人の心はまだありそうでしたがそれはそれとしてハンドルの切り方がえげつないですね。
まぁ一番えげつないのは性能なんですけども。
それでは、どうぞ
「はーい、では略式裁判を始めまーす」
デ○ズニーではしゃぎ回り、高級感溢れる和風ホテルに圧倒され、贅沢な一日を過ごした翌日、様々な施設が併設されているホテルの一角にあるレストラン近くのラウンジの端にて、中学生程の年齢であろう男子2人がまだ涼しい朝であるにも関わらず冷や汗を流しながら正座している。
正面にはその2人を絶対零度のような視線で見下す遥とその隣で漆黒のようなオーラを背負いながら微笑む美奈が立っていた。
「検察〜、罪状を述べよ〜」
「はい裁判長、この2人は昨夜紫亜ちゃんと一緒に入浴した疑いがあります。死刑が妥当かと」
「うん、有罪。というわけで只今より裁判改め死刑執行に移る」
「「待て待て待て待て!」」
「却下」
裁判とするにはあまりにも判決が下るまでが速すぎる為に異議を申し立てる被告人達。それらを丸っと無視しながら手元のスマホに視線を落として操作する裁判長。そしてただひたすらに微笑し続ける検察。何ともカオスな空間である。
「弁護は!?弁護士無しで裁判とかそれもう有罪確定だろうが!?」
「あら、分かってるじゃない。私、端から無罪にする気は更々無いもの」
「じゃあ今の何だったんだよ!?」
「アンタ達の罪を改めて読み上げさせただけ」
「と言うか死刑って何する気だテメェ!?」
「クラスのチャットグループにアンタらが紫亜ちゃんと混浴したって垂れ流す」
「マジでヤメロ!?」
操作していたスマホはメッセージアプリが起動されており、その画面にはクラス全員で作ったチャットグループが表示されていた。
更にはメッセージを書き込む欄には告発文が途中まで執筆されており、まさしく絶体絶命の状況に置かれている事を理解した蓮月は正座したまま抗議の言葉を叫び続ける。
「混浴っていうか、同性なんだけど……そもそも僕らが入ってた時に紫亜さんが突っ込んで来たんだし……」
「健人くん?言い訳は見苦しいよ?大人しく刑に処されよう?」
「ヒエッ…」
一方で言い分を述べようとした健人の前にしゃがみ込み、肩にそっと手を置きながら供述をキャンセルする美奈。薄く開かれた目の虹彩はドス黒く染まっており、それを真正面から見せられた側からは恐怖の声が漏れ出した。
「ふ、2人とも落ち着いて……」
「えー?」
「情報提供者が止めるのー?」
「アンタか先生ぇッ!?」
「何で2人に言ったんですか……!こうなるのは目に見えてたでしょうに……!」
「ごめん……さっき話の流れでつい……」
正しくは昨日の夕食で集まった際に紫亜と男子2人が風呂上がりだった事に気が付いた女子2人が考察して朝方に事情を確実に知っているであろう顧問に会話で誘導しながら情報を抜き取ったのである。
やっていることが手慣れた探偵のそれだ。
「そういえば、紅音はまだかしら?お友達のスマホに『お兄さんとお散歩してきます!』ってメッセージ届いていたから多分まだ紫亜ちゃんと外に居るんでしょうけど」
「あぁ、紫亜くんも今朝方出掛けて行ったからな、恐らくもうそろそろ帰ってくると思うが……」
そんなカオスな光景を微笑ましく見守っていた隠岐夫妻が時計を確認しながらホテルのエントランスの方に気を配っていれば、足音が2つ、小走りで近付くのが耳に入って来た。
「ん、もう皆揃ってるみたい」
「わわ!?すいません、お待たせしました!」
「あら、噂をすれば。おかえりなさい2人とも」
「はい!只今戻りました!」
振り返って出迎えた両親へ紫亜と共に駆け寄ってきた紅音は朝一から元気よく挨拶をする。
その声が聞こえてか裁判の矛先が顧問に向かおうとしていた所だった陸上部の一同もそちらを見て、紅音達の様子を見てピシリと固まった。
「え、何……?ちょっと何か昨日と雰囲気違くない?」
「なんかこう、言い表せないけど何だか、こう……!」
「………恋人繋ぎしてるからじゃない?」
「「それだ」」
「並んで立ってる姿だけで口ん中ジャリジャリしてくるとかすげぇなぁ……」
先程までの裁判の内容等は一瞬で吹き飛び、昨日から若干ながら纏う空気とくっつき方が変化した2人の様子に気ぶり倒す少年少女。
それとは別に愛娘と将来の義息子の雰囲気が変わった事に直ぐに気が付いた隠岐夫妻は何処か期待した様子で尋ねる。
「ふむ……紅音、何かあったかな?」
「……えへへ、ヒミツです!」
「ほほぅ、そうかそうか」
「紫亜くん、紅音の事をこれからも宜しくお願いね」
「ん、勿論」
元から紅音と紫亜が結婚するのが確定事項だと思っている2人はより仲が深まった事に喜びを覚えつつ
それの様子を、生徒達の追及から逃れ端から見ていた杉谷先生は全てを諦観するような目をしながら口を開こうとする。
「…………うん、もう自分からは何も言わない方がいいや。多分この子達なら節度は守るだろうし」
「杉谷先生、どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ上条くん。さ、朝ご飯朝ご飯!」
「ん、ここの朝食ビュッフェは美味しいご飯のお供が多いですよ。白米がメイン」
「そっか、楽しみだなぁ!」
選ばれたのは、スルーでした。
「ん、皆忘れ物無い?」
あの後、紫亜の先導で全国から白飯のお供が取り寄せられた朝食ビュッフェを堪能した一行はそのままホテルのチェックアウトを終えて移動、紅音達の新幹線のチケットの出発点である渋谷駅に居た。
ホテルを出た時よりも更に増えた荷物を抱えながらも、その顔はとても満足気だった。
「ダイジョーブっす!土産もちゃんと持ちました!」
「またお土産増えちゃったなぁ……」
「仕方ないでしょ、地元じゃ早々お目にかかれない店ばっかなんだもん。しかも紫亜ちゃんに一式コーディネートしてもらうなんて機会逃せるはず無いでしょ!」
「大切に着なきゃ……!あ、でもその前に皆に自慢しないと!」
「ん、楽しんでもらえたなら良かった」
「今回は色々とありがとね上条くん」
「いえいえ、僕がしたかっただけなので。そのうちそちらに顔を出すかも知れませんのでその時は宜しくお願いします」
「……連絡は事前にくれると嬉しいなぁ。多分いきなり現れたら皆混乱するから」
苦笑い気味の恩師に首を傾げつつ、最後に隠岐一家の方へと向き直る。
「それじゃあまた夏頃に」
「あぁ、必ず行くとも」
「今度はちゃんとアイラさんにも会いたいわ。」
「それじゃあそろそろ帰ります!」
「うん、気を付けて」
名残惜しそうに手を振る子供達に手を振り返す紫亜。そのまま改札を抜けるのかと思ったその時、不意に紅音がこちらへ向かって駆けてきた。
「しあにぃ!」
「ん、紅音?」
元気よく愛しい人の名前を呼んだ紅音は飛び付くように抱き着いて両腕を首の後ろに回し引き寄せて…
「ん!」
「んむ」
堂々と口付けをした。
「おや」
「まぁ」
「「「「!?!?!?」」」」
「あ」
後方で様々な声が上がるのを気にも留めず、不意打ち気味の出来事に目を丸くした紫亜の顔を見て、自分も照れで頰を紅く染めつつもまるで悪戯が成功した小悪魔のように紅音は笑う。
「えへへ…またね!」
「…うん、またね」
紅音の被っていた帽子を周囲から顔を隠す壁にて、お返しと言わんばかりに額に優しくキスをする。
パチクリと目を瞬かせる少女の頭を撫でてから帽子を戻した紫亜も、それを見上げる紅音もとても楽しげな笑みを浮かべていた。
恋愛ツヨツヨな紅音ちゃんは誰にも止めることは出来ません。その愛を受け取る側の紫亜くんはそもそも止める気がありません。
大切な娘達の恋の進展に両親は微笑ましく見守り、突然供給された顔面偏差値の暴力と共に殴りかかってくるあっまいラブコメに子供たちは気ぶり倒す事しか出来ず、もう見守る事にした教師は「凄いなー」と映画を観る感覚で眺めるのです。
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……