異世界にゲームの姿でTS転生したので、従者と旅して回ることにしました。   作:愛枝ハル

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第74話 パヴァン

 カラナさんの家を後にした俺達は、村にまだ残っている病状が芳しくない人たちの家を回った。リューくん以外にもそういった村人は多く見受けられ、子供だけじゃなく老人にも病状の重い状態の人がいた。

 恐らくだが、疫病は強めの風邪を引き起こす程度のものでも、体が十分に出来ていない、もしくは体が弱い子供や老人は合併症を引き起こし、症状が重くなるのだと思う。

 

 「スズさん達はこの後どうする? 生憎この村には宿は無いが、村長に言えば喜んで集会所を開けてくれると思うぞ」

 

 集会所、というのはこの村で一際大きい建物のことだろう。どの家を見ても他人を泊められるような広さがないから、俺達がここで一泊するとなれば、あの集会所を開ける以外に無いのか。

 

 「それとも街へ送っていこうか? 今出発すれば、日が完全に落ちる前に着けると思う。ただ荷馬車になってしまうから、乗り心地は悪いと思うが…」

 

 助かるな。街へ行けるならそれに越したことはない。元々手前のこの村で話を聞いてから街へ向かう予定だったんだ。街には宿があるだろうし、一先ず街へ行ってからこれからのことを考えよう。乗り心地の悪い馬車だって、初めてじゃないんだ。

 

 「なら、街へ送ってもらえると助かります。いいですか?」

 「任せとけ! 今馬車を持ってくるから、待っててくれ!」

 

 そう言って嬉しそうに走っていったヤラさんは、5分も経たずに荷馬車に乗って戻ってきた。そのまま3人で荷馬車の中に乗り込むと、ヤラさんは静かに荷馬車を走らせ始めた。

 俺達の乗る荷馬車がもう少しで村を出ようという時になって、村人が村の入口に集まり始め、俺達を送り出してくれた。

 

 「嬢ちゃんありがとうなー!」

 「ばいばーい!」

 「いつかお礼をさせて下さいねー!」

 「聖女様ありがとー!」

 

 リリーが治した村人が口々に手をブンブンと振りながらお礼を言ってくれている。聖女という言葉には少しギクリとしたが、まさかバレてるわけじゃないだろう。あのロザリオだって、見せたわけじゃないしな。

 

 「ははは、聖女様か。確かに聖女様って言ったら、リリーさんみたいな人を言うんだろうなぁ」

 

 ヤラさんが冗談めかしてそう言うが、ほぼほぼ当たっているので「ははは…」と苦笑いで返すことしか出来なかった。

 

 

 

 

 俺達を乗せた荷馬車が街へ着いたのは、日もすっかり落ちた頃だった。街は当然のごとく村とは違い、立派な壁に囲まれ出入りを管理している門も頑丈そうで立派な作りだ。

 

 「お~い!! もうすぐ門を閉じるから急げ~!!」

 

 辺りが暗くなっている中俺達を見つけた門番が呼びかけてきた。すごいな、もうすっかり暗いのに俺達がわかるのか。獣人だし獣っぽく夜目が効いたりするんだろうか?

 

 「うおっ」

 「掴まっていてください、スズ様」

 「ああ、助かる」

 

 門番に呼びかけられたヤラさんが馬を急かして走らせるので、荷馬車がガタガタと揺れてうっかり荷馬車から落とされそうになってしまった。

 

 「まさかヤラか?どうしたんだこんな時間に。もしかしてまた教会に頼み込むつもりか? 悪いことは言わんからやめておけ、カラナさんには気の毒だが…」

 「そのことならもう済んだよ、キーン」

 「済んだってまさか、子供が…」

 「違う違う! この人が治してくれたんだよ! ほら、俺もすっかり治っちゃってさ!」

 

 ヤラさんが荷馬車に乗ったままの俺達に手を向けると、門番の視線がこっちを向いた。

 

 「治したって…、確かに前来たときよりもずっと顔色がいいが…。まさか教会が?」

 「彼女はセレニタ教とは関係がないらしい。でも村中の病人を治して回ってくれたんだ。もちろんリューもすっかり元気になった。こんな時間に悪いが通してやってくれないか」

 「お前の頼みでも通行証が無いとな…」

 

  門番は困り顔で頭の上についたケモ耳をポリポリと掻いている。どの街でも国でも通行証が無いと入れないのは同じか。でも帝国の紹介状を出しても、前にヤラさんに見せたときと同じようなことになりそうだしな…。

 俺が正直に紹介状を出そうか迷っていると、ヤラさんが助け舟を出してくれた。

 

 「意地悪言うなよ、俺とお前の仲だろ?」

 「う~ん…、まぁいいだろ。俺もそろそろ交代の時間だし、早く門を閉めて休みたい」

 

 ほっ…、良かった。ヤラさんに感謝だな。

 

 「すみません。ありがとうございます」

 「気にしなくていい。ヤラの紹介なら心配することも無いだろうしな。何か街で困ったら頼ってくれ」

 「早速でなんなんですが、今から泊まれる宿ってあったりしますか?」

 「それなら月の光亭だな。遅い時間まで受付をしているから、今からでも泊まれるはずだ。この道を真っ直ぐ行って2番目の十字路を右に行けば看板が見えるから、それを目印にするといい」

 「道のりまでありがとうございます。早速行ってみますね」

 

 

 

 街に入る俺達とは逆に、ヤラさんは荷馬車を引いて村に戻っていった。こんな夜中に大丈夫なのかと思って聞いてみたが、夜目が効くので問題はないと言って去ってしまった。魔物のことを聞きたかったんだが、本当に大丈夫なのか…?

 

 ヤラさんのことは心配だが、行ってしまったのなら仕方がないので街に足を踏み入れると、街全体がシンと静まり返っていた。夜中だから、というだけでは理由がつかないほどの静けさだ。もしかしたらこの街も疫病のせいで皆が外出を控えているのかもしれない。

 

 門番――キーンさんって言ってたっけ――に聞いた通りの道を辿ると、確かに大きな満月が描かれた看板が見えた。あそこが月の光亭だな。

 月の光亭の引き戸を開けて中に入ると、女将さんらしき獣人がカウンターの向こう側で驚いた表情をしながら俺達を見ていた。

 

 「こんな時に珍しいね、それに人族なんて。泊まりかい?」

 「あ、はい。とりあえず一晩だけ……あっ!」

 

 やべ~、今気づいたけど獣王国の通貨持ってないじゃん…。どうしよう…。

 

 「すみません。今この通貨しか無いんですが、泊まれますか?」

 

 仕方なく帝国金貨を取り出して女将さんに見せるが、首を傾げてしまっている。

 

 「これ、どこの金貨だい?」

 「帝国です」

 「帝国? はぁ~まぁいいさ、これは返しておくから朝一でギルドに行って換金してもらいな。身なりも良さそうだし、逃げたりもしないだろ」

 

 そう言って女将さんはカウンターに鍵を置いた。

 

 「部屋番は鍵に書いてるからね」

 「ありがとうございます。必ず返すので」

 

 俺の言葉にヒラヒラと手を振って返した女将さんは、そのままカウンターの奥に消えた。

 

 

 

 

 受け取った鍵に書かれた番号の部屋には入らずにアバタールームへ繋げた後、冷えた体を芯から温めるようにお風呂に入った俺達は、3人でくっつくようにして眠りにつく。

 

 そしてその翌朝、俺達は扉を乱暴に叩く音で目を覚ますことになるのだった。




セリフが多い。
キーンって名前、前も使ったっけ…?
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