パエトーンのお兄ちゃんが、こんなにモテモテなわけがない!   作:雨あられ

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CHex.バレンタイン修羅場短編

-新エリー都 六分街・レンタルビデオ店「Random Play」-

 

「……Fairy、もう一度頼むよ」

 

『はい、まずは午前5時、雅の誘いを受けて日の出を見に行きます。

午前6時、11号の誘いを受けてランニングへ。

午前7時、朱鳶の誘いを受けてジョギングへ。

午前8時、アンビーの誘いを受けてウォーキングへ。

午前9時、イヴリンの……』

 

2月14日。世間的にはバレンタインデーと呼ばれる日だ。

残念なことに恋人が居ない僕には満面の笑みを浮かべたリンからお情けのチョコレートを貰うだけの日なのだけれど……。

 

20人を超える女性エージェントたち。

彼女たちもまた、たまたまその日の予定が空いている人ばかりみたいで、昨日の夜、嬉しいことに僕のことを遊びに誘ってくれるメッセージが届いていた……全員から。

 

『続いて午前11時、柳と蒼角と早めの昼食。

正午12時、リナとカリンと2度目の昼食。

午後13時、ルーシーと3度目の昼食……』

 

僕が本来行動できる時間帯は朝、昼、夜、深夜とそれくらいが限界だ。だから、普通に会えたとしても4人が限度だろう。

みんなが誘ってくれて嬉しかったけれど、すべてのお誘いを受けるのはどう考えても難しい。そこで、みんなを集めてパーティを開いたり、何人かの予定をお断り出来れば楽だったのだけれど……

 

『あのさ……他の人居るの、ヤだから—エレン』

『プロキシさん?わかっていまして?--ルーシー』

『特別な日、二人きりで楽しみましょ!……ね?--アストラ』

 

 

メッセージ越しにも拘わらず彼女たちから感じる気迫は凄まじく、二人きりで会えるのが楽しみだと念を押されたりして、いつの間にか断るに断れない状況になってしまっている。

 

『午後15時、ニコに誘われた競ボンプレースの賭けに参加。推奨。彼女の勧めるボンプには賭けない。

午後16時、アストラ様の誘いでリバーブアリーナへ。

午後17時、グレースの誘いでビデオ屋へ。推奨、イアス、トワ、レムを隠す。……』

 

こうなれば、やるしかなかった。

1時間単位で綿密なスケジュールをたてて実行、予定をコントロールして完璧に動く!

伝説のプロキシ、パエトーンと呼ばれる僕ならばこなせるはずだ!

 

この、達成困難なバレンタインミッションを……ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パエトーンのお兄ちゃんが、こんなにビデオ屋のゴミなわけがない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-2月14日 午前3時 山-

 

僕は山の上に居た。

 

「……??!?」

 

ヒュウと、寒さに歯をカチカチ言わせながら、未だに夢の中に居るんじゃないかと思いながら、寝ぼけた頭のまま困惑するしかない。

 

「起きたか、アキラ。まだ日の出には早いぞ」

 

「みみみみ、雅さん……?ま、まだ約束の時間には早いような……」

 

「ああ、お前と過ごすのが楽しみで待ちきれなかった」

 

そう僕を背負いながら登山をして、嬉しそうにピコピコと耳を揺らす雅さん……???

 

「山頂に着いたか、ここで待つとしよう……。ああ、今朝は少し冷えるな」

 

……僕は、震える寒さの中で、ぎゅっと僕にくっついてくる雅さんで何とか暖を取りながら、雲海の底から顔を出した太陽に目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-2月14日 午前6時30分 ポートエルピス-

 

はぁ、はぁ、下山した後、都合がいいことに、雅さんの方が忘れ物があるのを思い出した、と言って無事に解散出来た。遅れてしまったけど、まだ予定を調整して……?

そう思っていた僕の目に、悪夢のような光景が飛び込んできて眩暈がする。

 

11号、朱鳶さん、アンビーにイヴリンさんと、ここでタスクをこなす予定だった4人の女性が、全員頭上に!マークを浮かべて並んで待っているではないか!?

 

少し考えればわかるはずだった。

 

彼女たちは真面目だから待ち合わせの時間より早めに来ることだって、まして、待つ場所もそう多くないから鉢合わせるかもしれないということだって……。

全ては後の祭りであり、お互いの存在を認知しながらも一言も言葉を交わせる様子がない4人の只ならぬ雰囲気に圧されて僕は頭を抱えた。

 

彼女たちは待っているんだ。

誰が一番初めに僕に話しかけられるのかを……!?

 

順番的には……遅刻をした11号にまずは謝罪をすべきだろう。

そう思い、僕は11号の方へと近づいていく。すると……

 

「プロキシ先生」

 

すっと、横から現れたアンビーがそれを遮った。

 

「あ、アンビー?」

 

「奇遇ね。早めに会えるなんてツイてるみたい。じゃあ、行きましょう」

 

そう言って自然な動きで腕を組み、歩き出そうとするアンビーの前に、ざっと、3つの人影がそれを取り囲む。

 

「あなた……今「クリムゾンアイズハーミット」は明らかに私に話しかけようとしていたわ」

 

「アキラくん……嘘、ですよね?いつものように、私を騙しているんですよね?」

 

「君の周りには魅力的な女性がたくさんいるようだな……さて、ここからどんな手管でアストラお嬢様を毒牙にかけるつもりだ?」

 

嫌な汗が止まらない。こ、この状況を丸く収める方法は……!?

 

「こっち……!」

 

ガシッと、僕の腕を組んだままのアンビーが走り出す!

僕はそれに引っ張られるような形で走り出したが、次の瞬間には3人のエージェントたちも目を光らせて追いかけてくる!

 

 

 

 

「ん?あれって朱鳶長官じゃないか?」

 

「本当だ。今日は非番だと聞いていたからてっきりデートにでも行くのかと思って密かにショックを受けていたが……長官は……誰かを追いかけている?」

 

「きっと長官のことだ。犯罪者を逮捕しようとしているに違いない。俺達も加勢するぞ!!」

 

 

 

 

「あれは、防衛軍の……何か事件が?」

 

「我々も加勢しよう」

 

 

「あいつは確か「ムササビ」いや、「スズラン」だったか?なんでもいい、アイツには借りがある、獲物を横取りするぞ!」「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

-2月14日 午前11時45分 ルミナスクエア-

 

はぁ、はぁ、はぁ……!

 

「居たか!?」「いや……」「もっとよく探せ!」

 

路地に隠れながら追跡者たちを振り切り、呼吸を整える。

3人に追われる最中、急にたくさんの乱入者が現れて……みんなは咄嗟に僕を助けてくれたけれど、途中で携帯も落とすしアンビーともはぐれてしまった……!

どうしてこれだけの規模の捜索が……まさか、僕がパエトーンだと知って……!?

 

不意に、ムニョンと、身体を壁に押し付けられて、顔を拘束された!

かと思えば、しー!お静かに……と、耳元で優しい声で囁かれる。

 

「や、柳さん?」

 

「アキラさん、中々来てくれないと思っていたら、これは一体……」

 

「僕にも何が何だか……!?」

 

いつものように眼鏡を上げて笑顔を浮かべる彼女を見て、僕はもう安心だとばかりに安堵した。

しかし、次の瞬間、ふわぁと、足が地面を離れて、僕の身体が宙に浮いた!?

かと思えば、屋根の上に羽を置くようにゆっくりと降ろされる。

 

「プロキシ様。少し早いですが、食事会のお迎えに上がりました。このリナ、腕によりをかけてたくさん料理を……」

 

「り、リナさん。実は、それどころじゃ……」

 

次の瞬間目にも止まらない速さで地面から飛んできて薙刀を振るう柳さんに、僕を抱えたままそれを踊る様に優雅な動作で避けるリナさん。

 

「避けた?」「おや……」『テキシュウだー』『やっちまえー!』

 

と、電気を纏いながらドリシラとアナステラが柳さんを襲う。

しかし、柳さんも人間離れした動きですべての攻撃を躱している!

 

「ふ、二人ともストップだ!二人は敵じゃないんだ!だから……」

 

「……先ほど食事会という単語が聞こえましたが……」

 

「ええ、今日はプロキシ様のために満漢全席を作ってみたのです。どうでしょう。貴方さえ良ければご出席いただいても……」「残念ですが、アキラさんにはこれから私と蒼角が作ったまんまるで絶対美味しいよ~!ハンバーグを食べていただく予定なので……そちらの満漢全席は諦めてお引き取り頂けませんか?」

 

「あらあら」「うふふ」

 

ズガアアン!と青い閃光が光った。かと思えば、空中で雷を弾けさせながら、戦闘を繰り広げる二人。

それだけではない、先ほどの雷が呼び水となり、他の勢力も次々と集まってくる!僕は、慌ててその場を逃げ出した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-2月14日 午後15時5分 リバーブアリーナ-

 

「ちょっとアンタ、どこ行ってたのよ!?もう始まっちゃうわよ!」

 

はぁ、はぁ、はぁ……僕は、フラフラになりながら何とか予定を軌道修正すべくここ、リバーブアリーナへとやってきた。

ニコは僕の背中を叩きながらパドックのボンプ達について説明している。やれ、蒼角似のトーカイボンプだの、パイパー似のライスボンプだの紹介されたが、僕にはイマイチどのボンプが速いかわからない。けれど、ニコは僕の腕を組みながらとても真剣に悩んでいるみたいで、そんな彼女を見ているのが楽しくて、なんだか逃走で疲れた心が癒されるようだった。

 

「ねぇ、あの子なんて、早そうじゃない?オルフェ―ボンプだって!」

 

「そうだねアストラさん。キリっとした目が少しイヴリンさんに似ている気が……!?」

 

反対側の腕を見ると、サングラスをずらして舌を出して笑ったアストラさんだった。

僕は自分の血の気が引いていくのが分かった。

 

「あ、アストラさん、まだ時間には早いような」

 

「うふふ、イヴにアキラが追われてるって聞いて助けに来たのよ!貴方なら、きっと私との約束を破ったりしないと思っていたもの……まさか、他の子とデートしてたなんて知らなかったけれど……」

 

「その、これは……」

 

「……私とイヴじゃ足りない?」「え?」

 

バン!と響いてくる騒音に僕は思わず正面を見る。すると、外から人混みをかき分けながらなだれ込んでくる大量の刺客たち!

 

「よし、決めたわ!あたしは自分を信じて、あのジェンティルボンプに……!」

 

「逃げようニコ!アストラさん!」「え、あ、ちょっと!?」「こっちに車が用意してあるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も、無茶苦茶だった。

ホロウに逃げ込んだら、その中にはたまたま集合していたバレンタインに乗じてテロを起こそうとする犯罪者グループが集まって居て、僕のことを追いかけていたエージェントや待ち合わせに待ちきれなくなったエージェントたち、治安局や防衛軍、6課に郊外の勢力まで集まって大乱闘だ。

 

まるで八つ当たりでもするかのように、暴れまわる彼女たち。

この世の地獄かのような光景がそこには広がっていた。

 

そして……夜が明けた!

 

 

 

 

 

 

 

 

-2月15日 午前9時 レンタルビデオ店「Random Play」--

 

「はぁ……」

 

僕はソファに座ると、マグカップにコーヒーを注ぎながらため息をついた。

その様子を見て、リンがニマニマとした笑みを浮かべながら近寄ってくる。

 

「あれ~お兄ちゃん~ため息なんてついてどうしたの~?

……まさか誰からもチョコ、もらえなかったとか!」

 

「そのまさかだよ。昨日は色々とあってね……」

 

「もう~しょうがないな~、だったらいつも通り可愛い妹のチョコで我慢……」

 

ドンドンというドアを叩く音がする。

はーいと、言ってリンが出てくれたけれど次の瞬間には息を切らせながら戻って来て声を荒げる。

 

「お兄ちゃん!何やらかしたの!?」

 

リンの言葉を聞いて、バックルームの扉を開けるとそこにはチョコを抱えた無数の女性たちの瞳がこちらを見て……!?

 

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