それでは、どうぞ
「「「「「おぉ……」」」」」
「「「…………」」」
デ○ズニーランドを後にした一行の姿は、とあるホテルの前にあった。子供大人関係なくそこはかとなく高級感を感じる建物を呆けたように見上げる面々に、紫亜は不思議そうに尋ねた。
「ん、どうしたの皆、早くチェックインしないと晩ごはん食べ損ねるよ?」
「……あ、あぁ、すまないね紫亜くん。流石にここまでの規模のホテルに泊まるのは初めてでな」
「まぁ僕が勝手に選んだホテルなので気に入って頂けるか分かりませんが……家族とよく来たりしてる場所なので質は保証しますよ」
そう言いながらホテルに入って行く紫亜の後ろを紅音達は恐る恐るついていく。
和風に寄せたデザインのエントランスはきらびやかではあるものの過度な装飾は無く、それが更に質の高さを物語っているようにも感じられる。
そんな中、慣れたように受付の前に立った紫亜はカウンターで手続きを始めていた。
「いらっしゃいませ」
「9名で予約した上条です」
「…上条様ですね、お待ちしておりました。本日よりスイートルーム2部屋、1泊でお間違いないですね?」
「ん、大丈夫です」
「お部屋までご案内致します。お預かりさせて頂いていた荷物は既に運び込んでおりますのでご心配なく」
身嗜みを整え、キッチリと服装を着こなしたベルボーイが綺麗に礼をする。
その後、ベルボーイを先頭に広いエレベーターに乗り込んで階を上がっていく紫亜達。若干の浮遊感を感じること一分程、目的のフロアに着いたのか扉が開いた。
「コチラのお部屋になります。どうぞごゆっくり、お寛ぎ下さい」
ベルボーイに先導され、エレベーターを降りた先もまた普通のホテルでは考えられないほどに広い空間だった。壁には日本画が飾られていたり、吹き抜けになった中庭を見下ろせる場所まである。
更には部屋の扉同士の距離がかなりある広い廊下という光景は中々に壮観で、これだけでもこの階にある部屋の広さがかなりの物だと分かる。
「ん、風音さんそちらの部屋のカードキーお渡ししておきますね。人数分あるのでご心配なく」
「え、えぇ、ありがとう紫亜ちゃん」
戸惑う風音に女性用に借りた部屋用の4枚カードキーを渡し、紫亜自身もその隣の扉を解錠して部屋に入った。
「ひっろ、ソファでっか……!?」
「すっげぇ、畳のスペースまであんぞ……!」
「ん、銭湯位大きい風呂場もあるよ。夜景眺められる半露天風呂」
「マジすか!?」
そこに広がっていたのは、高級感を漂わせた和洋折衷のスイートルームだった。
リアルでは初めて見るような部屋に興奮を隠せない少年達が早速見物しようと入って行く中、それに続いて入室した大人達もまた驚愕を隠せない様子で部屋をぐるりと見回している。
そんな他の様子を気にすること無く鼻歌を歌いながら買ったお土産屋を持ってきていたスーツケースに仕舞おうと紫亜に対して、杉谷は頰を引きつらせながら尋ねた。
「えぇっと、上条くん……ここ、どの位のグレードなの…?」
「このホテルの中では上から2番目位の部屋ですよ。ホントは一番上の部屋を予約したかったんですが、他の方に先を越されてしまって……すいません」
「いやいやいや!?十分どころかこんな高級なとこ泊まるの初めてだからね!?不満なんて一切無いよ!?」
「ん、それなら良かった」
「あの、参考までに聞きたいんですけど……この部屋幾ら位なんです?」
「一応ファミリー用でもあるからね、1部屋1泊で大体……30万位だったかな」
「「「30万!?」」」
何でもないかのように告げられた値段に目をひん剥く3人を他所に、1人苦虫を噛み潰したような顔をする恩師に紫亜はニコリと微笑みながら首を傾げて口を開く。
「自身でお支払いなさるには中々に手痛い出費でしょう……大人しく奢られて下さいね、紅史先生?」
「斬新な脅し方だな……分かったよ、君も中々に強情だ」
「昔お世話になったお返し、まだし足りないんですから。風音さん共々覚悟しておいてくださいね?」
重ねられた紫亜の言葉に、恩返しの対象は両手を挙げて降参の意を示した。
「もう十二分に返してもらったんだがなぁ……この前の妻の誕生日に君が贈った包丁だって、かなりの高級品だろう?」
「親戚にいる刀鍛冶師さんにお願いして作って貰いました。気に入っていただけましたか?」
「ご丁寧に手入れ道具も付けて貰ったからな、風音も入念に手入れしてよく使ってるよ。お陰で更に食事が美味しくなった」
「それはよかった」
何を言っても加減するつもりはないと察したのか、紅史は苦笑いを零しながら手を下ろし一先ず部屋の中に置かれていた荷物を移動しようと動き出す。
少年達や先生もそれに習って荷解きと土産の整理を始める一方、紫亜は左腕に着けていた時計を見て少し唸って頭を悩ませ始める。
「んー、予定より早く着いちゃったからなぁ……そうだ、健人くんと蓮月くん先にひとっ風呂浴びてくる?多分お湯はホテルの人が張ってくれてる筈だし、晩御飯食べた後すぐに寝れるよ」
「あー……そうっすね」
「確かに、沢山歩き回ったからね」
「ん、ゆっくりしておいで」
紫亜の勧めで着替えをもって浴室へと向かう少年達。それを見送って少しした後、荷物の整理や部屋の確認を終えた紫亜は自分のスーツケースから自身の着替えを取り出した。
「じゃあ自分も入って来ますね」
「え"、あ、ちょっと……!?」
教師が教え子の性癖を護らんとするために
伸ばしても何も止められなかった手は寂しそうに彷徨っていた。
「紫亜くん、自分が女性的な容姿である事への自覚が薄いんですよね」
「えぇ………?大丈夫かなぁあの2人……」
一方、そんな出来事等知らない少年2人は体を洗ってだだっ広い湯船に浸かっていた。
「あ"ー……染みるわぁ……」
「にしても、この数日色々と凄かったよね〜……」
「だなぁ」
大理石のような素材で作られた浴槽は広く、10人が同時に入ってもまだまだ余裕がありそうな豪華な風呂を2人だけで使うという贅沢を噛み締めながら、健人と蓮月は昨日今日の出来事を振り返り始める。
「俺よぉ」
「うん」
「もう性癖バッキボキなんだよなぁ」
「なんのカミングアウト?いやまぁ、言わんとしてることは分かるよ。うん、未だに信じらんないよ……あの紫亜ちゃんが男でクラスのマドンナの紅音さんとほぼ恋人状態とか誰も想像すらしてないって」
「ウチの学校にこの話流したら何人死ぬんだろうな。もう男子女子関係ねぇよ、全員等しく脳に大ダメージだろ」
「問題は水無瀬さんがそれを実行しようとしてる事なんだけども」
「もう止めても聞かねえだろ、そもそも俺も止める気ねぇし」
昨日から今日にかけて、クラスのマドンナが頰を紅潮させながらも堰を外したダムから放出される水のような勢いで垂れ流される惚気を聞かされたり、眼前で憧れのモデルとクラスのマドンナがイチャつくのを見せつけられた身としてはその時気持ちを他のクラスメイトに味わって欲しいという思いが無いわけではない。
だがそれを実行するには一つ懸念事項がある。
「というか紫亜さんにしてもらった事を考えたら真っ先に殺されるの僕らなんじゃ……」
「………まあ、アレだ。滅茶苦茶楽しかったし、それでいいだろ。マウント取れば相手は憤死するから逃げられるぞ」
「どのみち逃れられない気がするけどなぁ………まぁそうだね、一生残る思い出にはなったよね」
「ん、それなら良かった」
そんな会話の終わりに聞こえてきた一言、その声が耳に入った瞬間、窓の外の景色を見ていた頭をブリキのおもちゃのようにギギギとゆっくり振り返ると……
「ん、一緒に入らせて貰うね」
「「ウボァッ!?」」
そこには堂々と仁王立ちしている紫亜がいた。
腰にタオルすら巻いておらず、筋肉が浮き出出ている部分は無いものの余計な脂肪等も無い引き締まった肢体を惜しげもなく晒していおり、そんな刺激の強い姿を前にした少年達はバシャバシャと水面を叩きながら浴槽内で後退りながら手で目を覆う。
「ししししししし紫亜さん!?何で入って来てるんですか……!?」
「何でって、入りたかったから?」
「ちょ、流石に一緒に入るのはちょっと…というかタオル巻いて下さい……!」
「え、何で。別に男同士で気にする物でも無い」
「こっちは気にするんすよぉ!?アンタ見た目美少女なの自覚し、て………」
そう叫んだ瞬間、つい目を塞いでいた手をのけて紫亜を真っ直ぐ見てしまう。そしてその語気が小さくなるにつれ、少年の目線はある1点に集中して硬直した。
それを疑問に思ったもう片方もチラリとその目線の先を見て同じように硬直する。
「ん、どうかした?」
「「………………
いえ、何でも無いです紫亜の兄貴……!」」
「……?」
「ほぅ……茶葉もかなり良いものだ。先生も一杯如何ですかな」
「ど、どうも……あ、美味しい」
寝室とは別にある広々としたリビングルームにて、備え付けの茶葉と急須で緑茶を淹れた紅史は杉谷の前の湯呑みにも注ぎつつ、自身の分の一杯を堪能していた。
顔を近づけただけで分かる茶葉の芳醇な香りと、啜った時に感じた良質な苦味と僅かに現れる甘露さ等を楽しむ姿は非常に堂々としていた。
未だ落ち着かない様子で緑茶を啜る杉谷は周囲の部屋の景色を恐る恐る伺いながら、落ち着かない様子で口を開く。
「なんというか、大分慣れていらっしゃいますね隠岐さんのお父さん。自分、こんな高級な所来たこと無いんでちょっと未だに緊張してますよ」
「ははは、何、私もここまでの部屋に泊まる経験は早々無いですとも。慣れている、というより慣れさせられたというのが正しいかと」
「慣れさせられた、とは……?」
問いに対して返された答えに更に疑問が湧く。
その疑問への答えは、紅史が緑茶を嗜んで深く息を吐いた後に語られ始めた。
「あの子……紫亜くんは、身内と認識した相手やお世話になった相手に対してだけ財布の紐が緩んだりするんですよ。毎年私達家族の誕生日など記念日には欠かさずプレゼントを贈ってくれてるんですが、それに掛かる金額が毎度目を剥いてしまいそうになる」
「あ〜……今日だけで十分体感しました」
「貴方も紫亜くんの恩師でしょう、十二分にあの子が施す相手かと」
「それは嬉しいやら、畏れ多いやら……」
思えば自身の趣味に合わせた案内や、今こうして当たり前のように高級ホテルに宿泊させられている時点でかつての教え子が他人へ尽くす質があるのが察せられる。
普通ならば中学時代の担任など成人した頃には朧気になっている物だろうと、自身の経験でそう考えている身としては少しばかり畏怖を感じてしまう所がある。
そんな感情が伝わったのか、同意を示しながら苦笑いを零した紅史は机に置いた湯呑みへと視線を落とす。
「紫亜くんの身の回りの物には金をあまり使いません。まぁ食費には遠慮なく使っているようですが、それでも自身の部屋の物や服装にはそこまで金をかけないと彼の父親から聞いてます」
「上条くんのお父さんともお知り合いで?」
「大学時代の後輩ですよ」
かつての後輩の息子かつ自身の教え子で、己の娘の命の恩人となった、運命的な物を感じなくも無かった1人の青年。
そんな優しい青年の、精神が荒みきり生存願望が尽きた姿がどうしても脳裏に蘇る。
「まぁブランド物を好むかどうかは人それぞれだと言ってしまえばそれまでですが、どうも紫亜くんは自分自身にはあまり頓着が無いようなんです」
「えっ………ですけどあの子今モデルやってますよね?ウチの生徒達ともスキンケアとかの話してましたし、それは無いんじゃ……」
「……正しく言ってしまえば、他人に求められているからやっているのでしょうな。少なくとも私の家に居候していた時はスキンケア等は微塵も興味がないというか、するのが畏れ多いといった様子でしたから」
「……畏れ多い、ですか?」
「えぇ、彼自身は気付いて居ませんが、紫亜くんは自己評価をかなり低く見積もっている。今は普通の感性を持てているようですが、ふとした瞬間に自分を下卑する言葉が出たりするんです。やはりあの事がまだ……」
そこまで語った所で、少しだけ温くなった緑茶で口から出そうになった言葉を流し込む。
「申し訳ない、暗い話をしてしまって」
「いえいえ……こういう話は早々漏らせる物でも無いでしょうから」
「有り難い……そういえば、先生はお食事にこだわりがあるとか」
「え?えぇ、まぁ……どうせ食べるなら美味しいものの方が良いと思うので。自炊で美味しいものが食べれるのがベストですけど、そこまで時間が取れる訳でもないですし、普段は作り置きですけどね」
「ほほぅ、いやいやお若いでしょうにようやりなさる」
「あはは、どうも……たまの贅沢でやってる地方のグルメのお取り寄せとかが日々の気力になってますよ」
紫亜ちゃんのスキンケア術や化粧技術はほぼほぼ天音永遠が仕込んだ物です。
スカウトした当時はスキンケアのスの字すら知らなかったので若干キレ気味になりながら教え込みました。
紫亜ちゃんの肌は私が育てた by天音永遠
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
-
いらない
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セルマァ……