パエトーンのお兄ちゃんが、こんなにモテモテなわけがない!   作:雨あられ

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CH1.ニコ・デマラ

-新エリー都 六分街・レンタルビデオ店「Random Play」-

 

「一生のお願いよ!プロキシ……いえ、パエトーン!!あんたの力が必要なのよッ!!」

 

あぁ……彼女の一生のお願いを聞くのはこれで何度目のことだろうか?

 

蒸し蒸しとした梅雨も明けたある日の事。

普段は妹と二人で慎ましく営業しているレンタルビデオ店「Random Play」のドアが勢いよく開いたかと思えば、ジャンピング土下座で入店を果たす『邪兎屋』の女社長、ニコ・デマラ。

 

腰まで伸びた桜色の長髪をツーサイドアップに結んでおり、頭を下げているからか、彼女の着たチューブトップからは零れ落ちそうになっている大きな胸にトレードマークともいえる黒子が良く見えた。

 

僕と彼女の付き合いはそれなりに長いものにはなるが、彼女がこう言ったときに持ってくる案件は大抵碌なものではない。

 

「……ニコ?今回はいったいどうし」「ボーナスよ!」

 

「……ボーナス?」

 

「そう!そうよ!ボーナス!!ヤバいわ、完全に忘れてたわ……!?」

 

顔をグッと近づけたかと思えば、顎に手を当てて考え込む、そして、次には地団駄を踏んで頭を掻き回すニコ。

百面相の彼女の様子を眺めているのも面白いが、それでは話は進まない。

 

「落ち着いて、ニコ。ボーナスっていうのは……?」

 

「そんなの決まってるじゃない!私の会社のボーナスのことよ!」

 

「え?君の会社の業績でもボーナスが出るのかい?」

 

「あ、当たり前じゃない!ウチの会社はホワイトでクリーンなイメージで通ってるんだから!」

 

ニコはフン!と鼻息を荒げて腕を組んだ。

社長がケチでいつも家計が火の車なイメージがあったけれど……って、ああ、そういうことか。

 

「察するに、君はビリーたちに払う会社のボーナスのことをすっかり忘れていて、急遽、お金を工面する必要がある……だから今回も僕のことを頼りに来たってところかな?」

 

「う、嘘。あんたってばエスパーまで使えたの!?」

 

「……ニコ、君の普段の様子を見ていれば誰にだってわかるよ。それで、お金を貸してくれって言うのなら、先に溜まりに溜まったツケの金額を見てもらうことになるけど?」

 

「ち、違うのよ!そう言うわけじゃなくて……いや、それもちょっと期待してなかったわけではないけれど……とにかく!あたしが言いたいのは、今回持ってきた美味しい依頼を受ければ……一発逆転で大儲けが出来るってこと!あんたにも悪い話じゃないでしょ!?」

 

「美味しい依頼?」

 

「ええ、そうよ……これは、あたしが独自のルートで仕入れたとーってもシークレットな情報なんだけれど……今なら依頼を受けてくれることを条件にあんたにだけ特別に教えてあげても良いわよ?」

 

いつの間にニコに店の奥に押し込まれると、まるで勝手がわかっているという風に、戸棚に手を伸ばして、瞬く間にお茶とお茶菓子がテーブルの上に現れる。全て、この間ヴィクトリア家政にもらった、妹にも隠していた高級品だ!?

たまたま妹が居ない日で良かったかもしれない。

 

ニコは僕の隣に引っ付きながら腰かけると、カップに手を伸ばし、薄ピンク色のリップの痕を残すと八重歯を見せて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パエトーンのお兄ちゃんが、こんなにモテモテなわけがない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ホロウ内部-

 

「さぁ!行くわよプロキシ!いつもみたいにチャッチャと道案内をお願い!」

 

『……はぁ、結局こうなるのか……』

 

結局はよくある話だった。

ニコが言うにはとあるホロウの中に、昔のギャングスターの遺した莫大な隠し財産が眠っているらしく、今回はそれを探し出す……という内容なのだけれど……

 

『ニコ、今更こんなこと言って良いかわからないけど、眉唾な隠し財産よりも、少しでも堅実な……そうラーメン屋のアルバイトでもしてお金を稼いだ方が確実だと思うけど?』

 

僕がボンプのイアスを通じてニコに問いかけると、彼女はしゃがんで僕をツンツンしながら頬を膨らませた。

 

「今回こそ、情報屋から仕入れた確かな情報よ!それに、ボーナスなんだからまとまった大金が必要なのよ!ビリーはスターライトの限定フィギュアをもう予約できたって話を朝から80回くらいしてくるし、アンビーも新型の音動機のカタログをワクワクしながら眺めているし、猫又に至っては初めてのボーナスだからそれはもう期待してて……」

 

『……』

 

「その、いつも貧しい思いをさせてるから……たまにはみんなに思いっきり贅沢させてあげたいのよ」

 

そう邪兎屋のみんなのことを話すニコは、落ち込みながらも慈愛に満ちていて、すごく優しい顔をしていた。

 

『ニコ、君ってやっぱり……』

 

「それに……あたしだって……たまには贅沢したいじゃないッ!!?

ルミナスクエアで流行りの服をショッピングしたいし!分厚いお肉をお腹いっぱい食べて、それからグラビティシアターで……」

 

『……相変わらずだね』

 

指を数えながら欲望の限りを吐露するニコ。先ほどまでの優しい顔が嘘のように、禍々しく、欲望に満ちたドス黒くて恐ろしいオーラを放っている。

 

『警告。付近に複数の熱源反応を感知、行動パターンを解析した結果、その辺にありふれたギャングたちの可能性が極めて高いです。マスター』

 

『ギャング?まさか』

 

HDDに住み着いた自称、超高性能AIことFairyの言葉を聞いて目を丸くする。

確か、事前に調査した時にはこの辺は変哲もない空間で、あまり強くない小型のエーテリアスしかいないはずだったのだけれど……。

ひとまずニコにこれ以上はギャングがたくさんいて進むのは危険だと告げると、彼女は目を輝かせ始める。嫌な予感がする。

 

「ねぇそれって、チャンスだと思わない!?」

 

『えっと、ニコ?もしかして……』

 

「そうよ!チャンスよ!だってギャングがたくさんいるってことは、ギャングスターの遺産を狙ってるかもってことでしょ!?遺産は本当にあったってことよ!」

 

『う~ん、そう取れなくもないかもしれないけど……』

 

「とにかく、進むわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ……』

 

何とか、ギャング達にばれない道を導き出し、ニコを誘導してホロウを進んでいく。

進めば進むほどギャング達の数は増えていき、これ以上進めば本当に戦闘は避けられなくなりそうだ。今も狭いダクトを進んでいくが入る途中でニコのおっきなお尻が引っ掛かったりして大変だった。

 

邪兎屋のみんなが揃っていれば多少の無茶も出来たかもしれないけれど、今日はみんなにボーナスのことを秘密にしたいからとニコは単独でホロウに来ている。小型のエーテリアスならともかく、統率の取れたギャング達に囲まれたらニコと言えどタダでは済まないだろう。

 

ダクトが終わって地面に着地すると、一緒に降りたニコが不意に僕の背中を突っついた。

 

「ね、ねぇプロキシ、そう言えば、なんだけど……」

 

『どうかしたかい?』

 

「いえ、その、あり得ない。とは思ってるのよ?」

 

『うん?』

 

「えっと、最近、あんたが可愛い女の子と二人っきりでいるのをみたって聞いて」『ブッ!?』

 

一体誰がそんな噂を!?

 

『えっと、リンのことじゃないかな?』

 

「いいえ、流石にそれならわかるわよ。……しかもよ?朝はお尻のおっきい治安局の職員とランニングをしていて、お昼は赤い髪のロリっぽい子と一緒にラーメンを食べてから、夜はヴィクトリア家政の可愛いサメメイドと一緒にライブハウスに行って……女の子を1日でとっかえひっかえしてるって証言もあったわ!?」『ゲホゲホッ!?』

 

『ご、誤解だよ。たまたまその日はそういうスケジュールになっただけで……』

 

「……ふ、フーン?可愛い子と二人で会ってたことは否定しないのね」

 

『……えっと』

 

「ねぇそれってつまり……」

 

ニコ……何か怒ってる?

ニコがわなわなと震え始める。そして腕を大きく振りかぶったので僕は反射的に身構える!

 

『ニコ、僕は!「お、お願い見捨てないで!!」……え?』

 

見捨てる……?急に視界が真っ暗に、それに、なんだか、暖かくてぽよんとした感触が……。

 

「プロキシ!あんたが最近他のチームと懇意にしてるのは知ってるわ……だ、だけど、最後にはあ、あたしたちと一緒に居ること!良い?他の女なんかに現を抜かしたらダメなんだから!」

 

『ちょ、ニコ!苦しいって!』

 

ギューっと!ニコにイアス越しに抱きしめられている!

今はホロウの中、つまりボンプであるイアスと感覚を共有している状態だ、そんな状態でニコに抱きしめられると……普段以上に柔らかい感触で全身が包まれるような!?

 

『……マスターの体温上昇を検知、また、これ以上の呼吸の停止は生命の危険に関わります。推奨。速やかに酸素を補給』

 

『……ニコ、誤解だよ。別に君たちを見捨てたわけじゃないから!』

 

「ほ、本当に?良かった~~……………って、あらら~?あんたってば照れてる?」

 

どこかホッとした顔をしたのも束の間、クスクスと手を当ててメスガキスマイルを浮かべるニコ。

僕自身も身体が離れて、熱くなっていた体温が抜けていくのを感じる。

 

『……はぁ、ニコ。こんなこと誰にでもしない方が良いよ?』

 

「別にあたしだって誰にでもやるわけじゃないわ!…………それに、あんたが他の子と仲良くしているのが、すっごく嫌でモヤモヤするのよ!」

 

『え?』

 

「そうよ。どうせなら、もう離れられないくらい一緒に、つまり、あんたも家族になれば……」

 

指を突き合わせて顔を真っ赤にするニコの言葉を遮るようにアラートが鳴り響く。

 

『警告!前方から巨大なエーテリアス反応を検知!』

 

『なんだって!?ニコ、すぐにこの場を離れ……』

 

『マスター、前方から接近していた反応が別の熱源と衝突。どうやらギャング達がエーテリアスと交戦を開始したようです』

 

『……ニコ、どうやら巨大なエーテリアスとギャング達が争っているらしい。今のうちに』

 

僕の警告を聞いたニコが髪を靡かせて不敵に笑った。

 

「そう、つまり、今がチャンスってことね?」『ニコ?』

 

「ねぇ、プロキシ。今ならギャング達の目を掻い潜って奥へ進めるチャンスだと思わない?」

 

『……けど危険だ』

 

「危険?上等よ!あの子たちの笑顔に比べたら、こんな危険どうってことないわよ!

それに、こっちにはと~っても優秀なプロキシさんが付いているんですもの?」

 

覚悟の決まった笑みを浮かべるニコ。その瞳からは彼女からの厚い信頼を感じる。

 

『わかったよニコ。それで、最後に、一応もう一度確認しておくけど、進む?それとも、戻る?』

 

「決まってるじゃない?行くのは儲かる方よ!!」

 

『了解!Fairy!近くのエーテル物質やギャングが重点的に守っていそうなものはないか探すんだ!』

 

『全て、10秒前には検索済みです。マスター』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-新エリー都 六分街・レンタルビデオ店「Random Play」 翌日-

 

「はぁ~」

 

「お疲れ様、ニコ」

 

机に突っ伏してため息をつくニコ。

僕がアイスティーを淹れて出してあげると一気にそれを飲み干して、再びはぁ~とため息をついた。

 

「良かったじゃないか、結果的にビリーたちにボーナスは出せたんでしょ?」

 

「結・果・的・にね!まさか、財宝の情報は嘘で、あのギャング達は同じように騙されてたまたまホロウに迷い込んでいただけだなんて!」

 

彼女と依頼を受けると、大体予定通りにいった試しがない。

今回も、結局ギャングの財宝というものは存在せず、代わりに巨大なエーテリアスと争い終わって疲弊したギャング達を漁夫の利で縛り上げて当局に突き出し、報奨金をもらったという流れだ。

それはそこそこの大金ではあるものの、これから受け取る予定の僕への報酬を差し引けばそれなりの額になり、さらに、ボーナスとして奮発して社員たちに支給したらもはやニコの手元に残った金額と言うのは雀の涙……すらも残らなかったようだ。

机に突っ伏し深い深いため息をつくニコ。彼女の赤字経営はこれからも続くと言ったところだろうか……。

 

「さて、ニコ。落ち込んでいるところ悪いけど、そろそろ報酬の話に……」

 

「はい、今回の報酬よ。約束通り……」「おや?」

 

珍しく、ツケも値引きもせずに報酬を払ってくれるニコ。

おかしいな、ホロウの中で頭でも打ったのだろうか?

しかし、受け取ろうと手を伸ばしたが、ニコは封筒をもった手を中々放そうとしない……。

 

「ニコ……」

 

「だって、その……たまには報酬をちゃんと払わないと、本当にあんたに愛想をつかされそうだから……ちゃんと払うから……」

 

後半、消え入りそうな声で囁くニコ。

彼女がパッと手を離すと、完全に机に突っ伏してしまった。

……どうやら、ホロウの中で言っていたことを意外と気にしていたらしい。

 

僕はそんな彼女の頭を時々リンにやってあげる様に優しく撫でる。

 

「……ニコ、次は出かける準備をして?」

 

「出かける?どこによ……?」

 

「どこにって……ニコ、君が言ったんじゃないか、たまにはルミナスクエアでショッピングしてそれからお腹いっぱいお肉を食べたいって」

 

バッと目を見開いて顔を上げるニコに、笑顔を浮かべて答えて見せる。

邪兎屋や孤児院の子供たち、たくさんの「家族」に愛とディニーを分け与えている優しいニコ。

たまには……そんな彼女が貰う側になったってバチは当たらないだろう?

 

ニコは、潤ませていた目を拭ってからパァっと顔を輝かせて、僕の腕を組んで拘束する。

 

「も、もう今更嘘って言っても絶対逃がさないんだからね!あんたのこと!」

 

「はいはい」

 

「……ぜっっったいに、逃がさないわ!」

 

夏の日差しで照らされながら、ニコは赤い顔で八重歯を見せて笑うのだった。

 

 

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