それでは、どうぞ
「ん、おいしい。やっぱり味覚制限緩くなるねここ」
「かぷ!……むふー!この人参、鮮度が良くて味も濃厚なのです!」
「……」
「……」
『……』
紆余曲折ありながら、『蛇の林檎』にてテーブルを囲む4人と1羽。
ジョシュアによるダイナミック自決、そして身体のアチコチが人外のような要素で侵食されつつも何事もなくケーキを頬張る姿への困惑から未だ抜け出せない騎士とシスターは何の話をすればいいのか分からずただ目の前に置かれた美味しそうなケーキセットを眺めるばかりである。
『………』
「それで、精霊さんはなんでそんなに警戒してるの?」
『……貴方、本気でそう言ってるの?』
「まぁ心当たりはあるけど」
そんな状況の中、精霊は騎士の背後でずっと浮きながらジョシュアを……正確には侵食された髪の先や指先を見て非常に嫌そうに見つめていた。
「……先程の鉱物で出来た牛の怪物か?」
『えぇそうよ。あれ、普通のモンスターどころか、私みたいな精霊とは根本がかなり違うもの……そもそも存在してて良いものじゃない気配してるし』
「私の記憶にも存在しません、知識の量には自信があったのですが……」
固まっていた2人も漸く調子を取り戻したようで、精霊と揃って疑問の混じった視線を向けてくる。
一応滅茶苦茶怪しんでいる精霊に比べると若干友好的な雰囲気はあるのが救いだろう。
「んー、そこら辺は僕よりオルトの方が詳しいと思うけど……頼める?」
「任されたのです!ただ話せる範囲は限られるのでご注意を!」
ケーキを口に運んだフォークを咥えたジョシュアから話を振られたオルトは一度食べ進めていた人参を皿に置くといそいそとインベントリから一冊のノートを取り出して開く。
前に『図書館』にて開いていた見覚えのある一冊には、どうやら彼自身の考察等が書き殴られているらしい。
「えー、コホン……まず大前提として、先程遭遇したのは我々が幻想体と呼称している存在なのです!」
「ふむ……聞いたことは無いな」
「それはそうなのです。我々が管理する幻想体を除けば基本的に休眠状態……先程の卵のような状態のまま世界の狭間に存在し続けているらしいのです。」
「狭間……その幻想体というのは世界自体にに干渉できる存在だと?」
「館長様はそう仰られていたのです。街中に現れた、というよりもその場所に元々存在していたという表現が正しいのかと」
新しくインベントリから取り出したスケッチブックにサラサラと図を描いてそれを見せる。横に2本線が引かれ上には『現世』、下には『裏側』、そして真ん中には『狭間(?)』と書かれており、真ん中のスペースに卵のようなイラストが描かれていた。
「コチラの表を見ていただけると分かるのですが、我々が今いる現世とはまた違った空間に幻想体達はずっと眠っている……らしいのです」
「らしい、というのは?」
「お恥ずかしながら、この状態を観測出来るのはワタクシとジョシュア様の上司である館長様をはじめとして、この世で数人程度なのです」
小恥ずかしそうにしながらも説明しながら表にイラストを描き足していく。
「しかし何故その幻想体とやらが目覚めた?」
「恐らくジョシュア様に与えられた力に共鳴したからかと……あ、勿論我々はこの街に危害を加えようとしたわけでは無いのです!」
即答した内容が内容だった為、一気に疑わしげな目線を寄越される。
流石に言い方が悪かったと直ぐに思い当たったオルトはワタワタとしながら弁明しようとし、ジョシュアもそのフォローに入る。
「僕が初対面の館長に首撥ね飛ばされた時に何かしら改造されたかでそういうのを植え付けられたのかと思ったけど、あの言い方からして僕自身が何かしら変なことになってるみたい」
「ワ、ワタクシにもよく分からないのですが、幻想体達は時が来れば勝手に目覚めるからその前に回収する、と仰られていたのです。その性質によっては条件を満たしただけで呼応し目覚める物もあるとか」
「……成る程、確かにあのモンスターと同等の存在が何の予兆も無く現れるのであれば……」
そもそも今回に関してはとんでも火力持ちの精霊憑き騎士に、スリップダメージになっていたであろう熱を完全に遮断し強力なバフを付与していたシスター、そして幻想体の知識があり対処に慣れているジョシュア達が『真鍮の雄牛』が目覚めた瞬間に存在を察知して対処に向かったからこそ被害一つ無く鎮圧出来たのだ。
ではもし一般市民や低レベルの開拓者しか居ないような状況で幻想体が目覚めたら?
目を伏せて思考を巡らせたシスターが最悪の未来を想像して表情を曇らせていたその時、騎士がポツリと一言。
「……一つ、心当たりがある」
「ん、騎士さん?」
「……今から話す事はどうか内密で頼む。御伽噺のような物なのだが、それでも私が忠誠を誓う王家に伝わる機密情報なんだ」
──その昔、エインヴルス王国が建国されて数十年程度の頃、3代目の王が病で倒れ、その後継者の座を狙った争いがあった
──王の座を手にせんと互いの命を狙う王子達、野心を抱き地位を狙う貴族
──後継者争いは激化し続け、多くの者が血を流して命を落とした
──民が疲弊してもなお争いは止まらず、やがて王権継承候補者が3人まで減った頃……
「『突如として生えるように現れた廃城にて当時の騎士たちの写し身とそれを従えた王が座していた』、とのことだ」
「それが目覚める条件を満たした幻想体だったってこと?」
「君達の話を聞いていると特徴が一致していると思ったものでな、城と共に現れた怪物が目覚めたのは恐らく「王権争い」に反応したからなのだろう」
目を伏せ、脳内の記憶を思い返す騎士。
この地を治める王を、国に住まう民を脅かす脅威と彼らを失う恐怖を知る為の教材としての側面を持つその物語は、彼にとっても相当印象に残っていたようだ。
「後に残されたのは、突如として現れた存在によって鏖殺された王子と貴族と騎士、写し身の侵攻に巻き込まれて亡くなった民達の屍だったそうだ。騎士団の書庫で厳重に保管されている古い文献にも公的記録として残っている」
「へぇ、それでその怪物はどうなったの?」
「分からない」
「……ん?」
話を締めくくった騎士に問い掛けた疑問に対し、返ってきた答えは「不明」。
被害状況等が残されているのであれば事の顛末も残っているのか普通だろうが、それも本人は分かった上で重く息を吐きながら話を続けた。
「無いんだ、どのようにして城とその中にいた存在が討伐されたかの記録が。あるのは被害の記録と唯一生き残った末の王子が王を継いだという事実のみ……戒めとして王族や騎士団の中でのみ語り継がれて来たのだが、その中で失伝したものもあるかもしれないな」
「随分と、懐かしい話をしているな?」
話を遮るような声が一つ、意識の外からかかる。
「「ッ!!?」」
ほぼ同時にガタリと椅子を跳ね飛ばし、騎士とシスターが立ち上がる。
普段であれば店の中で武器を抜き、魔法を放つために魔力を溜める等という行為をしそうにない者達がなりふり構わず警戒する様子を見せるが、その敵意を向けられている側であるはずの存在は何でもないかのように静かに紅茶を味わっていた。
「しかし詳細等は伝わっていないか。まぁ、それも仕方ない、人の上に意地を張って立ち上がる者達はいつ何時も敗北の記録を隠匿したいものだろうさ」
コチラに背を向ける形で座っていた人物はカップを机の上のソーサーに置くとゆったりと組んでいた足を解き椅子から立ち上がる。
「ビナー様ッ!?」
「ん、いつの間に」
「お早う……いや、丁度昼時になったからこんにちはとでも謂うべきか?何れにせよ、お前達の旅路はそう悪い物では無いらしい」
そうして振り返ったビナーは、いつものように妖艶とも不気味とも言い表せるような笑みを浮かべていた。
ビナー様は仕事はしますが、それ以外は自由に動いてます。
あと、ビナー様は趣味でこの世界の観測をしてます。
更に暇ならちょっかいかけたりしてます。
まぁ仕事はアンジェラが頼んだものじゃないんですが
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
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いる
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いらない
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セルマァ……