「あーあー、聞こえてる?」
急に耳元で声がした。治したての心臓に悪い。
「これが俺の幻聴であることを祈りたいな。」
「じゃあ幻聴を聞かせてあげる。」
チラと耳元に目を向けると、小さいスキマができていた。
「目の前のソイツは饕餮尤魔。今回の異変に関係あるっぽいから、生け捕りでお願い。」
そう言うと、スキマは消えた。全く奇妙な奴だ。嫌われる理由もよく分かる。
そう思いつつ、宿儺は今一度饕餮と向き合った。
いくらか攻略の仕方は考えている。生け捕りでも対応可能な攻略方法も勿論ある。
「どうした?一度引けとでも言われたか?」
「異変に関係あるから生け捕りにしろと言われた。」
「やっぱり石油の調査じゃないか。」
「尋問は八雲がやるのだろう。」
「お前にそこまで漕ぎ着けられるのか?傷もまだつけられていないお前に。」
「肉の下処理は料理の基本だ。」
捌こうと思えば、それもできるはずだ。
だが今回宿儺は下処理を任された。
ならば、それにあったやり方をやるだけだ。
「生肉は鮮度が命。穢すわけにはいかん。」
「沼の次は生肉か。腹が立つな。」
「ハチノスにはせんぞ。レアものだからな。」
そう言って宿儺は間合いを詰めた。
そして再び、腹へ拳を入れる。
「・・・げうッ」
「これなら通るか。」
吸収能力に胡座をかき、何も構えていなかった饕餮は身を以て宿儺の拳の威力を知った。
宿儺の本気はこんなものではないが、本気でやると風穴を開けてしまう。
「お前...何を...した...?」
「領域展延。術式が付与されていない領域を纏い、空いたスペースに相手の術式を流し込んで術式を中和するものだ。」
「私の...チカラが...中和された訳か...」
スポークを杖代わりにし、よろよろと立ち上がった饕餮。
その顔は苦悶の表情を浮かべていたが、目から闘気は消えていなかった。
「なら私も、チカラの出力を上げて抵抗してやる。」
展延で殴らなければ効果がないのは、後にも先にも同じこと。
その戦い方は、宿儺にとって忘れられない戦いに似ていた。
「五条悟。」
あの時代の紛れもなき最強。
その姿がふと、脳裏によぎった。
「ケヒッ」
楽しさに思わず笑い声が出た。あれほどの楽しさをまた味わえるとは思っていなかった。
「確か・・・饕餮尤魔・・・だったか?
構えろ。肉弾戦といこう。」
無敗の剛欲同盟長 饕餮尤魔
呪いの王と呼ばれた者 宿儺
「いざ」
「尋常に」
「「勝負」」
そこからは一瞬だった。
宿儺が饕餮に近づくと同時に、饕餮は自らの能力を最大限開放。宿儺を飲み込まんと巨大化した。宿儺そのものを喰らいつくし、戦いに終止符を打つ。それは幻想郷の弾幕ごっこのように、ルールに則った公平なものではない。不意打ちは茶飯事。イカサマ上等。目的のためならば手段など選ばない。何でもありの殺し合いだ。それこそ、剛欲同盟の本来の在り方だ。だからこそ__
「完敗だ。私の負けだ。」
負けた落とし前はつけなければ。
「いざ」「尋常に」の部分はどっちがどっちとは決めてないです。