異世界にゲームの姿でTS転生したので、従者と旅して回ることにしました。   作:愛枝ハル

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第45話 ファルム枢機卿

 広場へと向かうファルム枢機卿の足取りは軽く、早足を越えて小走りに近い速度になっている。余程リリーの魔法が見たいのだろう。

 

 枢機卿の後を追いながら廊下を進むにつれて、子供のような高い声がしてきた。前方へ目を凝らすと、芝生の生えた広場で子供たちが駆け回っている。

 

 「あ!院長せんせーだ!」

 「いんちょー!」

 

 ファルム枢機卿が広場へ姿を現した途端、駆け回って遊んでいた子供達が枢機卿のもとへ集まってきた。小さい子から中学生ほどの子までいて、年齢層はまちまちだ。

 

 それにしても、なんで院長と呼ばれているんだ?

 

 「ここの教会は孤児院も運営しているので、ファルム枢機卿は院長を兼任しているんですよ」

 マーサさんがこっそりと耳打ちして、俺に教えてくれた。

 

 孤児院ね…。確かにこの世界では魔物も出てくるし、そういった事が起こりやすいんだろう。

 子供からあれだけ慕われているところを見てしまうと、ますます自分の枢機卿への警戒心が下がっていくのを感じる。

 

 「皆さん、遊んでいるところ申し訳ありませんね。少しの間広場を貸してくれますか?」

 

 「えー、なんでー?」

 

 「この方達が良いものを見せてくれますから。きっとあなた達にとっても良い経験になると思いますよ」

 

 ファルム枢機卿が後ろにいる俺達へ手を向けて、子供たちに紹介した。

 

 「すごいきれいなひと!」

 「騎士様だ!」

 

 子供たちが俺達を見た途端にはしゃぎだして、今度は俺達が子供に取り囲まれてしまった。

 そんな子供達の中から、おずおずと控えめそうな女の子が話しかけてきた。

 

 「あの、えっと…、おねえちゃんたちはお姫様なんですか?」

 「え…」

 

 「ふふ、そうですね。このお方は私達のお姫様ですよ」

 

 俺が女の子の質問に面食らっている間に、リリーが女の子に答えてしまった。

 

 「わあ…! ほんとにお姫様なんだ…!」

 

 女の子はリリーの回答を真に受けてしまったようで、目をキラキラさせている。

 

 「おい、要らんことを言うな」

 「いいではありませんか、実際本当のことなのですから」

 

 くそ…、ここ最近の扱いから強く否定できないのが悔しい…!

 

 「ほらほら、お客様が困っていますから離れてこちらへ集まって下さいね」

 

 ファルム枢機卿が子供たちに声をかけると、あれだけはしゃいでいた子供たちが枢機卿のもとへ集まっていった。

 素直な子達だな。躾というか、教育もしっかりしていそうなのがわかる。

 

 「さぁ! いつでもよろしいですよ! 噂に聞く天使を見せて下さい!」

 

 広場の端へ移動したファルム枢機卿が目を輝かせながら、早く見せろとばかりに急かしてくる。それを見た子供たちも、何かが始まると察したのか、枢機卿ほどではないにせよワクワクした様子だ。

 

 「じゃあ、リリー。よろしく頼む」

 「はい。 “起動、大天使(ACTIVATION,GABRIEL)” 」

 

 リリーが学園の時と同様に魔法を行使すると、目の前の芝生に魔法陣が描かれ始め、そこから天使が召喚された。前回と同じ十字架を両手で持った天使だ。

 召喚と同時に、持続回復効果のあるフィールドが周囲に生成され、範囲内にキラキラとしたエフェクトが舞っている。

 

 「おお……、これが天使……。なんという神々しさ、なんという温かな光……」

 「なんと……」

 「すげー!さっき転んだとこが治ってる!」

 「息が苦しくない…」

 「アミちゃん! 顔の傷が治ってるよ!」

 

 どうやら天使の回復効果によって、子供たちに出来ていた傷が治っているようだ。その様子に、枢機卿や他の教徒達も驚いている。正直、俺も予想以上の回復効果に驚いている。

 あれ、そういえば学園ではこんなこと起きなかったよな? なんだか、想像以上に大事になってる気がするぞ。

 

 天使や子供たちの様子を見たファルム枢機卿が、よたよたと覚束ない足取りで歩き出すと、天使の目の前で跪いて祈り出してしまった。

 

 「あなた様の奇跡に感謝を。これからより一層、女神セレニタ様のお力を授かれるよう、精進して参ります」

 

 祈られても召喚した天使はただの人形みたいな物だし、そもそも女神とは全く関係が無いんだけどな…。どうしたもんか…。

 

 

 

 

 

 

 

 「本当に天使様を召喚してみせるとは…! 内心半信半疑でしたが、素晴らしい神聖魔法を見せて頂きました…! これほどの神聖魔法は見たことがありません!」

 

 天使を召喚してからは子供たちだけではなく、教徒たちも興奮を抑えきれなかったようで、天使の効果時間が切れるまで教徒たちが祈り続けていた。

 子供たちも小さな怪我が治るどころか、肺の持病が治って泣き出してしまった子まで出てきて、てんやわんやだった。

 

 あれから数十分ほど経ち、俺達は部屋へと戻ってきていた。ファルム枢機卿は興奮冷めやらぬといった様子で、未だに息を荒くしている。後ろに立っている男たちも、心做しか恍惚とした表情をしている。

 

 「リリー様、本当に教会へは来て下さらないので…?」

 

 「ええ、私が仕えるのはスズ様ただお一人です。私にとっての女神と言っても、過言ではありません」

 

 「そうですか…。ならば、せめてこちらを受け取っては頂けませんか」

 

 ファルム枢機卿は細長い箱を取り出すと、ぱかりと開いて中の物を見せてくれた。

 中に入っていたのは小ぶりのネックレスで、円の中に銀、青、紫がグラデーションになっている。グラデーションは縦に弧を描いていて、まるで月の満ち欠けのようだ。

 

 枢機卿の後ろにいる男の一人が、そのネックレスを見て枢機卿へ進言した。

 

 「枢機卿! 教会外の者へそれを渡すのは」

 

 「あなたもあの天使を見たでしょう。確かに彼女は教会の人間ではありませんが、彼女ほど相応しい人間もいないと、私は思います。リリー様、これはセレニタ教における聖女の証です。身につけはせずとも、せめて持ち歩いて頂けませんか」

 

 「聖女の件はお断りしたはずでは?」

 

 リリーが突き放すが、ファルム枢機卿は食い下がるように言葉を続けた。

 

 「もちろん、聖女として振る舞って頂く必要はございません。ですが、あなたほどの神聖魔法の使い手は、いつかこのロザリオを必要とする時が来るでしょう。もし何もなければ、そのまま眠らせておいて構いません。どうか受け取って下さい」

 

 リリーが受け取っていいか聞くように俺を見てきたので、受け取れと意味を込めて頷いた。

 ネックレス――じゃなくて、ロザリオ(?)を受け取ったリリーを見て、ファルム枢機卿はホッと肩を撫で下ろした後、頭を下げて礼を言った。

 

 「ありがとうございます」

 

 

 

 「ではっ、お話はここまでということで、これで失礼致しますね」

 マーサさんがパンと両手を打って、帰りの合図を出した。

 これ以上いるとリリーが色んなことに巻き込まれそうだし、帰るには丁度いいタイミングだろう。

 

 

 礼拝堂へと戻ってくると、見送りのためなのか付いてきたファルム枢機卿がお祈りをしていったらどうかと勧めてきた。

 減るもんでもないし、元の世界でも神社に行ったら必ずお参りしてたしな。ここでお祈りするのも、また一興だろう。

 

 女神セレニタを模した大きな石像の前で跪いて、両手を組む。何を祈ろうか、何も思いつかないし、旅の安全でも祈っておこう。

 (俺達の旅が平和なものでありますように)

 これじゃお祈りじゃなくて願い事か? まぁ、似たようなもんだろ。

 

 

 お祈りを終えて礼拝堂から出ると、俺達が乗ってきた馬車が既に待機していた。後ろにももう一台馬車があるが、俺達以外に礼拝堂に来た人がいたのかな?

 マーサさんとアリアが先に乗り込み、リリーと俺が続いて入ろうとしたところで、もう一台の馬車の方から声が上がった。

 

 「ファルム枢機卿、どこへ行かれるおつもりですか?」

 

 「決まっているでしょう、あの方達に付いていくんですよ」

 

 一緒に見送りへ来ていた教徒の男性がファルム枢機卿を問いただすと、枢機卿はなんでもないと言った顔で答えた。

 

 「ダメに決まっているでしょう! 何を考えているんですか!」

 

 男性がファルム枢機卿の腕を掴んで馬車から離そうとするが、枢機卿は馬車をがっちりと掴んで放さない。

 

 「放しなさい! 私は聖女の後を追い新たな神聖魔法の境地を見つけなければならないのです!」

 

 「やはりリリー様にロザリオを渡したのはそれが目的でしたか! そうはいきませんよ! 貴方には境地よりも面倒を見てもらわなければいけませんからね!」

 

 「くっ、くおおおおおお!」

 

 教徒一人ではマズいと感じたのか、他の教徒も協力してファルム枢機卿を馬車から引き離そうとするが、なおもファルム枢機卿は動かない。

 

 「こ、このジジイ、こっそり身体強化魔法を使ってやがる!」

 

 ファルム枢機卿のしつこさに教徒から荒い言葉が飛び出したところで、馬車の中にいるマーサさんから声がかかった。

 

 「スズちゃん!枢機卿を馬車から引き剥がして!遠慮は要らないわ!」

 

 遠慮は要らないって、そういうことかよ! だが、確かにあれが旅に付いてこられるのは困る。

 動きは俺でも止められるが、リリーの方が確実なので魔法で動きを止めるように指示を出す。

 

 「わかりました。“バインド”!」

 

 光の輪がファルム枢機卿を縛り付け、ついにファルム枢機卿の動きが止まったが、それでも芋虫のようにモゾモゾと動こうとしている。

 

 「この魔法はっ!? もしやこれも新たな神聖魔法!」

 

 取り押さえられたファルム枢機卿がまだ何やら叫んでいるのを尻目に、俺とリリーはそそくさと馬車に乗り込むと同時に、馬車が走り出した。

 ファルム枢機卿のあの奇行が気になり過ぎるので、マーサさんに聞いてみる。

 

 「なんなんですか?あれ」

 

 「ファルム枢機卿は神聖魔法狂いなんです。知らない神聖魔法は無いとまで言われるくらい研究熱心で、その結果枢機卿に任命されましたが、教会の(しがらみ)が嫌になって、総本山の教国からここの教会に逃げ出して来たんです。神聖魔法の腕や知識は確かなので人望はあるんですが、神聖魔法と聞くと王城でもどこでも構わずに突撃してくるので、一部では要注意人物扱いされています」

 

 苦笑いしながら、マーサさんがファルム枢機卿のことを教えてくれた。

 

 王城に突撃って…、そりゃリチャードさんも警戒するわけだな…。

 

 




ストックが無くなったので、ここからは隔日更新になります。すみません。
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