パエトーンのお兄ちゃんが、こんなにモテモテなわけがない!   作:雨あられ

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CH13.アリス・タイムフィールド

-新エリー都 「どこかの島」-

 

耳奥にザザーンと揺れる心地よい波の音が聞こえてくる。

こそばゆい潮の香に、肌にまとわりつく湿った空気、温かくも涼しいそよ風……。

それに、頭の当たりが柔らかくて、時折、牧草のような甘い香りが……。

 

「……?」

 

眩しさに目を細めながらゆっくりと瞼を持ち上げる……。

 

「アキラ!よかったのだわ!目を覚まして……!」

 

赤と金のオッドアイが僕を見下ろしている、どうやら、僕が目を覚ますまで膝枕をしてくれていたらしい

慌てて起き上がると、小さく内向きの耳がぴょこぴょこと嬉しそうに揺れている。白い水着姿の少女……アリス・タイムフィールドはプラチナのように光る銀白色のローツインテールを太陽の光に反射させ、キラキラと輝かせている。

 

「アリス……?そうか、段々と思い出してきた。僕たち……」

 

「ええ、そうなのだわ……私たちは……」

 

状況を確認するように周囲を見渡す。

一面に広がる白い砂浜に、背後には鬱蒼と茂った森林……そして、島の奥からは聞き慣れない鳥とも獣ともつかない鳴き声が響いてくる……。

 

間違いない。僕らは…………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パエトーンのお兄ちゃんが、無人島に漂着するわけがない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで映画だった。

 

アリスに誘われてファンタジィリゾートの沖釣りに出ようとしたところまではよかった。しかし突然乗っていた船が暴走、気が付くと船は転覆……そうして目が覚めたら、この島まで流れ着いていた。

 

これから……

どうするべきなのだろうか。

当然、電波は通っていない。救助を呼ぼうにも持っている携帯端末は役に立ちそうにない。

インプラントも……まいったな、機能していないみたいだ。これじゃ、リンやFairyとも連絡が取れそうにない……。

 

救助依頼が絶望的ともなれば、ここが本当に無人島だった場合、しばらくはアリスと二人でサバイバル生活を余儀なくされる。そうなると飲み水、食料、雨風をしのげる寝床の確保……課題は山積みで事態は思った以上に深刻だ。

 

「アリス、これからどうし……」「アキラ!すごいのだわ!あのヤシの木、芸術的なまでにシンメトリーなのだわ~!」

 

……僕が真剣に悩んでいる隣で、アリスは二つ並んでハート形に見えるヤシの木を見つけて両手を合わせて内向きの耳が同じようにハート形になっており……楽しそうにはしゃいでいる。

 

「……アリス。遭難したかもしれないっていうのに、ずいぶんと落ち着いているんだね?」

 

「……え!!?と、とと当然なのだわ!タイムフィールド家の令嬢たるもの、いかなる時も動じてはダメなのだわ!」

 

そういって、鼻をピスピスと鳴らしながら余裕の笑みを浮かべるアリス。

そんな彼女を見ていると、僕の中で一つの疑問がもたげる。

 

これは……もしかすると、監督・脚本・発注者 アリス・タイムフィールドのパターンじゃないか?と。

 

以前、アリスが柚葉を自作自演の宝探しに誘ったことがあったが、今の挙動はまさにあのときのそれに近い。つまりは、彼女は何か僕に隠し事をしている。そうでなければ、人一倍臆病なはずのアリスが、この局面で落ち着けているわけがない……。

 

いや、でも、まさか……僕のためだけに無人島を用意するだなんて、そんなバカみたいなことをするだろうか……?

いくら彼女が超が付くほどのお金持ちだとはいえ、僕にそれほどの価値があると思えない。まだ彼女が黒だと決めつけるのは早計だったかもしれない。

 

僕が考え込んでいると、クイクイっとアリスが控えめに僕の裾を摘まむ。

 

「アキラ……そんなに不安そうな顔をする必要はないのだわ?

無人島サバイバルの心得はアーノルドからみっちりと仕込まれているもの!」

 

「アリス……さっきから気になっていたのだけれど、君はまるでこの島が初めから無人島だと知っていた、みたいな口ぶりだね」

 

「ふぇ!?えっと、おそらく、そうなのだろうと思っているだけなのだわ!?」

 

「そうかもしれないけれど……まだそうだと決まったわけじゃないような」

 

「え、えぇっと!そうなのだわ!とりあえず、あっちの浜辺に何かないか探しに行くのはどうかしら!」

 

目をグルグルさせてテンパりながら、雑に僕を誘導しようとするアリス。

 

「じゃあ、僕は反対のほうを探そう」「えぇ!?」「……うん?手分けして探したほうが効率的だし、それほど驚くようなこともないと思うのだけれど……それとも、僕に別行動されると困る理由があるとか?」

 

「そそそ、そんなことはないのだわ!えっとえっと、そう!アキラ、この島で何があるかわからないのに、レディを一人で行動させるだなんて、とってもいけないことなのだわ!」

 

うん、黒だ。真っ黒だ。彼女の敷いたシナリオのレールから僕が外れそうになったからか、慌ててそう取り繕うアリス。

このまま彼女を問いただしてもいいのだけれど……。

 

「それに……その……1人だと心細いのだわ……」

 

「…………っ!」

 

う、不安そうに僕の裾を摘まんだまま、、潤んだ瞳で上目遣いに僕を見上げるアリス。……その表情は反則だ。

 

「わかったよ。じゃあ、一緒に行こうか」

 

「!え、えぇ!それが良いのだわ!」

 

途端にベルトのアイコンともども嬉しそうに喜ぶアリス。

一人で行動するのが心細いというのはきっと咄嗟に出たアリスの本心なのだろう。

僕は、この可愛らしい子ウサギの考えた計画にもう少しだけ付き合ってあげることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ~?おかしいのだわ?」

 

ジャリジャリと砂を踏みしめながら浜辺を歩いていると、アリスは目を細めてあたりを見ては、しきりに首をかしげていた。

 

「……この辺に……?」

 

まるで、本来ある「何か」が見つからないといわんばかりに声を裏返らせるアリス。

そして、その場でふわふわの尻尾をフリフリとさせながら、砂を掻いたり岩の裏を覗いたり……しかし

 

「ないのだわあああぁ~!?」

 

と頭を抱えて絶叫するアリス。

 

「えっと、何か見つかる予定だったとか?」

 

「えぇ、本当はこのあたりに水と食料が入ったシンメトリーなカバン……が!あったかもしれないのだわ?」

 

どうやらトラブルが発生したらしい。

疑問形でそう漏らすアリスに僕はどう返してよいものか少し悩む。

 

「なるほど……じゃあアリス、浜辺には何もないみたいだし、次は森の中を探してみようか」

 

「!!それだわ!正に私もそう思っていたのだわ!アキラ!」

 

耳をぴょこぴょこさせてアリスは一瞬で元気を取り戻した。

用意されていたという水と食料がなかったのは不安だけれど……こうなれば、森のサプライズの方に期待するほかない。

多少強引な流れと理解しつつも、僕は気持ち早足になっている彼女を追って森の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中はジメジメとした湿度高く、容赦のない熱気が体力を奪っていく……。

僕もアリスもお互いに汗が噴き出していて、喉もカラカラだ……。

 

「ホウホウホウ!」「きゃあっ!!!」

 

どこかで聞いたこともない鳥の鳴き声が響いた瞬間に驚いたアリスが僕の腕にむぎゅっと、胸を腕に押し付ける……お互い水着だし、汗をかいているため……非常に不味い。それにしても、飛びのく時の速度はまるでキュウリを背後に置かれた姉弟子のようだ……。

 

「あ、アリス?」「アキラぁ……」

 

ガクガクと足を震わせながら顔を青くする彼女を見て、僕の煩悩も一瞬で吹き飛んでしまった。……それに、僕だって怖いのは苦手だ……けれど、それ以上に隣で彼女がここまで怖がるものだから、怖さよりも先に彼女を守らないと。という使命感が先にくる。

 

「アリス。……そろそろ本当はどこかに辿り着く予定だったんじゃないかな?」

 

「え……えぇ、シンメトリーな小屋が見つかる……ような気がしていたのだわ」

 

その言い方ではもはや予定調和で見つかるはずの目的地が見つからないと直接伝えているようなものだが、それを取り繕うほどの余裕も今の彼女には残されていないようだった。

 

「えっと……言いにくいのだけれど、今のところ何も見つからないし、グルグルと同じところを通っているように見えるけど……」

 

「そんなはず……っ!アキラ。ちょっと、ここで待っていてほしいのだわ!」

 

もはや、隠す気があるのか疑わしくなるほど堂々と、彼女は近くの木陰に駆け込み、何か無線機のようなものを取り出して話始めた。

 

「もしもし?アーノルド?小屋が見つからなくて…………あれ?おかしいのだわ!?アーノルド聞こえる?アーノルド!?アーノルド~~!?」

 

と声を荒げていて返事はないらしい。どうにも雲行きが怪しい…。

そして、アリスが戻ってきたかと思えば…………無線機を持ったまま冷や汗ががだらだらと……嫌な予感しかしない……。

 

「アリス?」

 

「アキラ……うぅ、うわああああん!!ごめんなさいなのだわぁ!!」

 

へたり込み、ついには泣き出してしまった。

 

「アリス、落ち着いて……何があったんだい?」

 

「じ、実は……」

 

鼻をすすりながら、アリスはぽつりぽつりと語り始める。

 

つまりは、タイムフィールド家の所有するプライベートアイランドでサバイバル体験。

頼れるアリスの姿を見せて、僕に感心されたい……。という、たったそれだけの理由で、アリスは今回このイベントを企画したらしい。とんでもないお金の使い方だ……。

 

「けれど、なんだか知っている地形と違うし……アーノルドたちは見当たらないし……おかしいと思って。それに、さっきこっそり緊急無線を使ったのに……使えなくって……」

 

「えっと、つまり……?」

 

「ここは私のプライベートアイランドではなくて……わ、私たちは本当に「無人島で遭難」してしまったのだわーー!!?」

 

ワーンとまた涙をためて大声で泣き出すアリス。この姿が演技だとしたら、大した役者なのだけれど残念ながら善良な彼女がそんな悪質なジョークを仕込むわけがない。

 

つまり……本当に遭難してしまったんだ。僕たちは。

 

「ごめんなさいなのだわぁ!私、ちょっとしたドッキリのつもりで……でもこんな……ぐす」

 

アリス……。

 

「こうなれば死ぬまでこの島で誰にも知られずに、アキラと大家族を作って生きていくしか……」

 

アリス……?

 

「お、落ち着いてアリス……正直に話してくれてありがとう。それにそこまで絶望的な状況というわけでもないさ」「ふぇ?」

 

僕はそんな彼女を安心させるために頭をポンポンと撫でてから、目元の涙を優しく拭う。

 

「少なくとも、アーノルドさんはこの異変に気が付いているはずだから、きっと既に捜索隊を出してくれているはずだ。それに、見たところ島自体は食料も豊富そうで、過ごしやすそうな常夏だから、僕らは救助が来るまでこの島で少しの間バカンスを楽しめる……そんな捉え方をするのはどうだろうか?」

 

「アキラ……ふふ、やっぱり貴方は、とても優しいのだわ……」

 

アリスは泣き止み、頬を紅潮させながら安心したように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兎にも角にも、まずは水だ。

 

「川の水は微生物や化学物質でそのまま飲めるのか怪しい。まずはヤシの実を手に入れて喉を潤そう」

 

僕がそう言うと、アリスも喉がカラカラなのか、小さくこくこくと頷いた。

青空の下、僕たちは並んで先ほどのシンメトリーなヤシの木を見上げていた。

高い位置に、大きな緑の実がぶら下がっていて、普通に登ったりしたらかなり骨が折れそうだ。

 

「アキラ、迷惑をかけたお詫びに私があのヤシの実を取ってくるのだわ!」

 

アリスは天を仰ぎ、小さな耳をぴんと立てて意気込む。

しかし木は高く、いくら彼女の身体能力が高いとは言えどう考えても無茶だ。

 

「登るのは危険だ。ここは二人で木を揺らして落とした方が良いかもしれない」

 

僕が幹に手を掛けて揺らし始めると、アリスは、あ、一緒に?と呟き……

 

なぜか、おずおずと僕の手の上に自分の手を重ねてきた。

 

「……アリス? そういう意味じゃ」

 

「い、いいのだわ! こ、こうした方が力が入るのだわ!!」

 

絶対気のせいだと思うけれど……咎める理由もなく、そのまま二人で木を揺らすと

 

ゴスッ、ゴスッ!

 

と鈍い音を立て、立派なヤシの実が砂浜に落ちてきた。

……少し位置が違えば僕らの頭に直撃していたかもしれない。

 

「と、取れたのだわ!!」

 

アリスは跳び上がって喜び、僕と目を合わせてから耳をぴょこぴょこと揺らす。

 

「次は、このヤシの実をどうやって開けるか……?」

 

「お任せあれ!なのだわ!」

 

僕が呟くより早く、アリスはシュバッとレイピアを抜いた。

シュンッ!とカーボンファイバー製の細剣がヤシの実に突き刺さり、見事に飲み口だけが開いている……。

 

「はい、アキラの分なのだわ!」

 

「え、あ……ありがとう」

 

喉が渇いて限界だったこともあり、ヤシの実に口をつけて二人でラッパ飲みする。

……味は、うん。ブドウの皮だけを搾ったような、独特の薄い甘さ。

決しておいしいとは言えないが、喉は確かに潤った。

 

「ふふ……アキラと一緒なら、無人島でも何とかなりそうなのだわ!」

 

嬉しそうにヤシの実を抱えてアリスがそう笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喉が潤ったので、次に食料を求めて島の縁にある浅瀬へやって来た。

太陽の光を反射して、透明な水面がきらきら揺れている。

天敵が少ない環境なのか、浅瀬には魚が群れをなして泳いでおり、食糧調達にはちょうど良さそうだった。

 

「アキラ、見て!大物なのだわ!」

 

アリスが指をさした方向を見ると、ひと際大きな魚が泳いでいるのが見て取れる。

 

「なるほど、けれど大きい分結構な速さで泳いでいるみたいだけれど……」

 

「ふふん、私の剣を侮るなかれ!剣術なら誰にも負けないのだわ!」

 

そんな雅さんが聞いたら黙っていないようなことをいうと、アリスはレイピアを抜いた。

水面に映る細い銀線が、陽光を受けて輝いている。目を閉じて、精神統一をしてからカッと目を見開き、足元に向かって一閃を放つ!!

 

風を切る音と同時に、水しぶきが上がった。

僕が目を瞬いた次の瞬間には、アリスのレイピアに一匹の魚が刺さっていた。

 

「すごいじゃないか、アリス!」

 

「ふふん!これが、タイムフィールドの剣なのだわ!!」

 

自慢げに腰に手を当てえ剣を掲げるアリス。だが、その直後。

ビチビチビチっと魚が大暴れする!

 

「きゃあ!……お、落としたのだわぁぁぁ!!」

 

ばしゃん、完全に突かれていなかった魚は水の中へと戻っていった。

 

「アリス、地上に上がった魚もまだ生きている。最後の力を振り絞って大暴れするのは当然だよ」

 

「うぅ……生きているお魚を掴むのは怖いのだわ……」

 

確かに、お嬢様の彼女にとってはあまり慣れないことかもしれない。

 

「よし。なら、魚は僕が持つから、アリスはもう一度捕まえてくれるかい?」

 

「え、えぇ……そういうことなら……」

 

アリスの邪魔にならない程度に近づくと、彼女は呼吸を整え、真剣なまなざしで水面を見つめ始める。

 

「……今!」

 

シュバッ!

 

と先ほど逃げた魚を改めて一突き、そこをすかさず僕が持ちあげ、あらかじめ作っていた生け簀に移す。絶妙なコンビネーションだ。

 

「あっ……やったのだわ!!さすがはアキラなのだわ!!」

 

「お見事。アリスの剣術があってこそだよ」

 

「えへへ……もっと褒めてもいいのだわ?」

 

誇らしげに尻尾をピコピコと揺らすアリス。

その後も協力して魚を数匹捕まえ、僕たちは浜辺に戻ると焚き火を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

ちょうど夕暮れだった。サンセットビーチはきれいだけれど、残念ながら今の僕たちにはそれを楽しむ余裕はない。

パチパチと燃える小枝。焼ける魚の香りが、じんわりと鼻腔をくすぐった。

 

「うぅ、横から見ると恐ろしく非対称的な姿なのだわ……それに、串に刺してそのまま食べるだなんて……初めてなのだわ」

 

そう串に刺さった魚を見てつぶやくアリスだったけれど、クゥ~と可愛らしいお腹の音が響き、顔を真っ赤にする。

 

「もう良いんじゃないかな」

 

僕がそう言って最後に、釣りのために持ってきていた塩をぱっぱと振るうとアリスに焼き魚を串ごと渡す。

彼女は不思議そうにクンクンと匂いをかいだ後に、目を閉じてカプリとかじりついた。

 

「!!?お。おいしいのだわ〜〜!!」

 

ほっぺに手を当ててそうつぶやいた後、アリスは焼きたての魚を夢中で頬張っている。僕もそれに続いて魚にかじりつくと、ジュワッと脂身が口いっぱいに広がり、空腹もあってか最高においしい。

 

「アリス、ほら。ついてるよ」

 

「ふぇっ!? あ、ありがとなのだわ……」

 

口元が少し汚れていたので、僕は手拭いでそっと拭ってあげると、アリスは耳で顔を隠すようにして真っ赤になっていた。静かな島で、魚を分け合う僕たちは、まるで……本当のサバイバル映画の中に入ったみたいだった。

 

「そう思うと、アリスに感謝しないといけないね」

 

「え?」

 

「いや、こんな映画みたいな貴重な経験ができたのも、アリスのおかげだからね」

 

「……もう!意地悪なのだわ!でも、そう言ってもらえると、少しは遭難した甲斐があったのかも」

 

そう冗談を言って笑いあう僕たち。

脇にはほかにもヤシの実や海の幸がシンメトリーに並べられていて、お互い喉も潤ってお腹も膨れて、いろんな問題が解決したから気持ちに余裕が出てきたのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈む頃。

気温が下がってきたため、僕たちは夜を越せる場所を探すことにした。

海の近くの岩壁の裂け目から続く小さな洞窟を見つけた。

中は広めで、雨露もしのげそうだ。

 

「ここなら夜風も防げるのだわ…」

 

アリスは安心したように息をつく。

 

「確かに安全そうだね。他に選択肢もないし、今日はここで休もう」

 

「う、うん……暗いけれど……アキラがいるなら、大丈夫なのだわ」

 

アリスは僕の腕にぴたっとくっついたまま、洞窟の奥へ進む。

こういうときの彼女は本当に小動物みたいだ。

 

先ほど起こした種火から火を焚き、粗末ながらも温かい空気が満ちると、

アリスは僕の隣にちょこんと座り、そわそわしていた。

 

「アキラ……あの、その……」

 

「どうしたんだい?」

 

「その……もうちょっとだけ、寄りかかっても良い……かしら?」

 

暗がりで見上げてくる瞳が潤んでいて、何だか様子がおかしい気がする。

 

「もちろん。アリスも疲れただろう」

 

僕が肩を差し出すと、アリスは小さく嬉しそうに息を弾ませ、そっと、僕の肩にもたれかかった。

 

「……あったかいのだわ」

 

「アリスもね」

 

炎が揺れ、壁に映る二人の影が寄り添うように揺れる。

しばらく静寂が続き、アリスは意を決したようにぽつりと呟いた。

 

「アキラ……今日一日、ずっと心臓が変なのだわ。怖いのとは……ちょっと違って……」

 

そう胸に手を当てて僕を見るアリス、彼女のその言葉を聞いて僕は確信した。

僕もずっと彼女の様子がおかしいことに気が付いていた。はじめは罪悪感からかと思っていたが、間違いない。彼女は…………!?

 

寒すぎて風邪を引いてしまったんじゃないかっ!?

 

先ほどから妙に赤い顔をしていると思ったんだ。

まずいな、ここは無人島だ。衛生環境も悪いし、風邪なんて引いたら命に係わる!

 

「アリス……おいで」「え、あ、アキラ!?」

 

僕は彼女を少しでも温めようと、その体を抱き寄せる、すると、アリスはビクリと肩が跳ねたけれど、次には体の力を脱力して、僕に抱き着き返して来た。

彼女の震える指先が僕の体にちょん、と触れる。

 

「……ねぇアキラ。もしも……助けが来なくて、このままここで二人きりだったら……」

 

アリスは顔を真っ赤にしながら、震える声で続けた。

 

「私……アキラと一緒なら……その……」

 

その時だ。

 

ズズ……ズルルル……。

と、洞窟の外から、何かが這うような湿った音が聞こえてきた。そして……

 

「NAAAAAANODEEEEATH……」

 

「ア、 アキラ……今の……?」

 

どこからか響いてくる謎の声。アリスはガタガタ震えながら、僕にしがみつく。まるでホラー映画のような展開に、ぼ、僕の心臓も張り裂けそうだ。怖い、けれど、僕が彼女を守ってあげないと……。

 

「落ち着いて。僕が見てくるよ……」

 

「い、いやぁぁぁぁ!!一人にしないでほしいのだわ!!」

 

「DEATH……」

 

「まるで地獄から這い出た悪魔のような声なのだわ!?」

 

「パエ……………さま!」

 

「ひいぃ!す、隙を見せればすぐにでも襲ってくる貪欲な猛獣の声なのだわあああ!!?」

 

「「パエトーン」様ぁっ!」

 

「うわああああ!」「きゃああああ!」

 

現れたのは、全身緑の恐ろしい怪物……!!!

ではなく…………。

 

「…………えっと、ビビアン?」

 

「はい!あなたのビビアンなのです!「パエトーン」様!!!……あ、ちょっとそこ、くっつきすぎなのです」

 

そこにいたのは涙と鼻水を垂らしながら、全身に緑の昆布が張り付いた水着姿のビビアンだ!?彼女は放心しているアリスを僕から引き離して、改めて、僕に抱き着くと頬擦りをして喜んでいる。

う、ねちゃねちゃと昆布が引っ付いて……。

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、ビビアン。君は僕を探して、文字通りスラスターで飛んで駆けつけてくれたと?」

 

「はい!」

 

僕の腕にくっつきながらニコニコと頷くビビアン。

 

「そして、燃料が足りずに、海に落ちたけれど……根性でこの島まで泳いできたと」

 

「はいっ!でも、海の水が冷たくて、めちゃくちゃ大変だったのです!」

 

泣き黒子のある赤い目を細めて頷くビビアン。

……たまに彼女の執念にも似たその行動力が恐ろしくなる。

 

「それで……」

 

ちらっと顔を移すと、今度はヒラヒラと手を振る「トリガー」が目に映る。

僕の膝の上にはあくびをしている「シード」と、見張るようにして洞窟の入り口に立つ「ビッグシード」。

 

「「トリガー」たちはどうやってここに……」

 

「あなたの危機だと察したので、「シード」に頼んで連れてきてもらいました」

 

「もう、「トリガー」ったら、プロキシ君の名前を連呼しててすごい形相だったんだから~。あんな「トリガー」任務でも見たことないよ~」「シ、シード!」

 

……ビビアンに続いて、外で大きな飛行音が聞こえてきて、再びアリスはビビり散らかし、ビビアンもなぜか、あぁ、怖いのです!と棒読み気味で僕に抱き着いてきて……そうして、外を見てみればそこには空から降ってきた「ビッグシード」と、その手に乗って慌てて洞窟に駆け込んできた「トリガー」がいたというわけだ。

 

「えっと、そういうことではなくて、「トリガー」はどうやって僕がこの島にいるってわかったのかな、と……」

 

「………………」

 

たき火に照らされた彼女はバイザーをピンク色に光らせてにこやかに微笑むだけだ。

僕がアリスに目を移すと、彼女はビッグシードの前に行き、目を輝かせている。

 

「なんて美しいシンメトリーなのかしら!!」

 

「ふっふっふ「ビックシード」の良さがわかるのだわ~?」

 

「えぇ、彼の紳士的な態度も、体のように大きな優しさも……すべてがシンメトリーとして表れているもの!」

 

「……なんにせよ、助かったよ。みんな。これで家に帰れるね」

 

「え?」「えっと」「え~?」

 

「……?」

 

「先ほどお話ししたように、私のスラスターは海に落としたうえ、そもそも、燃料ももうないのです」

 

「「ビックシード」もかなり飛ばしたから休ませないと~」

 

「……サバイバル生活ならお任せください」

 

…………遭難者が、3人追加されただけじゃないか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキラ起きたのだわ?」

 

午前2時、皆が寝静まった後でふと目が覚めて寝床を離れると、そこには体育座りで洞窟から海を眺めているアリスがいた。

 

「見て、海が星を反射して……宝石箱のようなのだわ」

 

どうやら洞窟の隙間から星がこぼれているらしい。幻想的に海が星々を映し出していて、ポートエルピスから眺める海とは全然違う。

 

「ほら、白鳥座もきれいに見えるのだわ。キラキラしてるし、それに……」

 

「完璧なシンメトリー?」

 

「……えぇ!アキラもよくわかってきたのだわ」

 

コテンと膝に頬を置いて僕を見つめて嬉しそうな微笑みを浮かべるアリス。ザザーンと押しては引いていく波の音が、この空間が心地よい。

 

僕とアリスがこうして二人で星を観察するのは初めてのことではない、けれどこんなにも違う場所でも、こうして二人で肩を並べて同じ星を見ているのが少し不思議な気持ちだ。

 

「……アキラ、私にとってシンメトリーとは秩序であり安らぎであり、美しさの象徴なの」

 

「そうみたいだね」

 

「けれど、今日もう一つだけ気が付いてしまったの。それは貴方が隣にいれば……楽しいことも、苦しいことも、怖いことも、幸せなことも、対照的に感じる……それってきっと、私にとっての中心点にアキラが居てくれたからなの」

 

アリスは僕のことをみて柔らかい笑みを浮かべる。星明りに照らされた彼女は、普段とは違いどこか艶っぽく見えた。

 

「アリス……」

 

「こほん!」

 

と、アリスはわざとらしく咳払いをした。

 

「その……つまり、ただ……その……これからも……」

 

耳をふにゃりと垂らし、視線をそらしながら言葉を探すアリス。

 

「アリス、これから先もずっと……こうして並んで星を見よう」

 

「……っ!?……も、もう、いっつもズルいのだわ……」

 

そう約束すると、アリスの顔が近づいて……来そうになったところで、後ろからむううううむうううう!!!と何やら大いに暴れているらしいビビアンらしき女性の声と、邪魔をしてはいけませんよ……、という「トリガー」の落ち着いた声が聞こえてくる。

 

「むーん……今日はもう寝るのだわ」

 

「ははは……そうだね……」

 

僕が立ち上がろうとしたとき、アキラ、とアリスが僕の裾を引っ張った。

 

「アリ……?」

 

……僕とアリスの影がシンメトリーに重なったかと思えば、頬を染めながらアリスは恥ずかしそうに口元を抑える。

 

「隙あり……なのだわ!」

 

そして、おやすみ!と洞窟の奥へと戻っていった。

 

僕は咄嗟のことで驚いたまま、ただただ茫然と、彼女の唇が触れた感触を思い出して、彼女の去っていった背中を眺めるしかなかった。

 

そして……後ろからは地獄からの唸り声が……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都「タイムフィールド家船上」-

 

3日後、僕らは島の中でホロウを見つけたり、ビビアンに夜這いされそうになったり、遺跡の秘宝を見つけたり、ビビアンに夜這いされそうになったりしながらサバイバル生活を生き残り、島に到着した救助船の上で柚葉やオルペウスたちと再会していた。

 

「ねぇ~アリスってば、ちょ~っと雰囲気変わった~?」

 

「ふぇ!?そ、そんなことないのだわ?」

 

「ふーん、んふふ、じゃあ。今夜にでもみんなでパジャマパーティをして確認しないとね!」「そうそう、島のエーテリアスにも会ったんでしょ!詳しく聞かせてアリスちゃん!」「アキラとどんな生活をしていたのかも……た~くさん聞かせてほしいわ」

 

「み、みんな目が怖いのだわ!」

 

 

『「トリガー」!「シード」!貴様ら、これが何回目の軍規違反だ!貴様らはどいつもこいつも、ことプロキシ君のことになると目の色を変えて……!!』

「鬼火隊長はこう言っているでありますが、二人のこともプロキシ殿のことも、すごく心配していたのであります」「鬼火隊長が?」「へ~?僕たちのこと、大好きなんだ~」

『おい!余計なことを言うなオルペウス!!』

 

 

「ビビアン、これだけは確認させてくれ。プロキシ君を南の島に攫ったとかでは……ないよな?」

「ヒューゴ……あなたは私をなんだとおもっているのですか。流石の私も機会があってもそんなことは………………」

「……なぜ、目を逸らすビビアン?ビビアン……!?」

 

皆それぞれの仲間から出迎えの言葉を受ける中、僕の目の前にも……腰に手を当てて怒った表情のリンの姿が……。

 

「リンその……」「お兄ちゃんのバカ!もう、心配したんだから……」

 

「心配かけてごめんよ、リン……」

 

そう言って抱き着いてくるリンを、僕も抱きしめ返す。周りの温かい視線を感じながら。

 

 

 

 

 

 

海を突き進む船の上。

島も、あのシンメトリーなヤシの木も、だんだんと遠ざかっていく。

 

そう感慨深く島を眺めていると、アリスがぴょこんと顔を出した。

 

「ねぇ、アキラ、次の冒険は……星を眺めに宇宙に行くのはどうかしら?」

 

彼女の耳が風に揺れ、太陽が水平線に沈む瞬間、海面が金色に光り、僕らの影を長く伸ばして揺らしていた。

 

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