気が含まれており、顔には挑戦的な笑みが浮かべられていた。

常人ならば萎縮するであろう急な変化に対し、シェロは特に反応する訳でもなくあっけらかんと口を開いた。

 

「たりめぇだろ、『殺し合い』っつうもんの才覚に関しちゃアイツは格が違ぇ。コッチがあれやこれや策を弄しようが数を集めようが力の差があろうが関係ねぇと言わんばかりに本能だけで纏めてねじ伏せやがる。初めたばかりって聞いてるが、今殺り合ったとしてもお前さんといい勝負するんじゃねぇか?」

「えー!シェロさんがそこまで言うとか余計気になっちゃうんだけど〜!?」

「はっ、その時まで我慢するこったな」

「むむむむむ……はぁ、はいはい我慢しまーす」

 

前のめりになって詰め寄って来た相手を鼻で笑いながら作業を続ける鍛治師に女武者は諦めたように座り直す。

そしてその数秒後、思い出したかのようにその上半身をカフェのテーブルに思いっきり打ち付けるように倒れ込ませた。

ガンッ、という音が立ち、周囲のNPCやプレイヤー達が驚いたようにそちらを見るが、向かいのシェロは一切目線を寄越す事なく作業を続けている。

 

「でもなんで私とはフレ登録してくれなかったの〜!!シェロさんとは普通に交換してたのに〜!!」

「そらぁ、初対面であんな事されちゃ縁を結びたくはねぇだろうな」

「ずーるーいー!」

「じゃかぁしぃ。ほれ、お前さんの依頼の品だ。とっとと確認しろ」

 

器用にうつ伏せになったままジタバタするむっちゃんへ組紐を弄り終わった刀を差し出すシェロ。

中々受け取らずに嘆き続けたのに痺れを切らして鞘の先で腹をどついて受け取らせた後、不意に思い返したのは此処から立ち去った友人の姿だった。

 

(そういやアイツ、ずっと何背負ってたんだ?後頭部辺りに何か黒いのが見えた気がしたんだがなぁ)

 

 

 

 

 

「ん、帰還。オルト、さっき買った本渡しとく」

「感謝なのですジョシュア様!」

 

2人と別れた後、鍛冶屋に修繕の依頼や約束通り本屋に寄って買い物したジョシュアはオルトを伴って『図書館』へと帰って来ていた。

そそくさと新しい本を抱えて休憩エリアの椅子に腰掛けたオルトはそのままパイブを加えて読書の姿勢に入る。

相変わらず本LOVEな相方を微笑ましく思いながら、ジョシュアは帰還と仕事の報告の為に休憩スペースを後にして中央へと足を運んだ。

 

「ん、ただいまアンジェラ」

「…………」

「……アンジェラ?」

「………あら、帰って来てたのね」

 

ジョシュアが話しかけても虚空を見詰めたまま無反応だったアンジェラは数秒後、再起動したかのように体を預けていた背もたれから身を起こす。

 

「ん、何だかお疲れ?」

「別にそういう訳じゃないわ、ちょっと『図書館』の力の調整をしてただけ。それで、何か用?」

「幻想体の核を確保してきたから渡そうかなって」

 

その言葉と共にインベントリから『泣きヒキガエル』と『誰も泣かぬように』の核を取り出してアンジェラの前に置く。

前回からそう時間の掛からぬうちに仕事を遂行してくるとは予想していなかったのか一瞬呆気にとられた後、感心したように立ち上がりながらこちらへ歩み寄って来た。

 

「随分と意欲的なのね、私としては一向に構わないけど何か理由でもあるの?」

「意欲的というか……僕が向かった先に偶々居るし、殺しに来るから殴り返してるだけ」

「妙に縁があるのね、貴方」

 

そう言いながらが前回と同じように目を閉じて言葉を紡ぎ、核を本にして綴るアンジェラ。

机の上に生成された2冊の本を良く見てみると、それぞれ1枚ずつ光る頁がピョコンと飛び出していた。

 

「……これでよし、と。はい、彼らのEGO」

「だいぶ雑に取り出したね」

「向こうから渡しに来てるもの。正直本にする最中にも自己主張してたから邪魔だったわ」

「……何かごめん?」

 

呆れたように頭を振るアンジェラに思わず謝ってしまうジョシュア。

それだけ気に入られている事実は嬉しくない訳では無いので喜びつつ、受け取った頁から流れる言葉を頭の中で反芻する。

 

「ん、『低いなきごえ』と『紅籍』……幻想泣鳴、幻想積札」

 

早速口に出した詠唱と共に、両手に持っていた頁は光を伴いながら質量を無視して変形する。

光が収まった後に目を開くと、右手には『泣きヒキガエル』の目玉がモチーフになったであろう大槌、左手には赤文字のお札が張り巡らされたシンプルな長杖が握られていた。

 

「へぇ、案外軽い……『後悔』との大槌二刀流とかいけるのかな?」

「私は武器の扱いとかはからっきしだから良く分からないけれど、少なくとも今の貴方のステータスでそれをやるのは実行するまでも無く馬鹿の所業だと思うわよ」

「まぁ自分で言ってて「無いな」とは思ったけども、それでもロマンはあるでしょ?」

「片手持ちで振り回せるようになってから言いなさい」

「ん、正論」

 

筋力のステータスが足りていないのか片手で持ち上げるのがギリギリな『低いなきごえ』を気合を入れて力を腕に込め肩に担ぐ。

少しよろめいてしまったが、何とか姿勢を正すと今度はその武器達をギフトへと変化させる。

するとEGO達はみるみるうちに縮み、『低いなきごえ』は目玉を模した宝石が輝くネックレスになって首にかかり、『紅籍』は武器状態の時に貼られていたお札となって額へと貼り付いた。

 

「奇抜なネックレスと……僵尸かな?」

「貴方が封印されてるみたいになってるわね」

「普通に動けるけどね」

 

額に貼られたお札はピラピラとはためくが剥がれる気配は無い。しかも裏側から見ると何故か透明で視界を遮ることは無いという便利仕様。ゲームの仕様なのかそれともEGOの不思議機能なのかは分からないが戦闘中邪魔にならないのなら何でもいいと意識を切り替えて性能を見る。

 

 

〇E.G.O 『低いなきごえ』 

 

武器種:大槌or特殊アクセサリー(首)

 

ひたすらに鳴き続け、何かを映す大きな目玉から何故か涙を流し続ける蛙の自我の断片を抽出し物体化させた代物。その声を聞いた者、涙に触れた者は酷く気が滅入ることだろう。蛙が発する声と零れ落ちた涙が意味するのは悲しみではなく、憂鬱なのだから。

 

このE.G.Oの装備時、以下の能力を得る。

・MPを10消費し、対象に自身の最大体力の10%分の追加体力(バリア)を付与する (上限30%)

《同調時》

・攻撃時、《振動》を付与する (重複9回)

・自身のMP50%と相手に付与された《振動》を消費し《振動反響》を付与、《振動爆発》を行う

 

耐久+30

《同調時》MP+50 筋力+50 敏捷+10 

     技量+10 器用+10 耐久+250

 

 

〇E.G.O 『紅籍』 

 

武器種:戦闘杖or特殊アクセサリー(頭)

 

誰かの願い、誰かの呪いを一身に受けてその代行を成そうとした木人形の自我の断片を抽出し物体化させた代物。張り巡らされた札は形を崩す事で込められた物を解き放つ。木人形を突き動かす燃料として、呪いと願いに大きな違いは無いだろう。

 

このE.G.Oの装備時、以下の能力を得る。

・攻撃時、《呪いのお札》を入手する

(所有時、相手に与えるダメージが1枚につき1%増加する。所有数10枚以上の場合、相手に与えるダメージが1枚につき2%低下する。衝撃を与えると破裂し消滅)

・《呪いのお札》の投擲、若しくは『紅籍』による打突が対象に的中時、相手に《呪いのお札》を付与する。

《同調時》

・クリティカル発生時、相手へ与えるダメージが10%上昇する

・相手に付与した《呪いのお札》が30を超えた場合《絡みつく呪いのお札》に転換する

(《呪いのお札》が消滅しなくなり、剥がして除去することも不可能になる)

 

MP+10 器用+20 

《同調時》MP+50 筋力+20 敏捷+20 技量+30 

     器用+50 耐久+200 幸運-10

 

 

 

「おお……いいね、とても良い」

 

正直『低いなきごえ』は『泣きヒキガエル』も使って来たデバフである《沈潜》に関する能力になると思っていたので少し面食らったものの、2つ共に書いてある能力は破格の物だと思えた。

 

「早速試したい、って顔ね」

「ん……そんなわかりやすかった?」

「そんな目を輝かせてれば誰でも分かるわよ」

「まぁその通りだから何も言えない……けど、同調はなぁ」

 

呆れつつも僅かに笑みをこぼすアンジェラに照れつつも、ジョシュアの思考はEGOの使い方に大部分が割かれていた。やはり新装備というのは心躍るものなのだが、ここでネックになってくるのがあの侵蝕症状だった。

《同調》は試してみたい、しかし制御出来ずに暴れ回ったりはしたくない、そんな風に考えながらどうしたものかと思考を巡らせているとそれを見かねたのかアンジェラがジョシュアの首にかかるネックレスを指差して一言。

 

「そっちの…『低いなきごえ』、だったかしら。それなら使えるわよ」

「……ん?」

「だから、その低ランクEGOなら同調しても今の貴方でも御せる筈よ。『紅籍』はまだ危ないみたいけど」

「ホント!?」

 

パッ、と破顔して笑顔になるジョシュア。普段はあまり動かないその表情は大変明るく、誰が見ても喜んでいるのが分かるレベルである。

 

「確か歴史エリアに貴方が出来る戦闘記録が色々あったわね、試すならそこに行きなさい」

「ん、行ってくる!」

 

アンジェラからのアドバイスの後、待ち切れないと言わんばかりに駆け出してゆく背中を見送ったアンジェラは1つ息を吐くと再び椅子に腰掛けて背凭れに体を預けた。

 

「さて、と……」

「隠蔽の調子は如何かな?」

 

再び虚空を眺めようとした所で、何処からともなく現れたビナーが覗き込んで来た為に作業の開始を先延ばしにしてアンジェラはうざったそうにそちらを見る。

 

「邂逅したばかりだと言うのに随分と入れ込んでいるようだな、あの小僧が知れば驚愕する様が容易に浮かぶ」

「……彼は私の目的に必要になる存在よ。やすやすと逃がす訳には行かないの」

「ふむ、言い得て妙だ。確かにお前の求める条件に当てはまるだろうさ……しかしそれだけではあるまい」

 

ニッコリとジョシュアのそれとは違う底の知れない不気味な笑みを前に、暫くの間無言になる。

やがて観念したかのようにポツリと呟かれたのは紛れもない本心だった。

 

「…彼奴等に潰されるのが気に食わないのよ、あの時みたいに」

 

そう吐き捨てるように話すアンジェラの手は固く握り締められており、そこから滲み出る憤怒を感じ取ったビナーはクツクツと愉快そうに笑いながら1つの球体をコートの内側から取り出してアンジェラに差し出した。

ガラス玉の内側に大量の文字の帯が渦巻き、外側には光の鎖が円状になって何本も回っているそれを視界に入れたアンジェラは体を起こして目を見張りながらビナーを見た。

 

「ビナー、貴女これ…」

「少しばかり掘り返してみた物だ。お前の反抗には必要なものだろう?」

「……どういう風の吹き回し?」

「何、私とてあの者の旅路に興味が無いと言えば嘘になろう。何より、また茶を酌み交わす約束をしているのでな」

 

驚きと疑いの目線を寄越す『図書館』の主を見て満足かつ愉快そうに笑った後、球体を放り渡してそのまま踵を返すビナー。

その背中を見えなくなるまで睨んでいたアンジェラは大きく溜息をついて椅子に座り直し、受け取った球を上に翳して中身を覗き込む。

 

「……どちらかと言うと、貴女の方が入れ込んでる気がするのだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、とうちゃーく」

 

最初からテンションMAXで初めて訪れた歴史のエリアを探索するジョシュア。

本能に従いズラリと並んだ本棚の間を抜けて行くこと数分後、他のエリアでも見かけた広い空間へと足を踏み入れた。

 

「んー、と………アレかな?」

 

戦闘記録がある、とだけ聞いて来てしまった為に何処に置いてあるか不明なので取り敢えず戦闘エリアの周囲の本棚をぐるりと回って見る。

『K社3級摘出職職員』、『推奴師 下級士』、『旧G社 第二部隊』『国魚漁業組合』……何か最後の奴だけ違くない?と思いつつ物色していると、ふと1つの本に目が留まった。

 

「『南部ツヴァイ協会 6課』……ん、これっぽい」




Q.何故図書館の外にいた幻想体とは直ぐ同調出来てるの?
A.ずっと休眠しててひっっっっっさびさにコミュニケーションをとった相手がパーフェクト叩き出して来たから。
つまり「ジョシュアがコミュ強だから」


《振動》
本来の物とは別枠のスタン値。《振動爆発》で元からあるスタン値に加算される。

《振動反響》
《振動爆発》の際、スタン値への加算に加えて対象へダメージが発生する

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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