それでは、どうぞ
『や、悪いねジョシュア。今日は散々付き合って貰っちゃって』
「気にしないでカッツォ、僕も楽しかったし」
初戦をほぼ完封という形で終えたあど、ジョシュアは慧に強制的にマッチを組まされた2人や早速リベンジに挑もうとするnu2meg、そして紫亜を呼び付けた当人であるKと思う存分に殴り合った。
ティンクルピクシーで撲殺したり、遠距離メインのキャラで殴り殺したり、罠や搦手メインのキャラで蹴り殺したりなど多種多様でありつつも攻撃一辺倒という訳の分からない戦法を魅せたジョシュアは、K以外からは黒星を付けられる事なく予定していた時間まで過ごし、そのまま解散の流れとなって今現在は現実世界で通話中である。
最早スパーリングとは?と問い正したいレベルの状況だが、プロゲーマー達としては何かしら収穫はあったようで悔しそうにしながらも満足気にログアウトしていた為問題は無いだろう。
『最後に頼みも聞いてもらったしな、今度なんか奢るよ』
「ん、「ミーティアスを使って戦ってくれ」って言うのは予想してたから問題無い」
『………そんな俺分かりやすい?』
「だって慧、極度の負けず嫌いだから。引き分けまで行けたとしてもそこでおしまいにする程心弱くないし」
『……はぁ~、よく分かってんね俺のこと』
「伊達に何年も一緒にゲームで遊んでないよ」
向こうで吐かれた溜息混じりの声に紫亜はふふ、と笑みを溢す。
気の置けない友人同士、といった様子の声色で交わされるやり取りの最中、不意に慧が一度言葉を切ってから口を開く。
『なぁ紫亜』
「ん、なぁに慧」
『
「…………ふむ?」
突然の問い掛けに一瞬思考に空白が挟まれる。
暫し考えて思い至ったのは一つ。
「対全一の話?」
『あぁ……分かっては居るんだよ、俺は根本からしてシルヴィアと相性が悪いって』
「向こうは相当な脳筋だもんね、そりゃデータ戦術を徹底してる慧とは噛み合わないでしょ」
『脳筋度合いは紫亜の方が上でしょ、方向性は別だけど』
「そうかなぁ」
『そうだよ。お前ら2人とも生来の化け物じみた反射神経で殴ってくるけど、お前は完全攻撃一辺倒の短期決戦型、シルヴィアは無限の体力でペースを崩さない安定型……まぁその安定させてる基準かバチクソ高いのがシルヴィアが強い理由だしな』
慧が打倒を目指す相手であり、紫亜のはとこであるシルヴィア・ゴールドバーグ。
彼女が全米1位かつ「最強」の称号が与えられる理由は様々あるが、その一つとして挙げられるのは異常なまでのタフさである。
本来…というより普通のプレイヤーであれば試合が長引けば段々と疲れによりパフォーマンスが落ちるのだが、シルヴィアの場合は元からトップレベルの強さが時間経過で落ちる事はなく寧ろ試合が長引く……苦戦する程にどんどんテンションが上がるタイプなのである。
その強さをその身を持って体験したことのある者達はその時のことを思い出して苦い顔をしたり、思い出に浸るように満足気な表情を見せていた。
「にしても珍しいね、慧が弱音吐くなんて」
『今日お前と戦って改めて感じただけだよ。諦める気なんて更々無いけど、このアプローチだけじゃ向こうの成長速度に追い付けない。だからお前の意見が欲しいんだよ』
「じゃあぶっちゃけて言うけど、過去のデータは参考にならないと思った方がいいと思うよ。言ってしまえばサンラクの進化版みたいな感じだから」
『嫌な例えすんなよ……いやまぁ分かりやすいけど』
高頻度で初見殺しを押し付けてくるクソゲーマーの飄々とした煽りを含めた顔を思い出したのか、通話越しでも顔を顰めたのが分かる。
カラカラと、可笑しそうに笑った紫亜はそれを誤魔化すように咳払いをして改めて考察を始めた。
「基本は慧のスタイルでいいと思う、というかそれが慧の強みだから軸はぶらさない方が良い。けど慧が勝つには武器を抱えて同じ土俵に立つしか無いよ。厳密に言えば相手の動きを先読みするのに用いる情報にデータ起因以外の物を加えるべき」
『ようは反射神経とかを鍛えろってこと?そういうのってほぼ先天的な物でしょ』
「後天的でも方法を工夫して鍛えれば事は出来るよ。僕のコレは元から持ってたヤツだけど、弟はゲームで似たようなスキル覚えたし」
『あー……つまり?』
「ん、『幕末』をするべき」
『ふざけてる?』
意気揚々と言い放った解答に怪訝そうに問い掛けてくる友人に対し、紫亜は真面目な顔で返答する。
「ん、結構真面目に提案してる。直感システムって覚えてる?」
『あー、確か殺意とかに反応してちょっとした電気みたいなのが走るヤツだったっけか、それが何?』
『幕末』に存在する「直感システム」。
仕組みとしては慧の言う通り、ゲーム内にて殺意やそれに準じた物うなじ辺りが軽く感電したようにピリッとなる、どこぞのニュータイプじみた物である。
コレにより『幕末』にて完全な不意打ちを行うのは「狙ってない」という建前がある無差別攻撃でもなければほぼ叶わない物なのである。
ただし、無差別攻撃でなくてもランカー連中の場合ならその直感システムが働くと同時に首を跳ね飛ばす位は出来るので注意されたし。
「うん、上位層とかランカー達はそれを別ゲーでも標準搭載してるんだけど……」
『ちょっと待ってお前だけの話じゃ無かったの?』
「僕のコレは元から現実でも持ってる奴だよ。まぁ『幕末』のお陰でフェイントも全部読めるようにはなったけど」
『いやまぁ……うん、お前の肉体スペックがイかれてるのは今更だから良いや、それで?』
「幕末に染まりきれば慧も本能的な先読みが出来るスキルが身に付くよ。『幕末』では余程卑怯じゃなければ何でもありだから色んな方法でぶっ殺しに来るし、データじゃない地の対応力を鍛えるにはもってこい」
『あの世紀末円卓より「こんにちは!死ね!」がデフォルトな世界に染まりたくないんだけど……まぁ確かに、特訓の場所としては一考の余地はあるな……』
「確かもう持ってたよね?もしまた『幕末』ログインするなら連絡してね?絶対探し出して天誅しに行くから!」
『こえぇよ!何でそこでテンション上がんだよ!?』
「ん、僕はそういう生態」
んふふと笑う友人に慧は観念したかのように息を吐く。
ゲーム仲間という意味ではプロになる前から一緒に遊ぶ仲でありなんだかんだ一番付き合いの長い相手である為、その言葉が偽りの無い物である事も理解しているのである。
そしてそんな心情も察している紫亜も、話の軌道を更に発展させていく。
「そもそもの話、データファイターの中じゃ慧以上の人知らないからなぁ。僕は見てから戦い方組み替えて殴りに行くタイプだからそういうの出来るのは素直に凄いと思うよ」
『いやいや、「情報を即座に戦闘スタイルに落とし込む」って簡単に言うけどさ……それを実践レベルで出来る奴お前以外知らないんだけど?』
「慧もそのタイプでしょ?」
『その諸々の情報処理フィーリングでやってるお前と一緒にしないでよ。俺のは事前の情報収集と練習の積み重ねによる徹底的な理詰めなんだよ……って、そうだよな、シルヴィアとかあのクソゲーハンターとかお前みたいなアドリブで殺しに来るような相手にただの理詰めだけじゃ限界あるからな……もっと虚を突くような……いや、それは向こうの得意分野だがら…………』
ブツブツと呟きを漏らしながら思考の海に浸っていくプロゲーマー。
過去に何度も叩き付けられた黒星と勝ち取った白星、そして未だ打ち倒せない1等星との戦いを振り返っては何度も勝利の為に繰り返した脳内会議は酷く踊っていた。
『だ〜ッ!ウダウダ悩んでもどうにかなるわけじゃ無いって分かってるんだよ!紫亜、またスパーリング手伝って貰うからな!』
「良いよー、今度はシルヴィアの戦闘スタイル真似してやってみようか?」
『え、お前そんなん出来たっけ?』
「普段は一部真似する位だけど…まぁ何回も見せられたら覚えるからね、100%は流石に無理だけど70から80%位は行けるかな」
『へぇ、なら頼むわ。つーか見せられたって何?』
「ん?あれ、言った事無かったっけ?僕……」
そのまま慧にとっては衝撃の事実が言い放たれそうになったその時、その話を遮るように通話先で『ピロン』という電子音が響いた。
『悪い、何かメール来た。緊急連絡っぽい』
「良いよー、ゆっくり待ってるから」
『すまんね』
一言断ってパソコンを操作しメールの整理を始める慧。
その間に何かしら
『はぁ~〜ッ!?』
「んッ!?」
突然通話越しに放たれた大声に驚いて紫亜は手に持っていた通話中のスマホを取り落としそうになる。
何とか空中でキャッチし直せた事に安堵しつつ、向こうで固まっているらしい友人へと声を掛けた
「どしたの慧、いきなり大声出して」
『…………新作』
「ん?」
慧が震える声で一言。声はか細くほぼ聞き取れなかった。
そしてもう一度、今度は冷静でありつつも歓喜を抑えきれないような声色で告げた。
『『ギャラクシア・ヒーローズ』シリーズ、新作が出る』
「……ホント?」
『マジだよマジ!もう開発も殆ど終わって今年の秋にリリース決まってるんだってさ!』
「それ僕知って良かったのかな?」
『いーでしょ、お前はそういう情報ばら撒くようなタイプじゃないし。それに、多分数日後には公表されるみたいだから問題無し!』
情報漏洩的には問題である。
「ならいっか」
良くはない。
『しっかしまぁまさかこんな急に発表されるなんてなー、どっからもリークとか一切無かったし一体どんな開発チーム組んでたんだか………』
「感慨深いね、新作は何年ぶりだっけ」
『…………』
「あれ、慧?」
『………なぁ紫亜、お前この前『シャンフロ』始めたって言ってたよな?』
「ん?うん、今もよくログインしてるよ」
『『GH:B』と比べて操作感ってどんな感じ?』
急に大人しくなった友人に奇妙さを覚えながらも問われた事には素直に答える。
「まぁ『シャンフロ』の方がリアリティがあって身体を動かした時の違和感も殆ど無い。ゲームエンジンの違いだろうけど大分違うよ」
『そっか………』
「どしたのいきなり」
そう問いても反応は鈍い。
そんな友人からの心配の声も届かぬ程に食い入るように慧が見つめるのはとある一文、
「ゲームエンジンは『シャングリラ・フロンティア』に使用されている物と同一である」
『うし、決めた。俺もシャンフロ始める』
「およ、慧もシャンフロ来る?」
『元々紫亜から聞いて気になってたし、丁度いい機会だからね』
「ん、PVP用のコロシアムとかもあるし、そのうち殺り合う事もあるかもね」
『そん時は遠慮なくブチのめしに行くから覚悟しときなよ!』
「んふふ、楽しみにしてる」
PVPと聞いてこんな反応になる辺り、なんだかんだ馬が合う二人なのである。
こうして、
そしてまた、彼ら以外にもかの世界へと
「うっしゃオラァッ!!ついにフェアクソクリアしてやったぞ!!恨みは晴らさせて貰ったぜ、ッシャア!!」
とある都内の一軒家の一室にて、ベッドの上でVRヘッドギアを雑に掴み外しながら飛び跳ねる少年が居た。
「あ"ー………ドーパミンドッパドパで目が冴えて仕方ねぇけど、他のクソゲーやる気も起きねぇしなぁ」
そのまま自室のベッドに倒れ込み、天井をボンヤリと見つめ始める。
先程まで限界まで脳を酷使したばかりで働かない頭をクールダウンさせながらもゲームクリアの達成感に浸っていた。
「……うん?」
惰性でスマホを操作し始めて次なるクソゲーの情報を求めネットサーフィンをしていれば、一つの広告が目に入った。
「『シャンフロ』か………確かジョシュアの奴が絶賛してたな……」
「えへへ〜、大会のご褒美におねだりしちゃった!しあにぃと一緒にやりたいなぁ…」
はたまたとある田舎街の一軒家にて、スマホの画面に映し出されたゲームのタイトルを目を輝かせながら見つめる少女が居た。
「届くのは一週間後、暫くお預けなのは残念……だけど、その分プレイする時の楽しさが倍増する筈!」
今すぐに手に取ることが叶わない事に少しばかり肩を落としながらもそのポジティブ思考によつてすぐにウキウキと目を輝かせ始める。
「んふふ、『シャンフロ』楽しみだなぁ……」
こうして物語の鍵となる者達は集い始める。
彼らが集うのはそう遠くない未来になることだろう。
「………ビナー」
「おや、どうかしたのかな、我らが館長殿?」
「時間貸与の使用は控えなさいって伝えた筈だけど?」
「問題あるまい、あの程度であれば波紋にもならんさ」
「歪が出てからじゃ遅いのよ、もっと慎重になりなさい」
「善処しよう。それで、そちらはどうなっている?」
「そこそこ……とも言えない状況ね。期限が無いのが救いだったけど、今はジョシュアが居る。そう遠くない内に状況は動くわ」
「ふむ、であれば私は
「順序は考えなさいよ?」
「分かって居るとも。私とて、好き好んで獣に命を喰い破られに行くような酔狂でもないのでな」
「瀕死の相手に冗長かまして相討ちまで引き摺り込まれた奴が言うと説得力が違うわね」
「……一体何処から知ったのかね?」
「ホクマーから……いえ、あの時はまだベンジャミンだったわね。『図書館』が外郭に追放された時にも思ったけど、調律者は無駄話を好むのかしら」
「否定は出来んな」
ジョシュアくんとカッツォはゲーマーとしての会話ではPN、友人としての会話では互いの名前と呼び方を変えてます。
普段はおっとりとしてる紫亜ちゃんが慧をイジる事が多かったり。
魔境連中が知れば脳が破壊された後妄想に耽って盛り上がって薄い本が厚くなります(確定)。
何話か挟んで、新章に入ります
後書きにシャンフロ劇場ミニや小ネタシリーズは
-
いる
-
いらない
-
セルマァ……