パエトーンのお兄ちゃんが、こんなにモテモテなわけがない!   作:雨あられ

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CHex.盛夏の夢物語修羅場

-新エリー都 衛非地区「ファンタジィリゾート」 ステージ-

 

『さぁ始まりました、ファンタジィリゾート第1回離島シューティング大会!』

 

「あ。お兄ちゃん!やっときた~!」「こっちッス!」「アキラくーん、早く早く~!」「急ぐのだわ~!」

 

澄み渡る青空の下、センスのある水着を着たリンと新しく出来た友達……怪啖屋の柚葉たちの元へと向かって砂浜を駆ける。

 

「はぁ、はぁ、おはよう、みんな」

 

「もう、お兄ちゃんったら起こしてあげたのに全然起きないんだから!」

 

そう膨れっ面のリンに言われて僕は頬を掻きながら苦笑いを浮かべるしかなかった。

息を整えながら周りを観察してみると、自分から声をかけたとはいえ改めて見知った顔の多さに驚く。

邪兎屋にモッキンバード、六課にカリュドーンの子にオボルス小隊……およそ、この1年で出会った友達が全員集まってくれているような気さえする。

 

『また、今回のシューティング大会に色を添える為、若き経営アドバイザーの方々より特別な賞品がご用意されております!皆さま、大きな拍手をお願いいたします!』

 

パチパチパチと、会場では大きな拍手が起こる。

 

僕が寝不足になった原因は実のところこの賞品にあった。

今回僕とリンは柚葉たちと一緒にこのファンタジィリゾートの経営アドバイザーとして、閑古鳥の鳴くこのホテルを立ちなおそうと様々なイベントやステージを用意した。

そして、このシューティング大会も同様で、折角盛り上がってくれているのなら優勝者への景品を用意してもっと盛り上げよう!と、いう柚葉たちの粋な計らいなのだけれど……。

 

『まずはこちらです』

 

「確か、アキラとリンが用意してくれた景品なのだわ」

 

「うちらもアキラくんたちが何を用意してくれたのか知らないんだよね~。楽しみ~!」

 

そう手を合わせて目を輝かせる柚葉とアリス。

あまり時間もお金もなかったから、正直そこまで大したものではない、今回僕たちが用意したのは賞品は後の二人の賞品を一層大きく見せるための助走、前座だと言っても良い……

 

 

『今回の優勝賞品一つ目は……なんと、六分街のビデオ屋さんから『キス』がもらえちゃいます!!』

 

 

パッと、僕とリンにスポットライトが当たる。

 

シーンと会場が一瞬静まり返ったかと思えば。

 

「きゃああああぁ~~っつ!?きゃ、きゃ、きゃああっ~~~っ!!」

「……ビビアン。君のヒューゴ!夢じゃないのです!?夢じゃないのですか!?という問いには、俺の背中についた数々の紅葉を見れば答えになるだろうか?」

「あ、あ、アキラからの、き、キスだと!?!お、オレ様と……」

「あなたとではありませんわシーザー。この私「きゃああああああ!!!きゃあ、きゃあああ!!」うっさいですわね、あなた!!?」

 

これは予想外だ!?

まばらな拍手がある程度の盛り上がりを想像していたのに、まるで本命の賞品が出たとばかりに会場のボルテージはマックスになり、凄く盛り上がっている。

せめて実物を入れたバケツを持ってきた方が盛り上がるかもと後悔しかけていたのだけれどその心配はなかったようだ。

 

そう、今回は、僕ら二人で昨日釣ったばかりの新鮮な「キス」を賞品としてプレゼントすることにしたんだ。初夏のこの季節が一番美味しいと言われる魚で、夜遅くにFairyとリンと頑張って釣ってきたんだ。まぁ、リンの方はしばらくしたら、僕の肩に頭を乗せて眠ってしまったようだけれど……。

 

「ふ~ん?」

 

「えっと、どうかしたかい柚葉」

 

「別に、アキラくんってばやっぱり人気者だなって……ねぇねぇ、ウチも大会に出て良いんだよね?」「ゆ、柚葉!?ぬ、抜け駆けはズルいのだわ!?」

 

「?それは、経営アドバイザーが出てはいけないというルールはないし、構わないんじゃないかな」「さっすが~、話が分かる~!さ、行くよ真斗!アリス!」「お、おい柚葉」「待つのだわ!」

 

そう言って元気に走っていく柚葉たちを見て僕はニコニコと手を振った。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん、もしかしたらなんだけどみんな……う、ううんそんなわけないよね!」

 

?リンは何かを心配しているときの顔をしている。

けれど、大丈夫だろう。だってみんな、あんなに僕らの賞品を喜んでくれていたじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パエトーンのお兄ちゃんがこんなにビデオ屋のゴミなわけがない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 衛非地区「ファンタジィリゾート」 離島シューティング大会 受付-

 

「何故、私の「無尾」では出られない?」

 

「……あのですね、今回はあくまで水鉄砲でシューティングを楽しんでいただくイベントでして……刀で斬撃を飛ばしてマトを全て破壊すると言われましても安全面で問題が……!?」

 

「オレ様の盾なら良いだろ!?」

 

「で、ですから、盾を分身させてアメコミヒーローのように投げ飛ばすと言われましても困ります!」

 

受付には、早速たくさんの参加者がエントリーのために詰め寄っていた。

無理もないだろう、なんせ賞品に……アリスのタイムフィールド家から優勝賞金100万ディニーが用意されていたのだから!

 

本人は、アキラたちに比べて現金なんてつまらなかったのだわ、と言うような趣旨のことを言っていたがとんでもない。

彼女の用意した現金という黒船の前じゃ、僕の用意したキスなんてカスみたいなものだ。

 

その証拠に100万ディニーの効果は絶大だったみたいで、みんな目をギラギラさせて、鬼気迫る様な凄い殺気が会場全体に渦巻いている!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 衛非地区「ファンタジィリゾート」 浜辺-

 

「あーらプロキシじゃない、アンタも一口どう?」

 

ザクザクと大会が始まるまでの間砂浜を歩いていると、とあるパラソルの下で、サングラスを着けた黄緑色の三角ビキニ姿のニコが声を掛けてきた。その周りには顔写真とチケットのようなものに加えて数字が書かれているように見える。

 

「ニコ……一体何をしているんだい?」

 

「もちろん、誰が勝つかの賭けを取り仕切っているのよ。ちなみに観戦用のドリンクとバーガーも売ってるわよ!」

 

……どうやらニコは違法賭博の胴元をしているらしい。

よく見ると奥には水着にサンバイザーを着けたアンビーと猫又が商品を持って売り子をしているようだった。

 

「ここには僕の知り合いの治安官も遊びに来ているのだけれど……?」

 

「あたしとあんたの仲じゃない!細かい事は言いっこなしよ!それより、どうかしら、今のところ、オッズはこんな感じよ」

 

どれどれ…………うん、いくつか知っている名前があるな。

実力的にオッズも適当に思える……。上手く当たれば、しばらくウチの電気代の心配はなさそうなくらいの額にはなりそうだ。

 

「なるほど……オッズの不正はしていないみたいだね」

 

「当たり前よ!けど、実力のあるメンバーだらけで悩んじゃうでしょ?そ・こ・で。穴になっているウチのビリーに賭けてみない?アンタもビリーの銃の腕前は知ってるでしょ?特別に、アンタのところにちょーっとだけツケてる借金を失くしてくれればお代は要らないわよ!」

 

「ちょっともなにも、ニコの借金は」「よし、ならその、ビリーってのにお弟子君へのツケを全賭けだ!」「……潘さん!?」

 

僕が何かを言う前に、ムクッと巨大な影が割って入って来たかと思えば、それは適当観の兄弟子であるパンダのシリオン。潘さんだった。

 

「潘さん……一体どこから……?」

 

「むっほっほ、なぁ、お弟子くん……友達へのツケくらいパーッと使っちまわないか?それに仮に当たれば、大姉弟子に良い肉を食わせてやれるぞ~?」

 

「いや、それなら賭けなんかしなくてもニコにそのツケを払わせ「毎度あり~!!流石はプロキシの兄弟子は太っ腹ね~!はい、これ、この半券がないと交換できないから注意してね」……ニコ!」

 

そもそもビリーが勝ったら、当たったところで賞金もニコのものになるのだから、賭けに勝っても負けてもニコは損をしないじゃないか!?

 

「何よ、わかったわよ。だったら、ビリーじゃなくても良いわ。出場者の中から優勝者を好きに選びなさいよ。あ、言っておくけど、大会が始まる前に誰に賭けるか決めて頂戴ね!」

 

そう言って、真っ白なチケットを渡される。これに名前を書けということみたいだ。

 

「ところで素敵な白黒の兄弟子さんも、一口いかがかしら?何なら、観戦用のバーガーとドリンクも……」

 

「待った、価格が割高すぎる気がする。もし、売るのであれば、セットでこの価格で売るのが適当じゃないか?」

 

潘さんが金額を書いた端末を見せるとニコは大げさに口元を覆った。

 

「ヒャ~いやいや何言ってんのよ!こっちが生活できなくなっちゃうわよ!せめてこれくらいでしょ!」

 

そこから、潘さんとニコの醜い値切り合いが始まった。

時にセット販売のメニューが増え、時に価格が振り出しに戻る、一進一退のドケチ合戦だ。

 

僕は付き合いきれず、静かにその場を後にした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 衛非地区「ファンタジィリゾート」 カフェテラス-

 

大変なことになってしまった。

僕はカフェテラスの手すりに肘を置いて海を見ながらため息をつく。

 

まさか、ニコにツケを帳消しにするチャンスを与えてしまうだなんて。

彼女のツケはこれまでの依頼で溜まりに溜まった分を合わせるとかなりの額になる……リンに内緒でそんな約束をしたともなれば、1週間は口をきいてもらえないぞ……。

 

「はぁ……」

 

「何かお困りですか?」

 

「……「トリガー」?」

 

ひょこっと、いつの間に居たのか、後ろから顔を出したのは両目を覆い隠す黒いバイザーに金色のポニーテール、黒色のビキニを着用したオボルス小隊の軍人・「トリガー」だ。僕達にとって、プロキシ活動で初めて組んだ特別なエージェントでもある。

 

「実はワケあって、今回のシューティング大会で優勝する人を当てなくちゃいけなくなってしまったんだ。そうなると、この大会に出ている人で最も射撃に秀でていて、優勝できると確信できるような……信頼できる人物を探さないと……」

 

「なるほど……プロキシさんにとって最も信頼できる狙撃手を……」

 

バイザーを黄色に光らせて顎に手を当てる「トリガー」。

彼女は目元こそバイザーで隠れてしまっているが、どういう原理かバイザーの光るランプにより彼女の喜怒哀楽というのは手に取るようにわかる。

今も、ランプを黄色く点滅させたままチラチラとこちらの様子を伺っているように見える。

 

「ところで、「トリガー」もやはり出場を?」

 

「ええ、折角昨日の夜、プロキシさんたちが遅くまで釣りをして得た釣果ですから、是非「11号」や「シード」たちと頂きたいと思いまして」

 

「そう言ってもらえると嬉し……ん?トリガー?どうしてそれを知っているんだい?」

 

「…………」

 

トリガーさんはただバイザーをピンク色に光らせてにこやかに笑みを浮かべるだけだ、続けて、ところで、と口を開く。

 

「先ほど最も信頼できる狙撃手を探しているということでしたが、あの、僭越ながら……」

 

頬を染めながら控えめに小さく手を上げる「トリガー」。

 

「そうか、「トリガー」!真っ先に君のところに行けばよかったんだ!」

 

「きゃ!?」

 

興奮して思わず彼女を抱きしめる。

 

「当然、僕は君の射撃の腕前を新エリー都でも随一だと確信しているし、何より、君のことを誰よりも信頼しているからね」

 

「ヒュ、……ぷ、プロキシさん、ちかぃ…………」

 

「あ、ああ、ごめんごめん、興奮してしまって」

 

オボルス小隊最強の狙撃手である彼女なら、必ずや優勝してくれるだろう。

彼女は耳元に手を当てたまま、暫く真っ赤になって放心していたようだったけれど……

 

「……任務了解です。プロキシさんたちの「キス」を守るためにも、必ず、優勝します!」

 

そう言うトリガーのバイザーは7色のゲーミングカラーに発光していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 衛非地区「ファンタジィリゾート」 ショッピングエリア-

 

これでもう安心だ。

早速、ニコに「トリガー」の名前を書いてチケットを渡しに行こうと、歩いていると突然誰かにガシリと手を掴まれた。

 

「探しましたよ、アキラくん!」

 

「しゅ、朱鳶さん?」

 

パレオ水着姿の朱鳶さんが僕の手を掴んだ。握られた力が尋常ではない……。

どうやら、朱鳶さんは怒っているみたいだ。まさかニコとの違法賭博がバレて!?

 

「先ほどのあの賞品!あれは何ですか!あんな安売りするようなこと!」

 

「安売り……?あぁ、そっちか……安売りも何も、タダみたいなものじゃないか」

 

「タダっ!?」

 

そこの海で釣ってきたのだから、当然餌代とリンの夜食のスナック代くらいしかかかっていない。しかし、朱鳶さんの方はそうは思っていないのかみるみる目尻が吊り上がっていく。

 

「そんなわけがないでしょう!!貴方のことを大切に思って……悲しむ人だっているんですから……」

 

そう言って泣きそうな顔をする朱鳶さん。何故だろうか、怒りを通り越して悲しみまで……?

……あぁ!もしかして朱鳶さん……

 

そんなに……

 

キスが食べたかったのだろうか?

僕は彼女を安心させるために、妹を慰める時のように彼女のことを強く抱きしめる。

 

「ごめん、ごめんよ、朱鳶さん。そこまで好きだったとは思わなくて」

 

「好っ……!?……うぅ」

 

身体を離すと潤んだ瞳の朱鳶さんがこちらを見上げている。

 

「大丈夫、僕も好きなんだ。そうだ。今度、朱鳶さんのご両親の二人にも見てもらうというのはどうだろうか」

 

「え!!え!?それって……キスを……!?……二人の前で……!?」

 

真っ赤になってしまい、つまり、披露宴……?がどうのと呟きながらごにょごにょと小さくなっていく朱鳶さん。そこまで「キス」が好きなのなら、釣れたてを持って行って見せてあげればご両親もさぞ喜んでくれるだろう。

顔を真っ赤にしたまま何やら沈黙してしまった朱鳶さんからそっと立ち去ろうとすると、朱鳶さんが再び再起動して包み込むように僕の手を強く握ってくる。

 

しかし、その目は怒りが消えて、何かを決意したようにギラギラと燃えていた。

 

「あの!…………今回のシューティング大会、必ず私が優勝します。……安心してください、私はこれでも局内の射撃大会では負け知らずですから」

 

「………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 衛非地区「ファンタジィリゾート」 桟橋「仮設射撃場」-

 

不味い展開になってしまった。

「トリガー」の腕は信用しているが、相手はあの朱鳶さんだ。それも相当にやる気にあふれている。

一体どっちに賭けた方が……?

 

「パエトーン様パエトーン様パエトーン様パエトーン様パエトーン様パエトーン様パエトーン様パエトーン様!

好きに好きに好きに好きに好きにスキスキスキスキスキス!

渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない!」

 

射撃訓練場で……目標をセンターに入れてひたすら傘型の水鉄砲を乱射しているビビアン。

恐ろしいくらい集中していて怖いくらいに目が血走って……完全にキマッている。

 

「プロキシ様……」

 

「ライカンさん?……あれヒューゴは?」

 

遠目でビビアンを見守っていたのはいつもの執事服を着たライカンさん。夏毛に生え変わっているようだけれどかなり暑そうだ。

それに、ヒューゴだ。今朝は見かけた気がしたのに、その姿が見当たらない。

 

「それが、ただでさえ真夏の日差しが苦手なことに加え、ビビアン嬢に背中を叩かれ過ぎてダウンしてしまったらしく……奴の代わりにオレが……コホン、私がビビアン嬢の暴走を止めるために監視を……」

 

「なるほど」

 

「しかし、看病をリナに任せたのは失敗だったかもしれません。今ごろ栄養食と称して何か手作り料理を食べさせられているやも……」

 

そう落ち着きなく足元を踏むライカンさん。シチュエーションとしては羨ましいのだが、動けない状態でリナさんの手料理となると……。

ははは……と僕も力なく笑うとそれはそうと、プロキシ様……と、ライカンさんが神妙な面持ちで背中を丸めて僕に耳打ちをする。

 

「プロキシ様、僭越ながらビビアン嬢が優勝された場合には夜逃げなさることをオススメいたします」

 

「夜逃げ?なぜだい」

 

「おそらく、ビビアン嬢が優勝した暁には……その、あなたさまは市長の特別な権利を行使され……彼女によってしばらく朝日が拝めない生活になるかと……」

 

そんな馬鹿な!?

ゾクリと背筋が凍る……ムと、ライカンさんが口を結ったのを見て、その視線を追ってゆっくりと振り返ると……。

 

直ぐ真後ろに、日傘を持った紫のレオタードビキニを着たビビアンが焦点のあっていない瞳で僕に笑顔を向ける。

 

「パエトーン様、どうか見ていてください!!必ず優勝してけっこ……、いえ、けっこ……子供の名前…………とにかく、ビビアンが優勝するのです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も……

あんたと妹さんの賞品、いくらになるだろうね?と小悪魔っぽく笑う、銃使いの傭兵のプルクラに。

……アキラくんに期待されてたんじゃ、情けない姿は見せられないかもね?とジットリとした信頼を見せる悠真。

柚葉を褒めて~!と経験者の貫禄を見せる柚葉に、マトがシンメトリーではないのだわ~!と悲鳴をあげるアリス……。

 

 

……僕の手元には最も信頼している人物の名前が書かれたチケット。

 

こうして、波乱のシューティング大会が幕を開けるのだった!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 衛非地区「ファンタジーリゾート」船上 夕方-

 

『さあ、いよいよシューティング大会も大詰め!これより決勝戦を開始いたします!』

 

沈みゆく太陽がビーチをオレンジ色に染める中、サンセットビーチに歓声がこだました。

観客の中には、ニコが売っていたチケットを握りしめた者も混じっていて、アンビーと猫又がハンバーガーとドリンクを売りまわっているのが見えた。

 

『本来は一人ずつ得点を競い合う形式で行っておりましたが、なんと、ここまで〝パーフェクトスコア〟を出した方が複数名いらっしゃいました! しかし、同時優勝というわけにはいきません。

 

そのため急遽――全員横並びでの〝早打ち対決〟を実施することとなりました!』

 

ワーッと再び歓声が沸き起こる。

本来は離島の各所を回りながら行うシューティングだったが、今回は水上に設けた船の上、特設ステージでの実施となる。

ドローンによるライブ撮影、仮設ベンチの設営など、相当な手間と予算がかけられているのがわかる。

 

『では、まずは一人目の登場です!二丁水鉄砲の機械人……ビリー選手!』

 

白いスモークとともにステージへ登場したのは、銀色の義体に赤いジャケットをまとった邪兎屋のビリーだ。

ビリーは勢いよくバック宙を決めると、「スターライトナイト」の決めポーズで観客を煽り、クルクルと水鉄砲を回す、目にも止まらぬガンプレイだ!

 

……が、次の瞬間。

 

「フン、ハッ、あらよっと……うおっ!?」

 

誤って水鉄砲を暴発させてしまい、自分の顔面に命中!

あはははっ!という声と共に、会場は笑いに包まれた。

 

「っチ、何やってんだかあの人は……本気出せばもっと……パイセン~、この下手くそ~!」

 

「本当だよな~。あんな妙なヤツが、よく決勝まで残ったもんだぜ~!ガハハ!」

 

「……あ?あんた、パイセンの何を知ってんだ?」「は?何を言っ…」

 

喧嘩だ~!という声とともにざわめきが広がるが、アナウンスは止まらない。

 

『続きまして二人目、市民の平和はお任せあれ! 治安局からの参戦……朱鳶選手!』

 

「え、えっと……本日は晴天にも恵まれてそれから、あの…………せ、精一杯、頑張りましゅ!」

 

どこからか、朱鳶よ、カンペはどうしたのだ……という、青衣のため息が風に紛れて聞こえた気がした。

ビビアン、プルクラ、悠真、柚葉、「トリガー」と次々と選手たちが入場する。

そして――

 

『最後にもう一人!!』

 

テレーズさんの声に、僕は内心で首をかしげる。

他にそんな射撃の腕を持つ人物がいただろうか?

そう思った瞬間、シューッというスモークをかき分けて元気に登場したのは――

 

「いえーい、お兄ちゃんみてる~!」

 

「リン!?」

 

『リン選手はなんと、飛び入り参加ながらここまでパーフェクト! 驚異的な戦績です!』

 

な、なぜリンが……!一体どういうカラクリなんだ?

……いや、そうか。リンの水鉄砲についているマークを見て、納得した。あれはどう見ても……Fairyの……。私の力があれば当然です、マスター。と、そんな声が聞こえてくる気さえする。僕の驚きをよそに、決勝戦の準備は着々と進められていた。

 

選手たちは水上ステージの甲板に横並びで立ち、それぞれが得意とする武器――銃、傘、弓を構える。

 

『ルールは簡単です!これまで通り、空中に浮かぶターゲットを撃ってください。最も高得点を獲得した選手が優勝です!

ただし、今回はターゲットは〝早い者勝ち〟なので注意が必要です!

また今回の的中判定には、白祇重工さまご提供の最新機器が使われておりまして……』

 

テレーズさんが協賛企業への露骨な宣伝を始める間、僕は後方の観客席からリンに向かって手を振った。

 

すると……リンを除く参加者たちが一斉にこちらへ手を振り返してき!?

 

そして、なぜか、お互いを見て少し険悪な睨み合いをしている気がする……。

あ、いや、隣に立っていた「トリガー」がトントンとリンの肩を叩いて僕の方を指を差すと気が付いて手を振ってくれた。

ほかの観客みんなの視線が痛い……。

 

 

 

「ははは、いや~参ったね。六課の僕としてはあんまり、目立ちたくないんだけど……」

 

「へっ、その割には、眼は獲物を狙ってギラギラだぜ、弓の兄ちゃん」

 

「パ、パエトーン様を差し置いて優勝だなんて、そ、そんな……で、でも、優勝すれば、パエトーン様が……義妹に……!!!」

 

「……すみません、勝負とあれば、例えリンちゃんが相手でも手加減はできません!」

 

「柚葉だって!」

 

「うん!みんな頑張ろう~!!!」

 

 

 

 

『それでは、みなさん準備はよろしいですか? 

――離島シューティング・決勝戦、スタートです!』

 

 

 

 

ピーッという開始のブザーが鳴った瞬間、

バシュ‼という水鉄砲の銃声が響き、瞬く間に最初のターゲットが消えた。

続けて現れたターゲットも、水飛沫とともに即座に消える。ま、全く見えない。

 

『こ、これはすごい早撃ちです!まったく何が起きているのか、実況席からでも分かりません!』

 

「じょ、冗談じゃないよ、何なんだいこの化け物共は!」

 

あまりにもレベルが高すぎる。

柚葉やリンのような、やや素人寄りの参加者たちは、完全に置いていかれていた。

あのプルクラでさえ、高得点のターゲットを狙う余裕がなく、低得点を辛うじて射抜くのが精いっぱいといった様子だ。

 

「さすが防衛軍の「トリガー」ですね……射撃の正確性では、まったく敵いません。ですが……!」

 

パンパン!朱鳶さんがトリガーより早く、高得点のターゲットを正確に撃ち抜く。

 

「……スピードリロードと連射では、そちらが上、というわけですか」

 

二人は不適に笑い合って。

競い合う相手として認めているからこそ、全力でぶつかり合えるのだろう。

 

「諦めてはダメですのよ!プルクラ」

 

「が、がんばるのだわ!柚葉~!」

 

「落ち着いていくのであります!トリガー!」

 

「はぁ、まったく……バカみたいな語尾の女が増えすぎなのです!それにしても……こ、このままでは負けるのです。なにか、逆転の手が……!」

 

このとき、どこからともなく、ピンポンパンポーン!という音が鳴り、

続けてブーン!という風切り音が空を裂くように響き渡った……。

 

『ここで登場しました!〝ゴールデンターゲット〟です!なんと命中すれば――1億点です!!

 

「「「「「「な(え)っ!?」」」」」

 

……おっと、急にバラエティ番組のノリになったぞ……?

選手たちは動揺を隠せないが、観客たちはワッと歓声を上げ、意外にも盛り上がっている。

まあ、これまでのマトが一瞬で撃ち抜かれて消えるだけの達人技ばかりだったし、正直、観客側からすれば何が起きているのかほとんどわからなかった。

こういうわかりやすい勝負の方が盛り上がるのかもしれない。

 

「ヒュー!こういうサプライズは大歓迎だぜ!っと」

 

ゴールデンターゲットが現れるやいなや、ビリーが誰よりも速く、鮮やかなファストドローで撃ち抜きを狙う!

これで決まりか!?

誰もがそう思ったその瞬間、ゴールデンターゲットが……

 

シュンッ!!と、あり得ない速度と軌道で動き、水弾を避けた。

 

「なっ……!?」

 

『え~、お伝えし忘れておりましたが、今回のゴールデンターゲットは、白祇重工の技術顧問・グレースさんによって改造された特製ドローンが使われておりまして……撃たれないよう、自律的に回避行動を取るようになっております!』

 

「素晴らしい子だよ!今の動きを見たかい!?」「落ち着け!姉貴!」と、どこかで興奮するグレースさんたちの声が響いた。

 

今も金のターゲットは無茶苦茶な動きで縦横無尽に空中を飛び回っている。

しかも、その大きさは僕の目でもギリギリ見える程度の大きさ……つまり、極端に小さい。まるで、某魔法映画のホウキに乗ったスポーツに登場する「金色の羽のボール」のようだ。というかパクリだ!

 

「くっ……!うまく狙いが……!」

 

「もう、早すぎて当たんないよ~!」

 

流石の参加者たちも、動き回る極小サイズの金色ターゲットには苦戦しているようだ。

 

 

 

 

「さ~て、プロキシ。ビリーに賭けなかったこと、そろそろ後悔してるんじゃないかしら?」

 

厚底のサンダルをコツコツ鳴らして、試合に釘付けだった僕のもとにニコがやってくる。

隣のベンチに腰を下ろすと、彼女は太ももを組んで僕の顔を覗き込んだ。

確かに、ビリーのあのファストドローを見た後だとそういう感想が湧いてこないわけではない。だけど……

 

「いや……後悔はないよ」

 

「へぇ、大層な自信じゃないの!」

 

「だって……僕にとって彼女は……」

 

『あーっと、惜しい。トリガー選手の連弾は紙一重で避けられてしまいました!』

 

実況の叫びを聞いて、僕もニコも再び視線を試合へと移した。

 

「軌道は完璧でしたが……あの金のターゲット……どうやら、水に反応して避ける性質があるようですね」

 

「……へぇ……だったら、やることはひとつだよね~」

 

数名の参加者たちが、まるで事前に打ち合わせしていたかのように動き出す。

息を合わせ、金色ターゲットを囲うように、水弾を撃ち込む。逃げ場を失ったターゲットは徐々に動きが鈍くなり、飛行範囲も狭くなっていく……!

 

「「「「「「「今(だ・です)っ!!」」」」」」

 

全員が、ほぼ同時に水鉄砲を発射!

 

ブー――――!!!

 

轟く試合終了ブザーとともに、ゴールデンターゲットが命中音を立てて破裂した。

 

……優勝者は……!

 

 

『優勝はなんと! 六分街の店長――リン選手です‼』

 

ワァーーッ‼ 会場が歓声と熱気に包まれる。

ニコはサングラスをずり下げ、ウッソでしょ!?白目を剥いていた。

 

「ま、まさか、あんた、分かってたの!?射撃が得意でも何でもない、妹の名前を書くなんて……!?」

 

僕が握っていたチケットには、「リン」の2文字が書かれている。

正直、リンが決勝のステージに上がった時には驚いた。だって、他の射撃が優秀なエージェントたちを押しのけて優勝なんて、とても出来ないと思っていたから。

けれど……

 

「……妹を応援しない兄なんていないよ。例えそれが、どんなに勝ち目がない戦いだったとしてもね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございます、リンちゃん!」

 

「プロキシさん、おめでとうございます。特にラストシューティングはお見事でした」

 

「ありがとう!へへ、実はあんまりよく分からなかったんだよね~。適当に撃ったら当たった~って感じで!」

 

「いや、よく言うよアンタたち……。最後のほう、撃ち合い装って私らの水弾を撃ち落としてさ……リンの弾が当たるように……モガモガ!」

 

「しーっ!プルクラ!見ろ、興奮したバーニスが我慢できなくて火炎放射器を振り回しながらこっちに来てるぞ!」「ンンッ~~!!

 

「はは、さっすがリンちゃん。けど、リンちゃんが優勝ってことは……」

 

「お待たせ、リン。これが優勝賞品の……キスだよ」

 

僕が、バケツいっぱいに入ったキスを手にしてステージに上がった。

するとリンは、ホップステップと僕への距離を詰めると、いきなり……

僕の頬に……チュッ!とした。

 

「へへ~、優勝賞品のビデオ屋の店長からのキス、でした~!」

 

パチパチパ!!と選手からも観客からも大きな拍手が起こ!?

……何が何だかさっぱり!?

 

「よーし!このお兄ちゃんが釣ってきた「魚」は、みんなで天ぷらパーティーにして食べようよ!」

 

「おさかな~!!」「では、ガイド様、ヒューゴさんは料理を食べたらぐっすり眠られたので、僭越ながら私めもお手伝い「コホンコホ!!」」

 

「優勝を逃したのは残念ですが、パエトーン様同士……これはこれで、アリなのです!」

 

そんな声が聞こえる中、夕闇が降り始めたステージでは、アストラさんたちによる野外ステージライブが始まった。

それを聞いたリンが僕の手をぎゅっと握って走り出す。

 

「楽しいね! お兄ちゃん!」

 

笑顔と共に、僕の手を引いてくるリン。

……今年も、

妹と過ごす、最高の夏が始まったんだ!

 




※2026/1/25追記 誤って後編のデータを消してしまっていましたが、シャイン.さんよりバックアップをご提供いただきました。ありがとうございました。
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