異世界にゲームの姿でTS転生したので、従者と旅して回ることにしました。   作:愛枝ハル

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第35話 王妃

 王妃からの呼び出しに応えるため、俺は今リチャードさんと馬車に揺られていた。

 武器の携帯は許可されないだろうとのことで、リリーとアリアの武器も含めて、インベントリに収納している。

 

 服装は――子供っぽい黄色いパステルカラーのドレスを着ている。これはタミアでアリシアに買ってもらった物だが、リリーとアリアから着て欲しいと強い要望があったのだ。

 昨日あんなことを言ってしまった手前、断るのも気が引けるので渋々着ることにした。

 出かける前に俺の姿を見たリチャードさんが苦笑いしていたぞ…。

 

 目の前に王城の正門が見えてきたが、通用門から入るようにとのお達しだったので、王城の横へぐるりと回り込み、正門よりも一回りほど小さい通用門に差し掛かかったところで、門番に止められた。

 

 リチャードさんが馬車から少し顔を出すと、門番はギョッとしたような顔で驚いていた。

 「リチャード様!ここへは何用でお越しでしょうか」

 

 「王妃殿下からお呼びが掛かってな。これが証拠だ」

 

 「確かに王妃殿下の印璽ですね。今門をお開けしますから、少々お待ち下さい」

 リチャードさんが門番に手紙の封筒を見せると、門番は門を開いてくれた。

 

 王妃と会うのは王宮であって王城ではないため、通用門からさらに奥へと馬車を進める。

 王宮は王城の後ろ側に建設されているらしく、基本的に王族はそこで暮らしているらしい。

 

 周りの風景が荘厳な雰囲気から煌びやかなものに変わると同時に、正面に大きな門が見えてきた。

 門を挟むように二人の門番が立っていて、装飾の施された鎧は通用門にいた門番よりずっと豪華だ。

 

 通用門の時と同様にリチャードさんが手紙を見せると門を開けてくれたが、ここからは王宮に入るため、馬車を降りることになった。

 

 俺達が王宮を訪れることを事前に知らせていたのか、王宮へ入るとメイドが王妃の待つ部屋まで案内してくれるようだ。

 

 

 「殿下はこちらの部屋でお待ちです。では、私はこれで失礼致します」

 案内された部屋の前には女騎士が立っていて、中にいるだろう王妃へ確認を取ってから、ドアを開けて中に入れてくれた。

 

 

 

 「いらっしゃい。あら? 話には聞いていたけれど、本当に可愛らしい女の子なのね。本来の私室でなくて悪いけれど、座って頂戴」

 

 話しかけてきた女性はウェーブした長い銀髪で、伏し目がちで儚げな印象もありつつ、右目にある泣きぼくろで色っぽさも感じる女性だ。それに意外と若いみたいだ。王妃っていうくらいだから、もう少し年上だと思っていたが…。

 

 壁際に侍女や女騎士が置物のように立っているせいで少々落ち着かないまま、勧められた椅子に座ろうとしたところで、椅子が3脚しかないことに気がついた。

 ここに呼ばれたのは俺達とリチャードさん含め4人だ。もしかして、間違えたのか?

 

 「あぁ、元帥は別室で待っていて。それと、レイラ以外も外で待っていてくれるかしら?」

 

 「イリス様、どうかご再考を。 近衛として得体の知れぬ者だけ残して下がるわけには行きません」

 

 女騎士の一人が抗議するが、王妃の意思は固いようだ。

 

 「だからレイラを残すと言っているでしょう? 私はこの娘達とだけ話したいの、わかって頂戴ね」

 

 抗議した女騎士は納得のいっていない顔をしながらも渋々部屋から出ていき、他のメイドや騎士もそれに続くようにして出ていってしまった。

 

 「では、私も別室でお待ちしておりますので何かあればお呼び下さい」

 

 

 リチャードさんも退室した後、俺達が着席して黙っていると王妃から話を切り出してくれた。

 

 「突然呼び出されてびっくりしたでしょう? ふふっ。今日はね、あなた達にお礼を言いたくてここに来てもらったの」

 

 お礼? 何のことだろうか? そもそも初対面だよな、こんな奇麗な人一度見たら忘れないだろうし。

 

 「腑に落ちてないって顔ね? なら、これを見たらどうかしら」

 そう言って、王妃が首にかけていたペンダントを持ち上げて見せた物は、とても見覚えのある物だった。

 この世界に来て初めて出会った人型の生物。山羊頭の化け物からドロップした赤い宝石のペンダントだ。

 

 「あっ、それ…」

 

 「思い出したかしら? そう、このペンダントの持ち主が私なの。取り返してくれて、ありがとう。本当に感謝してるわ」

 王妃はお礼を言いながら、手に持ったペンダントを大事そうに撫でた。

 ただの一般人の俺達をわざわざ呼び出したくらいだ、余程大事な物なのだろう。

 

 

 「そうだ、お礼に良いものを見せてあげるわね」

 王妃がペンダントを両手で握り込み、ペンダントの赤い宝石が軽く光りだすと、王妃の姿が忽然と消えてしまった。

 

 「え!?」

 俺が驚くと同時に、アリアとリリーが椅子から立ち上がり警戒態勢に入って回りを見渡している。

 

 「ふふっ、びっくりさせちゃったかしら。 面白いでしょう? このペンダント」

 数秒ほどの静寂の後、さっきまで座っていた椅子に王妃が現れた。

 ゲームにもスキルでステルス状態になれるクラスがあったが、こっちの世界にもこういうことが出来るアイテムがあるんだな…。

 

 というか、ペンダントにそんな力があったなら、なんであの山羊頭は使わなかったんだ? これがあれば不意打ちし放題だっただろうに。

 

 「悪魔がなぜこのペンダントの力を使わなかったか不思議? 正確には使わなかったんじゃなくて、使えなかったのよ。このペンダントは私の実家であるジェイストン侯爵家の血を引いていないと使えないの。私が王妃の席に着いているのも、このペンダントを欲した王家のご意向ってわけね。だから、これが盗られた時は本当に焦ったのよ? バレたら側妃連中になんて言われるか――」

 

 王妃の話によれば、貴族間だけでなく王宮内でも派閥争いは行われていて、ペンダントによって王家と繋がっているだけの王妃はそれなりに立場が弱いらしい。

 まだどの妃にも子供が出来ていない現状で、ペンダントを失くすというのは、下手をすれば離縁もありえるだろうと言う時に、森での目撃情報が入ってきたため、極秘にガルドのギルドマスターへ依頼を出したのだそうだ。

 

 「だからね、本当に感謝しているのよ。内密のことだから、大々的にお礼をするというのは出来ないけれど、せめて直接お礼を言いたかったの」

 

 部屋にいた他の人達を外に出したのはそれが理由か。一人だけ残されている侍女は、この件について知っているから残されたんだろう。

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