司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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キュートであざといレイドボスさんはご入用ですか?

代金として天誅させていただきますね





それでは、どうぞ


家族団欒とはかくあるべきか

パチパチパチパチパチパチパチパチ

 

油が跳ねる音。

 

香ばしい匂いが広がるキッチンのIHコンロの上には揚げ物が行われている油鍋以外にも大きめの圧力鍋が火にかけられており、時折その中身を確認しかき混ぜながらポイポイと片栗粉を軽くまぶした鶏肉を油の中に投下しながら揚げ上がった物を網バットに上げる作業が繰り返されていた。

 

「ふふんふふーんふんふふんふふーん」

 

髪を後ろで結びエプロンをしっかりと着てキッチンに立つ紫亜は鼻歌を歌いながら唐揚げ以外にも大葉とチーズを挟んだササミやエビ、ミニトマト等のフライ、ミニコロッケやかき揚げ等を量産している。

広々としたキッチンの作業台部分を半分以上占領する程の量に満足しながらも、まだ何かしら作るつもりなのか業務用一歩手前位のサイズの冷蔵庫の扉を開けて中から肉類や野菜を取り出してまだ開いていたスペースに置いた。

一先ず揚げ物を終えた油をある程度冷めてから再利用用の容器に濾過しながら注ぎ入れ、後の鍋を広いシンクの端に置いて重曹を溶いた水を入れて放置し、そのままの流れで野菜を洗って行く。

 

トテトテトテトテ

 

そんな風に紫亜がまな板で野菜の下処理をしていると、廊下から軽い足音が聞こえてくる。それに反応してリビングと廊下を繋ぐ扉のほうを見れば、丁度足音の主が廊下から覗き込んで来て目が合った。

身長は紫亜の胸元辺りで綺麗な金の髪を腰まで伸ばし、ポアッとした雰囲気の黒い瞳は紫亜とそっくりなその足音の主はキッチンに立つ紫亜に気付くと頭のアホ毛をユラユラと揺らしてヒョコヒョコ近付いて来た。

 

「兄さん」

「ん、由依、今日の授業は?」

「さっき終わったとこ」

 

そんな美少女、にしか見えない少年……紫亜の弟たる上条由依はダイニングキッチンの向こうから兄と会話を交わしながら覗き込んで紫亜の手元、そしてキッチンの作業台に並べられた揚げ物の山を見ておー、と声を漏らす。

 

「いい匂い、美味しそう」

「明日のお弁当ついでに晩御飯作ってる、今日はビーフシチュー」

「ん、楽しみ、待ってる」

 

待ってる、と言いつつもその視線は揚げ物の山に釘付けになっており、目は心做しかいつもより数倍輝いている。お湯を沸かしてほうれん草やアスパラガスの下茹でをしている間もその視線が止むことは無かった。

 

「………由依、何か食べる?デザートなら沢山作って冷やしてあるし、丁度お八つ時」

「どんなのある?」

「大学芋とわらび餅、あと冷凍フルーツ」

「大学芋がいい、緑茶淹れる」

 

ムフーと笑顔を咲かせた由依がダイニングキッチンにそそくさと入ってきて背伸びしながら棚から茶葉と急須を取り出す横で紫亜は野菜の下拵えを続ける。

お湯を沸かすために電気ポットに水を入れてスイッチを押した由依は後ろからお湯から上げたアスパラガスの水分を落として適度な長さに切り、ベーコンで巻いて爪楊枝を刺す作業をする兄を眺めながら言葉を漏らした。

 

「量、多いね」

「16人前位だし、この位だと思う。まぁ1/3位は僕のお腹の中に収まる予定だけど」

「よく食べるよね、兄さんって」

「燃費が悪いからそのぐらい食べないと倒れるし痩せちゃう」

「僕2人分位じゃなかったっけ、体重」

「お医者さんが言うには筋肉の密度がすごい事になってるらしい」

「ふーん」

 

そんな事を言いながらにむん、と力を入れてみせる紫亜の腕に力こぶが浮き出る事は無い。

不思議だなぁと思いつつも由依の手はこっそりと揚げたての唐揚げの方に伸びていた。

 

「あちゅっ……!」

「ん、まだ粗熱取ってる途中」

 

まだ揚げたてだったからかジュッ、と音が鳴りそうな程の熱が由依の指先を襲う。

急いで熱を取ろうと涙目になりショモショモしながら水道の水で冷やしている由依に苦笑いを零しつつ、ここまで感情豊かになった事を喜ぶ紫亜は取り敢えず一番最初に網バットに上げて冷ました唐揚げを半分に切って片方をつまみつつもう片方を弟の口元に運んであげた。

 

「ん、あーん」

「あー……んふー」

 

目の前に差し出された唐揚げをパクリと一口で頬張った由依は数回咀嚼し、満足そうに顔を綻ばせた。

冷めてもなお衣のサクサクとした食感と肉汁が閉じ込められたジューシーさが感じられ、大変満足の行く一品だった事が表情から伺える。

 

「おいしい?」

「おいしい」

「ん、良かった」

 

頰に手を当て幸せそうにする弟の横で作ったアスパラガスのベーコン巻きを焼かずにラップをして、お湯から上げた後に冷水に晒して水気を絞ったほうれん草と竹輪を丁度よい大きさに切り分けて調味料と和えて一品完成させてアスパラガスと共に冷蔵庫にぶち込んだ。

 

「んー、焼き物は明日の朝やるし、おにぎりもいなり寿司も二段分つくったし……あとはこれ冷ますだけかな」

「おお、いい匂いがするな」

「あら紫亜ちゃん、明日の準備?」

 

一通り調理を終え、満足そうに腰に手を当てる紫亜に新たに2人分の声がかかる。

兄弟が揃ってそちらを見ると、同時に顔を綻ばせた。

 

「おかえり、母さん、父さん」

『おかえり、デートどうだった?』

「ただいま2人とも」

「ただいま〜紫亜ちゃん由依ちゃん、久々にお父さんとお出掛け出来て楽しかったわ〜♪」

 

てってけてってけと高校生としてはあまりに可愛らしい足音が聞こえそうな歩き方で近寄りながら端末から声を出す由依の後ろをコップ2つと冷蔵庫から取り出した麦茶を持ってついて行く紫亜。そんな2人の両親である金髪と若々しい見た目が特徴的な女性……上条アイラと柔和な笑みと達観した目が特徴的な男性……上条空は荷物をリビングのテーブルに置きながら2人の出迎えを歓迎した。

 

「はい麦茶」

「助かるよ……ふぅ、それにしてもすごい量だなぁ」

「ん、大丈夫。殆ど昨日自分のお金で買った材料だから」

「いやいや、気にしてるのはそこじゃ無くって……まぁ紫亜だったら全部平らげちゃうし問題ないか」

「ん、流石にこの量を一人は少しキツイ」

「分かってるさ、明日は楽しんでおいで」

 

紫亜から受け取った麦茶をイッキ飲みして喉を潤す父親と楽しげに言葉を交わす。

 

「それにしても全国大会だったかしら、紅音ちゃんすごいわよねぇ」

「あの子の努力の賜物、まぁ本人が走るのが好きなのもあるだろうけど」

「うふふ、確かに。紅音ちゃんがこっちに遊びに来る時、紫亜ちゃんとランニングしてる時が一番楽しそうにしてるもの」

 

家族全員が思い浮かぶのは家族ぐるみで付き合いがある為両親と共に年1で遊びに来る少女。元気溌剌なその少女に引っ張られ共に過ごす長男の姿も尊いものだと本人以外の3人は無言で頷き合っていた。

因みに当の本人はそんな3人の様子を首を傾げて見ている。

 

『そういえば今日はビーフシチューだって』

「お、やった」

「紫亜ちゃんホントに料理上手になったわよねぇ。お母さん助かっちゃう♪」

「先生の所でお世話になってた時から風音さんに習ってるし、これぐらいは出来ないと……あ、どれか味見する?まだ揚げてから時間経ってないし、サクサクだけど」

「そうだなー……じゃあかき揚げ一つ」

「私はミニトマトのフライ食べてみたいな〜?」

「ん、わかった」

『コロッケ気になる』

「ん、ちょっと待ってて」

 

香ばしい匂いにつられてミニ試食会が開かれ、それぞれが紫亜が作った揚げ物を堪能する。一口サイズで大量生産された揚げ物達は摘むのに最適で、小さな皿に並べられた物は数分程度で無くなってしまった。

そんな中、小腹が空いたのでちゃっかり自分も堪能していた紫亜はふと何かを思い出して口の中の物を飲み込んだ。

 

「あ、んぐ………父さん、明日軽の方の車借りるけど大丈夫?」

「良いよ良いよ、前から聞いてたし。恐らく隠岐先輩達も見に来るのかな?よろしく言っておいてくれ」

「ん、わかった」

『そういえば』

「ん?どうしたんだ由依」

 

いつの間にか父親の隣に立っていた由依はクイッと袖を引っ張って自身に注意を引くと、何とも言えない表情でタイピングした画面を見せながら人工音声に読み込ませる。

 

『ゆうべはおたのしみでしたね』

「ブッフォア」

「まぁ……!」

 

機械音声が流れると同時にポッと頰を赤らめて恥ずかしそうに笑う母親を他所に、噴き出し咳き込む父親は何とか息を整えながら口を開く。

 

「ゲホッ、ゴホッ……!な、何で知って……!」

「逆に聞くけどあんな激しくしといて気付かないと思ってたの?2人が仲良いのは嬉しいけど程々にね?」

『シンプルにうるさい』

「ヤダもう、紫亜ちゃんと由依ちゃんったら、パパとママがラブラブだなんて…♡」

「ん、言ってない。あと母さんはもうちょっと手加減してあげて、父さん死んじゃう」

 

呆れた視線×2を寄越されても尚身体をくねらせながら照れる様子を見せる母親はふと自身の夫をチラリと見た後、少し色っぽい声で囁くように呟いた。

 

「でも、もう一人位……いけるかもって思ってるのよねぇ」

『今になって弟か妹が増えるのかぁ』

「どう思う?」

『無理じゃなければいいと思う』

「まぁ今も時々お手伝いさん雇ってるし、子育てなら手伝うから、ねー」

「ねー」

「ヤダ、私達の子、優しすぎ…!?」

「私に掛かる負担は考えて貰えないかなぁ……」

 

感極まってワシャワシャワシャワシャと愛しい息子達の頭を撫でる母親と疲れた笑みを浮かべ目からホロリと涙を零す父親。

反応は何ともまぁ対照的だがこれでも結婚して23年ほど経ってる夫婦なのである。一時期は色々あって子供達との仲が疎遠になって苦しんでた事もあり原因が解消された現在は思い切り構い倒している2人だが、その間も互いに向ける愛情が衰えた事は無かったのを紫亜は記憶していた。

 

「父さんも別に嫌な訳じゃないでしょ?」

「確かに大好きな人から求められるのは嬉しいんだが………もうな、父さんな、45なんだよ。流石にオールはキツイんだ………」

『オールは確定なんだ』

「母さんは無尽蔵だからなぁ、朝日が見えても休ませて貰えないんだ……」

「ふーん………」

 

煤けたような父親を見て、紫亜はニンマリと笑いながら未だに由依の頭をヨスヨスしている母親に呼びかけた。

 

「母さん、父さんが「夜じゃなきゃ幾らでもやっていい」ってさ」

「ちょ、紫亜…!?」

「まぁ……!もう、あなたってば子供達の前なのに欲張りさんなんだから………けど、私も丁度あなたが欲しかった所なの……♡」

「ま、待ってくれアイラ、さすがに今日は疲れてるし今からは流石に、あ、ちょ、力強……!紫亜、由依、助け……!」

「晩御飯のシチュー出来るまでまだ暫くかかる。それまで待ってて」

『健闘を祈る』

 

頰を赤く染めた母親が抵抗する父親をひょいと持ち上げてスキップ部屋を去っていく様子を姉妹にしか見えない兄弟は敬礼で見送ったのだった。

 

 

 

 

「……さてと、由依」

「なに、兄さん」

「今日はどこ集合にする?シチューも自動調理で煮込むだけだし主食も塩パン買ってるから、粗熱取れたおかず冷蔵庫突っ込んで大学芋食べたら『幕末』しよ」

「!じゃあ火薬庫」

「ん、わかった。いい感じに皆を花火にしよっか」

「とても楽しみ、職人NPC居るかな」




上条由依
主人公の弟。『幕末』のユラ。
サヴァン症候群の症状でまともに会話が出来るのが兄である紫亜位だったが、最近になって筆談なら問題ないと判明しかなり活発的かつ甘えん坊になった。現在は筆談から進化してスマホのメモ帳+人工音声で店員さんと会話出来る位になった。
現在通信高校に通いつつ父親から投資を習ってる最中。
紫亜に負けず劣らずの男の娘で、実はサンラクと同い年だったり。

見た目イメージ
→艦これの「島風」


上条アイラ
主人公の母親。
アメリカと日本のハーフで現在は在宅勤務の翻訳家をしている。
元々は父の故郷であるアメリカ住まいだったが日本に留学した際にその高校に教育実習生として来たに青年一目惚れし、押しに押しまくって結婚まで漕ぎ着けた猛者。
御年41だが紫亜の姉で通じるレベルで若々しい。
圧倒的捕食者で力が強い。どのくらい強いかと言うと当時22の夫を無理やり押さえつけて捕食()する位。多分紫亜の身体能力が怪物なのはこの人由来、というよりこの人の血筋にギフテッド的なのが生まれやすいが正しい。
最近は長男とその幼馴染のピュアピュアな恋愛事情に大変ワクワクしている。

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→艦これの「愛宕」


上条空
主人公の父親。
高校で教師をしており、容姿やコミュ強のお陰で男女問わず生徒から大変人気。一部生徒からは(男女問わず)アプローチされてたりするが大抵は既婚+自分よりも年上の子供が居る事実で脳が破壊されてる。
実家がかなりの富豪で本人もそこそこの資産家だが、資産運用の仕方を教えた息子達が自分で月100万位稼ぎ始めて少しビビってる。
今の妻とは教育実習生時代からの付き合いで最終的に押し倒されて責任を取らされた。
紫亜に負けず劣らずのコミュ強だが、由依とは「会話のリズム」が合わず通じなかった様子。筆談でまともに会話出来た時は妻と共にガチ泣きしながら抱きしめた。
紅音の父である隠岐紅史は大学時代に世話になった先輩なので割と交流があったりする。

イメージ
→ブルーアーカイブ便利屋68業務日誌の「先生」

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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