司書補J、シャンフロにて奔走する   作:ゲガント

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ビナー語が難しいです。助けて下さい。



それでは、どうぞ


調律を担う者

「何者だ」

「ふむ、騎士とあろうものがそう軽率に剣を向けるものではないのではないか?」

「質問に答えてもらおう」

「そこまで警戒しなくて良いよ騎士さん。殺しに来たなら気付く前に消し飛ばしてるだろうし」

 

得体の知れない突然の訪問者へ剣を向ける騎士。

しかし剣先を向けられている筈の方は一切脅威ではないと言わんばかりの余裕の出で立ちである。

 

「……ジョシュア殿、知り合いか?」

「僕とオルトの勤務先の……なんだろ、別部署の人?立場的には上司の一人かな。取り敢えず敵では無い…はず」

「そこは断言すべき所だと思うのだが?」

「だって今朝方やった事がアレだったから……」

「ふむ、否定は出来ないな」

「あわわわわわ……!」

 

そうぼやきながらげんなりとした様子でケーキの残りを頬張るジョシュア。

一方でそれとは対照的に、精霊であるジゼルはビナーを視界に入れた瞬間から目を見開きながら固まっていた。

 

『ウソでしょ、あり得ない』

 

声を震わせながら独り言のように呟かれる。

一番付き合いの長い騎士でも見たことのない状態に一瞬呆気にとられたもののすぐに切り替えて声を掛けた。

 

「ジゼル?どうしたんだ」

『根源、いや始源?でもそれならここら一帯もう希釈されてる筈……何で?何で存在出来て……』

「ジゼルッ!」

『ッ!』

 

段々と焦燥した様子で思考を口から垂れ流す存在になりつつあった所で相方の声掛けで現実に引き戻される。

 

「何、そう恐れる必要は無い。意思を宿す竜巻には少しばかり揺らぎを与えてしまうが、存在の固定を解くほどでは無いだろうさ」

「あ……」

「ん?」

「あ、なたは、一体?」

 

シスターもまた、精霊と同じように固まっており、時々声を詰まらせながらもビナーと対峙する。

一瞥したビナーはコツ、コツ、と歩み寄りジッと見つめた後、納得したように頷き顔を寄せた。

 

「そうか、お前は人の道を選んだか。捻れた末であれば、私と語り合える者になれただろうが……残念だ」

「ッ……!」

 

呟かれた一言に、シスターは怯えたように目を見開いて口を一文字に結ぶ。

 

「所でビナー、さっき「懐かしい話」って言ってたけど、騎士さんの言った伝説の事知ってるの」

「ん?あぁ、その時の状況を観測していたものでな。いやはや、いい暇の慰みになった。中々愉快だったぞ?」

 

記憶を回帰し笑みを深くするビナー。

 

「人間とは須く窮地に追い込まれると攻撃的になる、その末はただの狂乱だ。感情の波は生命の間で伝播し、そして命は淘汰される。その光景を眺めるのもまた一興だったが、些か刺激に欠けたな」

 

少し残念そうにしているが、語る内容は中々に倫理が終わっていた。

 

「……人々が死にゆく姿を見て、抱く思いがそれなのか?」

「抱く思いはその者の自由だろう。結局の所、人は皆自らの物差しでしか物事を測れないのだよ。お前にしがみつくものとて、自身の指標にしか興味を寄せて無いだろうに」

 

騎士の横に浮かぶ精霊を見てそう言い放ったビナーは大して興味も湧かないと言わんばかりに目線を外す。

 

「……女性にこういうこと聞くのはアレなんだろうけど、アンジェラとビナーって何年ぐらい生きてるの?」

「さてな、少なくともこの遊戯盤の上ではおおよその者が童に見える位とでも言おうか」

 

警戒心を露わにする3人とビビリ散らかすオルトを他所にジョシュアは心底不思議そうに首を傾げながら尋ねれば、特に機嫌を損ねた様子も無く答える。

 

「長く存在していれば何事にも飽く物でな、結末が決まりきった流れよりも不定形な火を見たいのだよ」

「世の中には焚き火をじっと見つめて時間を潰す人は一定数居るけど……ビナーのソレは絶対意味違うよね」

「出来ることなら薪を足したいのだが、生憎私が出来るのは火消しだけ。故に、私は眺めるのだよ」

 

一度沈黙が走る空間。

会話が一段落し、再びビナーが口を開こうとする前に、ジョシュアが空になった皿へフォークを置く音で遮りスッと目線を鋭くさせる。

 

「で、ビナーは一体何しに来たの?ただ騎士さん達にちょっかい掛けに来ただけじゃないんでしょ?」

「おっとそうだな……お前が居ると話が進むからとても助かる。かつて言われた事だが、私達はどうも冗長になってしまう癖があるようでね

 

 

 

私は後始末に来たのだよ。なり損ないと開拓者達への抑止力達のね」

 

「ッ!」ダッ!

 

「始末」という単語が聞こえた瞬間に騎士が床を蹴った。

精霊から渡された魔力と洗練された剣技によって繰り出される一撃は先程の幻想体でも見せた通り尋常ではない威力を誇っている。

 

「"妖精""波"」

「ガッ!?」

 

しかしその刃が届く前にビナーが腕を軽く振るえば、何重にも重ねられた斬撃が騎士を斬り裂いて剣を持った手を落とし、地面から生えた黒い波が飲み込むように拘束する。

 

「"鎖"」

『アル!?うぐぁッ!?』

 

あり得ない光景を前に止まった精霊には今朝方ジョシュアを拘束した鎖が胴体や四肢を貫通し空間に縫い留めた。

 

「世界よ、今こ■■■■■………!?」

「血気盛んなものだな、だが拘束する口実が出来たから良しとしよう」

「あ、グッ……!?」

 

シスターが紡ごうとした言葉は途中でノイズが走るように掻き消される。

その隙を逃さず、ビナーな片手でシスターの首を絞め上げるとそのまま軽々と持ち上げて宙吊りに拘束した。

 

「手荒な真似をしてくれて感謝しよう。少しばかり身体を動かしたかった所でね……さて」

「《ドリル・ピアッサー》」

「おっと」

 

いつの間にか致命の包丁を抜き放ったジョシュアが肉薄し、逆手持ちで思い切りビナーの顔面目掛けてスキルを放つ。

螺旋のエフェクトを伴った一撃は見事に決まったように見えたが、

 

「鋭いな、だがまだ鈍い」

 

その切っ先は空いていた手の平で受け止められていた。

 

「まるで理性を喪失した獣……いや、お前の場合は本来であれば本能的に感じる恐怖を踏み倒しているのか。あいも変わらず、私を潰さんとする殺気は止まないな」

「ん、漏れてた?ちゃんと制御出来てたと思ってたんだけど」

「いいや、見事なものだとも。だがしかし、どう足掻こうともそこにあるのならば零には出来まい」

「包丁思いっきりぶっ刺そうとしたのに掌で止めた人に言われてもなぁ……取り敢えず、とっとと3人を解放してくれない?」

「そう焦らなくとも殺すつもりは端から無いとも」

 

澄ました顔で未だにコチラを突き刺そうと力を緩めない獣にビナーは薄く笑いながら片手で締め上げていた少女から手を離す。

持ち上げられていたシスターが落下しそうになった所をすかさず抱き止めるジョシュアを他所に、ビナーは地面に這い蹲る騎士と全身を貫かれた精霊へ腕を伸ばしてパチン、と指を鳴らした。

 

「がフッ……!」

『うっぐ……!』

「騎士様、精霊様!少々お待ちを、直ぐに【ヒール】のスクロール、いえ、騎士様の方は『都市』の再生アンプルの方が……!」

 

拘束を解かれ地面に転がる騎士と精霊に、オルトはワタワタしながらインベントリから緑色の液体が入った注射器を取り出して慎重に中身を注入、全身の斬り傷は瞬く間に治り、斬り落とされ消滅した筈の右腕も何事もその事実が無かったかのように再生した。

オルトは引き続き目を見開き言葉を失う騎士と精霊へ治療の為にスクロールを使う。

 

「な、ぜ」

「ん?」

「せ、かい、との、繋がりが……?」

 

喉を絞められた影響か、途切れ途切れになっていた問い掛けに、ビナーの眉はひそめた。

 

「おかしなことを言うな?()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「『…!?』」」」

「!」

 

何を当然の事を、と言わんばかりのビナーの言葉を聞いて直ぐ様ジョシュアは周囲を見渡す。

そういえばこうして暴れているというのに店員の声が一切しないなとカウンターを見れば、

 

「………」

 

グラスを拭いている状態で一切微動だにしていないマスターがそこに居た。

 

「うわホントだ、僕ら以外の時間が止まってる…どういう仕組み?」

「嘗てあった技術の応用さ。厳密には時間を止めている訳では無いのだがね」

「んー……」

 

動かないマスターをジッと観察して考えを巡らせる。

完全に停止している割にはどことなく生物感を感じる様子に疑問を抱き、ふと「あ」、と声を漏らす。

 

「もしかして止まってるんじゃなくて僕らが馬鹿みたいな倍率で加速してる?」

「ほう?」

「この世界に開拓者(プレイヤー)が居るなら『世界を止める』なんて暴挙出来るわけないし……合ってる?」

「おおよそ正解だな、褒美として茶葉をあげよう」

「わぁい」

 

虚空から徐に洒落た缶を取り出し差し出される。

僅かに漏れた香りは先日振る舞われたブドウ系の果実の風味を纏った紅茶の物で、あの味を案外気に入っていたジョシュアは素直に受け取ってインベントリに入れた。

後でポットとか買わなくちゃ、等と予定を呟く姿は先程の殺意に溢れた一撃を放った者と同一とは思えない程に呑気だった。

 

「お前の言葉が届かないのもそういう理由だ。速度が致命的にズレているせいで受信する側がそれを信号として認知出来ない」

「……そ、のような事が、可能なのですか?」

「これでも楽な方法を選んでいるのだかな……さて」

 

ガチャンッ

 

「きゃッ!?」

「ッ!」

『…何よコレ』

 

呆然としていたシスターと治療を受けて息を整えていた騎士、そしてずっとビナー呪詛を送ろうとしても一切効かない事実にストレスを溜めていたジゼルの胸元に黒くとも怪しい光を灯した錠前が音を立てて現れた。

そしてすぐに身体に溶け込むように消えたそれに目を白黒させる3人を見て、ビナーはクツクツと底意地の悪い笑みを浮かべながら口を開く。

 

「何、心配は要らないとも。ただ、お前達から幻想体の存在が流出する可能性を排除する為の処理だ」

「……言われなくとも、他言無用を貫くつもりだが」

「残念だがそれでは()()()()()。所詮お前達は遊戯盤の上にある背景だ、読み取る事など容易だろう」

 

何とも酷い言い様だが、何かを言う前に…

 

「ではな」

 

突如として現れた門のような黒い渦に呑まれて、ビナーは姿を消したのだった。




騎士&精霊さん
実はリュカオーン(影)相手なら6割で勝てる方々

シスターさん
実は現実改変モドキができる

ビナー
やろうと思えば上の方々を瞬殺できる人。めんどいし面白くないからやらない。
「『図書館』 哲学の階 指定司書」というのがゲーム世界内で与えられた『役職』だが、実はそれとは別に世界の外から与えられた『役割』がある。
簡単に言えば「世界の調律」。
だけど当の本人は自分の娯楽優先で仕事遅らせるのでこの役割を与える相手としては滅茶苦茶不向き。何なら悪化させる可能性もある。

後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは

  • いる
  • いらない
  • セルマァ……
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