司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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休みの日の時間の流れがやけに早く感じる今日このごろ、アイスが美味しい毎日です。





それでは、どうぞ


バグだらけの世界にて

『ベルセルク・オンライン・パッション』、通称『便秘』。

崩壊した街を舞台とし、画一的生態改造が義務づけられた世界で狂戦士の波動に目覚めた闘士達が時に同族と殴り合いつつ社会に喧嘩売るという硬派な格ゲー……というのが製作会社の紹介なのだが、現在プレイしている者達はその言葉をまるっと忘れている事だろう。

 

「そい」

「アブっ!?」

 

その理由は「普通のゲームなら致命傷レベルであろう製作の設計外のバグを任意で起こせる」という点である。

当たり判定や攻撃判定をずらすのは当たり前、既存の格ゲーの概念が通用しない「人の形を崩す」バグでさえ日常茶飯事となるのだ。

 

「ていや」

「アベシッ!?」

 

更に質が悪いのは敵MOBも同様にバグが起きている為、一人用ストーリーモードの難易度が既存の物よりも何倍も上昇している……ラスボス辺りは1秒未満の見切りを要求する即死攻撃を繰り出す為、元から難易度設定が可笑しいといえばそうなのだが。

そんなわけで、『便秘』は文句なしに「クソゲー」の烙印を押されていた。

 

「ほっ」

「ヌワラバッ」

 

だがしかし、そのバグに適応し更には使い熟す好事家達からは「バーリトゥード(何でもあり)ならぬバーグトゥード(バグでもあり)がまかり通る異次元の格ゲー」として認識され、未だに根強い人気を博しているのである。

多い時でも同接人数が100人を超えないレベルの過疎具合だが、それでもオンラインサービスが続いているのがその証拠だろうか。

 

「ん、準備運動完了」

 

たった今ストーリーモードの一面を数分で終わらせた男、ジョシュアもその好事家の一人である。

アバターの見た目がステータスにも反映されるこのゲームではジョシュアの現実基準で作ると圧倒的パワー不足に陥る為、仕方なく少し身長を高くしかつ筋肉量を増やしていた。

腰まで届く金髪とマフラーを靡かせながら他のプレイヤー達が集まる区画を訪れるジョシュアは、既に殆どが顔見知りとなったプレイヤー達に挨拶しながら目的の人物を探す。

 

「お、ジョシュアじゃねぇか、暫く振りだな!」

「ん、久々に気分転換に来た。サンラクは見てない?」

「サンラクか、なら確か向こうに……」

「いよーっす」

 

声をかけて来たスキンヘッドのプレイヤーと会話をしていれば話に出た黒髪を逆立てた青年のアバターを操るプレイヤー…目的の人物であるサンラクが軽い調子で話に混ざって来た。

 

「探したぞオイ」

「ん、ごめん。久々にログインしたから一面走ってウォーミングアップしてた。少し新しいバグのやり方も聞いたから確認がてら」

「エッ、マジ?俺も聞きてぇんだけど」

「そういやサンラクも最近ログインして来なかったな。つい最近発見したんだけどな……」

 

そう言って男は耳を傾けるサンラクに新しく増えたバグ技を嬉々として伝授していく。

そして……

 

 

『ROUND1』

 

 

「ん、急展開」

「何いってんだオメー」

 

場面転換を認識しているかのように振る舞うジョシュアにサンラクから呆れた目線が注がれる。

それを無視して響き渡るアナウンスに耳を傾ければ、ジョシュアの内側のスイッチがカチリ、と切り替わった。

 

「さぁ、やろう」

「お、キタキタ」

 

ジョシュアの纏う雰囲気が変化し、ユラリと幽鬼のように全身の力を抜いた状態で立つ。

それが彼の戦闘スタイルであると知るサンラクもまた両手をポケットに入れて構えた。

 

『3』

 

『2』

 

『1』

 

邂逅から数分経たずで向かい合う2人。

 

『Fight!』

「大蛇」

「居合フィスト!」

 

始まりのコングと共に放たれたジョシュアの拳は鞭のようにうねって迫り、相対するサンラクは納刀しているかのようにしまっていた手を抜き放ってそれを弾く。

挨拶代わりの一撃の後、続いて先に動いたのはジョシュアだった。

 

「ミルミル、ドリルライナー」

 

某麦わら帽子の海賊の如く伸びた腕を引き戻しながら足を細く震わせれば、足のテクスチャがバグり始めて一瞬だけ膝から足首までが10倍程まで伸びる。

それによる加速に加え、身体を背骨を軸に回転させればその回転が増幅されて人間竜巻のような姿となり、そのままサンラクへ突っ込んでいく。

 

「ッ、来たな速攻ドリルコンボ……!だが居合フィストの前では関係無い!更に……」

 

サンラクは腰を落とし、ポケットの中で一度手を抜き放つ動作をして戻せば両手のテクスチャがブレ始める。

そのまま先程腕のムチを弾いた時と同様に拳による居合を行えば、回転しながら迫っていたジョシュアが頭上に伸ばしていた拳とぶつかり合い、続け様に別の衝撃がジョシュアを襲った。

 

「ッ、パイルバンカー……!」

「名付けて居合パイル!効果はまだ持続してるからな、このまま行くぞ!」

「ん、断る」

 

弾かれて着地した所へ追撃をしようと迫るサンラクはそのまま身体を殴り抜こうとしたものの、拳を振り切ったときにはそこにジョシュアの姿は無かった。

 

「ヨーヨー、からの輪廻」

「ちょ、ま、オゴァッ!?」

 

右足首から下のみを残して当たり判定をずらした後、回転蹴りの要領で異常に引き伸ばされた足首をバグでプロペラのように振り回してサンラクに叩きつける。

縦横無尽に暴れ回る足首だったものを対処しようと居合フィストで連撃を行い襲い来る足を尽く弾いていたサンラクだったが、分裂して背後から迫っていた攻撃に気付かず頭をノックされる。

 

「こ、ん、のぉッ!」

「んッ!?」

 

しかしタダでは殺られんと言わんばかりに居合フィストの要領で飛んできた足を掴み即座に引っ張ってジョシュアのバランスを崩させる。

予測していなかったのか、ジョシュアも踏ん張りきれずに引き寄せられるようにして地面に倒れ込もうとしていた。

 

「ん、タダでは倒れない」

「ッ、何の!」

 

地面と身体が衝突するかと思われたその瞬間、ジョシュアのアバターがそのまま地面をすり抜けた。

一瞬だけ当たり判定を狂わせて地面やオブジェクトの中に入り込み、復活した当たり判定の兼ね合いで弾かれる速度を利用してそのまま地面の下から攻撃する「ゴーストダイブ」。

下手すれば世界の裏側へ行って範囲外の壁へ衝突しそのまま死ぬバグ技であり、ジョシュアのように調整を行えれば転倒状態からでも攻撃に移行できるのだが、それすらも数多のクソゲーによって鍛え上げられたサンラクの反射神経によってギリギリではあるものの防がれる。

 

「さぁ仕切り直しだ戦闘狂、居合フィスト流の強さを久々に見せつけてやんよ」

「ん……いい気迫、ならこっちも全力で応えなきゃいけない」

 

互いに距離を離し、試合が始まった場所に丁度収まった。

気付けば周りには疎らだが観客らしきプレイヤーが集まり始めており、その場のボルテージが高まりつつある。

それに呼応して対決している2人のテンションも上がったのか、サンラクは口角を吊り上げて好戦的な笑みを、ジョシュアは心底嬉しそうな笑顔を浮かべて再び攻撃を仕掛けるのであった。




「ミルミル」→足のテクスチャをバグらせて一瞬だけ数十倍に伸ばす
「ドリルライナー」→自分を高速回転させる 普通ならその場でダメージを受けるまで回転し続けるだけ
「輪廻」→ヨーヨーで伸ばした足をゲッダンさせる

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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