パエトーンのお兄ちゃんが、こんなにモテモテなわけがない! 作:雨あられ
夏の夜は少し明るい。
時刻はPM:21:00、残業はしない主義だが今回は突発的な事件が発生した為そうも言っていられなかった。
……ズボンのポケットから鍵を取り出した……が、鍵を挿した後に、その必要がないのだと改めて気付く。
鍵のかかっていなかったドアを開けると、部屋には既に照明がついており、蒸すような身体の火照りを冷やすように涼やかな風が私を出迎えてくれる。
「おかえりなさい、朱鳶さん」
部屋の奥に進むと……首元に手をやり、笑顔を浮かべたアキラくんが姿を現す。
テーブルの上には美味しそうな料理が並んでいて、仕事でエネルギーを使い果たした私のお腹が鳴ったかのような錯覚に陥った。
「はい、ただいま戻りました……アキラくん」
私が彼に荷物を預けながらあたりを見回す、少しガタついているクーラーに、やや埃っぽいソファ、彼が先ほどまで触っていたであろうPCと付きっぱなしのテレビ……。
「朱鳶さん、どうかしたのかい?」
「いえ、その、少しまだ現実味がなくて……」
そう言うと私の座る椅子を引いてくれたアキラくんが再び笑みを浮かべた。
「なるほど……けれど、これを見て」
スッと、彼が私に薬指を近づける、私もおずおずと左手を近づけると、そこにはおそろいのプラチナのリングが光る。
ああ、これこそ証だ。そう私たちは……
パエトーンのお兄ちゃんが、こんなにモテモテなわけがない!
-新エリー都 六分街・レンタルビデオ店「Random Play」 2階-
「「偽装夫婦?」」
「うむ」
これまた暑いある日の事だった。
僕とリンの元を訪ねてきたのは治安局の制服に身を包んだ青衣と朱鳶さんだった。
二人とはEMP事件を機に顔見知りとなり、以降は僕とリンはプロキシであることを隠しながら友達として交流を持っている。
隠し事をしながら友達でいるのは少し心苦しかったけれど、僕らのような非合法でホロウの探索を行っているプロキシにとって、彼女たち治安局は頼れる市民の味方ではなく天敵でもある。友人ではあるが、なるべく仕事上は関わらないように……そうやって二人とは適切な距離感を保っていたのだけれど……それが、いきなり段階を飛ばしてとんでもない事になろうとしている。
「青衣、それって、お兄ちゃんが朱鳶さんと疑似的に新婚夫婦になっちゃうってこと!?」
「さよう。こちらで用意した「あぱーと」があるゆえ、店長殿には朱鳶とともに暫く寝食をそこで過ごしてもらいたい」
リンの言葉に「新婚」は、余計じゃないかと心の中でツッコミを入れる。
青衣の話では、潜伏した犯罪組織を一斉摘発するために、僕と、そして朱鳶さんが「偽装夫婦」として一緒にそのアパートに移り住み、組織の潜伏先を探し出す手伝いをしてほしいといのことだ。先ほどから仏頂面で説明を続ける青衣に比べて、妙に朱鳶さんが顔を赤くしてモジモジとしていると思ったら、そういうことだったのか。
「その、どうして僕と……朱鳶さんが?」
「まぁ、当然の疑問であろうな。もちろん、我らとしてもそんな周りくどい手は使いたくはなかった。ただ、相手の犯罪組織は用心深いことで有名ゆえ……。
勢力こそ小規模であるものの、普通のやり方ではなかなか尻尾を出さぬ。星星の火、以て野を焼くべし……連中の勢力が勢いを増す前に虎穴に入り、一網打尽にしようというのが局の決定のようであるな」
「なるほどー……あ、でも、その朱鳶さんの相手役って別にお兄ちゃんじゃなくても良いんじゃない?潜入任務なんて、ちょっと危ない感じがするし……」
「リンはまことに兄想いであるな。もちろん、当初は局の用意した人間を使おうと考えておったぞ?……が、この作戦の要である朱鳶がどうにもこの手のことが一等苦手でな。即ち、喋りは棒で、相手役を怪我させること両手で数え切れぬほど……」
思い当たる節しかない。僕とリンが視線を向けると、朱鳶さんは近くにあったクッションを抱き寄せて顔を埋めた。
「難儀なことに本人はこの通りであろうに他の者には任せられないと言ってきかぬ……そこで、店長殿の話に戻るが、朱鳶が「せ、先輩!」……ふむ、店長殿は一般人、局のような立場にないゆえ怪しまれもせぬ。更に言えば、日ごろから上手く朱鳶をフォローすることにも慣れておる。当然あやつら組織も警戒しておるであろうが、仲睦まじい夫婦としての姿を見せることで、周囲への警戒も自然に解ける……となれば、これ以上の逸材はおるまい」
なるほど、いくつか口を挟みたいところもあったけれど……一応筋は通っている。
それに、身分を偽って潜入するというのは映画でもエージェントがよく使っている常套手段だ。まぁ、そういう作品の場合、大抵、最後は派手にドンパチで解決することの方が多いのだけど……。
「アキラくんには当然、拒否権があります。先ほどリンちゃんが言っていたように危険が伴うこともあるでしょうし、ビデオ屋としてのお仕事もあります。……ですから、私自身もアキラくんがこの作戦に参加することに反対です」
……そう言葉では言う朱鳶さんではあったが、どことなく、その視線は少し僕に期待しているようにも見えた。
けれど僕の中で答えは最初から決まっていた。
「朱鳶さんの力になってあげたいのは山々だけど……リンを一人でこの家に残すわけにはいかない。悪いけど、断らせてもらうよ」
「!えへへ、お兄ちゃんってば心配性だね!」
妹は口では悪態をつきながらも、指で膝を叩き、首を揺らして満更でもなさそうな笑みを浮かべた。
僕の答えを聞いた青衣は少しも驚いた顔をせず、淡々と言葉を続ける。
「うむ……いやはや残念。こちらも店長殿に無理強いするつもりはないのでな……ちなみに、引き受けてくれた場合の給金はこれくらい弾もうと考えておったぞ」
青衣が取り出した電子媒体の画面をリンと一緒にのぞき込む。
1、10、100、1,000……な、なんだこの金額は!?
一体この店の何か月分の収入になるんだ!?
「お兄ちゃん!?」「……大丈夫だよリン。お金の問題じゃない、そうだろう?」「行ってらっしゃい!!」「……え?」
「朱鳶さん!お兄ちゃんを守ってあげてね!」
「え、えっと、はいッ!」「リン……」
リン、目がディニーになっているよ……
そうして、僕と朱鳶さんの二人はあれよあれよという間にボロアパートの一室へと押し込められたのだった。
不安は尽きないが、幸い、期間はそれほど長くないらしい。それに、リンに何かあってはいけないということで治安局がビデオ屋の近くを巡回ルートに加えてくれるらしいし……かなりの好待遇であることは間違いない。
アパートには生活に必要な家具、二人で映った合成写真立て、そして、僕ら二人の薬指に嵌められた高そうな結婚指輪と……偽装のための小道具がたくさん用意されていて、敵だと脅威でしかない治安局も味方となるとこうも頼もしい……。
冷蔵庫の中に用意されていた食材で、今夜は僕が料理を振るった。
我が家では妹と交代で料理を作ることとなっていて、腕にはそれなりに覚えがあった。
仕事終わりの朱鳶さんも美味しそうに料理に舌鼓を打ってくれて、幸先の良いスタートを切れた気がする。
しかし、不意に彼女は暗い顔をして食べるのをやめて深刻そうな声を出す。
「……あの、アキラくん、辞めたくなったらいつでも言ってくださいね?」
「え?」
「アキラくんも知っての通り、私はあまり……「そういった経験」がないですから、色々とご迷惑をかけてしまうでしょうし……」
そういった経験……つまりは恋愛経験のことだが、まぁ確かに、朱鳶さんと二人でいるのは色々と大変だった。
彼女は鍛錬を積み重ねた結果、他人に触れると反射的に攻撃する癖がある。今日はすでに手が触れただけで2回のス-プレックスホールド、たまたま鼻と鼻があたりそうな距離感になっただけで1回のコブラツイストを貰っている。
けれど……
「朱鳶さんは勘違いをしているよ。確かに僕はリンの後押しがあってこの生活を選んだ。けれど、本当に嫌だったらそれを払いのけてでも断っていたさ」
「え……そ、そうなんですか……?」
「大切な……朱鳶さんのお願いだから引き受けたんだ」
「……ッ!!!?」
そう、大切な……妹の命の恩人である朱鳶さんの頼みとあれば、断わるわけにもいかない。
僕がニコニコしながらそう答えたら、朱鳶さんはボッと蒸発しそうなくらい顔を赤くする。
それから彼女は、んん!とわざとらしい咳ばらいをして、話題を逸らした。
「そういえば、アキラくん。今後人前で私の名前を呼ぶのは控えてくれませんか?」
「そこまで嫌われていたなんて……」
「な、違います!これは……」
「わかっているさ……どこに耳があるかわからないからね」
朱鳶さんは治安局の中でも有名人だ。
今は制服も着ておらずキャミソールとホットパンツというラフな格好で、ポニーテールもやめて髪を下ろしているから一目見て彼女のことが分かる人は少ないだろう。けれど、流石に朱鳶と言う、その名前を聞いたらピンと来る人もいる筈だ。リスクは出来るだけ減らした方が良い。
「……アキラくん、わかっていたのなら意地が悪いですよ。まぁ、そういうことです」
「じゃあ、これから僕は朱鳶さんのことをなんて呼べば良いんだい?」
「え?えっとそれは……そうですね……名前でなければ、よく長官や治安官さん、などと呼ばれていますが……」
「いや、潜伏先でそれはバレバレだよ……それに、夫婦の呼び方としておかしいんじゃないかい?」
「そ、そうですよね。確かに……ふ、夫婦……」
迷宮入りした事件は一つもなく、仕事中は完璧なキャリアウーマンである彼女が眉を寄せて困っているのを見ていると……僕の中の嗜虐心がムズムズとくすぐられているような気がした。
「……うん。それじゃあ、新婚らしくダーリンとハニーって呼び合うのはどうだろうか?」
「だ、ダッ!??」
朱鳶さんがすごい勢いでテーブルに手を突き立ち上がると、朱色の瞳をまんまると見開いた。
「それとも、クラシックに「おまえ」・「あなた」とか?」
「あ、あ、あなた……!?」
「思い切って、僕が朱鳶さんのことを「シーちゃん」って愛称で呼ぶのも可愛いかもしれない」
「ししししっ、シーちゃんッ!!?」
先ほどからそれは言葉を詰まらせまくる彼女を見て、僕は普段のカッコいい彼女とのギャップを感じてしまい、思わず吹き出してしまった。
「冗談だよ……なんだか朱鳶さんが困っているのが楽しくて」
「…………アキラくん、また私に意地悪を……!?」
「ゴメンよ、まぁでも、ここは偽名を使うというのが手っ取り早「あ、アッくんです!」…………………………え“?」
今度は僕が目を見開く番となった。
「わ、私がシーちゃんなら、アキラくんは……ア、アッくんと呼ぶのが道理ではないでしょうか!?」
「お、落ち着いて朱鳶さ「シーちゃん」……シー、ちゃん」
「これで決まりですよ……アッくん」
そうだった。彼女は存外負けず嫌いなのだった!
僕に一方的にからかわれているのが嫌だったのだろう。こうして、彼女は意地を貫き通し、僕達のお互いの呼び方は決まった。
この時、僕達は知らなかったのだ、この愛称で人前で呼び合う夫婦がいかに気恥ずかしく、バカップルであり、自らの首を絞め合う行為だったのかということを……。
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「最近越してきた新婚さんたち、どっちも顔が良いわよね~」
偽装夫婦生活が板につき始めたころ、買い物帰りの僕たちの耳に4,5人ほどのおばさんたちの会話が聞こえてきた。
こういった井戸端会議というのは、不毛な愚痴の言い合いに見えて馬鹿に出来ない情報源だ。組織の話が何か聞けるかもしれないと、僕と朱鳶さんはアイコンタクトをとると、気付かれないように建物の陰に身を潜め、おばさんたちの会話に耳を傾け始める……。
「ああ、あの初々しい夫婦!奥さんはモデルみたいなスタイルの良い別嬪さんだったわね~」
「あたしも見かけたけどこの前なんて、お互い愛称で呼び合うだけで真っ赤になっちゃってもう~」「あらあら~」「若いわ~」
……これは公開処刑というやつだ!?
体中ぞわぞわしてあまりにも恥ずかしい。それは朱鳶さん、いや、シーちゃんにとっても同じだったらしく、耳元に彼女のうぅ!という呻き声が聞こえてきた。何だかこの生活を始めてから朱鳶さんの意外な顔をよく発見してばかりだ。
「けど、あの旦那さん。顔は良いけど、ヒョロっとしててちょっと頼りないわ~」「ずっと首を痛めてるのかしら?よく首元に手を置いてるけど~」「あらやだ、もしかして、いっつも寝違えているのかしら!」
おばさんたちがおほほほほ!と高らかに笑うのと同時に、ブフッっと朱鳶さんが後ろで噴き出したのが聞こえてしまった。僕は、少し複雑な気分になった。
「絶対奥さんに尻に敷かれるタイプよね、あの旦那さん」「そうよね、だって奥さんお尻おっきいものね」「やっぱりそうよね!この前ゴミ出ししてる時に見たけどすんごい迫力だったわよあのお尻は!!」
またおばさんたちが高らかに笑った。今度はつられて僕が噴き出す番だった。
慌てて口を結って、朱鳶さんを見る。
朱鳶さんは、自分のお尻に手を当てて大きさを図ってから、僕に向かって耳打ちする。
「そ、そんなに大きくないですよね?あの方たちが誇張しているだけですよね?」
「…………僕は朱鳶さんのお尻に敷かれるなら本望だけれど?」
「け、結局否定してないじゃないですか!?」
と、仲良くふざけ合っているうちに、奥さんたちがにわかに声を潜め始める。
どうやら旦那の愚痴について話を始めたようだ。今度こそ、件の組織の話があるかもしれない。
さっきまでの雰囲気と一変して、僕も朱鳶さんもその話を真剣に聞いた。
「残念ですが、これと言った収穫はありませんでしたね……」
「仕方がないよ。おばさんたちも正確なことがわかってるわけじゃなかったみたいだし」
アキラくんが冷蔵庫に食材を詰めながら言った。
私たちはこの偽装夫婦を見破られずに情報収集することに成功しては居るが、肝心の組織の根城はまだ見つかっていない。今日も結局9割は旦那さんに対する私生活の愚痴であった。アキラくんは同じ男性への愚痴とあってかたまにバツが悪そうにしていたが、私が彼に不満を持ったりしたことはない。
買ってきた食材を冷蔵庫へと詰めおわると、彼は腕まくりをして早速夜ご飯の支度を始める。食事は基本的に彼が担当してくれていた。私は交代制でと主張したけれど、意外と押しが強くて8:2くらいの割合に落ち着いていた。
「私もお手伝いします」
そう言って、髪をゴムで軽く結って彼の隣に立つ。
たまにはお手伝いをと思ったのだけれど、彼は予想以上に喜んでくれた。
「「シーちゃ(アッく)……!?」」
食材を触りながら自然とそうお互いを呼び合ってしまい、私は顔を付け合わせてから大きな声を出して笑った。
「あはは!外での感覚が抜けませんね……」
「恥ずかしかったけれど、慣れてしまったよ」
そう言いながらも、手を動かして一緒に料理を作る私たち。
包丁が食材を刻む音、ジュージューと鍋が噴きこぼれる音。彼が優しく語り掛けてくる声……その全てが心地よい。
「あの、私がもう一品作っても良いですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます。食べきれると信じていますね」
そう言って私が冷蔵庫から取り出したのは局で育てた赤くて甘いトマト、それから卵とお豆腐、香辛料をいくつか……、得意料理の、トマトタマゴ炒めだ。
フライパンの上で絡み合う赤と黄色。家族以外に振舞うのは初めての経験だったけれど、彼に……アキラくんに食べてみてほしくなったのだ。
「懐かしいです。こうして肩を並べて同じ台所に立っていると、小さなころ、お父さんとお母さんと一緒に料理を作っていたことを思い出して。あの時、私はまだまだ未熟で……よく焦がしたりお皿をひっくり返したり」
「へぇ、朱鳶さんが?……おっと、顔にトマトがついているよ……」
私の頬についていたトマトの破片を指で掬って口に運ぶアキラくん。
彼が笑った顔を見て、私の胸は痛いくらいに高鳴った。
ああ、そうだ。やっぱりだ。
こうして触れられても、私は彼のことを反射的に攻撃することがなくなっていた。
それは私が、彼のことを心から受け入れ始めた証拠で……。
触られた箇所が熱を持っているようだった。
私は、きっと彼のことが……
あれ?と思ったのは何時だったか。
朱鳶さんの作ってくれた優しい味の家庭料理を食べたあと、僕らはそれぞれお風呂に入って、今は並んでソファに座って、一本の映画を見ていた。
なんてことのない、野鳥のドキュメンタリー映画だったから噴き出して笑いあうことはないけれど、僕たちは、何となくその空気感が所謂男女の良いムードであるということにうすうす感づいていた。
もじもじと、露骨に手をこすり合わせて僕の方を見ては、視線を外す朱鳶さん。
普段なら、初心な彼女の方がこういった雰囲気を嫌い、何か別のことを始めたりさっさと眠ってしまったり、そもそもこうやってくっついた瞬間締め技が飛んでくるというのに……今日の彼女は逃げなかった。
「…………」
「…………」
沈黙が続き、テレビから聞こえる解説の声はもはや耳に入って来なかった。
「……アキラくん、実は黙っていたことがあります」
「……なんだい」
そう答えたときに、ギュッと、彼女が僕の手を握った。
驚いて顔を向けると、いつもに増して赤い顔で、朱色の瞳が上目遣い気味に僕を見た。
「今回の作戦でアキラくんが候補に選ばれた時…………私、正直とっても嬉しかったんです」
「……え?」
「幻滅したでしょうか?口では参加しない方が良いだなんて言っておいて……私は……アキラくんとこうして一緒に住めると聞いて、年甲斐もなく大はしゃぎしてしまったほどです」
「それってつまり……」
コクっと潤んだ瞳を向けながら頷く朱鳶さん。
そうか、朱鳶さんは……僕以外の人だと……一緒に居た時にサボれないから……!?
うん、彼女のような完璧な女性でも、やはりプライベートの時間必要なのだろう。
「初めに言ったけれど、僕も朱鳶さんとなら……ううん、違うな」
「僕も、朱鳶さんと同じ気持ちだ」
「ッ!!?」
言葉を失くし、両手で顔を覆う朱鳶さん。
ここまで来たら、腹を割って僕も正直に言うべきだろう。
僕も、普段の仕事よりも何倍も実入りの良い仕事にホクホクだった。そして、こうして映画を見ている間にも時給が入ってくるのだから、彼女と同じ気持ち、サボれて嬉しいという気持ちだったんだ。
「アキラくん……私と同じ気持ち……」
「ああ、でも大丈夫、誰にも言わないさ、僕ら二人だけの秘密だからね」
そう僕が言うと、朱鳶さんがコクリと頷き、目を閉じる……。
ん、一体どうし……
『警告!』
ファーンファーン!という、Fairyのアラートの音を聞いて僕らはソファから飛びのいた!!
音が聞こえてきたのは僕の携帯端末からだ……あれ?ノックノックが
「……162件!!?」
スクロールをしている間にもぽつぽつとポップアップが飛んでくる。
しかも、その内容は…!!
あのさ、変な話聞いたんだけど?ね、今どこ???—エレン
おい、さっきアンドーからあり得ねぇ話が!---クレタ
プロキシさん、結婚したんですの!?私以外の誰かと!?--ルーシー
蒼角はここだよ!(怒)--蒼角
ポンポンと次々とメッセージが!?一体何がと思っているとリンからの着信が飛んできた!
「リン!これは一体……」
「ごめんお兄ちゃん!ニコにバレちゃった!?ニコったら青い顔をしながらすごい勢いで情報を拡散しちゃって……!お兄ちゃん?お兄ちゃーん!」
僕の直感が告げている……これは、すぐに事件を解決しないと大変なことになる!!?
それからの僕は凄かった。
家までダッシュで帰ると、今回の報酬が吹き飛ぶほどFairyの電気代が膨れ上がるのも構わず、今まで集めた情報をもとに組織の根城を暴き出し、自然な形でそれを朱鳶さんに提出。
そして溜まりに溜まっていたノックノックからの誤解を解きまくり……終わったころには朝日が昇っていて、僕は泥のようになってソファで眠りについたのだった。
後日、彼女に今回のお礼としてご両親を紹介されて、そこでも大いなる誤解が発生するのだが…それはまた別のお話。