それでは、どうぞ
「スゥ……ふぅ〜………よし」
暗転から再び世界が色付いた時、ジョシュアは『後悔』との同調を切って湧き出て残った怒りの感情を落ち着かせると手の内にあるハンマー……正しくはEGOを通して繋がりを強化した『捨てられた殺人鬼』へと話し掛ける。
「ありがと……えーっと、何て呼べば?」
『………好きに呼ぶといい』
「ん、分かった。それじゃあ……アングさん、で良いかな」
『……問題ない』
「良かった、それじゃあまた力を貸してねアングさん」
『………あぁ』
ぶっきらぼうな返答と共に沈黙する『捨てられた殺人鬼』。
しかしながらその言葉に悪感情等は感じられなかった事に安心しながらもEGOを元の頁に変えて仕舞い込む。
常に怒りを吐き出していた為にangryをもじって付けた渾名も特に拒否される事も無かったのに少し喜びつつ、ジョシュアは周囲を確認した。
「ジョシュア様〜!」
先程よりも少しばかり明るくなった印象を受ける水辺の岩場のような場所を観察していれば、先程まで構えていたライフルを頁に戻したオルトがぴょんぴょこと駆け寄って来る。
「ん、いい狙撃だった、お疲れ様」
「どうもなのです!ジョシュア様こそ、あの荒々しくも勇敢に突き進む様、正に
「オルトが居るから大丈夫だと思って突っ込んだだけだよ。実際オルトがどうにかしてくれたし」
「ふふん!当然なのです!」
「さて、それであのお魚は……」
ピッチャピッチャピッチャピッチャ
「うん、すぐそこにいるね」
「水が跳ねる音がずっと聞こえるのです」
この世界に来た時から聞こえてきていた水面を絶え間なく叩き続けるような音が、この空間の主の存在を有り有りと伝えていた。
まぁこんな事もあるよなと、その音がする方向へと揃って歩いていくジョシュアとオルト。
10秒程度で開けた場所に辿り着き、ソロリソロリと岩陰から覗いてみれば……
「〜〜〜〜〜」
ピッチャピッチャピッチャピッチャ
「スッゴイ跳ねてるのです」
「ん、スッゴイ跳ねてるね」
スッゴイ跳ねていた。
少し窪んだ辺りに溜まった水溜まりの上で、『断首魚』がとってもぴちぴちしていた。
「えーっと、アレは一体どういった理由で跳ねてるのです…?」
「さぁ……?」
揃って岩陰から覗き込んだ所で見た光景に疑問符を浮かべる1人と一羽。
一度顔を見合わせて再び覗き込んでもその景色は変わらず、窪地の中心の水溜まりで『断首魚』がちゃぷちゃぷと水を跳ねさせながらぴちぴちしていた。
どんな感情でもってあんな行動をしているか等を知る為に表情を見ようとしてもそもそも首から上が無い。
まぁデフォルメされていない魚の顔を見たところで感情なんて分かる訳じゃないと言えばそれまでなのだが。
「!」
「「あ」」
そんな事を考えていると、コチラに首の断面を向けてくる『断首魚』と目線が合った……ような気がする。
目はないものの確かにコチラを知覚した事は察せられた為ジョシュアとオルトはビクリと身体を固まらせたが、その一方『断首魚』はじっとコチラを見つめるような動作を見せた後、再び水溜りの上でぴちぴちする動作に戻って行った。
「まぁ、遊んでるって事で良いのかな……?」
「『泣きヒキガエル』の時と似たような感じなのです?」
「うーん……」
胸部の袋の膨らみをどうにかしようとジタバタ藻掻いているようにも、ただ純粋に水浴びをしているようにも見える行動に今一どういうアクションを起こせば良いのかの道筋を描く事が出来ない。
だが先程自分達を見ても特に慌てた様子もなく同じペースでぴちぴちしている辺り、恐らく水浴びか遊んでいるのだろう。
「……まぁいっか、行こうオルト」
ここでいつまでも止まっていては何もならないと判断したジョシュアは岩陰から出てゆっくりと歩み寄る。
「こんにちは」
「ーーーーー」
「おっと……うん、敵意は無いんだね」
挨拶をすれば首をもたげて断面をコチラに近づけてくる『断首魚』。
ついさっきまで殺し合っていたにも関わらず先程のようにコチラを叩き潰そうとするような殺気は一切無く、何処か無邪気な犬を感じさせる動作に思わず微笑みが溢れて伸ばされた『断首魚』の首元を撫でる。
魚特有の鱗のゴツゴツとした感触を手で感じつつ、ジョシュアは頭を悩ませた。
「さて、ここからどうしよう。オルトは何か良い案……オルト?」
交流は成功、しかしながらこれより先この奇妙な魚の心を開かせるにはどうするべきか、後ろに居るであろう相方に相談しようと問い掛けると何やら後ろでガサゴソしている気配を感じてジョシュアは振り返る。
「えっと、スクロールスクロール……むむむ、もう少し整理をしなくては……むむっ、あったのです!」
「何してるの?」
「およっ、申し訳無いのですジョシュア様!」
振り向いた先ではオルトがワタワタと何かを取り出そうと奮闘しており、漸く
「優しく水を出せる魔法を使いたかったのですが、保有している魔法のスクロール大量過ぎて少々探すのに手間取ってしまったのです」
「水……あぁ、そういう事?」
「なのです!では少々ワタクシから離れてていて欲しいのです」
「ん、了解」
「ーーーー?」
不思議そうに首を傾げる『断首魚』と側に立つジョシュア。
その姿を確認したオルトは一つ頷くと先程見つけ出したスクロールをしっかりと握る。
「ではでは……おいでませなのです!【ブラストレイン】!」
そうしてオルトが魔法名を唱えると、掲げていた
ポツ、ポツ
放たれた魔法、【ブラストレイン】
その効果は一言で言えば恵みの雨である。
「……これ、もしかしてリジェネ?」
瞬く間にそこそこの水量となって降り注ぐ雨に打たれたジョシュアがステータスを確認すれば少しばかり削れていた筈のHPが全快しており、更にはバフの欄に『持続回復』の文字がある。
ただひたすらに害は無く、全ての生物に対し平等に恵みを与える優しい魔法
「〜!!」
ピッチャピッチャ
そんな慈雨を受けて、『断首魚』はとても嬉しそうにぴちぴち跳ねる。
その姿はお気に入りの長靴で雨の日の街を行く幼子のようだった。
「やっぱり、『断首魚』は遊びたかっただけだったんだね」
「仲の良い妹から餞別としてもらったスクロールが役に立ったのです!……まぁ多分在庫処理も兼ねてたかと思うのですけれども」
「ん、帰って来た」
あの後、暫くの間跳ね回る『断首魚』を眺めていればいつの間にか周囲の風景は大河の端の足場に変わっており、岩にぶつかって跳ねた水を含んだ冷たい風がジョシュア達に向かって吹いていた。
「どんなEGOをいただけるのか楽しみなのです!」
「そうだね、デザインは奇抜だけど可愛かったし」
初対面の怪奇さ、奇妙さを塗り替える程に交戦後の空間での行動がただの遊びたがりの子供のようだった『断首魚』の卵型の核を回収しながら言葉を交わすジョシュアとオルト。
1人と一羽が次に目指すのはシャンフロ世界の舞台となっているこの大陸を統一している王国……エインヴルス王国の首都であり王都、ニーネスヒルである。
【ブラストレイン】
水属性の回復魔法
指定した範囲に一定時間雨を降らせ、その雨に打たれた生物を対象にリジェネ効果を付与する。
範囲や回復量は使用したMPによって変動。
……と、これだけなら普通に範囲回復として優秀そうな魔法だが、「雨に打たれた生物」は敵も含まれる為あんまり役に立つ場面が無い。無機物には効果が無いとは言え
何だったら味方の火属性の攻撃が弱体化したり雷属性の攻撃で自爆する可能性がある。
ただ農家系のプレイヤー達「水やりの魔法としては滅茶苦茶有用」として評価されてたり。
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……