パエトーンのお兄ちゃんが、こんなにモテモテなわけがない!   作:雨あられ

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CH12.ビビアン・バンシー

-新エリー都 六分街 夕方-

 

「中々難しいね~、ゴールデンウィーク用のイベントとか、限定商品とかって」

 

リンがキョロキョロと周りのお店を見回しながらそう愚痴をこぼす。

 

新エリー都に、再びゴールデンウィークの季節が訪れようとしていた。

 

普段は仕事の忙しい社会人たちも、合法的に大型の連休が取れるともなれば気分も明るくなりツイツイ財布のヒモも緩みがちだ。

仕事に疲れ果て、混雑を嫌った彼らはこれを機にシリーズものを一気に消化しよう、とか、見れてなかった話題の新作を観よう、とか、普段はレンタルに来ないお客さんまでもがウチにやって来てくれる……所謂、ビデオ屋にとっての書き入れ時という奴だった。

 

だからこそ、このゴールデンウィークにはウチも何かやろうと、リンと二人で情報収集がてら街に出たのだけれど……どこも在庫一掃セールや複雑な割引キャンペーンなどしかしていなくて、中々真似したくなるようなアイデアというのは転がっていない。

 

「アシャさんのところは……いつも通りゴールデンウィークのスペシャル大会か」

 

「あれって、結局どうなったんだっけ。青衣とリナさんの対決!」

 

あの時は確か、「金糸姫のエレジー」や「デタラメチャーハン」、「170」も参加していた大規模な大会だったか。青衣の正確無比な操作と、リナさんとの特訓を積んだ熟練の動き、あまりに凄まじくて中々決着がつかなくて……えーっと、最後は筐体が耐えられなかったんだったか……。

 

「チョップ大将のとこは数量限定ゴールデンラーメン……!?」

 

「それは食べておかないといけないね」

 

ゴールデン……一体どんなラーメンなのだろう?

一時期は無料キャンペーンなんていうニコが何回も並びなおすようなやけくそイベントまでやっていたし、なんだか迷走しているような気もするけれど……?

 

僕らが店の鍵を開けて帰ってくると、「あ!」と誰も居ないはずの店内から弾んだ声が聞こえた。

 

「おかえりなさいませ「パエトーン」様!」

 

そう言ってはたきを持ったままとびっきりの笑顔で出迎えてくれたのは、三角巾と可愛らしいペンギンが描かれたエプロンを着けた紫色の縦ロールヘアに、真っ赤な瞳、尖った耳に……泣きボクロがチャームポイントであるモッキンバード所属の怪盗、ビビアンだ。

 

「えっと、ただいま~!ビビアン!」「ただいま、ビビアン」

 

彼女がここに居たことに少し驚いたけれど、リンに続いてそう声を掛けるとビビアンは感激したかのように口元を両手で覆った後、コホンとワザとらしく咳をする。そして、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながらツンツンと指をくっつけ合わせる。

 

「あ、あの!「パエトーン」様?お風呂にしますか?ご飯にしますか?そ、そそそ、それとも………ビビアンになさいますか……?」

 

な、なんちゃって!!と言って一人で真っ赤な顔を抑えて悶絶し始めるビビアン。

その間にリンが僕のことを肘で小突いてきたので、少し屈んで耳打ちを受ける。

 

「ね、ねぇお兄ちゃん。ここのところ、毎日ビビアンが夕食を作りに来てくれてるけど、そろそろ悪いんじゃない?何かそういうお願いをしたの?」

 

「え?いや、僕の方では特には……と言うよりも、リンがお願いしたんじゃないのかい?

……今日だって、鍵をかけて出かけたはずなのに彼女は店の中にいるし……」

 

「えぇ!?私はそんなことお願いしてないよ……!?」

 

僕らは顔を見合わせた後、二人揃って再びビビアンの方を見る。

 

「パ、「パエトーン」様…!?ああ!お二人の「パエトーン」様にそんなに熱い眼差しで見つめられてしまうとビビアンは……!」

 

限界化するビビアン……。

ビビアンは、どうも「パエトーン」である僕達の熱烈なファンみたいだった。その言動はまるでアストラさんの強火オタクであるリンのようだ。

……こうして気を利かせて部屋に侵入し、料理を作ってくれるのも親切心から……まさか、僕のことを命がけで助けてくれたあのビビアンに限って邪な考えをもって……何てことするわけがない……はず。

 

それはそれとして……今月に入って6度目の不法侵入については後でヒューゴからそれとなく注意してもらえるように連絡しておこう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの「パエトーン」様が、こんなにモテモテなわけがない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めは一目、そのお姿が拝見出来れば良かったのです。

 

自分に光を与えてくれたその存在がどのような人物なのか、年相応の好奇心もあり、ささやかな願いが叶えばいいのにと、そう思っていました。

それに、どのような姿形であれ、決してこの信仰心が揺らぐことはないと確信もあったからなのです。

 

けれど、わたしの想いはあっさりと揺らぐことになってしまったのです。

 

一目会えればと思っていただけなのに……「パエトーン」様以外で初めて凄く好ましいと思っていたプロキシが、まさかの「パエトーン」様ご本人で……ますます「パエトーン」様ともっとお話をしたいと思うようになり……ずっと、そのお隣に居たい、と強く想うようになったのです。

 

ああ、ビビアンは欲張りなのでしょうか?

 

あなたに見て欲しい、あなたに触れられたい、あなたからも……好きと想われたい。

 

そんな恋慕の気持ちは日に日に強くなっていくばかりなのです。

 

それもこれも、「パエトーン」様が本当に素晴らしいお方なのが悪いのです!

優しくて、知性的で、ときにユーモラスで……あの方への称賛はこの世にありうる限りの言葉を尽くしても表現できないのです!

 

 

 

な、の、に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 六分街・レンタルビデオ店「Random Play」 朝-

 

「こんにちは。店長さんはいらっしゃいますか?」

 

今日は「パエトーン」様のお店でアルバイト!

そんな夢のような時間に土足で入り込んできたのは、笑顔を浮かべてやってきた治安局の制服に身を包んだ長身の女性……危険人物リストNo5、朱鳶!

確か、「パエトーン」様の正体を知ってからは、監視も兼ねて同僚と交代で定期訪問を行っているとのことでしたが……。

 

「えっと、私、あなたに何か睨まれるような失礼なことをしてしまいましたか……?」

 

「……元々こういう目なのです」

 

ただでさえ、モッキンバードの立場上、治安局には良い思い入れが無いのに……。

長い睫毛に出るとこの出ている引き締まった身体……何よりはその大きなお尻できっと「パエトーン」様を誘惑しているに違いないのです、敵、敵なのです!

 

「やぁ、いらっしゃい朱鳶さん」

 

「アキラくん!」

 

パッと花が咲いたみたいに微笑む彼女を見て、うえっと舌を出したい気分になったのです。というか出したのです。

そう、彼女の定期訪問というのは口実で……実際にはこのビデオ店に足繁く通う、さながら通い妻気どりのメ……汚職治安官なのです!

 

「えっと、お昼がまだであれば、少し出られませんか?いえ、無理にとは言いませんが」

 

「勿論、大切な……朱鳶治安官の頼みともあれば、僕はいつだって時間をつくるよ」

 

くぁwせdrftgyふじこlp!?

「パエトーン」様のお言葉を聞いて、脳が焼け落ちそうになりました。

またそんな意地悪を……なんて言いながらも、頬を赤らめてますます熱っぽい表情を浮かべる治安官を見て、喉の奥から熱々の反吐が出そうなのです!

 

「と、ところで、先ほどからこちらを睨んでくる新しいアルバイトさんですが……」

 

ガルルル……なのです。

 

「彼女はビビアン。凄く頑張り屋で良い子なんだ」

 

「!!そ、そんなパ……店長様に褒められるほどでは……えへ」

 

「謙遜することはないよ、まるでウチの仕事をなんでも知ってるみたいにこなしてくれているじゃないか」

 

「そ、そうなんですか……私は治安官の朱鳶です。よろしくお願いしますね。ビビアンさん」

 

「……ええ、どうぞよしなに」

 

わたしの変わり身を見てわずかに頬を引きつらせる朱鳶治安官。

しかし、このままではマズいのです。では行きましょうか。と言って出かけようとしている二人。ヒューゴに教えてもらったスリの観察眼で見たところ、彼女のもっているわずかに膨らんだ鞄には手作りのお弁当が入っているご様子……。

 

そして、このまま「パエトーン」様と二人きりで出かけてしまったら、あーん!と食べさせてあげたり、逆に食べさせてもらったりするという親愛イベントが起きること間違いなしなのです!?

 

「あ、あの!わたしもお昼をご一緒しても良いですか?」

 

「…………え?」

 

「ああ、もちろん良いとも。ね、朱鳶さん?」

 

「……え……~っと……はい」

 

ふ、勝ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 六分街・レンタルビデオ店「Random Play」 昼-

 

ふー、敵ながら見事なトマト料理だったのです。

自家栽培とのことでしたが、自分の作ったものが「パエトーン」様の身体の一部となる……大変素晴らしいアイデアなのです!今度私も……?

 

「いらっしゃいませ!なのです!」

 

「……なのです」

 

……ゲ!?

新しいお客さんがやって来たと思えば、黒い髪に狐耳、更には腰に差した指紋認証付きの妖刀に浅葱色の対ホロウ6課の制服……危険人物リストNo2!星見雅!

その最強と呼ばれる虚狩りの力で、「パエトーン」様がよく遊びに行っているVRでの使用率もぶっちぎりNo1。悔しいことに「パエトーン」様が戦闘面において最も信頼している女性……!?

 

「な、何かご入用……なのです?」

 

「……なのです」

 

「あ!パ……店長様なら、今はホロ……別のお仕事中なのです!」

 

「……なのです」

 

なのです、なのです、って……この人、なんだか馬鹿っぽい語尾で喋ってばっかりなのです!!

 

「雅さん?」

 

「………………なのd……アキラ」

 

お仕事を終えたのか、バックヤードから伸びをしながら「パエトーン」様が姿を現すと、先ほどまでボーっとしていたようにも見えた雅の狐耳がぴくっと動き、その赤い瞳に生気が宿り、ほんの僅かに口角が上がる。

 

「今、「蒼角がドロップの缶詰から飴をくれるときに、メロン味だけもらう方法を考える修行」をしていたところだ」

 

「それはまた難しそうだね。」

 

「問題ない。結論として、彼女がドロップ缶の穴から飴を出す瞬間に、色と匂いで缶の中のメロン味の飴を引き抜き、蒼角が私に渡してくれる瞬間に手の平に乗せるということで解決することにした」

 

「なるほど、確かにそれなら確実にメロン味を貰うことができるだろうね」

 

「あぁ」

 

穏やかな微笑みを浮かべて、見つめ合っている二人を見て……またしてもわたしは歯が砕けそうなほどに歯ぎしりが止まらないのです。

 

ズルいズルいズルいズルい。

 

わたしも「パエトーン」様と目線だけで通じ合いたいのです!!

 

「……アキラ、今思いついた。「フライドポテトをカモメに取られずに食べる修行」だ」

 

「えっと、ポート・エルピスにポテトを食べに行きたいのかい?もちろん良いとも」

 

ま、マズいのです!!

このままでは、ポート・エルピスで潮風を顔に浴びながら、ふ、カモメではなく、お前に心を奪われてしまったな、なんて言ってあーんしてポテトを食べさせ合う親愛イベントが発生するに決まっているのです!!

 

「はいはいはい!私も行きたいのです」

 

「……オマエは……?」

 

「……ああ、アルバイトのビビアンだよ」

 

「わたしもその修行に凄く興味があるのです!ぜひ、連れて行って欲しいのです!」

 

こういえば、優しい六課の課長はきっとビビアンも連れて行って「駄目だ」

 

「な!何故でしょうか?」

 

「オマエはアルバイト中なのではないか?であれば、自らの任務を放り投げるのは良しとは言えない」

 

「そ、それは……」

 

グーではないのです……。

先ほどはお昼休憩という名目がありましたが、今回ばかりはグーの音が出ないほどの正論。わたしはその場で両手をついて膝を着いてしまいます。

 

「えっとビビア」「アキラ、いk」「先ほどのお言葉、大変、胸に響きました課長」

 

と、いつの間にか眼鏡をかけたピンク髪の女性……危険人物リストNo7の月城柳が音もなく雅の背後から現れた。

 

「それに、随分と楽しそうなお話ですね、カモメにポテトですか。私は、ポテトではなく、書類にハンコを押してもらうために課長のことを町中探し回っていたというのに……」

 

怪しく眼鏡を光らせるとあの新エリー都最強と謳われているはずの星見雅が小刻みに震え始めていた。わたしも関係がないはずなのに、なぜかヒューゴに怒られた時のように身体が縮こまってしまうのです。

 

「柳さん。もし書類が急ぎでなかったら、柳さんも一緒にポテトを食べに行かないかい?」

 

「わ、私がですか?」

 

「柳さんの顔色が、あまり優れなくて疲れがたまっているみたいだ……リフレッシュするのも立派な仕事の一つだよ。そういう意味ではビビアン、君もそろそろリフレッシュする必要があるんじゃないかな」

 

と優しく微笑んでくれる……!わたしは嬉しくて、嬉しくて欣喜雀躍、小躍りしたくて仕方がないのです!やはり、「パエトーン」様は私の光……!!

 

「パエトーン」様のお言葉を聞いて、柳は書類は今日中で良いですし、それに、アキラさんがそう言うのであれば……と、眼鏡を直し、顔を赤くして雌の貌になっていたのです。

 

「流石は私のアキラだ」「は?」

 

聞き捨てならなかったのです。

 

それから、車に乗ると星見雅に「パエトーン」様クイズで勝負を挑んだのですが、彼女は凄く天然でお話にならなかったのです!

そうこうして、結局4人でポテトを食べたのですが、本気でカモメからポテトを死守している雅に、お優しいからか、カモメにポテトを分け与えている「パエトーン」様(本人曰く、取られているとのことでしたが)、それを見てくすくすと笑う月城柳……わたしも楽しかったのです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 六分街・レンタルビデオ店「Random Play」バックヤード 夕方-

 

「「パエトーン」様?何か悩み事ですか?」

 

私がお茶をご用意した時、デスクの前で腕を組んで悩んでいたご様子だったので(悩んでいる顔も素敵!)つい声を掛けてしまったのです。

 

「ああ、少しゴールデンウィークのビデオ屋のキャンペーンについてね。そうだ、ビビアンは何かいいアイデアはあるかい?」

 

「ゴールデンウィークのキャンペーンですか?で、でしたら!ぜひ、「パエトーン」様グッズをお出しになられてはいかがでしょうか!?」

 

「ぱ、パエトーングッズ?」

 

「は、はい!念願の公式グッズなのです!等身大「パエトーン」様アクスタに、ランダム封入全100種類にも及ぶ「パエトーン」様缶バッジ、それから購入特典に「パエトーン」様との握手券に「パエトーン」様の生歌ライブ!そ、そんなキャンペーンであれば、ビビアンは購入上限まで無限回収するのです!!!」

 

「……ビビアン、そんなことをすれば僕達がパエトーンということが世間にバレてしまうよ……」

 

「ハッ!?」

 

「それに、僕達のグッズ何て出しても、買う人は居ないだろうし……」

 

間違いなく!需要があると思うのですが……?

トントンと、「パエトーン」様との楽しい雑談を邪魔する誰かが来たみたいなのです。

店員としていらっしゃいませなのです!とカウンターへと向かうと、そこに居たのは

 

「ンナ~!(ただいま!)」

 

「イアス様!」

 

本当に愛くるしいイアス様がご帰宅されたのです!

どうやらお昼にされていた仕事帰りの様ですが一緒に入ってきたのは……ライカンさんに飴を咥えながらヴィクトリア家政のメイド服を着たサメガール……危険人物リストNo3、エレン・ジョー!

 

「ビビアン様?これは奇遇でございます」

 

「奇遇ではないのです。なんと、今日のわたしは「パエトーン」様のお店のアルバイトなのです!」

 

フンスと胸を張ると、それは重畳でございます、とライカンさんは穏やかに笑みを浮かべた。

 

「あ~……店長いますか?」

 

「居ないのです」

 

「え?……いやでも今アキラの声が……」

 

「居ないのd」「やぁ、エレン。それにライカンさんも」

 

そう言って、ゴールデンウィークのキャンペーンに頭を悩ませているあの御方の手を煩わせまいとしていたわたしの気遣いも虚しく、いつものようにとても柔和な笑みで姿を現すアキラ様。すると、露骨にサメの尾びれが揺れて前髪を軽く直すエレン……!

 

「本日は誠にありがとうございました。プロキシ様、貴方様の迅速なガイドのお陰で、無事にご主人様のご要望に応えることが叶いました」

 

「それは良かった。こっちも、イアスをわざわざ届けてくれてありがとう」

 

「イアス様のご尽力があればこそ、当然でございます。報酬の方は既にお支払いしてありますのでご確認をお願いいたします」

 

ピッピと「パエトーン」様が携帯端末を操作すると、確かに、これで依頼は完了だね、とどうやらアキラ様のお仕事は無事終わったようなのです。

……?エレンがアキラ様の袖を引いて……!

 

「……あのさ、今からレイトショー行かない?や、その、なんか面白い映画あるらしくて」

 

「もしかして……あの話題の推理アニメかい?実は僕もまだ見ていないんだ」

 

「フーン、そっか。なら丁度いいじゃん」

 

誘った時は目を泳がせていたのに、「パエトーン」様が乗り気だとわかると、途端に嬉しそうにギザ歯を見せて微笑むエレン……!

そ、その映画は今日、仕事終わりにわたしが「パエトーン」様を誘おうと事前にチェックしていた映画ともろ被りなのです!!

 

「コホン……エレン、まだ仕事は完了していませんよ」

 

「え~」

 

「報告するということも立派な仕事のうち、いつまでもリナやカリンにその役目を押し付けていては貴方自身の成長には」「ハイハイ、分かりました~お小言は勘弁してよ」

 

不機嫌なようにそう言った後、なんだか元気がなくなってしまったように思うのです。敵ながら、少し可哀想なのです。

そう思っていると、ライカンさんが「パエトーン」様に何か小声で耳打ちをしているので、

わたしも聞き耳を立てて声を拾ってみるのです。

 

「プロキシ様、この通り感情表現がやや不得手なエレンですが、ホロウの中でもあなた様と出かけられるのを格別に楽しみにしており、よろしければこの後あなた様からお誘いいただけますと……「ちょ!何言ってんの!!?全部、聞こえてるから!!」」

 

ベシベシと真っ赤な顔でライカンさんを叩くエレン。

これは……親心からのアシスト……なのでしょうか?

 

「エレン、そうなのかい?」「ち、違うから!」

 

……ハ!まさか、ライカンさんはこのまま、二人をくっつけてヴィクトリア家政に「パエトーン」様を取り込もうと!?

そんなことをすれば、執事服の「パエトーン」様にメイド服の「パエトーン」様で、さ、最高なのです!!

って、違うのです、そんなことになれば「パエトーン」様との時間を独占されてしまうのです!

 

わたしが何とかして割って入ろうと考えていると、コンコンと扉が叩く音が聞こえて、すみません、今日はもう店じまい……と、「パエトーン」様が出ようとしたらクククと聞き覚えのある含み笑いが……

 

「フ、違うな、間違っているぞライカン!」

 

ハッと顔を上げると、見慣れた黒い帽子に紳士服……!?

 

「それを言うなら、ウチのビビアンの方がプロキシ君と出かけるのを楽しみにしていた!!」

 

「ひゅ、ヒューゴ!?」

 

ヒューゴがわたしの前に立つとライカンさんに向かって人差し指を向ける。

い、一体、いつの間に……というよりも何時から話を聞いて!?

 

「お前、何故ここに……」

 

「なに、ウチのビビアンがプロキシくんたちに迷惑をかけているようだから、菓子折りを持って挨拶でもと思ってね……と、そんなことはどうでもいい!」

 

パチっと、ヒューゴが指を鳴らし、上着を靡かせて指先をわたしへと向ける。

 

「ビビアンはな、今日から2週間も前からプロキシくんと過ごせるこのアルバイトの日を楽しみにしていたのだ!」

 

ナ!

 

「プロキシくんと話す会話の話題を集め、ビデオ屋の仕事を事前に覚え、果てはアフターファイブの過ごし方……それらを全てシミュレートして綿密に計画だてるくらいにはな!」

 

ナナナナ!?

い、今、何かとても恥ずかしい事実を暴露されているような!?

 

「どうしてバラしてしまうのですかヒューゴ!?」

 

何度も「パエトーン」様とのシミュレーションに付き合わせた腹いせなのですか!?

 

「……ビビアン嬢が大変な努力家であることは周知の事実であり、そのような特別な計画を練られていたことには感服いたします。ですが、ウチのエレンも努力家である点に関しては決して引けをとりません。何せ、プロキシ様とお話を合わせようと、最近は苦手なドキュメンタリー映画の鑑賞や手料理を始め……」「ぼ、ボス!!?」

 

「フン、甘いなライカン。ビビアンは最初からドキュメンタリー映画が好きだ。つまりは、プロキシくんとの相性はウチのビビアンの方が上ということ!」「ヒューゴ!?」

 

だ、ダメダメダメ!

頭が真っ白になって、全く情報を入って来ないのです!!

段々と紳士然とした口調が崩れて、乱暴に、ウチのエレンのほうが!とか、ウチのビビアンはなぁ!と声を荒げて口喧嘩をし始める二人に、わたしもエレンもオーバーヒート寸前なのです。

 

「えっと、行こうか」

 

と言って、結局、エレンと共に「パエトーン」様に手を引かれてその場を抜け出し、3人で映画を観に行くことになったのです。

一緒に食べたキャラメルポップコーンはとても美味しかったし、映画もとっても面白かったのです!

 

ヒューゴはその後ライカンさんと殴り合いの決闘になったらしく、わたしたちがビデオ屋に帰ってくる頃には傷だらけになっていて、けれど不思議なことに一緒に仲良くラーメン屋でラーメンを食べていたのです。

とりあえず、エレンさんはライカンさんを、わたしはヒューゴのことをブッておいたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 六分街・レンタルビデオ店「Random Play」 夜-

 

「さて、今日は一日お疲れ様。ビビアン」

 

彼女は今日一日本当によく働いてくれた。

簡単な仕事さえ手伝ってもらえれば良かったのだが、お客さんへのビデオの説明や宣伝も完璧だったし、ウチの機材やボンプたちもピカピカに磨いてくれて、ゴールデンウィークのキャンペーンに「エリーズ・ゴッド・ボンプ」になったイアスを宣材に使うというナイスアイデアまで……だというのに、当のビビアンの表情はとても暗い。

 

「どうしたんだい、ビビアン?」

 

「今日のビビアンは「パエトーン」様と過ごせてとても幸せだったのです。ですが、実際にはアキラ様とお友達との交流を邪魔してばかりで……」

 

「なんだ、そんな事か」

 

泣きそうなほどに瞳を潤ませて揺らすビビアンの頭を、よしよしと撫でる。

 

「パパパ!!?「パエトーン」様!!?」

 

「君が言ったんじゃないか、ビビアン」「ほえ」

 

「落ち込んだ時は中々浮かび上がってこないから、頭を撫でてくれって」

 

「あ!」

 

「それに、ビビアン、今日会った人たちの中で君の笑顔や明るさを嫌うような人が居たかな?」

 

「それは……わからないのです」

 

「少なくとも、僕の目には皆、初めは困惑はあったとしても、君という実直な人間と接するうちに好意を抱いていたように思えるけどね」

 

「ぱ、「パエトーン」様!!」

 

ぎゅっと抱き着いてくる彼女を抱きとめる……。

ビビアンはどうにも僕達「パエトーン」様が絡むと暴走してしまうようなところがあるみたいだけれど……こうして素直にしているととてもいい子だ、嫌いになるわけがない。

 

「……えへへ、アキラ様の腕の中……暖かくて、あの時と同じなのです。このビビアンのお命を助けていただいた、あの時と」

 

「ビビアン……」

 

そっと名残惜しそうに離れると、彼女は意を決したように僕へと近づき、そして……

 

カプリ 

と僕の耳に嚙みついた!

 

「び、ビビアン!?」

 

真っ赤な顔で口元を覆うと、照れ臭そうに笑うビビアン。

 

 

「えへ、よ、予約なのです!「パエトーン」様の……いえ、アキラ様のお隣は、このビビアンのものだっていう!」

 

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