異能持ちの不良、異世界でも不良を束ねて、いつか世界を救うらしい 作:melk
いつも通り中途半端になる新規小説を?
書き始める人がいるんですかぁ?
自分が楽しいと思っているうちは書く。みんなが楽しんでくれてそうならできるだけ頑張る。
「ん?今日だっけ、チーム
「あと一時間くらいだよ。この時間って決めて宣戦布告したのは君じゃないか」
「んじゃ、みんなに集合かけといて」
とある廃倉庫でたむろする少年たち。一般的に見て「不良」と呼ばれる類の者たちだ。
倉庫内にいるのは今は10人ほど。その中でも異様に目を引くものが一人。赤みがかったオレンジの髪を、長いのか毛先を結んで左肩から垂らしている。やや中性的な見た目をしており、髪型のせいもあって、女子に間違われることもあるだろう。
灼髪の少年と話していた、こちらもまた中性的な見た目のメガネの少年はため息を一つ吐き、スマホを手にメッセージを送ろうとする。
だが、その必要はなかったようだ。すでに倉庫の入り口には不良たちがぞろぞろと集まってきていた。
「僕が連絡する必要はないみたいだね」
「おお、お前ら早かったな!」
「当然だろ!喧嘩の時間はもう迫ってんだからな!」
「んな焦ることもないと思うが・・・。まあいいや、全員集合~!」
灼髪の少年の気の抜けるような号令がかかると、誰一人として文句を言うものもなく集まる。
一息吸って吐くと、先までの気だるげな雰囲気は消え失せ、その中性的な顔立ちには好戦的な笑みが浮かぶ。紛れもなく、闘争本能を顕わにした男の顔だ。
「欠けてる奴はいねえな?」
「当然だ。お前の号令に従わぬ奴など、チーム“灼熱”にはいない」
「ん。さてお前ら、今日の喧嘩の意味は分かるな?」
全員息を飲む。この一戦、勝った方が事実上の東京の不良のトップということになる。負ければ2番手ではなく、最底辺に落ちる。まさに天国と地獄の分かれ目といっていい。倉庫内の不良全員に緊張が走る。
「勝ち負けを気にして緊張してんじゃねえよ。どうせ俺たちが勝つ」
「はは、うちのリーダーはすげえ自信家だな・・・」
「勝ちは決まってるならこの一戦の意味、それは未来の部下の教育だ」
大きな戦いを前にして、見据えるのは抗争のその先。
自信の表れともいえるが、それ以上にこれが「チーム灼熱」のリーダー“
「奴らの実力、人柄、強さの根幹・・・見極めろ。そして、いる/いらないを判断しろ。いると言ったやつは責任を持って教育しろ」
全員が静かに頷く。戦い前のピリピリしたムードが一転した。皆の心が、目の前の戦いから、今後の自分たちの居場所の在り方や理想へと転化された。
“戦いのための戦い”を求めている訳ではない者もいる。本質的に、チームの存在意義は“心地の良い居場所であること”なのだ。それを無理に戦え、勝てと言ってもチームは一つにはならない。居場所がなくて辛い思いをしたから、誰かに居場所を作ってもらえる温かさを知っているから―。
このチームは誰かの居場所を作るための戦いに最も強い、それに確信を持っているからこその灼の言葉だった。
「お前たちの選んだメンバーなら、俺も信じよう。さあ、器の大きさで惚れさせてやれ!未来の友には友好を、救いようのないクズには制裁を。俺たちは義賊だ。行くぞ、友を救う戦いに!」
「「「おおおおお!!!」」」
歓声が倉庫を振るわせるほど鳴り響く。士気は最高、まともにやれば負けようにもないほど、チーム灼熱のメンバーの心は滾っていた。
しかし、水を差すかのように不穏な影が迫る。抑えきれないほどの熱気は、チームの最後列にも十分すぎるほど届いていた。それゆえに、今まさに振り下ろされんとする金属製のバットに気が付かない。
「・・・随分と早い開戦だな。お前らついに時計まで読めなくなっちまったか?」
「!?」
「なぜ、虎武羅の奴らがここに!?」
バットを寸でのところで止めたのは一番遠くにいたはずの灼であった。唯一メンバーの方を向いていたため、気づくのは不可能ではない。しかし、バットを振り上げたのを見てから、動き出して間に合う距離ではないはずだ。
奇襲に失敗したことで、逆に敵に動揺が走る。しかし、幹部らしき男が一括する。
「お前ら、ビビってんじゃねえ!ちょっとしたイタズラがたまたま気づかれただけだろ!こっちには何人いると思ってる!」
倉庫の出入り口がすでに包囲されていた。灼熱のメンバーからは、敵の全貌が見渡せないが、明らかにこちらよりも人数が多いのだろうということは予想がつく。
「なるほど、数人の暴走って訳じゃなさそうね。・・・ったく、ルール一つも守れねえのかよ。“戦闘開始はお互いの決めた時間になってから”っていう暗黙の了解すらなくしちまったら、ただイキったガキ同士の喧嘩でしかねえだろうが」
「逆だろ?何お行儀よく時間なんか守ってやがる。真面目か。俺たちは不良だろ!好きに暴れてナンボだろうよ!」
「聞き分けのねえガキだな。おし、ちょっと予定が変わったが、お前ら行くぞ!」
引き金は”虎武羅”による掟破りの不意打ちだったが、開戦の合図は
人数の不利は、ホームでの戦いによる地理的アドバンテージで補う。色々なところに隠してある武器を手に取り、時にはドラム缶や机をなぎ倒して多数の侵入を拒む。ギリギリの戦闘が行われながらも、もうすぐ流れが変わるのを両チームとも感じ取っていた。
「チーム虎武羅の、三英傑が一人、
「何が“羅刹”だ。本名は田中に雪と良で田中
「貴様、なぜ本名を知っている!?」
「しかも、三英傑なんて名乗ってるが、知恵の
「雪良と呼ぶな!俺は羅刹だ!それに、俺のは小細工じゃねえ!戦術では負けても、戦略では俺の方が上だ!」
「その結果が、卑怯な不意打ちねえ・・・」
チーム虎武羅のリーダーは、
そしてこの戦いの行方は、他の戦いにも大きく影響する。
羅刹の武器は薙刀、刃引きはしてある。大きく振りながら、敵を寄せ付けない。それなりに慣れ親しんだ武器なのだろうということは見てよくわかる。しかし、反撃を恐れ安全な距離から一方的に攻撃するという戦闘スタイルがバレバレであるため、灼は思わずクスリと笑ってしまう。
灼は素手だが、何のハンデにもならない。それくらいの実力差がある、ありすぎる。
「へっぴり腰で振るってちゃ、こうやって掴まれたら対処できねえぞ?」
「ひぃいい!」
刃引きしてあるのもあって、簡単に先端を握ることができた。常人なら振り回されている薙刀の先端を正確に捉えることも、それを素手で受け止めて無傷でいることも難しいだろうが、こともなげに灼は実行する。
掴んだ薙刀を引っ張ると、羅刹は思わず倒れそうになる。その顔面に合わせるように灼の左フックが炸裂するかと思われた。
「隙ありだ、もらった!」
羅刹の陰から、先ほどのバットの男が飛び出す。灼が攻撃に転じるその隙を待っていたのだ。
しかし、それを見ても灼は全くと言っていいほど焦ってはいなかった。左フックの勢いはそのままに左アッパーへと転じてバットを迎撃する。上から振り下ろすことで加速し、力の乗ったバットを、あろうことかアッパーで粉砕する。金属バットが真っ二つにへし折られ、その先端は勢いよく天井に突き刺さる。
「実力のわりに、えらく自信満々で向かってくると思ったら、また奇襲・・・。小細工にしても、馬鹿の一つ覚えかよ。つうことで、俺の勝ち。おやすみ」
「ノオオオオ!!」
灼の突き押しで、羅刹とバットの男が倉庫の外まで吹き飛ぶ。灼の膂力は、力自慢とかそういう域を軽く超え、すでに人間のものではなくなっていた。灼はまだ本気を出していない。それでも、今の突き押しは、軽自動車に引かれるのと同じくらいのパワーはあった。
「さて、とりあえず三英傑の一人とやらは倒したぜ。そんで、お前らのとこのリーダー、虎徹は来てねえのか?」
「こ、虎徹さんはアジトの守りだ。『指揮官が戦場に出るのは最も愚かな作戦だ』そ、そう言ってた。やっぱりあの人こそ俺たちの指揮官にふさわしいんだ!」
「不良の喧嘩で軍隊ごっこねえ・・・。しかも、三英傑最強とされる剛力武を戦場に送らず自分の守りにつかせるなんてそれこそ愚の骨頂だ」
そこで、何かを思いついたように、灼がニヤリと笑う。徐に、ドラム缶の上に飛び乗り、敵味方全員に聞こえるように大きな声で叫ぶ。
「おい、聞いたか!虎武羅のリーダー、南郷虎徹はビビってアジトから出られなかったらしい。剛力武でもこっちのアジトに送ってれば、羅刹・・・いや、雪良クンと違ってもう少しいい勝負ができただろうに、ビビりすぎて手放せなかったらしい。きっと今頃怖くてトイレまで護衛させてるんじゃねえか?」
灼の狙いは二つ。一つは、敵の士気を下げること。
「うちのリーダーはそんな腰抜けじゃない!」
「そのリーダーが一番大事な戦いの、それも敵全員を一気に倒せる最大の奇襲作戦の時に、遠くで待ってるってんだぜ?しかも、あそこで伸びてる小細工男に全て任せて。さすがに説得力ねえよな?」
激高した敵の手があらゆる方向から伸びてくる。だが、灼はドラム缶から一歩も降りることなく、圧倒的な技量によって捌き続けている。奥で控えているしかできない臆病な虎武羅のリーダーと、最前線で何人に狙われようと捌き続ける勇敢な灼熱のリーダー。そういう構図を作り上げた。心なしか、虎武羅のメンバーの動きに迷いが見られるようになった。
そして再び声を上げる。二つ目の狙いだ。
「そんな臆病者に“虎徹”なんて勇ましい名前はもったいない。
「部下に戦わせて、自分は安全なところにいるなんて、リーダー失格だな」
「なあ、やっぱりお前たち、この戦いが終わったら“灼熱”に来いよ。居場所は必ず俺たちが作ってやる」
灼熱側には、奇襲によって生まれたわずかな動揺が消えた。奇襲直前の“なぜ戦うのか”という共通の思いを取り戻したからだ。
味方の士気の向上、それこそが二つ目の狙いだった。
「さて、そんじゃ、俺が虎次郎に思い知らせてやろう。『お前が想像するより、遥かに俺は怖い』ってことをな。・・・今から指示を出す、よく聞け!お前たちには倉庫内での戦いを任せる。その後のそいつらの扱いもな。俺は、虎武羅のアジトを潰す」
「一人で、敵を潰す!?さすがに無茶だ!」
「ただ全員ぶっ倒してくるだけだ。何も難しいことなんかないだろ?お前らがここにいる奴ら全員倒すのと俺が虎武羅のアジト潰すのとどっちが早いか競争な!」
そういって駆け出す灼を止められるものは誰もいない。だが、敵陣に一人乗り込むその姿は、敵にも味方にもある種の尊敬の念を抱かせた。
”虎武羅”のアジトは、八王子にある廃校舎。電車やバスを乗り継いでも30分以上はかかる。バイクや車でもそれくらいはかかるだろう。それを知っているからこそ、灼はそれらを利用しない。軽いストレッチで、足の筋肉をほぐす。
「よし、行くか!」
灼は走り始めた。
颯爽と自転車を追い抜いた。
車道の車を置き去りにした。
線路上の電車は遅すぎて並走できなかった。
道中一度も曲がらなかった。
3階建てのマンションは飛び越えた。
大きなビルは飛び越えられないので壁を走ることにした。
ブレーキがかからず、目的地を100mほど
そして5分後、廃校舎の入り口に着いたが、息は切れていなかった。
「おーい、臆病虎徹はいるかー?」
「誰だ・・・って、お前は“灼熱”の!?」
「こ、虎徹さん!燈戦です!奴が来ました!」
「何言ってやがる。アイツは今頃・・・な、なぜいる!?」
「ちょっとお前らをぶっ潰そうと思ってな」
「田中はやられたか・・・だが、こっちを出て一時間も経ってない。いくらなんでも早すぎる」
「その物言いだとアイツが負けるのは想定内なんだな。アイツもクソだが、お前も大概だな」
「フ・・・当然だ。将たるもの常に最悪を考えておくべきだろう?だから、主力はこっちに残してある。全軍突撃なんて古いやり方をするほど、フ・・・俺は考えなしじゃないんでな」
「『策士策に溺れる』、いや『知ったかぶりの恥かき』ってやつか。お前ひとりの恥で済めばいいけどな。まあいいや。そこでふんぞり返ってろ、今行く」
「どうやってこんなに早く来たか知らんが、単騎特攻は下策の中の下策。フ・・・戦略も知らぬ馬鹿には相応に痛い目を見てもらおう。行け」
校庭から見上げる灼、校舎の最上階から見下ろす虎徹。
地の利も戦力も圧倒的にチーム虎武羅が有利。単騎特攻は馬鹿のすることというのも頷ける。単騎が“燈戦灼”でなければ。
玄関のガラス越しに大勢の不良たちが待っているのが見える。入った瞬間に一斉にかかるつもりだろう。実は灼は玄関から入らずとも、その脚力で一気に虎徹のいる3階まで跳ぶことはできる。
(それじゃつまんねえよな。恐怖を刻むなら徹底的に、だよな)
心の中でほくそ笑むつもりが、実際に悪い笑みを浮かべており、それだけで腰の引けるものが数名いたほどだった。
「かかれッ!!!!」
堂々と玄関から入る。その瞬間、数えるのも面倒なほどの人数が、灼めがけてバットを振り下ろす。バットの先でも灼に届きそうな人は全員向かってきているだろうほどの人数で、見渡す限り、バットと不良しか目に入らない。
全く隙間がないように見える。しかし、灼は当然のように避けきる。個々の速度差を見極めてその合間に体をねじ込む。時には片手で軌道を逸らしながら、自分のスペースを作り出す。わずかコンマ2秒でそこにいた全員が彼我の実力差を、灼の人間離れした異常さを感じ取った。
「んじゃ、今度はこっちの番な」
目に映らないほどの速さの回し蹴りが、前方3人の顎にヒットし、脳震盪でその場に倒れこんだ。
隙を突こうとする背後からの攻撃はサマーソルトでバットを弾き、肘打ちで静める。左右から同時に横薙ぎで振るわれたバットは、それぞれ片手で受け止め、握力のみで握りつぶした。
「キミたち、ダメダメだね。そんなスイングじゃホームランは生まれないゾ?手本を見せてあげよう」
倒れてる不良のバットを一本拾い上げ、バッティングの構えを見せる。さすがにヤバいと思ったのか、囲んでいた不良たちは我先にと逃げようとするが、当然のようにぶつかり合い、転び、大惨事になっていた。
「ピッチャー、イチロー、180キロのストレートを投げました。バッター燈戦、打ったー!!!」
灼のスイングは誰が見ても素人だと丸わかりな滅茶苦茶なフォームだったが、その一振りの影響は台風にも匹敵する。
風圧で窓ガラスは割れ、不良たちは吹き飛び、近くにあった下駄箱などの重量物は根こそぎ倒れた。
「ホームラン、ってな。まあ、野球全然知らねえんだけど」
その場に集まっていたほとんどの不良は意識を失っていたが、数名意識を失う直前で留めていた者たちは、「こいつにだけは野球をやらせてはいけない」という感想を最後に同じく意識を失った。
「人数的にこれで全員ではないだろうな。何せ剛力武が出てきていない」
灼はそこまで剛力を警戒している訳ではない。しかし、その
そして、灼の予想が正しければ―
「やっぱりか」
3階まで登りつめた灼の前には、虎徹と武、そして玄関にいた時よりもさらに多くの不良たちがいた。
元が何の教室だったのかはわからないが、一般の教室よりも大きな部屋に、メガネをかけたずる賢そうな青年、虎徹の座る椅子が一つ。その周りを、武を始めとした数十人の不良が囲んでいた。
灼は完全に呆れていた。
「お前には、“虎徹”なんてカッコいい名前はいらないと思って“虎次郎”と呼んでやろうと思ったが・・・」
「どうした?少ない人数を囮に、簡単に倒せると思ったところを、フ・・・最強の戦力で出迎える俺の戦略に言葉を驚いたか?」
「ある意味な。お前みたいな臆病者、もう“しまじろう”でいいんじゃないか?戦略も幼稚園児レベルだしな」
「し、しまじろうだと!?お前、俺の完璧な戦略を幼稚園児レベルだというのか!!」
「お前、馬鹿だろ。全員突撃で良かったんだよ、あの場は。お前は我が身可愛さに、ずっと最大戦力、特に剛力武を一番安全な自分の手元に置いといて、無駄に戦力をすり減らしただけだ。自分の保身に体よく“戦略”なんて大層な言葉使いやがって。だから、お前は“しまじろう”なんだよ。・・・まあ武が来たところで俺がいれば問題にもならなかったがな」
「俺のッ、天才的な俺の戦略をッ、馬鹿にするな!!ここで証明してやろう、俺が正しかったと!!全員かかれ!武、お前もだ!」
「御意」
スキンヘッドの大男、肌は黒く、不良の証である特攻服(ちなみに灼熱のメンバーは誰も着ていない。灼が”ダサい”の一言でやめさせた)がはち切れんばかりに、服越しでも尚筋肉が主張をしていた。この男こそが、チーム虎武羅最強の剛力武だ。
そして他の不良たちは灼と武を囲むように輪を作る。
「燈戦、最強という噂だけは聞いていたが、俺よりも強いのかずっと疑問だった。そして、下にいたうちの連中と戦う音が聞こえた。俺は今お前が怖い。お前は化け物だ」
「へー意外に冷静だな。なら何で戦うんだ?逃げればいいだろ」
「虎徹が戦えと言った。それだけで十分理由になる」
「なるほど、妄信的なタイプ、ね。そんなんだからコイツはつけあがるんじゃないのか?」
「それでも俺は虎徹を信じる」
「そうか・・・じゃあお前もうちにはいらんな」
「何をしてる!早くやれ!」
「御意」
「御意御意うるせえな!」
灼は少しイラついていた。経験上、この手の妄信的なタイプはリーダーをダメにする。リーダーは人柄ではなく、そのビジョンと実績で下の者の信を得なければならない。そうでなければ、ついてくる部下たちも、本当の意味でリーダーの行きたい道への手助けをすることができないからだ。時に支え、時に現実を見せる、そういう部下がいなければ、いずれ思い描く方向からズレていく。
灼にとって、武のようなフォロワーは、唾棄すべきものなのだ。
開幕の一手は武の拳からだった。メリケンサックをはめた右拳を灼は避けずに顔面で受ける。ここぞとばかりに部下たちも襲い掛かる。バットだけではなくチェーン、木刀、改造エアガン・・・あらゆる攻撃を灼は微動だにせずにただ受ける。
「この程度かよ」
10秒間。灼は一切避けずに好き放題させていた。しかし、灼は血の一滴も流れておらず、寸分たがわず最初と同じ位置に立っている。
灼が床を踏みつけると、地震が起きたかのように学校が揺れる。ミシミシと音を立てて、3階の灼のいるところから後ろ側が崩れ落ちた。灼を取り囲んでいた不良のうち、半数が2階に落ちた。
「な、何が起こった・・・。突然地震?い、いやありえないだろ!と、燈戦、お前何やった!?」
「さあな。さて、俺は10秒耐えたが、お前らは何秒耐えれるかな?」
最早灼に立ち向かおうとするものはいない、一人を除いて。
「虎徹が逃げるまで何時間でも」
「よ、よし、武!時間を稼げ!体制を立て直す!」
「はあ・・・立て直す体制などとうにないだろうに。そこまでしてコイツ庇うのか?一人で逃げる気満々なのはお前もわかってるよな?」
「それでいい。虎徹さえ逃げ切れるなら」
「なるほどな・・・。じゃあ行くぜ!」
灼の拳が武の腹に直撃する。冗談抜きに、突き刺さるのではないかというほどの一撃だ。武は腹と足に全神経を集中させた。それでも威力を止めきることはできず、かなりの距離吹っ飛んだが、全力で踏ん張り、後ろにいる虎徹の2歩手前でようやく止まった。靴底のゴムが摩擦熱でわずかに溶け、焦げたようなにおいが部屋に漂い、灼は顔をしかめた。
「そんな覚悟があるんだったら、最初から自分のリーダーを止めやがれ」
「武・・・?」
「そいつはとっくに意識ねえよ。立ってるだけでも拍手もんだ」
「な・・・」
「さて、もう守ってくれる奴は誰もいないぞ?どうする?」
「く・・・それならこれだ!」
虎徹は特攻服の内ポケットからアーミーナイフを取り出す。暗黙の了解だが、不良の間ではナイフなどの、どこに当てても致命傷となるような刃物などは使わないとされている。当然だ、居場所を守りたい、勝ちたい、負けたくないという思いはあっても、殺人犯になりたいとは誰も思っていない。しかし、時々、タガが外れた馬鹿者はいる。目の前の虎徹のように。
「どこまでもクズだな、お前。確かにさっきまでのバットとかでも、普通ならとっくに死んでるだろうが、それにしてもナイフまで持ち出すかよ」
「こ、これは正当防衛だ!アジトに乗り込んできて暴力を振るおうとする、味方もやられた、それに対する正当な自衛の権利だ!」
「今更俺にそれが効くと思ってんのかよ」
「いいから死ね!」
ナイフを持って突進する。全体重を乗せて刺しに来る辺り、ただの脅しじゃなく殺意が籠っているのは明白。
だが、残念ながら、灼の手刀でナイフは根元からパッキリ折れる。
「ナイフまで使ってきたんだ。覚悟はできてるよな?本気で殺しに来たのなら、それ相応の物を見せてやろう」
灼がパチンと指を鳴らすと、教室の壁に沿うように火の手が上がる。
「何だこれ・・・。手品か・・・?でもそんなもの仕掛ける余裕なんて」
「無かったよな?だとしたらこれは手品じゃないってことだ」
「ば、化け物・・・。人間じゃねえ!!!」
「何でもいいけどよ。今からお前が焼かれる火だ、よく味わえよ。次に俺が指を鳴らした時が、お前の人生の最後だ。葬式の心配はいらねえ、灰すら残らず燃え尽きるから安心しろ。・・・じゃあな」
「ひいいいいいいい!!」
最早逃げる場所すらない虎徹の眼前に指を突き出す。ゆっくり溜めてから指を鳴らすと、ボッという音と共に灼熱の火が上がった。タバコに火をつけるにはちょうどいいサイズの。
虎徹はその場で倒れる。呼吸はまだある。ショック死はしていないが、当分目を覚まさないだろう。
「ま、散々なことやった結果だ。しばらく寝てろや。・・・俺たちのアジトの方はどうなってるかなっと」
スマホを取り出し時間を見ると、廃倉庫を出てから30分ほどが経過している。するとちょうどよく着信が入った。
「おう、こっちは終わったぞ。かけてきたってことはそっちもか?」
「うん、今終わった。みんなボロボロだけど何とか勝てたよ」
「だろうな。さすがに部は悪かったが、お前たちの方が強かったからな」
「一人で敵アジト潰す君には言われたくないよ」
「とりあえずお疲れさん。少しゆっくり帰るから休んでろってみんなに伝えといてくれ」
「了解」
チーム“灼熱”の完全勝利の報告を受け、達成感と誇らしさで気分がいい。
何か土産でも用意してやるか―そう思い、再びスマホを手に取った。サプライズに喜ぶメンバーの顔を思い出して、妙に弾んでしまう声を抑えながら、
「すみません、ピザ15枚宅配で―」
東京トップの不良グループ、その確かな達成感を感じながら帰路に就く。
その余韻に浸れたのは、この日が最後だった。
とりあえず、2話目は明日の12時に投稿。