司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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まだ原作始まってすらないのに凄いクライマックス感


兎も角、紫亜の過去です



それでは、どうぞ


受け入れたもの、受け入れられないもの

 

 

きっかけは何だったろうか。

 

確か自分を囲む人間と血、そして痛みだったと思う。

 

 

 

 

小学校を卒業してから数日後、自分は誰とも知らない場所で殴られていた。

 

 

 

 

父親の実家関係の問題……だいぶ後から聞いた話では多大な金銭が動く遺産相続や権利の分配で納得出来なかった一部の分家の人間によって身代金用の人質兼恨みを晴らすための人形として誘拐されたらしく、かなり雑な扱いをされた。

 

 

『ゴヒュ、ガハッゴホッ……』

 

 

最低限の設備だけある部屋に拘束され押し込められ、ストレス発散の暴力を始めとした罵倒や人を人とも思っていないかのような殴打、そして拷問紛いの責め苦の数々。

 

貞操こそ無事だったがそういった目線が寄越されることも多々あったと思う。

 

 

『ガフッ………!?』

 

 

紫亜の身体は特異体質で常人よりも頑丈だった事も、その暴行を加速させる要因だったのだろう。

強くもみくちゃにしても壊れない玩具を与えられた悪ガキのように、金の亡者と化していたその人間たちは苛立ちを発散させる為に紫亜を甚振っていた。

 

 

『ぁあ………』

 

 

そんな地獄が続いて何日か程経った頃だったか、痺れを切らしたのか、これ以上自分に人質としての役目を期待できないと思ったのか、それとも生かすのが面倒になったのか、紫亜はだだっ広い部屋に運ばれて床に転がされた。

 

十分な食事どころか水分すらろくに与えられず、ただ生かさされているだけの存在。

 

 

ゾロゾロと出て来た者達が向ける、コチラを見下す目線には最早情など無く、ただゴミを見るかのような物だった。

 

 

その手には、せめて最後まで甚振って気を晴らすための道具が握られている。

金属バット、鉄パイプ、包丁、ナイフ、挙句の果てには拳銃まで、後ろ暗い所と繋がっていたのか法に反する代物も幾つもあった。

 

 

『全く……コイツもてんで役に立たなかったな。少しは人質としての価値があると思ったんだがなぁ?』

 

『本家に近いとはいえ、所詮は混じり者の娘と駆け落ちした男の子。金を渡す義理もないのでしょう』 

 

『聞いた話だとこのガキの弟もマトモに喋れない不良品らしいぞ?』

 

『はん、じゃあコイツ潰した後はついでにゴミ掃除もしてやるか?』

 

 

床に転がる紫亜を前にして、嘲るように紫亜を始末した後の話をする。

 

とても下品で、醜悪で、頭の悪い会話の中、標的を自分の家族に移す話だけは自然と聞き取ることが出来た。

 

 

 

『…………あ?』

 

 

家族を、大切な者を侮辱され、挙句の果てには狙われた。

 

 

空腹に喘ぎ、思考が纏まらない。

 

 

自分が殺されそうになっている。

 

 

喉が渇いて、意識が保てない

 

 

けれど

 

 

 

 

 

 

けれど

 

 

 

 

 

 

 

『ころさないと』

 

 

 

コイツラだけはこの世から消さないと

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の中で何かが解き放たれたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………』

 

 

『は?おいコイツの縄といt』

ゴッ!

 

 

『な、何しやg』

グチャッ!

 

 

『クソッ!?なんだよお前!こ、こっちくんn』

バキッ!

 

 

『来んじゃねぇ!ゴミが俺たちに逆らってタダd』

ザグッ!

 

 

『ヒッ!?わ、私はわるく』

ガンッ!

 

 

敵を潰し、悪意と恐怖を向けて来たゴミを捨てる。

 

 

拾って、壊して、叩いて、殴って

 

 

 

潰して、殺した

 

 

 

『………』

 

 

いつの間にか自分を縛っていた拘束具は千切れて残骸となっていた。

 

自分の身体も、全身に打撲や斬り傷、果てには腹部に銃弾が貫通し至る所から血を流していた。

 

そして

 

 

『あ』

 

 

目の前で、人が死んでいた。

 

 

『うぁ、あ、あぁ…』

 

 

既に成人した今でも確かに思い出せる

 

 

人を殴る感触、骨を握りつぶす感触、肉を蹴り抉る感触、

 

 

硬い棒で殴られる感覚、鋭い刃で肌を裂かれる感覚、脇腹を銃弾が抉り血が流れる感覚

 

 

ゲームでも何でもない、ただそこにある事実

 

 

自分を殺そうとした者達を殺した事実

 

 

極限状態に置かれたことで本来眠ったままの筈だった殺しの才覚が目覚めたようで、

多大なストレスによってブレーキが効かなくなった自分を甚振った者を標的としてその全てを鏖殺してしまった

 

 

そして何よりも恐ろしかったのは

 

 

 

『あぁ………!!』

 

 

 

 

その行為に対し、自分が喜悦を感じ(・・・・・)笑っていた(・・・・・)事だった。

 

 

『ッ………オ"エッ…』

 

 

自分のか相手のか分からないほどに大量の血に塗れ、地に伏した誘拐犯達だった物を視界から外して、建物から外に出ようと廊下を足を引き摺って歩いた。

 

罪そのものから逃げる為に、あの感情をそこに置いていくように

 

他でもない自分への嫌悪感で吐きそうになるが、既に体内から出せる物は殆ど残っておらず、ただ胃液が喉を焼く感覚だけが伝わってくる。

 

 

『……………ッ!!』

 

 

ガンッ!

 

 

まだ疼く、心の奥で囁く「足りない」という感情に蓋をするように寄りかかった壁に頭を打ちつける

 

 

何度も、何度も

 

 

 

『あぁ………!』

 

 

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

 

 

 

 

 

『あ"ぁ"………ッ!!』

 

 

 

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

 

 

 

バギンッ

 

 

『うぁ…………』

 

 

いくら血が流れようと、壁の方が砕け床に替えようとも、何百回それを繰り返したとしてもずっと消えることなく自分の中に残り続ける、ドス黒く悍ましい「殺し合い」への渇望。

 

それに身を落としてしまえば楽にはなったのだろう。

だが、そうするにはあまりにも大切な物が大きかった。

自分に愛を注いでくれた両親、自分に心を許してくれる弟、憧れてくれた妹分

その時、紫亜を人足らしめていたのはそれだけだった。

 

 

『あ、あ"ぁ………!』

『ッ!人か!』

 

 

絞り出した声は枯れていた。

そしてそれとは違う声が聞こえて来る。

 

 

『ッ!?ッ、おい!救急車呼べ!今すぐにだ!!』

『わ、分かりました!!』

『重症の子供、恐らく救助対象の子供だ!お前とお前は手当の為に俺と残れ!他は犯人グループを捜索しろ!』

『『『はいッ!!』』』

 

怒鳴るように指示を出した男がコチラに向かってくる。

敵だと思って抵抗しようとしても血を流しすぎて思考が纏まらないし腕もあがらない。

とっくに気力は尽きて地面にべしゃりと倒れ込んだ。

 

 

『おい、しっかりするんだ!助けに来たぞ!』

 

 

そこから先の記憶は無く、次に目覚めたのは病院だった。

 

 

『………あぁ、死ねなかった』

 

 

 

 

 

「あの後事情聴取に来た警察に全部自分がやったって訴えたけど信じてもらえなかった。まぁ普通、12歳位の子供が武器持った大人20人位を全員殺し尽くしたとか信じないからね、誘拐・虐待・暴行されたショックで精神に異常をきたしてるって判断されてそのまま妄言として処理された」

 

あの時の忌々しい記憶は今も記憶の奥底で渦巻いている。

己の罪の象徴、自分という存在を理解してもなお残る傷跡。

 

「ちゃんと、罪を償う機会が欲しかった。例え死んだのが外道でも、殺してしまった僕を裁いて欲しかった」

 

 

「今はもう慣れたし対処する事も簡単になったけど、あの衝動がまた湧き出てくるのが怖かった」

 

 

「ずっとおもってた、こんなバケモノがいきててごめんなさいって」

 

 

明かしたとしても誰も信じない、いくら償いたいと願っても罰の一つすら与えられない、ただひたすらに人殺しであるという罪を背負い続けて楽になることは許されなかった。

 

 

 

 

 

あの後病院に搬送された自分は一命を取り留めた。

けれども心の中に渦巻くのは楽しかったという僅かな充足感とそんなものを抱える己への嫌悪感ばかり。

もしまた人に手をかければ?あの拳を血で染める感覚を求めてしまえば?そんな事をグルグル考えていても自分の体は自分の意思に反して常軌を逸した速度で回復し続ける。

数ヶ月もすれば、骨折や自分で何回も打ち付けた頭の怪我、腹部の銃創等を除けば大体の傷は治っていた。

 

『………紫亜』

『とうさん』

『ごめん、紫亜。本当に、ごめん……俺が、俺がちゃんとしてれば……!アイツらと縁を切ってれば……!』

『あやまらないで、ぼくなんかに』

『ッ!……あぁ、ホントに、生きててくれて、良かった……!』

 

家族は今も昔も大好きだ。

だからこそその時の自分が、人殺しが近付いて良い訳が無いと拒絶しようとした。

けれども自分よりも酷く悲しそうな父親の抱擁を拒む事は出来なかった。

向こうが拒否しようとしてくるなら兎も角、こんなにも優しくて涙を流す人をどうしてこちらから拒むことができようか。

 

『……紫亜、少しだけ時間をくれるかな?

 

全部、終わらせてくるから』

 

何かを決意した父の背中を見送った後、自分は避難の為に知り合いの家に預けられることになった。

まだ何も知らない頃に仲良くなった、あの娘が居る家。

 

 

『……お兄さん?』

 

 

顔を合わせた時、呆然としていたあの娘。思わず目を反らして自分を責めた。

 

見られたくなかった、見せたくなかった

 

ボロボロで、みっともなくて、見えずとも血濡れになっていた自分の姿を

 

けれど、それでも、あの娘は僕の手を、沢山の命を奪った僕の手を握った。

 

 

『……久しぶり、です!』

 

 

あの娘は自分が思っている数倍以上強かったらしい。

 

誰かを壊してしまう手を握って、笑いかけてくれた事実に、自分はどれ程救われただろうか。

 

 

 

 

 

「今はもう死にたいとは思ってない。あの衝動も、ゲームのお陰で殆ど現実で発散する事は無くなった」

 

 

今の自分には生きる理由がある。

自分が消えれば悲しむ人が居る。

そして、自分の性と折り合いを付けて生きている。

 

 

「今の僕が生きてるのは紅音のおかげ。紅音が猶予をくれた」

 

 

隠岐家で過ごした3年間は、間違いなく紫亜が再起出来た一番の要因だと言えるだろう。

そして、目の前の少女こそ紫亜の持っていた一種の自殺願望を消し去ってくれた張本人だった。

 

 

「だから僕は紅音が幸せになって欲しい。けど、僕なんかにそれが成せる自信が無い。またアレが湧き出てくるのが怖くて、不幸を振りまいたりしないかって」

 

そう話して一度言葉を切る。

 

「ごめんね、紅音、ずっと黙ってて……ちゃんと話せたの、これが、初めてだったから」

 

前に立って顔を伏せる愛しい子に、笑いかける。

 

けれどもそれは少しばかりぎこちなく、無理やり作っているのが分かる程に歪だった。

 

「ホントは隠したかった、けど、それは、ダメだと思ったから」

 

誰にも言えなかった懺悔を、自分よりも年下の少女へと告げる。

 

自分を生かしてくれた、大切な人。

 

嫌われたくないという思いと、穢れた自分なんかじゃ相応しくないという思いがせめぎ合って感情がグチャグチャになりながらも言葉を紡ごうとする。

 

目尻から零れそうになる涙には気付かないまま。

 

 

「だから、紅音、嫌だと思ったなら……

 

僕から、離れて「しあにぃ」

 

 

しどろもどろになりながら改めて自分と共に居る事を考え直して欲しいと告げようとしたその時、紅音はそれ以上言わせないと言わんばかりに名前を呼んで言葉を遮り、両腕を紫亜の首の後ろに回した。

 

 

突然の行動に硬直する紫亜は隙を晒して、

 

 

 

「んっ」

「んむッ………!?」

 

 

 

唇を柔らかい物で塞がれる感覚に襲われた。




しあくんはくうふくがにがてです

だっておなかがとってもすいてたあのときのことをおもいだしてしまうから


しあくんはじぶんがすきじゃありません

だってたくさんのひとのいのちをうばってしまったのに、まだたりないとかんじてしまったから 


紫亜くんは、償いたかったです

誰にも明かせなかった、自分の罪を自覚しているが故に

罪の意識は、未だ彼を縛り付けています



許すも罰するも何も、その罪を認知してたのは紫亜くんだけなのにね

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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