パエトーンのお兄ちゃんが、こんなにモテモテなわけがない!   作:雨あられ

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CH7.ルシアーナ・オクシスィース・テオドロ・デ・モンテフィーノ

-郊外 ベースボールスタジアム-

 

「かっとばせですわ!プロキシさーん!!」

 

「いけー!アキラ!オマエの根性!見せてやれ!!」

 

9回の裏、ツーアウト……ランナー無し……1点リードされている絶体絶命の場面だ。

ベンチのみんなの応援を背に受けて、ギュっと金槌……もとい、バッドを握る力が強くなる。

 

「お兄ちゃん肩の力抜いて~!!」

 

「打ったれ~!プロキシ~!」

 

夢にも思わなかった。

まさか、僕が、こんな野球映画の主人公みたいな逆境に立つだなんてこと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実況!パエトーンプロキシ野球!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都 六分街・レンタルビデオ店「Random Play」 2階-

 

「プロキシさん、あなた方は「野球」というスポーツをご存じですこと?」

 

それは夏も過ぎて空気がカラリと乾燥し始めた秋の午後だった。

金色の柔らかな毛先をかき上げて紅茶を飲み、突拍子もない質問をしてきたのはカリュドーンの子、苦労人にしてお嬢様、ルシアーナ・デ・モンテフィーノ、通称ルーシーだ。

 

「野球は僕も妹も試合を観て楽しめるくらいには知っているよ」

 

「うんうん!昔、天気のいい日にはよく公園でキャッチボールしたよね!」

 

懐かしいなぁ、リンはノーコンだけど、たまにすごくいい球を投げるんだ。リンが明後日の方向に投げ飛ばしたボールは、イアスが一生懸命拾ってきてくれたっけ……。

リンは懐かしいね~と呟きながら、ルーシーにもらった茶菓子のクッキーを口の中に放り込み、両手を頬っぺたに合わせて幸せそうに味わっていた。

僕も一つ貰ったけれど、バターの味がじんわりと染み出してきてとても美味しい。

 

「ルーシー!これ、美味しいね!どこで買ったの?」

 

「それは……私の手作りでしてよ」

 

「え、すごいね、ルーシー!お店で売ってるやつかと思った!ね、お兄ちゃん?」

 

「あぁ、高級菓子と遜色ないくらい美味しいよ」

 

「そ、そうですの?なら、あなたの為に早起きして作った甲斐が……で、ではなくて!話を本題に戻しますわよ!」

 

ルーシーは赤い顔をヘルメットで隠した後、ぶんぶんと首を振ってから改めて金棒のような太い足を組みなおす。

 

「実は今度、走り屋連盟で大きな野球大会……トルネオ・デ・フィアンマ杯が開かれますの」

 

「「トルネオ・デ・フィアンマ杯?」」

 

「……そうですわ、このトルネオ・デ・フィアンマ杯はツール・ド・インフェルノに次ぐ走り屋連盟の伝統的な競技で、優勝賞品の石油と輸送ルートを賭けて、走り屋たちがバイクのアクセルではなく、バットを握りしめて勝ち抜き戦のトーナメントを行いますの」

 

「へぇ、面白そう!あ、もしかしてルーシー。私たちにその野球大会の観戦チケットを持ってきてくれたの!?」

 

リンがそう両手を合わせてワクワクしながら言うと、ルーシーはバツが悪そうな顔をして、それからコホンと咳ばらいをする。

 

「プロキシさん、いいえ、パエトーン。お二人には我々カリュドーンの子の「監督」として、チームを優勝へと導いていただきたいんですの!」

 

「監督で」

「チーム優勝!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-新エリー都・郊外 旧油田エリア「ブレイズウッド」-

 

「ぐあー!テメーこら!ライト!キャッチボールだっつってんのに強く投げ過ぎだ!!」

 

「あれ?パイセン、もしかして今の球ギリギリっすか?結構手加減してんすけどね」

 

「んなわけねーだろ!オメーのピンポン玉をキャッチするなんざ屁でもねぇ!だが……レンタルしたグローブを壊したら給料から天引きなんだよ!」

 

僕達が郊外のブレイズウッドに到着すると、早速ビリーとライトが仲良くキャッチボールをしている声が聞こえてくる。どうやら、ビリーも助っ人として駆り出されたらしい。

そして、その近くに立っていた黒い人影が、僕達を見つけるなりパッと笑顔を見せながら大きな二つのボールを揺らして近寄ってくる。

 

「アキラ!!来てくれて嬉しいぜ!」

 

「シーザー。僕も君に会えて嬉しいよ」

 

「ま、またオマエはそういう……」「「コホン!」」

 

「なぁ、アキラ。この後時間あるか?良かったらオレ様と一緒に」「「コホンコホン!!」」

 

「って、居たのかよ、リンにルーシー。声かけてくれればよかったのに……」

 

「初めからず~っとお兄ちゃんの隣に居たんだけどね。シーザーってば、お兄ちゃんしか目に映ってなかったみたい」

 

そうジト目のリンに指摘されてシーザーは顔を赤くすると慌てて両手を振った。

 

「なに妙なこと言ってやがるんだ!?ちょっと身長差で見つからなかっただけだぜ?」

 

「フン、身体とお尻が無駄にデッカイだけのあなたにチビだなんて言われたくありませんわ。それよりも、シーザー。プロキシさんも来たことですし、そろそろ総合練習を始めますわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-初戦 チーム、アイアンナックル-

 

「……え!?」

 

「ん?どうしたんでい、プロキシ?」

 

「いや、こう……特訓パートとか、友情パートとか、ライバルチームとの顔合わせとか……そう言う王道のイベントが一切なかったなって……」

 

「かー!もう忘れちまったのかぁ?こいつたちとやったあの燃えるように熱い特訓を……!」

 

……だらしなくユニフォームを着たパイパーが言っているのはバーニスが物理的にバットやボールを燃やした特訓のことだ。

燃える魔球!だとかファイア―インパクト!だとか言って普通のボールと木製のバットを消し炭に変えるので、僕たちは鉄球と金づちを代替にして練習を始めたんだ……その様子を偵察に来ていた他の走り屋たちは戦慄し、ドン引きしていたっけ。

 

「初戦の相手はゴロツキ共の寄せ集め……脳筋だらけの雑魚チームですわ。特に語るべきこともないのでサクッと勝ってしまいましょう」

 

……脳筋だらけのチームという点ではウチも大差はないのでは?

その言葉を飲み込んで、僕はファーストミットを持って1塁へと走った。

 

何故、僕がファーストに居るのか?

 

それは、元々このポジションに入るはずだったビリーが当日に来なかったからだ……!

 

「頑張れー!お兄ちゃん!」

 

「プロキシさん、そう緊張なさらずとも大丈夫ですわ」

 

「そうだぜプロキシ、つーか安心しろ!オレ様が全員三振に抑えてやっから!」

 

「シーザー!だったら、今日は私のサイン通りにちゃんと投げますのよ!?」

 

「良いじゃねぇか、サインなんかなくったってどうせオレ様の球なら打てっこねぇって!」

 

二人は言い合いをしながらマウンドとホームベースへと向かっていく。

ああ見えて、あの二人はいざという時には阿吽の呼吸を見せる良いバッテリーなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、プロキシさんの見ている手前、カッコ悪いところは見せられませんわ。

私がマスクを被ると、いよいよ試合開始の銅鑼の音が響いた。

外野はヘルバ、アルボル、ラテレムの3匹、サードがライト、ショートにバーニス、セカンドにパイパー……そしてファーストにはプロキシさん。

 

フルフェイスのヘルメットをかぶった相手打者は緊張からか身体をブルルっと震わせてバッターボックスへと入った。

 

あまりファーストの練習をしていないプロキシさんのところへと飛ばされるのはマズイと思い、外角低めのストレートを要求した。

 

珍しくコクリと頷くシーザー。

 

大きく振りかぶり、その左腕を振りぬくと……。

 

ズドンッ!!

 

と、大ぶりのバットは空を切り、凄まじい音がミットに響く。

今の剛速球を見た相手のベンチがざわつき始める。フン、ま、当然ですわね。

要求したのと反対の内角高めに飛んできたのは論外ですけれど、あの剛速球にこれだけの重い球、マグレで当たったとしてもそうそう外野へは運べませんわ。

続いて同じところに今度はカーブを要求するとシーザーは首を振った。……仕方なくストレートを要求すると笑顔で頷くシーザー。

全く、何でも良いからストライクゾーンに入れ……!?

 

「セーフティバント!?」

 

キンと、バットの先っぽが当たり、ボールは3塁方向に転がった。

私もマスクを取るとボールを追うが、結局、サードのライトがサングラスを直しながら慌てて球を拾う。少しスタートが遅れましたが、ライトの肩ならば十分に……!?

 

「セーフ!!」

 

ライトが投げる前にランナーは1塁ベースの上に既に立っている……!?

 

「チッやられた!」

 

シーザーがマウンドの土を蹴って悪態をつく。

 

おかしい。

 

あのホームランしか狙わないような脳筋たちがバントを……?しかも、私とライトの判断を迷わせるライン際ギリギリのセーフティバンドを成功させる技術にあの俊足……!

 

次のバッターがやってきたので、再びマスクを被ってミットを構える。

……少々驚きましたが、そう慌てる場面でもありませんわ。盗塁は警戒しないといけませんが、結局、シーザーの球を打つだなんて……。

 

ガキーン!!

 

と金属音が響いた!?

ボールはセカンドのパイパーのジャンプした頭上を越え、鋭いライナーが右中間へと突き抜ける!?けれど、私の躾けたラテレムのカバーが間に合っている。この当たりならシングルヒットに……。

 

「お疲れさんだゾ」

 

ハッと後ろを見ると先ほどの1塁ランナーがホームインしていた。

それだけではない、打った打者も3塁に……!?

 

「どうなってやがんだ!?」

 

打たれたシーザーが吼える。

そして、先ほどのバッターがフルフェイスのヘルメットを外すと……白い髪がサラサラと舞った。

 

「「アンビー!?」」

 

プロキシさんたちがそう叫ぶ。そして……

 

「じゃあ、もしかして、さっきからこの作戦を考えていたのは……」

 

ベンチの方を見るとフルフェイスを外して高笑いを浮かべるユニフォーム姿にピンク髪の女性……。

 

「オーッホッホ!勝つのはあたしよ、プロキシ!!それからカリュドーンの子!」「「ニコ!?」」

 

そして、その後方に居たもう一人、背の高い人物がヘルメットを外すと、出てきた顔は…………!

 

「ビリの字!?」「パイセン……?」

 

「…………」

 

まるで、感情が宿っていないかのような表情をしたビリー……!

ついこの前まで一緒に練習していたあのビリーですの!?

 

ということは、今回の相手は、あのビリーが現在所属している組織……邪兎屋ッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-8回裏-

 

「やりましたわ!!」

 

そんなルーシーの声が僕の耳にも響いてきた。

キーンと3番・ルーシーが打った打球はそのまま地面を叩いて痛烈なゴロとなり左中間を抜け……!

ない!?パッと横っ飛びならぬ猫っ飛びをしたショートの猫又のグラブにボールが吸い込まれる!?

そしてそのままの体制で猫又がグラブを右手で叩くと、飛び出たボールを素手で受け取ったセカンドのアンビーが振り返りながらジャンピングスロー……。あっという間にツーアウトとなった。

 

「オーッホッホ!これが邪兎屋の魔のトライアングルよ!!」

 

そう高笑いをするニコ。

邪兎屋は敵ながら見事なチームだった。

相手のピッチャーであるビリーは、針の穴を通すようなコントロールで、僕達はボールを打つのではなく打たされていた。そのまま芯を外してひっかけたボールはショートかセカンド、あるいはピッチャーの「トライアングル」に吸い込まれる。

 

「ビリの字……覚悟しろよ!!」

 

そう言ってバットを構えたのはカリュドーンの子の4番、シーザーだ。

ビリーの速球だって、シーザーのパワーならホームランにすることが出来るはずだ……けれど、キャッチャーが審判に申告敬遠を申し出てシーザーはバットを一度も振ることなく一塁へと歩かされる……。

 

「オマエ、ビリの字!!正々堂々、勝負しろ!!」

 

「……」

 

いつもなら、アネゴであるシーザーに睨まれたらオーバーリアクションでビビるビリーが、今日はずっと沈黙を貫いている……不気味で怖いくらいだった。

 

「パイセン。チームを裏切って、そんなぬるい野球やってて楽しいっすか?」

 

「……」

 

「フン、聞こえないフリとかダサいんすよ。ま、打たれるのが怖いからそうやって勝負を避けて……」

 

瞬きする間もなく、ズドン!と剛速球がキャッチャーのミットに収まっていた。

それを見てサングラスがずれて驚くライトに、キャッチャーからの返球をぶっきらぼうにバシッと受けとって何も言わず打者に背を向けるビリー。

 

「は、ハハハハッ!!!」

 

ライトはそんなビリーの姿を見て口角を上げると目を輝かせて高笑いを浮かべる……。

しかし、ライトは次の瞬間には真剣な眼をしてバッターボックスでバットを構えていた。

 

「ちょっとビリー!アンタ何勝負してんのよ!!そいつとシーザーは敬遠よ敬遠!!」

 

「……」

 

また、あんな球を……と思っていたが、再びキャッチャーが立って、申告敬遠で歩かされるライト……メガホンを持ち、メスガキのような笑顔を浮かべたまま太い足を組んだニコ監督の作戦は徹底していた。

シーザーやライトといった強打者との戦いは徹底的に避けて、他のメンバーにはコントロールを活かしては、猫又とアンビーの居る内野に打たせて取る。

 

そうして、僕達は何時まで経っても初回に取られた1点を取り返せずにいた。

 

「どうしようお兄ちゃん!このままじゃカリュドーンの子が初戦で敗退しちゃうよ!?」

 

不安そうにそう呟くリン。確かに、このままじゃ……!

ヘルバの打った打球は当然のようにボテボテの内野ゴロとなり、あっという間にゲッツーを取られて……スリーアウト。チェンジだ。

 

凡打をしたヘルバはルーシーに鞭でオシオキされている……。

幸い、油断をなくしたシーザーの投球は打たれることはないが、次の打順は……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-9回裏-

 

あっという間に9回裏のツーアウト!?

オルバルは三振、満を持して代打で登場したリンは惜しくもキャッチャーフライに沈んだ。

 

「悪いけど、ボールがぶつかっても治療費何て出さないわよ、プロキシ!」

 

「かっとばせですわ!プロキシさーん!!」

 

「いけー!アキラ!オマエの根性!見せてやれ!!」

 

9回の裏、ツーアウト……ランナー無し……1点リードされている絶体絶命の場面だ。

ベンチのみんなの応援を背に受けて、ギュっと金槌……もとい、バッドを握る力が強くなる。

 

「お兄ちゃん肩の力抜いて~!!」

 

「打ったれ~!プロキシ~!」

 

夢にも思わなかった。

まさか、僕が、こんな野球映画の主人公みたいな逆境に立つだなんてこと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バットを構えると、ビリーが大きく振りかぶり……ボールを投げた!

 

僕は力の限り思いっきりバットを振った!

 

しかし、バットは空を切り、ストライク!と無情にもカウントが一つ進む。後2回空振りをしたらスリーアウト。そして、ゲームセットだ。

 

 

「ふわーあ、プロキシには悪いけど流石にもう終わりっぽいゾ……」

 

「……アキラ先生……頑張って」

 

「ニャ!?あ、アンビー!?」

 

 

ビリーが再び振りかぶる……。

僕は再びバットを強く握りしめ、低く飛んできたボールに向かってがむしゃらにバットを当てた。するとボールは飛んだが、ファールになってしまう……。後一球、後一球で終わってしまう可能性がある。

 

ドクンドクンと、鼓動の音が大きく聞こえる。

上か、下か……それともボール球で様子を見てくるか……!

 

「た、タイムですわ!!!」

 

と、そこでベンチに居たルーシーが審判に叫んだ。

緊張していた僕はバットを降ろしてベンチの方を見る、するとタイムをかけたルーシー本人がこちらに向かって走ってくる……。

 

「プロキシさん!!」

 

「な、なんだい?」

 

「……スゥー!ハァ!ほら、真似して!深呼吸ですわ!」

 

「!……スゥ!ハァ!スゥ、ハァ……」

 

……なんだろう、さっきまではボールの事とか、ストライクのコースのことしか見えていなかったのに……今、僕に見えているのはルーシーがルビーのような眼を細めて、優しく微笑んてくれる顔だけだった。

 

「プロキシさん、私の知っている「覇者」ならピンチの時こそ、最高の笑顔を見せるものですわ」

 

「あぁ」

 

「ですから、自分を信じて、思いっきりバットを振るんですわ!」

 

「……ありがとうルーシー。やってみるよ」

 

僕が笑顔で頷くとルーシーは満足げにベンチへと戻っていく……。

 

再びプレイ!とゲームが再開したため、何度かスイングをして、再びバットを構える。

 

「……フン、さぁ終わりよ!プロキシ!これで賞金と優勝賞品を貰ったら邪兎屋みんなで温泉旅行に行くんだから!!」

 

ニコのそんな悪役じみたセリフが聞こえたような気がしたけれど、僕は目の前の情報がどんどんとそぎ落とされていくようなそんな感覚があった。

僕が落ち着いて集中力を高めていくと……普段、イアスに感覚を繋げるような感覚が、ほんの少し、ビリーとも繋がったのを感じた。

 

ビリーの肘の動きや、指の形、投げようとしているコースが、自然と僕の頭にも入ってくる……。

 

その感覚に従ってバットを振ると、カキーン!と音が響いた!

 

ハッとして僕は反射的に走った!

1塁コーチのシーザーが走れ走れと腕を回す!

苦しくて、日ごろの運動不足からか横っ腹が痛い!!

そして、そのまま3塁に来ると三塁コーチのライトが頭から飛べ!と叫ぶので、僕は無我夢中でベースに向かって頭から飛び込んだ!

 

「セーフ!」

 

ワァっとみんなが湧いた。

僕は見えていなかったけれど、ちょうど返球が来ていたらしい。

やった!僕はズレたヘルメットをかぶりなおし、汗でじっとりとしたユニフォーム引っ張り風を送った。そして、膝に手をついてその場で呼吸を整える。

 

「やるな!あの状態のパイセンから打つなんて……」

 

「はぁはぁ、僕も不思議な感覚だったよ」

 

もしかすると、少しズルをしてしまったかも……?

あれ、キャッチャーが立った?

 

「こいつは……満塁策か!」

 

1点が勝敗を分ける場面。ツーアウトやランナーが2,3塁に居る時などには、ランナーを各塁でフォースアウトにしやすく、守りやすいことから敢えてバッターを歩かせて満塁にすることがある。

 

どうやらニコ監督はそのセオリーに従って塁を埋めることにしたらしい。確かに、猫又やアンビーの守備を活かすならば、そっちの方がはるかに有利だ。

 

1番がバーニス、2番がパイパーだったから、3番バッターとなると……。

 

「ルーシー……」

 

「フン!舐められたものですわ!」

 

そう言って、バッターボックスに入るルーシー。

そして、バットを観客席の方へと向ける……これは……予告ホームランだ!?

 

「ビリー、あなたの小さな脳みそのようなその棒玉。私がバックスタンドまで撃ち返して差し上げますわ!」

 

「……」

 

ビリーが構えると、シンと会場が静まり返る。

そして、ブンと投げた球をルーシーはカキーン!!と芯でとらえる!

 

が、ボールはファールポールの外側に逸れ、ギリギリ外れてファールとなった。

 

「フ、ルーシーは普段大将の剛球をあれほどミットで受けてるんだ。球筋の似たパイセンのボールは見えているんだろう」

 

「そうか……!」

 

そう言えば、シーザーの義手は元々ビリーのスペアパーツだったらしいから球筋が似るのは納得だ。それに、思い返せばルーシーは僕らの中でも唯一ビリーに打たされるのではなく、打っていた。普通ならヒットのあたりも多かったし、本当にホームランを……!

 

「タイムよ!!」

 

と、流れがこちらに来ていたこのタイミングでニコがタイムを送った。

タイミングをはずす良いタイムだけど、今度はどんな策を……と、そう思っていると、バッと立ち上がってグローブを持ってマウンドに走り始めるニコ。まさか!?

 

 

「ピンチピッチャー、あたしよ!」

 

そう言って、ニコは普段持っている鞄を構え、投球練習を始める……って!?

鞄でボールを射出している!!?

 

「あれって反則なんじゃ!?」

 

「……いや、ありだ。機械がダメっていうなら、パイセンも大将も反則になっちまう。それに、過去には戦車みたいなピッチングマシンを持ち出したやつらまでいたしな。大将の打球で粉々に壊されていたが……」

 

ルールは破るためにある!?

 

そして、宣言通り投球練習を終えたニコはピッチャーに。ビリーはそのままセンターにシフトしたようだ。

 

「……行くわよ!」

 

ニコがボールを鞄に入れ、ハンマー投げのように振り回すとまるですっぽ抜けたかのようなタイミングでボールが真っすぐミットへと向かう!

 

「く!」

 

タイミングがまるで合わず、辛うじて掠った打球はファールチップに。これでツーストライク!?

 

「ルーシー!しっかりしろ!!」

 

「ルーシー!大丈夫、落ち着いて~!!」

 

相手は何を仕掛けてくるかわからないニコ……最後の球はきっと予想もつかないような方法で飛ばしてくるに違いない……何か、僕に出来ることは……そうだ!

 

僕は先ほど自販機で飲み物を買うためにポケットにディニーが入っているのを思い出した。

 

ニコが今度は直立のまま、エーテルをチャージしてボールを射出せんと構えたその瞬間

 

ピーン!

 

と指でディニーを弾いて落とす……するとニコは凄い勢いで首を僕の方へと向け、体制が崩れたままボールは山なりにルーシーの方へと射出される……!

 

「しまっ!」

 

「絶・好・球!ですわああぁぁ!!!!」

 

ガッキーン!!!

 

と打ったボールはフェンスを越えて、バックスタンドへ!

バットを放りなげるルーシー、ガビーンと白い顔を浮かべるニコ。

ルーシーは、3塁の僕と目を合わせると顔を緩めて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プロキシさん!!」

 

ホームランを打ったルーシーが笑顔で僕に飛びついた。僕は少しよろけながらもそれを抱きとめる。

 

「ルーシー!ナイスバッティング!」

 

「そんな、プロキシさんが打ってくれたからこそ、私もそれに応えようと……」

 

「ルーシー……」「……アキラ、さん」

 

「ちょっと何よさっきの!!」

 

と、グイっと僕達に割って入ったのはほかならぬニコだ。

 

「あんた、さっき小細工したでしょ!?」

 

「えっと、何のこと?」

 

「このディニーよ!ディニー!!」

 

「あぁ、さっきたまたま落としてしまったんだ」

 

僕が落としたディニーをちゃっかり拾っているニコ。返してもらおうと手を伸ばしたが、スッとニコはディニーを素早く胸ポケットに入れて取られてしまった。

中々やるニャ~プロキシ。とか、プロキシ先生、カッコよかった。とか言って猫又やアンビーも笑顔を見せてフランクに接してくる。

 

「それより、ビリーだ。何があって僕達を裏切るような……」

 

「ビリーなら……」

 

そうアンビーが指さした先には、カリュドーンの子のメンバーたちに焼かれたり、蹴られたりしながらタコ殴りにされているビリーの姿が。

 

「ま、待ってくれアネゴ!!これにはブレイズウッドの渓谷よりもふかーい訳が!?」

 

「言ってみろビリの字!!言い訳する前にそのパワーアップしたボディとかいうのを粉々にぶっ壊してやる!!」

 

「パイセン、とりあえず決闘しませんか?300回くらい……!」

 

「イテェ!お、脅されてたんだ!ニコの親分に裏切らなきゃ半年分の給料を失くすって!!あと、スターライトナイトの限定フィギュアも人質に取られ、イタタタタ!!アッツ!!」

 

「おまけにテレビの権利も4カ月間はく奪という鬼畜条件だったんだゾ……」

 

「多分、ニコもカリュドーンにビリーが戻っちゃうんじゃないかって、不安だったんだと思う」

 

……なんだろう、ビリーが少し可哀想に思えてきた?

グイっと、引っ張られて顔が再びルーシーの元へと向く。

 

「プロキシさん、MVPには相応のご褒美が必要ですわよね?」

 

「うん?どうし……」

 

「「「「あー!!?」」」」

 

頬に触れた柔らかい感触と、カラカラと楽しそうに笑ったルーシーは間違いなく、今日一番の覇者だった。

 

その後、邪兎屋を引き入れた僕達は決勝へと破竹の勢いで勝ち進む。

しかし、決勝でぶつかったのは空中に浮かび、ホームランを捕球する外野のリナさんに、足でボールを打ち、俊足でフィールドをかける、それはもはや野球じゃなくてサッカーなんじゃないか?のライカンさん……!ベンチで寝ているサメ!

 

そう、トライアンフの雇ったヴィクトリア家政の面々が僕達の前に立ちはだかるのだった!?

 

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