異世界にゲームの姿でTS転生したので、従者と旅して回ることにしました。   作:愛枝ハル

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第72話 山脈の先

 「さむぅ~!!」

 「大丈夫ですかスズ様!」

 「大丈夫だー!」

 

 俺達を背に乗せたジェイドが山脈を越えるためにぐんぐんと上昇していく。だが上がっていく高度とは反比例して、気温は肌に痛いくらい寒くなり、風も強まってきた。むき出しの顔面が凍りつきそうだ。

 それに、気がつけば周囲の視界が霧に包まれてよく見えなくなってきている。恐らくだが雲に近い高さまで上がってきたんだろう。さすが国交を断絶するほどの山脈だけあるな。

 

 『頂上が見えてきたぞ』

 「本当か!?」

 

 強風のせいで声がよく伝わらないので思わず大声を出してしまった。だがこの寒さももう少しの辛抱か。頂上まで行けば後は下るばっかりだからな。

 

 それからしばらく寒さに耐えていると、一瞬だけ体が浮く感覚があった。

 やっと頂上を越えてジェイドが高度を下げたのか?と思った瞬間、そのまま一気に高度を下げ始めた。

 

 「もうちょっとゆっくり降下してくれ!」

 『雲を抜けるまでは我慢しろ。我も寒いのはあまり好かん』

 

 俺の声で速度が落としてくれたが、それでも十分に速い。時折腰が浮いてしまっている。ベルトで固定していなかったら投げ出されているところだぞ…。

 

 『抜けるぞ』

 

 ジェイドがそう言った直後、霧がかった視界が一気に晴れ、地上の景色が露わになった。

 手前側はまだゴツゴツとした山地だが、遠くには平地が続いている。よく見れば街のようなものも小さくではあるが確かに確認できた。

 あれが獣王国だろうか? 国があんなに小さいわけはないから、街の一つなのか? 一先ずの目的地はあの周辺になるかもしれないな。

 

 

 雲を抜けてさらに高度を落とせば、あれだけ凍えていた気温もすっかり落ち着ついて、コートの温かさも感じれるようになった。

 

 「ジェイド、ここらへんで降ろしてくれ」

 『ぬ? あの遠くに見える街までまだ距離があるではないか。あそこまで運んでやるから遠慮することはないぞ』

 「お前みたいなバカデカいドラゴンが近づいたら大騒ぎになるだろ! ここからはじっくり徒歩で行くからここまででいい」

 『むぅ…。そういうものか、仕方ない』

 

 ジェイドは俺の言う通りにその場で高度を下げて着地した後、俺達が降りやすいように腹這いになってくれた。

 

 「スズ様、お手伝いいたします」

 

 いつの間にかベルトを外したアリアが、素早く俺のベルトも外し、そのまま俺を抱き上げた。

 

 「一人で降りれるのに…」

 「いえ、万が一ということもありますので」

 

 俺を抱きかかえたままアリアがジェイドの背から飛び降り、リリーもそれに続いて降りてきた。

 

 『では我は戻るとしよう。帰りたい時は適当に呼べ、お前達の匂いは特徴的だからすぐに分かる』

 

 ジェイドはそれだけ言い残して、そそくさと山脈の方角へ飛び立ってしまった。

 随分とあっさり帝国に戻るんだな…。

 

 

 「ではどこを目指しますか。やはり遠くに見えた街へ?」

 「いや、実は手前に村みたいな場所を見つけたんだ。まずはそこに行ってからにしよう。徒歩だとここからじゃ街は遠すぎるしな」

 「わかりました。では早速向かうことにしましょう」

 

 一先ずの目的地を聞いたアリアとリリーが歩き出し、俺達の獣王国への旅が始まったが、アリアにまず言っておかなければいけないことがある。

 

 「なぁアリア、ちょっといいか?」

 「はい、なんでしょうスズ様」

 「そろそろ降ろしてくれ」

 「わかりました…」

 

 アリアは名残惜しそうな顔を見せているが、抱えられたまま村に行くのは甘えすぎというか、さすがに恥ずかしすぎる。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 あのまま歩き出したはいいものの、結局村へ到着するまでに日を跨いでしまった。久しぶりにライウッド侯爵から貰った小屋からアバタールームに入って夜を明かしたが、最近は宿か屋敷の客室にばかり泊まっていたせいか、アバタールームはやけに新鮮味があった。

 

 そんなことを考えているうちに、村はもう目前だ。村の周囲は木で出来た簡素な柵で囲われており、正面には村の出入り口だと思われるアーチがかけられている。街と違って門のような物は無くぽっかりと空いたままだが、門番はちゃんといるようで一人の獣人が槍を持って立っている。

 

 早速声をかけようと近づくと、その獣人は槍をこちらに向けて警戒の色を露わにしてきた。同時にアリアが俺の前に立って門番との間に入ってくれた。

 

 「貴様ら何者だ! この村には何も無いぞ!」

 

 な、なんだ、俺達そんな怪しく見えるか!?

 

 「ま、待ってください! ちょっと話を聞きたいだけなんです! あっ、ほ、ほら、帝国からの紹介状も持ってるんです!」

 

 エリスさんから貰った紹介状を取り出して門番に見せるが、何故かより警戒の色が強まった。

 

 「帝国? 帝国はあの山脈の向こう側だぞ! 嘘を付くならもうちょっとマシな嘘をついたらどうだ!」

 「だからその山脈を抜けてっ」

 「黙れ! それに後ろにいる女はセレニタ教徒だろう!? この村には一歩も…!ゴホッゴホッ! うっ…!」

 「大丈夫ですか!」

 

 門番は言葉を最後まで言い切る前に急に咳き込みだし、ついには膝を付いてしまった。よく見ると顔色がかなり悪い。

 どうなってるのかわからないが、とにかくこのままじゃマズい。

 

 「リリー、回復してやってくれ」

 「はい。“高位回復《ハイヒール》”」

 

 リリーが回復魔法を唱えると、緑色のエフェクトが獣人を包み込む。

 

 「ゴホッゴホッ! はぁ…はぁ…。お……なんだ、急に呼吸が楽に…」

 「どうですか? 楽になりました?」

 

 俺が再度話しかけると、獣人はが驚いたような表情でこちらに顔を向けた。

 

 「これ、まさかお前達が?」

 「ええ、回復魔法を使わせました」

 「なんで…、この村に治療費を払えるやつなんでいないぞ。まさか村から取り立てる気か?」

 「何を言ってるかわかりませんが、効いているなら良かったです」

 

 門番の顔色は咳き込んでいた時よりもずっと良くなっている。無事に回復魔法が効いて良かった。最近は回復魔法が効かない事が多くてちょっと不安だったんだよな。

 

 「アンタら、セレニタ教徒じゃないのか? 今神聖魔法を使ったじゃないか」

 「セレニタ教自体は知ってますが、教徒ではないですね。今使ったのも神聖魔法とは違います」

 「そ、そうだったのか…。じゃあ治療費も…」

 「要りませんよ」

 「ハァ…。本当に申し訳ない、この通りだ」

 

 門番がやっと警戒の色を解いてくれたと思いきや、今度は膝を付いて頭を下げてきた。まるで土下座のような姿勢だ。

 

 「大丈夫ですからっ。それより、なんでそんな警戒していたんですか?」

 「あぁ、実はな…」

 

 門番はポツポツと事情を語りだした。

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