司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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はい、やっとシャンフロに戻ります。
ウェザエモン戦いつになるかな……



それでは、どうぞ


心機一転

「紫亜ちゃん、この前よりうんと良くなったんじゃない?」

「ん……そう?」

 

自分の罪を打ち明け、受け入れてくれた幼馴染との関係が少しばかり変わった日の翌日、新たに入った雑誌の撮影の休憩中、マネージャーからの褒め言葉に紫亜は食べていたカロリーバーを水で流し込みながら答える。

 

「えぇ、端から見てただけのアタシでも分かるぐらいに。まぁ元から永遠ちゃん直伝の魅せ方は出来てたけど」

「ん、結構スパルタだったから体が覚えてる」

「確かに、あの子にしては珍しく自分から世話焼いてたわねぇ。紫亜ちゃんの覚えが良かったから楽しくなったんじゃないかしら?」

「最初はぎこちなかったと思うけど」

「そりゃ例外は居るけど誰だって最初はそうよ、アタシだって最初からスムーズに仕事が出来た訳じゃないわ」

 

首を傾げながら己を見上げる若い青年の言葉に仕事で多くの人間を見てきた社会人は苦笑いを零す。

無論、所謂天才と呼ばれる存在も居る事は理解しており、その最も身近な例が彼が昔担当していた天音永遠である。

そしてまた、目の前にいる青年もまたその天才に目を掛けられた才能の塊なのだが…どうやら本人にその自覚は無いらしい。

 

「それに紫亜ちゃん、元々は永遠ちゃんがマネージャー候補として連れてきてた素人なんだもの。あの時は驚いたわぁ」

「ん、不思議だね、最初は先輩の手伝いだったのにいつの間にか撮られる側になってるって」

「貴方が努力した結果よ、モデルを志したとしても大成出来ずに沈んでいく子も沢山居るもの」

「ん、ありがと、マネージャーさん」

 

そうお礼を述べながら笑みを浮かべる紫亜。その笑顔は以前の物よりも無垢な物でありながらも、何処か大人の色気のような物を含んでおり、慣れていない者であれば一瞬でガチ恋が確定してしまう程の威力があった。

マネージャーは妻一筋なのでノーダメージなのだが、視界の端に捉えてしまった一般スタッフが胸を押さえて倒れた音がした。

 

「やっぱり随分と自然にふんわりと笑えるようになったわねぇ。前まではもうちょっとお硬い感じだったけど……何か心境の変化でもあった?」

「ん、ちょっと休みの間に色々と区切りを付けた感じ。あとは……まぁ、うん、察して欲しい」

「あら、あらあらあらあらぁ!」

 

少しばかり照れくさそうに頰を染めながら口元を緩める。

その表情だけで察せられる、恋の気配にマネージャーのテンションは高層ビルよりもブチ上がって行く。

しかし仲が良いとしても相手は二回りも年下の子、そんな相手に恋愛事情をガツガツと根掘り葉掘り聞き出すのは憚られたのか、一応バレないように深呼吸した後に落ち着いて話を切り出した。

 

「うふふ、確かにそれは大きな変化ねぇ。因みにどんな子?」

「年下の幼馴染の女の子」

「やだ、滅茶苦茶に萌える関係性じゃなぁい!そういう恋愛、私も憧れたわぁ……」

「ん、そういえばマネージャーさんはお見合いからの結婚だったっけ」

「あら、覚えててくれたの?」

「だってマネージャーさん奥さん大好きだし、一緒にご飯行った時も結構その話してたよ?」

「あらやだアタシったら、ごめんなさいね?」

「別に大丈夫、その時のマネージャーさんとっても楽しそうだったし」

「そうかしら?……私の素を出しても「個性的で素敵」って言ってくれたもの、仙ちゃんと出会えたのが人生で一番の幸運だったわ。ちょっと変わった子だけど、武術とかの話題が合う人は中々居なかったし」

「そっちもそっちでかなりロマンチックだと思う」

「あら、ありがと紫亜ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 

「ん………!なんかシャンフロやるの久しぶりな気分」

 

帰宅し諸々の家事や書類整理を終え、ようやっとプライベートの時間に入った紫亜はシャンフロにログインし、いつものように『図書館』の休憩スペースのベットから起き上がる。

今回は周囲に誰も居ないようで、一先ずオルトを探す為にアンジェラが居るであろう中央へと向かって行った。

 

「あらジョシュア……丁度良かったわ、少し来なさい」

「ん、どうしたのアンジェラ。コート脱いでるの初めて見たけど」

「久々に肉体労働してたのよ」

 

そして遭遇したのは普段のロングコートを脱いで脇に抱え、シャツの袖を捲ったアンジェラである。

何とも珍しい装いに意外そうな視線を寄越すジョシュアに気が付いたアンジェラは特に気にする事なくそのまま呼び掛けて自身の近くに寄らせると同時に爪先でコツコツと床を鳴らす。

 

ズズズズス………

 

するとアンジェラが書斎として利用している長机の前の空間、割と広いスペースがあった部分の床が分割し、音を立てながら収納され始めた。

その床が退いた後に現れたのは、地下へと続く階段だった。

 

「わぁ、隠し階段。どういう構造?」

「この『図書館』は私の力で成り立ってるもの、この程度の改造位は自由に出来るわ」

「へぇ…面白いね」

「さ、この下よ」

 

実に浪漫が溢れる隠し階段に心を躍らせるジョシュアは先を行くアンジェラの後に付いて階段を降り始める。螺旋状になった階段の終わりは案外早く、行き止まりにあった頑丈そうな扉はその横にある端末をアンジェラが操作して開錠された。

なんの説明もなく淡々と目的地まで歩いているアンジェラとは正反対に、初めて見るタイプの雰囲気のエリアに来た事で興奮したように周囲をキョロキョロと見回していた。

 

(何だろう、何かの研究施設みたい……『捨てられた殺人鬼』が居た所に若干似て、なくも、ない?)

 

少し前に訪れた死を望む殺人鬼の世界と何処となく似ている気もしなくもないが、断定するには些か共通点が少ない。

そんな事を考えながら廊下を歩いていたジョシュアだったが、ふとアンジェラの背中を追う途中に通りかかった扉に目を奪われた。

時計と汽車が混ざった物を正面から見たようなロゴが掲げられたボロボロのポスターが存在を証明するだけのためのように雑に貼り付けられており、若干掠れては居るもののロゴの下の文字は読み取ることが出来た。

 

「……『LimbusCompany(リンバスカンパニー)』?」

 

カンパニーと付いてる事から恐らく何かの会社の名前だということは推察出来るものの、それ以上の詳細は全く予想出来ない。

そもそも社名にLimbus(辺獄)とは如何な物なのだろうか。

そんな事を考えながら立ち止まって考察や思考をグルグル巡らせていると、その2つ隣の部屋の扉に手をかけていたアンジェラが怪訝そうな顔を隠そうともせず声をかけてきた。

 

「何やってるのよ、早く来なさい」

「ん、ごめんごめん」

 

取り敢えず後回しにしようと呆れ顔のアンジェラが入っていった部屋へと歩を進める。

 

「そこに座ってて頂戴。私は少し準備があるから」

「ん、わか…………」

 

そうして室内に入って指示に従おうとした所でジョシュアは動きを止める。

目線の先にあるのは人1人が座れる物だろうが、どう考えても普通とは言えないような、ゴチャゴチャとした機械の付いた代物だった。

 

「……処刑用の電気椅子?」

「そんな訳無いでしょ、ただの手術台よ」

「それはそれで何されるか不安」

「少なくとも悪いようにはしないわ。少しだけ苦痛が伴うかもしれないけど、コラテラルダメージとして受け入れなさい」

「ホントに今から何始めるの?」

「身体情報の解剖と強化施術の試験」

 

どう考えても不安しか生まれない手術台を前に、上司へ問いかけたジョシュアに返ってきた答えは実にシンプルだったものの、その意味までは履修していないジョシュアは首を傾げるばかりである。

流石に説明不足かと機器の画面や備え付けられたキーボードを操作していたアンジェラは、作業を一旦中断するとジョシュアの方へ向き直って一冊の本を差し出した。

渋々受け取り開いてみれば、どうやらこれから行わる予定の『強化施術』について詳細が書かれているようだった。

 

「前々から準備はしていたけど試す相手が居なかったの。私とビナーにはそもそも無用の長物、オルトはアイツとの契約で被検体に出来ない、あともう1人居るけどアイツはまだ意識と呼べるような自我が目覚めて無い………でもジョシュア、開拓者である貴方ならこれを意味あるものに出来る」

「……それを僕が受ける利点は?」

「純粋に貴方という人員の強化、それから今回の試験で得たデータで調節し直せばより効率的になるの。それと、もし貴方以外の開拓者をこの図書館に迎え入れる事になった時に効率的に施術を行えるわ」

「……成る程」

 

確かに幻想体を相手取るのにパワーはいくらあっても足りないし、これが治験のような物ならば納得は出来る。

パラパラと渡された本を流し読みしながら少しばかり悩み抜いた後に選んだのは実験への承諾だった。

 

「ん、分かった。ここに座ればいい?」

「えぇ、腕は手すりに沿うように置いて頂戴」

 

そうして指示の通りに椅子のような角度で折れ曲がっている手術台に腰掛けて背中を預けるジョシュア。

頭上からは強めの光が降り注いでおり、よくよく見れば強力なライトであることが分かる。

 

「なんというか歯医者に来た気分」

「準備は出来たみたいね、それじゃあ……ビナー」

「あぁ、分かって居るとも」

「ん?」

 

ここに居ない筈の人物の名前が呼ばれ、それに応える声があった。

それに違和感を覚えたジョシュアが体を起こす前に響いたフィンガースナップの音と共にどこからともなく現れた鎖がジャラジャラと音を立ててジョシュアの体を手術台に縛り付けた。

 

「……ナニコレ、鎖?」

「すまないなジョシュア、我らが館長からの指示だ。施術が始まれば意味は自ずと知ることになるだろうさ」

「ちょっと待って、何か嫌な予感がしてきたけど」

「言っておくけど、もうキャンセルは出来ないわよ。これにそういう機能付けてないし……じゃあ、私はデータの収集の方に集中するから」

 

愉快そうに笑うビナーと、言うだけ言ってイヤーマフを付けて画面の方を見るアンジェラ。

自分の置かれた状況を理解したと同時に、ジョシュアの全身から冷や汗がダラダラと流れ始める。

 

「………ん、ん!」ガタガタガタ

 

慌ててこの場から逃れようと藻掻くジョシュア。

だがしかし、そんな物など無駄だと言わんばかりに自身を縛り付ける鎖は微塵も動く気配はない。

 

「ん、すっごい頑丈!」

「お褒めに預かり光栄、とでも言えば良いかい?」

「そう言いながらお茶会みたいなセット用意してるの何で!?」

「これから始まる光景を茶請けにするだけだとも、何か不都合があるわけでもあるまい?」

「………!」

 

その瞬間、脳裏に浮かび上がったオルトとの会話の一幕。確か、この人物は()()()()()()を娯楽に出来ると言ってなかっただろうか。

そんな人物が大層喜ぶ茶請け、即ち?

 

「《ブラッドハーム》!」

「"錠前"」

 

ガチャンッ!

 

「………発動しない?」

 

これから起こると思われる惨状から無理やり脱出する為に自傷する代わりにステータスを上がる筈の《ブラッドハーム》を口頭で唱えても、世界システムはそれに応える事は無く不発に終わる。

スキルを唱え終わる前に聞こえた鍵をかけたような音を辿り胸元を見れば、心臓辺りの高さに黒い錠前のような物が肉体を貫通して付けられていた。

ポカンとしているジョシュアを他所に、ビナーは何でもないかのようにティーポットから紅茶をカップに注ぎ入れてその香りを楽しんでいた。

 

「今の世の生命が術を行使する為には内外問わず体内に収まる臓器による干渉が必要になる。そこの繋がりを絶ってしまえばかつての人類とそう変わらない只人になるだろうさ」

「………もしかして、スキルの封印?」

「既に賽は投げられた。大人しく命運に身を委ねると良い」

 

そう言いながらニンマリと底意地の悪い不気味な笑みを浮かべるビナー。

そんなやり取りを他所にアンジェラが操作する機器は選択された機能を展開してジョシュアへ太い注射針を複数本向ける。

 

「ん、まだちょっと心の準備g

 

 

 

ギグ、あッ!?、ァがガッあ!!??」

 

そして静止の声が届くことはなく、無慈悲にもアンプルの注入は始まったのだった。

 




最後のやつはリンバス初期勢の皆さんには馴染み深いであろう鏡ダンジョンのアレです。

人体から90dB以上出すレベルって何なんでしょうね

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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