でも、みんながやれっていうから!
一応この世界にもボ卿はいます。出会わなかっただけです。
◇D.U区内・病院
病室のベッドの上で寝ている少女。
その表情は穏やかであり、傍から見るとただ寝ているだけのように見える。
実際は1週間以上意識が戻っていない状態である。
結局、今までに大きな進展はなく、ただ時間だけが過ぎていた。
唯一の救いは眠っている間は安定している事だった。
”ミツレ・・・”
私は懐から【大人のカード】を取り出す。
私が持っている中で最も可能性を持った物だ。大きな代償と共にまさに〈奇跡〉と言われるようなことを起こせる代物だ。
だが、黒服が言っていた、代償が足りない。これが引っかかる。
生徒のために、この身を捧げる覚悟はあるがそれで解決しなかった時が怖い。
すべてが丸く収まる可能性もあればそうならない可能性もあると言うことである。
危ない橋は渡れない・・・これは最後の手段だ。
~♪~♪~♪~
端末に連絡が来る。病室の外で出てみる。
『先生、こんにちは。少しお時間はあるでしょうか?』
”何の用だ黒服・・・”
黒服だった。もう連絡などして来ないだろうと思っていたが予想が外れたようだ。
『いえ、少し伝えたい情報があったのでお電話したまでです。』
こいつのことだ何か見つけたのだろう。聞くだけ聞いてやろう。
『先日、ゲマトリアに新しい仲間が入りましてね。その者が興味深い実験をしていたので木立花ミツレの治療に協力できないかと思いまして・・・』
【実験】そう聞いて私は最初にホシノの件が頭に浮かぶ。黒服の事だ、また騙しているのかと疑うが私達だけではもはや手詰まりともいえる状態だ。
私は、黒服の協力を・・・
〇受ける
〇受けない
”いや、結構だ。あなた達の協力は受けない。”
『・・・・・そうですか・・・いえ、あなたがそう判断したならいいのです。我々も信用が足りませんでしたね・・・』
黒服が残念そうにするが、怪しい提案には乗れない。
黒服との通話を切り病室に戻る。
「・・・ぁ、先生!おはよう。」
そこには1週間ぶりに目を覚ましたミツレがいた。
”おはよう、ミツレ。体調はどうかな?”
「えっと・・・少し体が重いけど、大丈夫!」
”よかった・・・無理はしないようにね。”
長い間寝ていたことを感じさせないような笑顔を見せてくる。
しかし、声は所々震えており、長くしゃべると激しく咳込んでしまう。
私は少し困惑するミツレを静かに抱きしめた。
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◇数日後
今日も私はミツレの元に来ていた。
あれからも進展はない。しかし、ミツレは元気を取り戻しており、以前のようにいろんな人がお見舞いに来てくれている。
病室の前に着き扉を開ける。
そこには珍しい人物がいた。
”あ、ヒナも来てたんだ。”
「ええ、ようやく仕事が片付いたから・・・」
ヒナ曰く、風紀委員長の仕事が多く、面会が許可されても来れなかったらしい。
私もヒナとミツレの会話に加わろうとした時、異変が起こった。
「・・・ぅ・・・こほッ、ゲホッ!あ”っ!」
突然、ミツレが血を吐き始めた。
その勢いは激しくこのままでは命の危険がある。
「まずい・・・先生!今すぐ人を呼んできて!」
いや、この勢いでは医者たちも間に合わないだろう。
このまま生徒が死んでいく様を黙ってみるわけにはいかない。
私は懐から【大人のカード】を取り出しミツレに触れる。
カードが光だし体の中から何か大切なものが抜けるような感覚がする。
倦怠感、めまい、吐き気、意識の混濁、様々な苦痛が私の体を蝕む。
しかし、歯を食いしばりながら耐える・・・が、私も口から少量ながら血を吐きだす。
「先生!」
”大丈夫・・・大丈夫だから。”
ヒナが駆け寄ってくる。
ここでやめるわけにはいかない、何としてもミツレだけは助ける。
「・・・はっ!・・・はっ、せんせー。」
ミツレが此方に気づく、私はヒナに支えられながら笑顔で頭を撫でる。
”大丈夫・・・ミツレは助けるから・・・”
「?・・・っ!、だめっ!」
ミツレが今までの彼女からは想像できない力で私とヒナを突き飛ばす。
私はヒナに受け止められたがかなり離れてしまった。
「先生を犠牲にするぐらいなら・・・私が・・・」
「ミツレ・・・ダメッ!」
ミツレの手には果物ナイフが握られており、それを自分の喉に当てる。
ヒナが弾かれるようにミツレの方に走るが・・・
「ありがとう、先生・・・私、みんなに会えて幸せだった。」
「いろんなことが経験出来て、いろんな人に会えて・・・もう十分だから。」
「委員長もごめんね・・・こんなお別れで・・・」
喉にナイフが突き刺さる。
ナイフが抜かれると同時に赤い液体を大量に流す。
ミツレの体がその場に倒れ、床を赤く染めていく。
扉が開き、セナとセリナが駆け込んでくる。
そこで私は意識を失った。
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◇???
暗い空間の中、私はミツレと対面していた。
ミツレは少し寂しそうな表情だった。
「先生、ごめんね。こんなことになって・・・」
”ミツレが謝ることじゃないよ・・・私の力不足だから。”
ミツレは私に抱き着き泣き始める。
私は黙って頭を撫でる。
しばらくすると、ミツレは私に光り輝く何かを渡してくる。
そして、少し離れて振り返る。
「もうそろそろ行かなきゃ・・・ごめんね、こんなお別れで、でも先生のおかげで私・・・とても楽しかったんだ。」
「見たことない物、聞いたことない音、おいしい食べ物、いろんな人たち・・・皆、あの場所じゃできなかったこと。」
「ありがとう、先生。そしてさようなら・・・じゃあね。」
”待って!”
ミツレが暗闇に向かって歩いていく、その体は徐々に崩れ、最後には消えてしまった。
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「・・・んせ・・・」
うっすらと光が見える。
「せん・・い・・」
誰かが呼びかけてくる。
「・・・・先生!」
”はっ!”
一気に意識が覚醒する。
天井が見え、次に誰かがのぞき込んでくる。
「先生!大丈夫ですか!?」
彼女は・・・たしか、ゲヘナ救急医学部の氷室セナだ。
「相当うなされていましたが・・・どうかされましたか?」
”いや、大丈夫・・・それよりも、ミツレは!?”
私の質問を聞くと、セナは苦悶の表情で首を横に振った。
案内された場所は遺体安置所、そこにミツレはいた。
傍らには泣き崩れるヒナの姿、ミツレの手を握りずっとミツレに謝っている。
結局、私は間に合わなかった。
生徒を犠牲にし生き残ってしまった。
助ける。と口で言うだけで何もできない。
どこで間違えたんだろうか・・・どうやったら救えただろうか。
私はただ、後悔と懺悔をするしかなかった。
はい!今回は!ここまでです!
次回、もっとも~っと苦しむ予定です!
お楽しみに!