それでは、どうぞ
「〜♪」
新たに出来た友人達と別れて『図書館』に帰りアンジェラに確保した幻想体の核を渡した後、再びニーネスヒルの街へと戻って来たジョシュアは鼻歌を歌いながら雑貨等様々な店が立ち並ぶ通りを歩いていた。
因みにオルトは帰りがけに購入した魔導書に狂喜乱舞しながら解読に勤しんで居る為不在である。
「ん、ごめん下さい」
「いらっしゃい!…おや、見ない顔だね?新しく来た開拓者さんかい?」
「そんな所、食材を見ても?」
「お客様なら大歓迎さ!さ、存分に買っていきな」
近代的で目立つ《北部ヂェーヴィチ協会6課》のコアページを外し、司書補としての姿でコートの裾を揺らしながら向かう先は食料品店であった。
路面に商品の置かれた台が飛び出す形で置かれ上には新鮮そうな野菜や果物が並んでおり、それらを買おうとする客も何人も訪れている。
ジョシュアも他と同じように店先で新鮮そうなトマトを眺めていれば、店主らしき女性に声を掛けられた小さな市場じみた店の中へと招かれた。
「んー……魚に合う野菜とかはある?」
「おや、良いのが手に入ったみたいだね。食べ方はどうするんだい?」
「身が大きいしソテーとかにしようかなって」
「付け合わせだね、ならトマトより人参かジャガイモがオススメだよ」
相談された女店主は快活に笑いながら今言った野菜を手に取って見せてくれる。
しっかりとした形の野菜は存在感を放っており、調理を施せば良い味になると言える代物のように思えた。
「ん、じゃあニンジン3本とジャガイモ大き目の2つ……あとそっちのトマトとレモン一つずつ下さい。あとバターとバゲットと……オリーブ油と小麦粉と塩もあれば」
「勿論全部あるよ、バターの量はどうしようかね?」
「んー……拳位の大きさの塊ぐらいで。あとバゲットは2本とオリーブ油1瓶と小麦粉小さいやつ一袋、塩は…うん、後でミル買うから粗い粒のやつ一袋、それと香辛料ある?」
「あるっちゃあるけど香辛料なら向こうにある店がオススメだね、品揃えが段違いさ。取り敢えず会計は4450マーニね」
「ん、ありがとう」
「毎度あり、また来ておくれよ!」
代金を支払って商品を渡された後、手を振って見送ってくれる店主にペコリと礼をしつつジョシュアは店の外に出る。
先程と変わらず通りには多くの開拓者や住人達が行き交い、活気付いていた。
「スパイスの他に調理道具も買わなきゃ。良い場所あるかな」
買ったものが入った紙袋をそれごとインベントリに収納し、ジョシュアは再び街を歩き出すのだった。
「ねぇアンジェラ、ここキッチンとかある?」
「……逆に聞くけど、図書館にキッチンなんてあると思う?」
買い物を一通り終えニーネスヒルから『図書館』に帰還したジョシュアは中央の書斎で本を読み耽っていたアンジェラに話し掛ける。
一方でアンジェラは怪訝そうな顔で返答し、奇妙な物を見る目を寄越して来た。
まぁ言った事が言った事なので仕方がないのだろう。
「や、地下にあんな施設あるならキッチン位ありそうだなって」
「生憎、料理なら本から完成品出してしまえば間に合うもの、調理する場所の必要性なんて感じないわ。キッチンが欲しいなら向こうの世界で借りるか携帯式のコンロでも使うことね」
「休憩スペースでやっていい?」
「…………本に火を移さないで周りを汚さなければいいわよ」
「やったぁ」
渋々とだが許可を得たのでジョシュアは早速購買本のスペースで色々と買い漁って休憩スペースへと滑り込んだ。
「先ずは魚〜」
四角い机同士を引っ張って来て簡単な調理台を形成した後、桶に水を溜めてその隣に先程向こうの世界で買ったまな板と包丁、そして買い集めた食材達を並べた後、エプロンを身に着けて調理を始める。
手始めに取り掛かるのは大河で戦ったスーサイドスピラーレ"
「〜♪」
巨大な一冊の切り身は肉厚で刺身として食べても良さそうなほどに良い色をしている。
鮫と聞いていたが川に生息していた為か鮫特有の臭み等は感じられないものの、一先ず一般的なステーキ位のサイズに2切れほどに切り分け平たい容器に移し、塩を振っておく。
川魚特有の生臭さを発する水分を浮き上がらせるため一旦切り身は放置し、次は付け合わせの野菜の処理を始める。
「オルトの分もって考えたら丁度いいよね」
太く栄養が詰まってそうな人参の根元と先を切り落とし輪切りの要領で大体三等分にする。
カーブの部分の皮を先に剥いた後、桂剥きの要領で残りの皮を剥き縦に四つ割りにして面取りを行う、という工程を3本全てに施せばあとは加熱調理だけである。
一方ジャガイモの方は洗って芽を取り除いた後皮ごと1センチ程の幅でスライスし、鍋に敷き詰めるように並べそこに全体がギリギリ浸る位のオリーブ油を入れた。
「ん、着火」
割と一番の出費だった『都市』のコンロ×3は燃料などは不明だが火力が出る一品である。
偶々見つけたコンロを購入出来る調理器具の本には何処かの特異点が云々等書かれていたが今大事なのは料理できる環境なので一旦スルーした。後でオルトにでも聞いてみようと思う。
ジャガイモと油の入った鍋を3台あるコンロの一つに置き、弱火で加熱し始める。
「ん、次々」
もう一つ別の鍋を残ったコンロの片方に置くと中火で熱しバターを入れる。
溶け始めた所で下処理した人参を入れ、少し馴染ませるように炒めた後、下味の塩とローリエのような葉を1枚を加えてもう一度炒める。
人参特有の香りとバターの香気が合わさって嗅覚が少し刺激され、人参にバターと塩が馴染んた所で綺麗な水を人参が浸るまで入れて蓋を閉め、弱火にした後軽く煮詰め始めた。
「さてと、魚の方は……うん、良さそう」
切り身の表面に浮いてきた水分を調理用の紙で拭き取り、新たに塩と胡椒を両面に振りかけ小麦粉を軽く全体にまぶす。
フライパンを熱してオリーブ油を引き、フライパンに油が馴染んだ所で切り身を2つとも投入した。
「ん、いい音。今のうちに……」
ジュワッ、という音共にオリーブの香りが広がる横で、ジョシュアは小さめのトマトをくし切りに、コレまた小ぶりのレモンを薄く輪切りにする。
下処理が終わった所で使い終わった材料をインベントリに戻して調理器具も一応あった水場でさっさと洗って同じようにインベントリ送りにした後、ソテーし始めた魚の様子を伺いつつ段々と香りを放つジャガイモの鍋の方をみやる。
「ん、中々良さそう。というかゲームでここまでできるもんなんだね」
世界のリアリティ具合に感心しつつ試しに刺した鉄串がスッと入ったのを確認し、コンロの火力を中火にして表面をカリッとさせる。
仕上げと油を切るための容器を用意しつつ、魚を見れば段々と火が入っている様子が見れたのでフライ返しで様子を確認ししっかり焼目が付いていたらそのままひっくり返してじっくり焼いていく。
むやみに触ると崩れる為、焦らぬようしっかりと様子を見守ってゆく。
「……ん、そろそろ良いかな」
両面に焼目が付いたのを確認した後、一度魚を別の容器に移しフライパンの油も取り除いて多めにバターを溶かす。今度は完全に液状になってから、先程移した魚を戻した。
「えーっと、アロゼ、だったかな」
フライパンを傾け、溜まったバターを匙で魚の身にかける。スーサイドスピラーレの身にバターを吸わせるように繰り返し回しかけ、十分に旨味を引き立てた所で皿に盛り付ける。
残ったバターには先程切ったトマトとレモンを加えて、フライパンにこびりついた旨味をこそぎ落としながらソースとして仕立ててゆく。
「っとと、コッチもそろそろ……」
ソースは少し煮詰めた所で火を止め、芋の鍋を見る。ジャガイモスライスがこんがりとキツネ色になったのを確認したジョシュアは直ぐに取り出して油を切るとボウルに入れる。
そこへバター一切れと味付け用の塩を加え、熱々の状態で混ぜ合わせれば付け合わせ1つ目が完全した。
「〜♪」
ソースが焦げ付かないように適度に混ぜ、コクを出す為に『図書館』で買った白ワインを加えてアルコール分を飛ばす。人参も水分が飛んできたので来たので鍋を揺らして照りが出るまで煮詰めてゆく。
先に仕上がったソースを2皿に分けて盛り付けられた魚へと掛けてゆき、その側に先程のジャガイモを添える。
更には完全したもう一品の人参の付け合わせも添えて、余った物は別の容器に移して蓋をしてインベントリに入れておく。
面倒な洗い物がゲームらしく短縮されている辺りに有り難みを感じつつ、買ったバゲットを斜めに切って別の皿に2切れずつ並べれば漸く料理が終了する。
「ふいー……さて、と」
メインディッシュのスーサイドスピラーレ"
満足気にエプロンを外して料理の乗った皿をクロスの敷かれたテーブルの上に置き、カトラリーを並べる。
そして最後に……
「アンジェラも食べる?」
「…………」
休憩スペースの入り口で、じっとコチラを観察していたアンジェラへと声をかけた。
「今の僕の舌じゃ詳しい味までは分かんないだろうしちゃんと感想言える人が欲しいかな」
「……まぁ、そうね。用意したって言うのならば断る理由もないし、頂くわ」
首を傾げながら微笑んで頼み込めば、一つ息を吐いた後コチラへ歩み寄ってくる。
「ホントならスープも付けたかったんだけど、時間が無かったからごめんね」
「……そこまで本格的な物は端から求めてないわよ」
仕方がないと言わんばかりの言動だが、その視線は料理の方へと向いていた。興味はあるようだ。
互いに向かい合うように席に着く。
「いただきます」
「……あむっ」
手を合わせた後、既に食べ始めていたアンジェラに続くように早速メインのムニエルをナイフとフォークで切り分けソースを少し絡ませてから口に運ぶ。
『味覚制限が一部解除されました』
瞬間、口の中に広がるのはバターとトマト、レモンか合わさった爽やかかつ濃厚な風味とスーサイドスピラーレの身の淡白ながらも旨味が凝縮された味。
よく焼かれた身は噛む毎に解れ、封じ込められた旨味を解き放ち、口の中を満たしてゆく。
「ん、中々の出来……というかまだ少し鈍いけど味が分かる」
現実と同等とは言えないものの、それでも先日オルトと食べたアイスクリームが砂糖の味位しかしなかった事に比べれば大分味覚が発達している。
どういう条件かは分からないがゲーム内の食事に魅了されて現実での生活に支障が出ないようにする為の処置である味覚の制限が取っ払われ、「味わう」という行為を楽しめるようになったのは中々に幸運だろう。
付け合わせの方にも手を付ければ、ポテトフライはキツネ色に揚がってカリッとした外側を噛めば内側からホクホクで仄かで自然な甘みが伝わって来て、キャロットグラッセはゆっくり火を通された結果しっとりと口当たりが良くなっており引き出された素材本来の甘みとバターと合わさってコクが生まれている。
品の良さを感じる動きでカトラリーを使い、目を閉じて料理を味わうジョシュアは満足そうに頷いた。
「ん、この世界での料理は初めてだったからいつもみたいにやったけど、この出来なら正解だったかな。アンジェラはどう…」
「……」モッキュモッキユモッキュモッキユ
「……うん、美味しいなら何より」
チラリとアンジェラを見れば無言で2口目を頬張っていた。感想等は口に出さないものの、いつもより目のハイライトが増している気がする辺り、不満があるというわけでは無さそうである。
「はむっ……ん、今日の晩ごはんジャガイモ残ってた筈だしポテトパイにしようかな」
「ん、まんぞく」
ヘッドギアを外してホクホク顔で一息つく。
あの後、いつも通りの仏頂面ながらも若干満足気なアンジェラ「まあまあ満足したわ」という有り難いお言葉を頂きながら、ジョシュアの「ビナーは紅茶を淹れるためのお湯はどうしてるのか」という問いには「さぁ?」と一蹴されそのまま解散の流れとなってログアウトしてきた紫亜の顔は非常に満足そうだった。
短時間のうちに度重なる幻想体や強力なモンスターとの戦闘や、新たな交友関係の構築など、濃いイベントがあり過ぎて興奮しているのだろう。
先ずは水分を取ろうとベッドから起き上がり、仕事用のデスクの下にある小さな冷蔵庫を開けて中のペットボトルを1本取り出す。
プルルルルルルル
「ん?」
小気味良い音と共にキャップを開きそのまま中身を体内へと流し込みながら自身のゲーム機の本体に入ったカセットを変えていると、不意に自身の携帯が着信音を発し始めた。
画面を見れば友人の名前が表示されており、紫亜は躊躇いなく通話のマークを押す。
「もしもし、どしたのカッツォ」
『あ、ジョシュア今暇?ちょっとスパーリングの相手してくんね?』
「ん、『ベルセルク』?それとも『ちいワク』?『幕末』ならセットしてるからすぐ行けるけど」
『いや違うけど?つーかお前、俺が『幕末』苦手なの知ってんだろ!』
「ん、残念」
フフ、と少し意地悪な笑みを浮かべながらも紫亜ら友人がわざわざ電話を寄越してきた理由に耳を傾ける。
『そうじゃなくて、来週『ギャラクシア・ヒーローズ』の国内大会あるんだよ。それに向けて調整しときたい』
「ん、同じチームの人達じゃ駄目なの?」
『駄目ってわけじゃないんだけど、もうお互いの手の内割れてっからなー。ゲーム性が変わるから特訓にならない』
「マンネリ回避?」
『そんなとこ。ついでにウチのチームメイトの相手もしてくれると助かる』
「んー……ん?」
まぁ納得できるなと話を聞いていた最中、急に出て来たもう一つの要件に思わず聞き返してしまう。
戸惑ったのを感じ取ったのか、カッツォは通話越しでも分かってしまう位にニヤリと笑った。
『興味あるだろ?日本トップクラスのチームの実力』
「……ズルいよカッツォ」
『だってこう言えばお前絶対食いつくじゃん』
先程の意趣返しだと言わんばかりのからかいの混じった声色の友人の誘いに、少しだけ悩む様子を見せる。
少しだけ離れていたゲームだが確かに魅力的だと感じるのは否定できない。
まぁそもそも友人からの遊びの誘いを断る気は元から無かったのだが。
「むぅ……少し久し振りだから鈍ってるかもしれないけど許してよ?」
『お前の「鈍った」は信用してないから安心しろ』
「遺憾の意」
『部屋のID送るからちょっと待ってろよー』
アンジェラに腹ペコ属性は……ありですか?
・『ちいワク』
正式名称『ちい◯わ ワクワクしんせいかつ』
昔一世を風靡したとある漫画の世界観を再現したワールドでプレイヤーは小さくて可愛い『ちい◯わ』の一人としてこの世界の住人となり、彼らの暮らしを体験し楽しむゲーム。
辺りを探索し新たな発見をしたり、仕事をして金銭を稼いで娯楽に耽ったり、自由な暮らしを楽しもう!
……というのがコンセプトなのだが、選べる仕事の一つである『討伐』のランダム性と難易度がアホのレベルであり、50%程の確率で事前に示された討伐対象とは全く違う存在が出てくる。
しかもプレイヤーの上げられるステータスに対して討伐対象の『でか◯よ』の攻撃力が異様に強く、トップクラスのステータスを有していたとしてもワンパンでブチのめされる事も珍しくない。
その上、NPCを連れて行ったら容赦なく殺されるし、自分が死んだら「よく似た人生を送った別人」としてプレイを続行することになるし、『討伐』外でも普通に『でか◯よ』は襲ってくる。
無論、死んだキャラは戻って来ない。
それを悲しんだり、精神をグチャグチャにされたモブ『ちい◯わ』が見れたりする。
仲良くなった隣人?あぁ、昨日どっかに行っちゃったよ。
発売初期は原作を知らない勢や子供が雰囲気に誘われてプレイしたが容赦のないイベントの数々に批判が殺到。
公式は「原作再現なんですけど?」と対応しようとしなかったが、後日渋々人の心のないイベントの確率や『でか◯よ』の出現率が極端に低くなった「いーじーもーど」を実装した。
「低くなった」だけで「無くなった」とは言ってない。
何処がワクワクなんだとツッコミたくなるゲームだが、この『討伐』はオンラインで他プレイヤーとパーティーを組んで行くことも可能であり、このオワタ式のスリルに快感を覚えるプレイヤーが他の要素そっちのけで血気盛んに挑んでいる。
(一度も死亡せず成し遂げた)討伐数ランキングが実装されてるのもそれを更にブーストしてる。
息抜きとしてやってみたジョシュアとそれに巻き込まれたカッツォ、あと噂を聞きつけたとあるクソゲーハンターと刹那主義の魔王は上位4人に与えられる『トップランカー』の称号を得た事があったり。
(尚魔王が『トップランカー』を得た方法は「自分より上のプレイヤーほぼ全員を謀殺する」というもの)
尚、『ちい◯わ』は他の『ちい◯わ』に攻撃することは基本的に出来ない。そういう生物だもん。
ただまぁ、攻撃じゃなかったら、できる。
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
-
いる
-
いらない
-
セルマァ……