0.前日談と言うには余りに遠い日の話
ーーーー遥かな昔 月面にてーーーー
「ここに都を造ります」
女はそう宣言した。
この女こそ、月の神。太陽を司る天照大御神と対を成す存在。
『月夜見』である。
「貴方には、月を穢れから守る結界を張ってもらいます。」
そんな月夜見から、結界を張るよう頼まれたのは、月夜見へ敬意を殆ど感じさせない男。
「俺にも出来んことはある。その技量すら見抜けんのか。」
ーー月夜見の弟であり、穢れを司る神_宿儺だ。
「貴方の技量は分かっています。だからこそ、貴方に頼んでいるのです。」
「この広大な月に、その全域を覆うほどの結界を張れ、と?とてもではないが非現実的だな。」
「神様が非現実的とか言うのかしら?」
そんな宿儺にぐうの音も出ないほど的確な指摘を入れたのは、八意思兼だ。
その頭脳でこれまでも多くの問題を解決して来た、月夜見の右腕とも言える存在である。
「神だろうと何だろうと無理なものは無理だ。」
「穢れなき浄土に住めるようにする為に、何とかしてほしいのだけれど…」
八意は問う。しかし宿儺はこう返した。
「月の表面に結界を張り、裏表を創り出すことは出来る。ただそれだけで、俺は力の殆どを使い切ってしまう。だがお前が望むのは穢れを中和し、朽ちぬ空間を生み出す事だろう?そんな結界を、仮に生み出せたとしても長く維持は出来ん。脳への負荷もそうだが、何よりも力が足りん。下手をすれば俺自身の存在が消失するぞ。」
これだけの理論武装には、流石の八意も押し黙るしかない。当然のことだ。
宿儺は自分の実力を理解している。それは長い付き合いである八意にはよく分かる。
しかしそれでも、八意は月夜見の期待に応えようと頭を働かせていた。
「なら“縛り”を作ればいいじゃない。」
月夜見は提案する。
宿儺は嫌そうな顔をした。
その手があったか、と八意は思った。知恵の神にも拘らずそれに気付かなかった自分を恥じた。
一方宿儺は考えていた。確かに縛りを結べば、恐らく月夜見が望んだ結界を張ることも、維持することも出来る。しかし縛りの内容は、神である自分自身の力不足を補うことができるほど、大きなものでなくてはならない。存在を賭けた縛りをするくらいならば、今すぐ地上に帰る。まだ死にたくはない。
妥協点を探り、暫くして宿儺はこう答えた。
「『俺の存在を月の地下に押し込め、そこから出ない・外界へ影響を与えない』という縛りを結べば可能かもしれん。だがこれ以上の縛りは受け付けんし、それで展開できなければ諦めろ。」
「分かったわ。じゃあ結界の展開、お願いね。」
そう言って月夜見は、地下に空間を作った。
月の神ともなればこれくらいは造作もない。
八意は何とか月夜見の望み通りに事が運びそうなことに安堵した。
そして宿儺は地下に幽閉された。
月の都を守る結界の核として_____
一応弟のはずですが、姉に対する敬意が感じられませんね。
それでも姉に従うのは姉に対する情けです。あと強者の余裕。