取り敢えず牛さん戦は巻きで行きます。
それでは、どうぞ
『あ、
あ"あ"あ"あ"ッ!』
騎士と戦士がそれぞれ己の得物を構えると同時に『真鍮の雄牛』が絶叫を上げたかと思えば、その熱された金属のような身体から一際大きな熱波を放った。
「世界よ、火を断ずる盾を此処に」
襲い来る熱が届く直前、ジョシュア達の後ろに陣取っていたシスターが手を伸ばし言葉を紡ぐ。
すると先程まで身を焼くかと思える程だった筈の熱波を受けたにも関わらず、まるでヒーターから出てくるぬるい温風が通っただけかのような感覚に留まりダメージも発生しない。
「お2人は攻撃に集中を、襲い来る脅威は私が取り除きます」
「承知した」
「ん、ありがとうシスターさん。けど一つ訂正が……」
ピョコッ!
「戦力一羽追加、なのです!」
「おや」
「ヴォーパルバニー、か?しかしここまで流暢に話せるとは……」
振り返ったジョシュアのコートのファーになっていたオルトが擬態を解いてフフンと胸を張る。
突然現れたモンスターに驚く2人だがシスターの方はふと何かに気づいた様子で静かに問い掛けた。
「もしや、かの旅兎様に連なる方でしょうか?」
「むむっ?もしや貴女様はお父様の事をご存知で?」
「えぇ、存じ上げております。しかし私とて言伝でしか知らぬ身、お会いしたことは無いのですが………騎士様、この者が民に危険を及ぼさない事を私の名において保証致します」
ふわりと微笑みながらそう告げるシスター。
その対象は雄牛を視界に収めながらもオルトを警戒し観察する騎士だった
「……他成らぬ貴女が言うのであれば私もそれに従おう……む?」
一先ず納得した様子で騎士がずらしていた視線を戻したその時、足元も含め周囲の景色が『真鍮の雄牛』を中心に切り替わる。
地面は赤熱し流動する溶岩が川となって流れ、周囲は天然のコロシアムのような形状の火山地帯、そして奥には轟々と燃え盛る炎が灯された巨大な石造りの杯となりその全てが敵対者を押しつぶさんとする気迫を放っていた。
「転移魔法……いや、マナの動きを感じなかった」
「あの牛さんを含めた幻想体っていうモンスターの特徴。本格的に敵対したら世界そのものを塗りつぶすか自分の
「成る程、向こうもここからが本領か……不足はない」
その言葉に動揺は一切無く、流れるような動作で剣と盾を再び構える。
『ゔ、ゔぁ……!』
相対する『真鍮の雄牛』は呻きながらも地面を蹴り、その圧倒的な質量で押しつぶさんと迫る。
「ジゼル」
『────
名前を呼んだ騎士の背後に、美しい女性の姿をした精霊が現れる。
シゼルと
『────【アナタハマケナイ】』
瞬間、騎士の身体を中心に渦巻くような魔力の奔流が生まれる。
膨大な力をその身に受けた青年は左手に持つ水晶の如き輝きを放つ盾を突進してくる雄牛に対し叩きつけるように突き出した。
「王盾よ、その威を示せ!」
魔力を注ぎ込まれ輝きを増す盾と金属で構築された巨大な雄牛、その2つがぶつかり合い……
ガギンッ!!!
『ヴ、ァ……!?』
押し負けたのは雄牛の方だった。
「ここは異空間、であるのならば被害を気にせず剣を振るえるというものだ」
『さぁ、私の愛しい人、どうか力を示してちょうだい……?』
「《
精霊の言葉に応えるように畳み掛けるように右手の剣を振るう騎士。
その一閃は大気すらも叩き切り、その風圧だけでもジョシュアやオルトが目を丸くする程の威力を有しており、直撃を食らった雄牛はホームランボールの如くカチ上げられた。
「およよ!?と、とんでもないパワーなのです!?」
「スッゴイ、頼りになる。後で戦ってくれないかな……っと、呆けてる場合じゃない、僕らも行こうか」
「はいなのです!負けてられないのです!」
ヒョッコリと「呼んだ?」と言わんばかりに顔を出した闘争欲を抑えつつ、肩にオルトを乗せたまま走り出すジョシュア。
ふっ飛ばされた『真鍮の雄牛』に対しまだ1回分だけ効果が残っていた『八艘跳び』の力で跳んで肉薄、空中で身体を振り絞りいつの間にかハンマーモードに移行した《デリバリーキャリア》を思い切り振り抜いた。
「《崩壊ハンマー》ッ!!」
この世界には今は無き北部ヂェーヴィチ協会が有する輸送機械兼武装《デリバリーキャリア》及び協会所属フィクサー達が身に付ける身体機能補助デバイス。
これらの動力源となっているのは『崩壊粒子』と呼ばれる物である。この『崩壊粒子』は特殊な方法で消費することで『破裂エネルギー』を発生させる代物であり、これにより強化された武装は他の追随を許さないほどの出力が得られる。
まぁ欠点として「『崩壊粒子』が高額で消費しすぎると給料が無くなる事もある」、「『破裂エネルギー』が過剰に集まると周囲の物体を
寧ろ、北部ヂェーヴィチ協会は2つ目の性質を武装に転用していたりするのだ。
故に、
バチンッ!!
踏み込みのない空中での攻撃だとしても、強力な一撃へと変貌するのである。
『あ"ぁ"ッ……』
「オルト!構わず跳んで!」
「失礼するのです!」
盛大な破裂音と共に空中で更にひっくり返りながら地面に叩き付けられま『真鍮の雄牛』。
その腹目掛けて跳んだオルトは司書補としての姿ではなく少し前に見せた『西部ツヴァイ協会』の現代チックになったデザインの鎧を纏っており、その手には身の丈の3倍はありそうな大剣を握っていた。
『あぁ…あつい、あ"つ"い"ッ!!』
一方、固まった溶岩のような地面から起き上がった幻想体はブルブル震えながら呻いたかと思えば、
『あ"あ"あ"あ"ッ!』
その雄牛の口から全身が焼け爛れさせたような人型の生命体が飛び出し向かって来るオルトという脅威を本能的に退けようと。
「わぁ」
「これは…なんと」
『うわ、気持ち悪ッ』
絵面は何とも……というかかなり酷い物であり、真正面から見たジョシュアや騎士はその整った顔を少しばかり驚愕を滲ませ、精霊はあからさまに嫌そうな顔をしている。
『真鍮の雄牛』、その名前を聞いてその姿を見た時からジョシュアには一つ元ネタの心当たりがあった。
「ファラリスの雄牛」、中に人間を入れて下から火を焚きそのまま焼き殺す、古代ギリシャにて使用された処刑道具。
王に命じられそれを作った職人が最初の犠牲者となり、その王もまた同じ末路を辿ったという処刑道具らしい血腥い歴史を備えたそれは、「常に赤熱し続ける」と「全身を絶えず焼かれ続ける」という形で出力されたようだ。
「《防御姿勢》ッ!」
そんな悍ましさMAXのような存在を前にしてもそんなもの関係無いと言わんばかりにオルトは大剣を盾のように構え持って突撃した。
「小さき者よ、その身の力を解き放つのです」
「えりゃっさーッ!」
シスターの紡ぐ言葉に呼応するかのように、オルトのその小さな体躯からは考えられないほどの力で持って、痛みに悶えながら暴れて自身を叩き落とそうとした人間モドキを逆に弾き返す。
大きく仰け反った人体部分を他所に着地したオルトは兎の特徴の一つたるその並外れた脚力でもって再び跳び出してゆく。
「これがツヴァイ騎士団の大剣術なのです!《守護の剣》!」
かつてどんな状況でも護る者を背に前に立ち、任務を遂行してきた者達が受け継ぎ洗練させてきた技は揺るがぬ一撃となって怪物へと叩き付けられた。
全身を利用した回転斬りを食らった人型実体は大きく仰け反った後そのまま項垂れるように地面に倒れ伏した。
「素晴らしい剣筋だ、私も負けてられんな」
「騎士さん、どれぐらい必要?」
「1秒もあれば十分だ、頼めるだろうか?」
「ん、了解」
そんな風に軽い調子で言葉を交わす。
先程会ったばかりである筈なのに昔からの友人のようなやり取りの後にジョシュアは一歩前へ。
後ろの精霊から感じる嫉妬混じりの視線をスルーしつつ、ふわりと笑った。
「幻想拘束……ん、掛かっておいで。少し僕と遊ぼうか」
全身を革製の黒い拘束ベルトで締め付けられながら、ユラリと歩み寄るジョシュア。
隙だらけのように見えて、その実油断ならない気配を発し続ける存在を前に意思があるのかどうかすら怪しい『真鍮の雄牛』も思わずたじろいだような動作を見せた。
人型実体が雄牛の中へ悲鳴を上げながら呑み込まれ、すっぽりと口から顔を出す様な姿勢になった所で再び雄牛部分がメインで動き始め、まるで闘牛のように暴れ狂いながら敵を仕留めんと襲いかかった。。
「んふふ…鬼さんこちら、手のなる方へ」
突っ込んで来た所を角に引っかかるギリギリで避ける。
振り返りながら振るった頭の下を潜り抜ける。
赤熱する胴体から発せられる熱気はシスターによって掛けられた加護によって遮断され、僅かに肌を温めるだけに留まっている。
そうして散々翻弄し、『真鍮の雄牛』のフラストレーションが溜まって来たであろう所でジョシュアは攻勢に転じた。
「《崩々壊撃》」
『ぁあ"ッ……!?』
たとえ金属であろうと関係なく全てを震えさせる一撃に、『真鍮の雄牛』は今度こそ完全に動きを止めた。
元より破裂による追加ダメージがある《デリバリーキャリア》に加えてスタンさせやすくするEGO『後悔』の能力、今までのダメージの蓄積もあってかスタンを引き起こしたようだ。
「ん、よし。それじゃあどうぞー」
しかし最後の一撃はこれではない。
正面から突っ込んだジョシュアがスルリと横に避ければ、雄牛から見て隠されていた騎士の姿が現れる。
既に振り上げられていた剣には先程の盾をも超えるほどの輝きが宿り、今か今かと解き放たれる瞬間を待っており、
「───《
標的となった雄牛が再起動を果たす前に振り下ろされた。
シャンフロ小話
前回から出てきてる騎士さんは『都市』でいうハナ協会一課部長レベルのヤベー人
シスターさんは今はもう安全だけど『不純物』クラスの存在になってた可能性があった人
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……