司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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今回は紅音ちゃんの独白多めです。
紅音ちゃんが紫亜くんに抱く思いの一部を吐露させてみました。

濃いイチャイチャはまだ待ってて貰えると有り難いです



それでは、どうぞ


走る理由

一先ず食事を終え、最終的に所作こそ綺麗なものの、手品のように紫亜の口に消えていく弁当のおかずを呆然と見送るという一幕はあったものの大体穏やかな時間を過ごしていた少年少女は、手元の資料に目を落としていた。

 

「昼休憩終了のアナウンス鳴ったね」

「えーっと…予定ではあと1時間位で100mの決勝が始まるな」

「わぁ……緊張してきたなぁ」

「でもまぁ……」

 

 

「…………♪」

「…………」ズズッ

 

 

「当の本人はあそこで紫亜ちゃんにベッタベタに甘えてる訳だけど」

 

呆れた少女の目線の先には、胡座をかいて座る紫亜の足に収まるように座って紫亜に寄りかかってる紅音がいた。身長差によって丁度スッポリ収まった紅音は心底嬉しそうかつリラックスして目を閉じて凭れ掛かっている。

なお寄りかかられてる紫亜はというと、特に何か反応する訳でも無く、時折眼下にある紅音の頭を優しく撫でながらゆっくりとコップに入れた緑茶を啜っていた。

 

「……何と言うか、今まで見たことない位幸せそうな顔で膝に座ってるね」

「それを当たり前のように受け入れてる紫亜さんも紫亜さんだけど……」

「せんせー、何か注意したりしないんすか?」

「下手に突っ込んだら何かしら飛び火しそうだから遠慮したい……」

「おいコラ教師」

 

どうにかしろ、という目線に晒された教師は目を逸らしながらも静かにイチャつく2人の方を指差して一言。

 

「じゃあ聞くけど……君達はあの空間に突っ込んで話しかけられる?」

「「「「無理です」」」」

「うん、そうだね、馬に蹴られたくないもんね」

 

何ということでしょう、一言で論破されてしまった。それじゃあより親密な筈の友人の両親を……とそちらを見れば、その2人は娘達を微笑ましそうに見ていた。

 

「いやあの、隠岐さんのご両親はどういう心情で……?」

「ん?いや、昔から変わらんなぁとしか思わないな」

「もう家族の一員みたいなものだもの、孫もそう遠くないかも知れないわね」

「親公認………って、コト!?」

 

なんて事だ、ツッコミ役を担える存在など傍から存在していなかったようだ。

 

「……まぁ、アレでモチベーションが上がるなら時間まで2人にしてあげたら良いんじゃないかな」

 

最終的に顧問の先生が出したその結論に反対する部員は居なかった。

 

 

 

 

「お兄さん」

「…ん、どうしたの紅音?」

「何でもありません、呼んでみただけです!」

「ん、そっか」

 

胡座をかく紫亜に体育座りでもたれ掛かる紅音は、暫くの間無言で甘えるように身体を寄せるだけだった。

時々短く言葉を交わし、その度に頭を撫でられて幸せそうに微笑む。

そんな時間を過ごす2人だったが、紅音の出番はすぐそこまで迫っていた。

 

「……むむ、そろそろ出番のようです!」

「そっか……紅音」

 

場内アナウンスで招集が掛かり、少し名残惜しそうにしながらも少女は想い人に向き直ってギュッと抱き締める。

 

「やれること、全部やっておいで」

「はい、お兄さん!」

 

そんなアドバイスを受け取って会場に向かう少女の背中を見守る紫亜の目は、とても優しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

最初に会った時の感情は良くわからない。

 

お父さんを見つけて思わず駆け出した私

顔を青くして声を上げながら私に手を伸ばしたお父さん

確かに青信号だった筈なのに、すぐ隣にまで迫っていた壁

 

そして、幼い私に向かって走って来たお兄さん

 

様々な情報に混乱して止まってしまった私はその後お兄さんに抱えられていた所以外は殆ど記憶が曖昧だけど、お母さんが言うにはお兄さんがタックルするみたいに抱え込んで地面を転がって、信号無視のトラックから逃れられたらしい。

お兄さんが庇ってくれたお陰で痛みも無かったけども、何が起きたのか分からず、ぽうッと空を見て放心してしまっていた私を息を切らし顔を歪めながら覗き込んで来たお兄さんと目が合って、

 

 

『………よかった』

 

 

そう心の底から安心したように笑いかけたお兄さんを見て、心臓が跳ねたのは良く覚えている。

 

 

「ふぅ……すぅ」

 

再び会った時、お兄さんを見た瞬間に跳ねてしまう心臓にビックリして、お父さんの後ろに引っ込んでしまう事もあったっけ。でも幼かった頃の私でもそれが不快だと思うことは一切無かった。今思えば、あれが初恋というものなんだろうと理解出来る。

 

「…………」

 

今でも思い返せばすぐに頭の中で再生出来る、風のように私をさらってくれたお兄さんの姿

 

心臓が跳ねてしまう理由を「憧れ」だと考えた私はいつかあの人みたいになりたいと、弱い体をどうにかしたいと考えるようになった。

 

死んでしまう筈だった私の命を諦めなかったあの人みたいに、もう弱い体のせいにして何かを諦めたくなかった。

 

 

 

 

「もうすぐですね……いち、に、さん、し」

 

 

 

 

こうして走る事が大好きになったのはお兄さんのお陰だ。お兄さんに追いつくため、という目的の為に始めた陸上はいつの間にか私の大好きなものの一つになっていた。

 

でも今住んでいる町に引っ越す時、お兄さんに抱き着いて中々離れなかったのは許して欲しい。だってずっとお兄さんに見てて欲しかったんだもん。

 

 

 

 

「ゼッケン番号○○○○、○○……」

「!はい!」

 

 

 

 

だから、お兄さんが一緒に暮らす事になった時、私はとっても嬉しかった。

理由は「避難」との事だったが今でもその詳しい内容は知らない。多分、意図的に隠していた。お父さんとお母さんの笑顔が険しかったから。

 

 

そして、お兄さんが家に来た時の顔を見て、ついに私は何も聞けなかった。

会えなかった数年の間にお兄さんはとっても背が伸びてて、前よりもとってもカッコよくてキレイになっていた。

けど、とても姿は痛々しかった。頭だけではなく顔以外の肌が見える部分の殆どに包帯が巻かれていた。

でも、それよりも、何よりも、意識が向いたのは表情だった。

 

 

『……………』

 

 

その目に、光が無かった。何も無い、闇よりも暗い目だった。表情も暗いどころか、何も無いと言える程に動かない、幼いながらに「死んじゃったの……?」と思ってしまうほどに生気が無かった。

 

そんな風に動揺して固まる私に気付いたお兄さんは、ビクリと体を震わせた後合わさった目線をそっと反らした。

 

 

『…………』

『………ぁっ』

 

 

私はそんなお兄さんに近づいて手を握った。驚いたように声を漏らして、急いで手を引こうとするお兄さんを逃さないように、ギュッと握って

 

 

『……久しぶり!しあにぃ!』

『…………!』

 

 

あの時のお兄さんのように笑いながら話しかけた。

 

 

『………うん、久しぶり……紅音』

 

 

ぎこちなかったけど、返してくれた笑顔はあの時から変わらずとても優しかった。

 

毎日抱き着いて挨拶したり、一緒にお昼寝したり、時々お兄さんの布団に入り込んだり、目を離すと何処かに消えてしまいそうなお兄さんを必死に引き止める為に一生懸命になっていた。

 

段々と、目に光が見えるようになって、意思を持って私の行動に応えてくれるようになって、やがてあの死人のような状態が嘘だったかのように気力に溢れた姿になっていた。

私がその助けになれたと思えばとても誇らしい気分だった。

 

 

 

 

けどお兄さんが元の家に帰ることに決まった時は一日中泣いちゃってお兄さんがオロオロしてたのは覚えてる。

その後ギュッと優しく抱き締めてくれたのに、その温もりが離れてしまう事に耐えられなくて更に泣いてしまった。だって寂しかったんだもん……大好きな人と離れたく無かったんだもん……

 

 

その後も私の我儘に応えてくれて連絡を取り合うようになって、いつの間にかそれが毎週末の楽しみになって、毎年の長期休みに必ず会うようになって、お兄さんへの恋心を自覚した後から始めたアプローチも真摯に受け止めてくれて、いつの間にかお兄さんからまた沢山貰っちゃった。

私から少しでも返せたらいいなといつも思う。

 

 

「すぅ………シィィィ」

 

 

だから私は見せるんだ、お兄さんを目指して頑張る姿を

 

 

 

だから私は笑うんだ、お兄さんも笑えるように

 

 

 

だから私は走るんだ、お兄さんが居たからこそ今の私がいる事実を証明する為に

 

 

 

『on your mark』

 

 

 

私はお兄さんから沢山の物を貰った

多分、お兄さんにも私からあげられた物もある筈

けれど、私から返せていない物はまだまだ沢山ある

 

 

まずは全力でやるべき事をやろう。

 

だから、

 

 

『set』

 

 

 

私のこと、ちゃんと見ててね、しあにぃ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緊張感が張り詰める競技場の中、スタートピストルの音が鳴り響く。

 

 

張り詰めた緊張が弾け、ただならぬ気迫を纏った選手達が一斉に走り出した。

 

 

全国から集められ予選を勝ち抜けてきた猛者達はその実力も高く、スタートダッシュはほぼ横並びだった。

 

 

「ッ!」

 

 

そこから一歩、他よりも前へと躍り出る紅音。しかし予選の時のように隣の選手と差を付ける事は許されず、そのまま並走するように中盤に差し掛かる。

 

 

 

ひたすら、ただひたすらゴールに突き進む。

普段の練習の成果もあってか段々と他の選手を置いていくように前へ前へと出始めて、やがて並ぶ相手は1人だけ。

 

 

「……ッ!」

 

 

そしてゴール手前20m、最後だと言わんばかりに力を込めて地面を蹴って前へ進む。スパートをかけるタイミングが速かったのは紅音の方だった。

 

 

 

走る。走る。走る。

他の全てを置き去りにして。

 

 

 

辿り着いたゴールラインを最初に越えたのは……

 

 




湿度はないけど激重感情な紅音ちゃんは良いと思うんです。本気で走る時はギラッギラの笑顔です。

紫亜ちゃんがほぼ生きてるだけの死人状態だった理由は休暇編の終わり近くでちゃんと描写しますので少々お待ちを



当時の描写で紫亜ちゃんを発狂一歩手前状態になるまで情緒グチャグチャにするの楽しみだなぁ……!

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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