司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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筆が乗って描きました。100話までにシャンフロ内でサンラクとかと絡ませたいんですけど間に合いますかね……




それでは、どうぞ


終わらぬ処刑は水に流して

「おぉっと」

「ん、いつもの」

 

最後の一撃が決まり暗転した世界から明るくなる。

先程のコロシアムが小規模化したような場所で、背後に巨大なオブジェクトがあるが、何よりも目立つのは先程も見た炎が燃えたぎる盃だろう。

 

「それにしても、凄まじい一撃だったのです……」

「そうだね、すごかった」

 

再び光が戻った所で2人の脳裏に蘇るのは、『真鍮の雄牛』へのトドメとなった世界を裂くような飛ぶ斬撃。

元から高い騎士のステータスと一目見ただけでも特別なものと分かる剣のスペック、それらに加えて彼に守護霊のように憑いている精霊が込めた魔力が合わさった事で途轍もない威力が生じたのだろう。

 

それは兎も角、暗闇が晴れた事で周囲を確認すれば、この空間の主は直ぐに発見出来た。

 

『あぁ…あつい……あつい……』

 

 

『うわっ、さっきよりガンガン火を焚かれてるじゃない』

「まだ健在か、普段よりも魔力を込めた筈なのだが…」

「お待ち下さい、騎士様、精霊様」

 

中央では、先程とは打って変わって大変大人しい様子で呻き続ける『真鍮の雄牛』が居た。

嫌悪的な表情を隠さない精霊と警戒を解かずに再び剣を構えようとする騎士だったが、ジョシュアが事情を説明しようとする前にシスターが2人を制止した。

 

「恐らく、あのモンスターは既に戦意を失っております。最早暴れる力も無いものかと」

 

そう言って呻く人型実体を見やるシスターは痛ましい物を見る表情を浮かべながら、この状況でも落ち着き払っているジョシュア達の方を見る。

 

「ジョシュア様、オルト様、お二方はここがどのような場所なのかご存知なのですね?」

「ん、この場所はあの牛さん……多分本体は中の人間の方だろうけど……幻想体の心象世界、みたいな物だよ」

 

問い掛けに対し、隠す必要もないかと自分なりの解釈を伝える。正解であるかは定かでは無いが、オルトとも話し合い定めたこれはそう大きく外れている事は無いだろうという自信はある。

 

「此処にあるのは『真鍮の雄牛』のルーツ、そして辿った末路に由来する景色。その世界の主たる彼らは、ずっと望みを抱えてるのです」

 

 

『みず、みずを……どうか一口、一口だけでいいんだ……』

 

 

「あの方の場合は、絶え間なく続く渇きの苦しみを和らげたい、という願いなのです」

「そうか、ならば……ジゼル、水を出してやれるか」

『無理』

「何?」

『この場所、大気中のマナがイカれてる。私が魔法を使おうとすれば暴発して何が起きるか分からないわ』

「……実を言えば、私も同様です。この場所に来てからというもの、世界から絶たれたような感覚がして上手く干渉出来ない」

『というか、そもそもあの牛が発してる熱が強すぎて水飛ばしても蒸発するわよ。意味のないことに無駄に魔力を割きたくないわ』

 

申し訳なさそうに頭を下げるシスターとそっぽを向く精霊。

魔法の補助を頼もうとした騎士も水を出せる魔法のスクロールを探していたオルトも精霊のもたらした情報に動きを止めた。

向こうから求められているのは確かだが、下手に水をかければ被害が発生するかもしれない、そんな堂々巡りになりそうな所でジョシュアはおもむろに動き出した

 

「……仕方ない、多分これが一番効くだろうし………幻想潜灯」

 

そう言葉を紡げばジョシュアの頭に蛍光色のラインが特徴的な軍帽が現れ、()()全身を薄く鱗のような模様のあるロングコートとスーツに包まれる。

 

「ジョシュア様、もしや……」

「うん、後でお願いねオルト」

「むむむ……正直あまり気は進まないのですが、承知したのです!」

 

その姿とその末を理解しているオルトは急いで確認を取るが、返されたのは簡単な合図。

 

「ユメ、力を貸してくれる?」

『……いいの?』

「大丈夫だよ、まだ僕の肉体じゃ足りない事は理解してるし、ちゃんと対処するから」

『……うん、分かった!』

 

そんなやり取りをしていれば地面はいつの間にか水面となり、空間内の水全てが波打ち始めた。

小さな波とも言えぬ小さな揺らぎはやがて大きくなり、

 

 

「呑み込み沈めろ、《濁流》」

 

 

指揮のように振るったジョシュアの腕に応えるように発生した波が、『真鍮の雄牛』を飲み込んだ。

 

「………」

『あ、あ………』

 

真鍮が赤熱する程の熱が波を全て蒸発させようとするが、それすらも覆うように次々と波は押し寄せる。

周囲の火をも掻き消しやがて赤熱していた雄牛も波が有する沈潜を与える力によってか段々と落ち着き始める。

 

そして…

 

『あつく、ない……』

「ん、それは良かった」

 

呆然とした呟きにジョシュアは優しく微笑んだ。

 

『あ、あぁ………』

「絶えず身を焼かれる、その辛さを本当の意味で分かってあげられる訳では無いけれど」

 

幻想体の根本を他の幻想体の力を利用して否定する、どんな化学反応が起こるか分からない綱渡り的な行為であるのは承知している。

しかしそれは苦痛からの解放であることは間違いないようで、その声色からは悶絶や呻きといった要素は薄れていた。

 

「せめて君が静かに眠れることを願ってる」

 

そうして哀れな死に損ないは瞠目し、安らかな休息を得られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、戻ってきた」

 

異空間とも言える場所から元の世界に戻れば、まるで何も無かったかのように破壊痕や溶けた地面が元通りになっていた路地の真ん中にポツンと『真鍮の雄牛』の核が鎮座していた。

溶けるほどに赤熱した雄牛の頭に飲み込まれた人間というなんとも()()()デザインのそれをジョシュアが回収しようとした所でふと立ち止まって、この都市の治安維持を務めているであろう人物に伺い立てた。

 

「この核、コッチで貰っていい?」

「理由を聞いても?」

「幻想体は本質的に死なないし、この核をこのまま放置してたら時間経過で復活する。これを正しく封印出来るのは僕の上司だけだから、持ち帰りたい」

「……シスター殿」

「……お二方が幻想体と称した物の詳細を知ることは()()()()()()()ようで、私にも確かな事は言えません、

 

ですか、ジョシュア様が善性を持つ方である事は間違い無いかと」

 

確信を持って告げるシスターはそう言いながら微笑みかける。

有り難いがどうしてここまで庇ってくれるのか分からず首を傾げるジョシュアの姿に、騎士も毒気を抜かれたのかそれ以上警戒するのを止めようとして…

 

『まだ終わってない』

「ジゼル?何を……」

『その女、あの化け物と似た気配がし始めた。このままじゃさっきの牛と似た存在になって暴れ始めるわよ』

「ッ!」

 

コチラを睨み続ける精霊の言葉を聞いた瞬間、騎士は降ろしていた剣を即座にジョシュアの首に突きつけた。

差し向けられた殺気に反応しジョシュアが動こうとする前に、オルトが慌てて間に入る。

まぁ体躯が小さい為突きつけられた剣の真下に入るしかなかったのだが。

 

「ま、待って欲しいのです!これは事情があるのです!」

「ん、そういうのを察知出来るんなら警戒されても仕方ない。事実このままだと僕は幻想体のなり損ないに成り果てるし」

 

思わず応戦しようとした己の腕を抑えて降参の意を示しながら言葉を紡ぐ。

 

「僕個人としては貴方と手合わせ願いたい感情が無いわけでは無いけども……少なくとも、無意味にこの街に住む人達に危害を加える真似はしないししたくない」

「その言葉が偽りでないという保証はあるのか?」

「それは今から証明する」

 

剣を突きつけられてもなお、ジョシュアの顔に怖気や敵意は微塵も感じられず、あっさりと背中を晒してオルトの方へと向きながら目線を合わせる為にしゃがみ込んだ。

 

「オルト、3人を蛇の林檎まで案内してくれる?僕は図書館経由で先に行っとくから」

「分かったのです!」

 

一応ニーネスヒルの地図の受け渡しと現在地の確認を済ませた後、ジョシュアはおもむろにインベントリから1本の武器……致命の包丁を取り出しなが、警戒する彼らに向き直った。

 

「まぁそういうわけだからさ、事情説明はお茶会しながらでいい?いい店知ってるからそこでしよ」

「……」

「お茶会、ですか?」

『ちょっと、私の前で色目使うとかいい度胸してるじゃないのアンタ』

 

警戒を解かないまま少し眉をひそめる騎士と、目を瞬かせた後に首を傾げて真意を尋ねようとするシスターを他所に、騎士の背後というポジションを移動しなかった精霊が前に飛び出し、額に青筋を浮かばせながらジョシュアを見下ろして言葉を紡ぐ。

 

「…?別にそういうのは無い。話すべき事が多いし、それなら腰を落ち着けられたほうがいい」

『フンッ!そんな事言って言い寄って来るメスは飽きるほど見てきたのよ!』

「……別に同性愛を否定する気はないけど僕は普通に異性愛者だよ」

『ほら見なさい本性現したわねこの雌猫!やっぱり今からでもぶっころ……』

「ん、雌じゃない、僕は男」

『……は?』

「「!?」」

「なんでそんな驚くの」

 

3人揃って恐らく出会ってから一番驚愕した様子でコチラを見ている事実にどこか釈然としない気持ちになるが、本人以外からしてみれば「だろうな」となる反応である。

事実オルトは何とも言えない微笑を浮かべて待っていた。

 

「ん、まぁそういうことで……それじゃあ、オルト」

 

そんなこんなでジョシュアは準備は終わったと言わんばかり会話を斬り上げ跪坐のような姿勢となって包丁を逆手で持つと、

 

 

「トドメお願い」

 

 

バギンッ!

 

 

侵蝕することも厭わず同調を切り、

 

 

ドスドスドスドスッ!!

 

 

身体の自由が奪われる前に心臓辺りへ包丁を何度も突き刺した。

 

「介錯仕るのです!」

 

急速にHPが減。底を突いたジョシュアがグラついた所へ、確実に仕留める為にオルトがコアページに付随しているほぼ鈍器とも言える大剣を横薙ぎに振るい頭を吹っ飛ばす。

それが功を奏したのか、ジョシュアの侵蝕症状は若干髪や指の先が変化し始めた辺りで生命活動と共に停止し、そのままポリゴンとなって霧散したのだった。

 

「「『……』」」

「ふぅ……ではワタクシが先導致しますのでコチラに着いてきて欲しいのです!」

「………そ、そうか……では、よろしく頼む」

 

開拓者という存在が死への恐怖が軽いものだと言うことは承知していたものの、ここまで徹底的な自滅を図る者は初めて見た者達はその光景を前に固まっていた。

そのため、相方の首を跳ね飛ばした張本人で「いい仕事した」と言わんばかりに汗をぬぐうような動作をしてついでに核をインベントリに回収していたオルトに声を掛けられたとしても、反応が遅れてしまったのは仕方の無い事だろう。





Q.レベルが足りないのに同調しちゃいました、どうしたら良いですか?

A.完全に侵蝕される前に潔く死ね

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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