司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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少し遅れました。仕事が繁忙期に入ったので少し投稿頻度が落ちますが、ゆっくりお待ち頂けたら幸いです。





それでは、どうぞ


過去が有ろうと時は進む

「んぇ……?」

 

突然、思考を遮るように唇に感じた柔らかい感触。

戸惑いでパチクリと瞬きした紫亜の視界が開けた時、顔を伏せた紅音が声を震わせながらギュッと紫亜を抱き締めて、そのまま肩に顔を埋める。

 

 

「………私は、しあにぃが好き」

「あ、かね?」

「とっても強くて、とっても可愛くて、とっても綺麗で、そしてとっても優しいしあにぃが大好き」

 

 

その言葉は告白のように

 

 

「しあにぃが自分を愛せないなら、私がそれよりも沢山愛するから」

 

 

そして独白のように

 

 

「しあにぃが償いたいなら、私も一緒についていくから」

 

 

そして、願いのように紡がれる。

 

 

紫亜のカーディガンの背中部分を握り締めるように固く掴んだ紅音の目から涙が溢れ、顔を埋めた紫亜の肩を濡らす。

 

 

「だから、お願い」

 

 

「それ以上、私が大好きなしあにぃ(自分)の事を悪く言わないで……!」

 

 

紫亜の体に回された腕は震えていたが、それ以上に離さないと言わんばかりに強く抱き締められていた。

そこに込められた思いを表すようなハグを食らっている紫亜は紡がれる言葉に瞳を揺らす。

あり得ない、と語るような表情で言い聞かせるような口調になりながら口を開く。

尤も、その言い聞かせる対象が紅音かそれとも己自身かすら分かって居ないようだが。

 

 

「僕は、人殺しだよ?」

 

「確かにそれはいけない事だけど、しあにぃがやりたくてやった訳じゃない!」

 

「人を素手で殺せる化け物だよ?」

 

「その力があったお陰で私は生きてる!」

 

 

「けど、僕なんかが……」

「しあにぃはなんかじゃない!」

 

 

それ以上自分を下卑する言葉を言わせないと、紅音叫ぶように訴える。

 

 

「私は、しあにぃじゃなきゃ、嫌なの」

「ぁ……」

 

 

そして、その一言で、紫亜は遂に何も言えなくなってしまった。

 

 

「…………」

 

 

紫亜は、今はもう死にたいとは思っていないしあの欲も自分の一部なのだと理解している。それをどうにかする方法はあるし、とっくの昔に向き合って楽しむことも出来るようになった。

 

だが、罪の意識は想像以上に己を蝕んでいた。

 

 

「……うん、ごめんね、紅音」

「しあにぃ……?」

 

 

誰にも吐露せず背負い続ける覚悟をしようともそれはただの対処療法でしかなく、だんだんと膨らんでくる罪悪感によっていつか破綻する時が来る。

それをどうにか出来るのは自分では無かった、それだけだった。

 

 

 

「………多分僕は僕を許す事は出来ないと思う。これはずっと背負わなきゃいけない事だから」

 

 

 

無意識の内に頰に涙が伝う。

それは懺悔か安堵か、それとも新たな覚悟かは分からない。

だがしかし、紅音がゆっくりハグを解いて見上げた紫亜の顔はとても綺麗で、生き生きとしていた。

 

 

 

「だから……僕が耐えきれなくなった時が来た時の為に」

 

 

必要なのは、共に有れる者だっただろう。

 

 

「僕の、隣に居てくれる?」

「……うん、うん!!絶対に、誰にも、しあにぃの隣は渡さないから!!」

「……ん、勿論。それが紅音の幸せなら、僕の全部をあげる」

 

 

互いの顔には目から溢れた涙が朝日を反射し宝石のように輝いていた。それがどうにも可笑しくて、ふたりは笑みを零した。

 

 

「えへへ、じゃあしあにぃの初めてのキス、貰ってもいい?」

「さっき紅音に奪われたばっかりだと思うけど…」

「アレはしあにぃが変なこと言うから口を塞いだだけだもん!…………だから、ね?ちゃんとしあにぃから、してほしいなって」

「…………ん、分かった」

「えへへ……んー」

「ん」

 

太陽が覗く水平線、それが良く見える海岸にて、地面に落ちていた影は再び一つに重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず元気そうで何よりだよ、空」

『えぇ、そちらもお変わり無いようで何よりです、先輩』

「風音の料理のお陰でピンピンしているとも。あぁそうだ、夏頃にまたそちらに伺うよ。手土産は期待しててくれ」

『了解です。良い清酒用意して待ってますね』

 

ホテルの部屋のリビング、朝日を眺められる位置に置かれた椅子に身体を預けた1人の大人は電話の向こうに居る後輩と他愛もない会話をしていた。

最早毎年の恒例となった後輩の家への訪問、会話の途中にそのきっかけとなった事件へと思いを馳せる。

 

「それにしても、あれから丁度8年位か……時が経つのは速いな」

『あぁ……その節は紫亜がお世話になりました。突然だったでしょうに、受け入れて下さって本当に感謝してます』

「他人行儀はよしてくれ、あの子の笑顔を取り戻せたのならそれが何にも代え難い報酬だとも」

『……そう言って頂けると幸いです』

 

 

目を閉じれば直ぐに思い出せる。

交流を続けていた後輩が連れてきたかつての教え子が、ボロボロになって全てに絶望しているような光の消え去った瞳でこちらを見る姿。

我ながら、よく今の状態まで精神を復帰させることが出来たと紅史は今でも考えている。

その精神の回復に最も貢献したのは間違いなく娘だったという事も。

 

「あの事件、公的にはどういう風に処理されたんだったか」

『……誘拐犯及びそのグループに危険組織との接触を確認、何かしらのトラブルを起こしており危険組織の構成員による襲撃が発生した』

「紫亜くんは不運にもそれに巻き込まれた、と」

『えぇ、現場に残っていた弾丸や破壊された銃の残骸がその危険組織が取り扱っていたものと一致したらしいので』

「事実は小説よりも奇なりとはこの事だな」

 

紅史は八年前の事件の真相を知る、数少ない人物の1人だった。

あの時の虐殺は現場に残っていた銃火器の使用痕や薬莢、被害に遭った人物らの特定すらままならない程の遺体の損傷具合から、危険組織による残虐な報復として処理された。

そもそも当時12歳になったばかりだった紫亜が1人であの惨状を作った、なんて露ほどにも思わなかったのだろうし、その思考は理解出来る。

 

「だが、あの子は間違いなく被害者だ」

『えぇ、本来であれば私だけで終わらせるべき話だった……紫亜を、全くもって関係の無いあの子を巻き込んだ……!』

「自責の念に駆られるのは分かるが、程々にしておけ。紫亜くんはそれを望まんだろう」

『……はい』

 

言葉にした瞬間、湧き出てきた怒りを抑え込むような声色になる後輩を一言で黙らせる。その憤りが、犯人達だけでなくその後輩自身にも向いているのを理解しているが故に、未来の義息子の為にもそれ以上先に進ませまいと思考を絶たせて話の続きを促す。

 

「それで、その後はどうしたんだ?」

『どうした、と言うと?』

「紫亜くんを誘拐した連中と繋がっていた者達についてだ。あの後も君が動いていたとは聞いていたがその内容までは知らなくてね」

『あぁ……主犯格の連中は既に亡くなっていたので特に何も出来ませんでしたけど、現場に居なかった残党と例の危険組織は根こそぎ社会的に殺しました。もうマトモに社会で生きていくのも難しいでしょうね、そもそもほぼ全員救いようの無い程に余罪塗れで無期懲役言い渡されてましたが』

「そういえばあの一斉検挙があったのはあの事件の数カ月後だったな………というか、何をしたんだ君は」

『私の持つ伝手フル活用して刑に処されるに足る罪状を全部洗い出して警視庁及び警察関係の部署に匿名で提出したりですね。賄賂等が通用しないようメディアの方にも根回ししたという言葉も添えて』

「思ったよりえげつない手を使ったな。まぁ気持ちは分かるが」

 

何がなんでも潰してやるという気概をも感じる程にハッキリと喋る内容を要約すると「警察への告げ口」だった。

だがしかし、その権力が届きにくい場所に居たであろう者達を全員例外無く引きずり出して罪を白日の元に晒し、一切の容赦なく裁くように仕向けた手腕は凄まじいの一言では言い表せない物である。

 

「全く、君の縁は何処まで繋がっているのかが計り知れないな」

『大学に入学してから教師になるまでは殆ど死に物狂いで勉強するのと色んな所とコネ作るのに注力してましたからね、妻と出会えてなかったら多分復讐終えた後そのまま死んでましたよ』

「あぁ……道理で大学でも1人でいることが多かったのか。君のコミュニケーション能力なら友人関係を築く位は直ぐに出来ただろうに」

『あの時は兎に角あの掃き溜めのようの実家を潰す手段を得る一心で動いてましたからね』

「同時に教職を目指してた分まだ健全だろう。復讐が全てでは無かったんだ、お陰でこうして私と君は話している」

『有り難い話ですよ、本当に。まぁついでに紫亜が拐われた時に何も動かなかったクセに誘拐犯共が亡くなった瞬間、新しい当主にだの何だの言ってきた本家の方もほぼ全ての人間がお縄になって解体されましたし、前よりずっと人生を謳歌出来てる気がしますよ』

 

そう言って一つ息を吐くのが電話越しに聞こえてくる。

実は紫亜本人も知らない事なのだが、紫亜が拐われた大きな理由の一つは「本家が紫亜を当主として立てたかったから」である。

事故と言う名の謀殺により当主と次代当主の長男が死に、残っていた者の中でその座を奪い合っていた最中に分家までその争いに加わってこようとした所で本家の人間達が「血の繋がった子供を傀儡として育て上げて当主にしよう」と計画、その標的となったのが本家から出奔し縁を切った空の息子である紫亜だったのだ。

その計画が漏れた結果、分家の中で飛び抜けて野心の強かった一派が先に紫亜を確保したものの、本家の方は無関係であると対応を拒否……事の顛末は紫亜の体験した通りである。

 

「今更ながらに言うが君の父方の実家の人間はなんというか、つくづく救いようが無いな」

『「気に入らなかったから」で私の母や恩師、なんだったらホントに無関係な人間を殺すような連中でしたからね……紫亜達の安全や無関係に虐げられてた子供達の事を考えれば、もっと早くに潰すべきだった』

「まぁあれだ、奥さんや子供達共々、平穏なのが一番だろう」

『平穏、かぁ…確かに有り難い物ですね………まぁ最近は妻に生気を吸われてばっかな気がしてますが……』

「はっはっは、なんだまだまだ現役か?程々にしておくんだぞ」

『息子達からも言われてますよ……』

 

段々と話す話題から血生臭さや陰鬱さが抜けてくる。

既に終わった事にいつまでもかまけている訳にも行かないと、話題を変えようとした紅史の記憶領域に丁度良い話が転がっていた。

 

「あぁそうだ。紅音の進路について一つ相談があるんだが……」

『あぁ、そういえば紅音ちゃんももうすぐ高校生ですか。もう行きたい学校とかは決めてたりするんです?』

「あぁ、恐らく陸上関係で推薦も来るだろうが、紅音ら君が勤めてる学校に興味があるようでな」

『……ウチの高校の運動部はちょくちょく全国大会で実績出してますが、陸上部は強豪という訳では無いですよ?他も割と普通ですし』

「いや、別に強豪云々は選ぶ基準ではないぞ。ただこちらの地元には近場に良い高校が無くてな……進学先は寮がある所が多くなるんだ」

『…………成る程?』

「だったら、いっそのことキミの家で紅音を預かって貰う方が良いんじゃないかと思ってね。紫亜くんも居るからな、変な輩に言い寄られる心配もなく安心して預けられる」

『もしかして紫亜と同棲状態にしようとしてます?』

「紅音が高校を卒業すると同時に籍を入れるだろうからな、共に暮らすのなら速いほうが良いだろう?風音も同じ結論に至っている」

『あ〜…………確かに、よくよく考えると拒否する理由も無いですね。ちょっと妻とも話し合ってみます』

「あぁ、よろしく頼むよ」

 

本人達の意思の確認も無くトントン拍子で進む話。

実を言えば、紫亜と紅音が結婚しない可能性を考えていたのは両方の家族の中で紫亜だけであり、その他の面々、特にブラコン気味の由依でさえ2人の結婚を決定事項として認識していた。

なのでこの話だって今話している父親達からしてみれば別段可笑しい話でも無いのだろう……まぁ気が早すぎる気もしなくもないが。

 

 

なんにせよ、取り敢えず言えるのは2人の進む未来はとても明るいという事だ。




紫亜が誘拐されるまでの経緯

・元々紫亜の父親はとある資産家の一族の本家の次男坊(但し愛人の子) で元々は母親と2人暮らしだったが、小学生の頃に本妻からの嫉妬が理由で母親が殺され、その事実を揉み消された上で養子として本家に引き取られる。
(若干の人間不信を患いながらも学生時代を過ごし、その間に尊敬できる恩師とも会えたがその恩師も一族に歯向かったという理由で消された)

・高校卒業と共に自身への不干渉を条件に支援諸々を受けないまま出奔、母親の遺産を元手に始めた資産運用でやりくりしつつ、恩師のような教師になることを目指して大学へ入学。勉強の傍ら、一族への復讐を果たすために手当たり次第に人脈を築くようになる。


・十数年後、当主及び長男が死亡、後継者となれる者が決まらず分家達も権力を得る為に取り入ろうとする中、権力の分散を嫌った本家側が昔に出奔した次男の元に丁度良い存在(紫亜)が居る事を知って傀儡として育てる為に引き取ろうと動き始める。

・本家連中が接触しようとしてるのを知った分家の一派がそれを阻止する為に先んじて紫亜を誘拐、身代金を本家に要求するが「無関係の人間である」と拒否。

・↑の一派が暴走した紫亜によって鏖殺、公的には関わりがあった危険組織による襲撃という風に処理。

・諸々の事情を知った紫亜の父親が過去の出来事の蓄積もあって激昂、今まで得た人脈をフル活用し金銭に物を言わせた逃走を行う前に残党及び本家の人間を社会的に抹殺。関係の無かった小間使いや子供は避難させ、犯罪に関与していた人物は軒並み所有していた財産を放棄させて刑務所にぶち込んだ。


紫亜のお父さんの実家のイメージはオカルト要素を取っ払った代わりに吐き気を催す邪悪の人数と規模が増えたゲゲ謎の龍賀一族です。
本家から分家まで時貞一歩手前位の屑が選り取り見取り!愛人殺害やその隠蔽含めて余罪が溢れて止まらなかったので漏れなく紫亜のお父さんに全員無一文にされた上刑務所にぶち込まれたぞ!世間にも裏の世界にも味方は居ないよ!牢の中で大人しく老いて苦しみながらくたばって欲しいね!

因みに紫亜のお父さんの人脈はその気になればアメリカの大統領に個人的な頼み事が出来る位にはチートだぞ!学生時代何やってたんだろうね!
今は生徒の進路相談に役立ててるから無問題だ!

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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