東方宿儺譚    作:雅之幻想

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温泉っていいよね


25.旧地獄街道を行く

八雲紫と別れたあと、もと来た道を引き返した宿儺。

着いたところは旧地獄温泉街。

この独特の匂いも、不快にならない蒸し暑さも、もうもうと上がる湯気も。

 

 

「全てが温泉の楽しみだ。」

 

 

焼き鳥の提灯や温泉卵の看板のせいで腹が減るが、まずは石油を流す。

 

 

「素足もなんとかしなければな。」

 

 

少なくとも草履、欲を言えば下駄が欲しいところだが売っているだろうか。

 

 

「そもそも八雲からもらったこの金が、一体どこまで払えるのか判らん。」

 

 

幻想郷の金銭感覚が全く無い中で、無闇に使うのは避けるべきだろう。まあいざとなれば強奪でも何でもするが。

 

 

「それにしても、ちょくちょくすれ違う奴は皆妖怪の類だな。」

 

 

この世界で言う人間とは、妖怪のことなのだろうか。

 

 

「そういえば、人間になりたがっていた呪霊がいたな。」

 

 

自分を倒した術師の半数以上は、あの火山呪霊にも勝てないだろう。溶岩による広範囲の質量攻撃でケリがつく。勝てるのは乙骨憂太・外人・禪院真希ら辺だろう。

 

 

「五条悟は当然として...腹立たしいが小僧も勝てるだろう。日車寛見は経験を積めば勝てるな。」

 

 

結界術の精度と戦闘技術を上げれば勝機はある。

 

 

「それにしても、履物店がないな。酒屋と温泉宿ばかりだ。」

 

 

勿論温泉だけのところもあるが、履物店がないのに違いはない。

 

 

「履物よりも先に温泉に入るか。」

 

 

辺りを見回し、目に入ったのはほかより少し大きな看板。

 

 

(こん)温泉・・・いや、(たましい)温泉か。」

 

「お、兄ちゃん入ってくかい?この辺りじゃあ見ねえ顔だな。」

 

「最近こちらに来たばかりでな...いくらだ?」

 

「金なんかいらねえよ!ここでその汚れ落としてサッパリしてきな!」

 

 

と、集客の男に推されてここに入ることにした。店の中は以外にもがらんとしている。食堂と書いてあるのれんの方から笑い声がするので、人はいるのだろう。

 

 

「ああいらっしゃい。今は誰もいないからほぼ貸し切りだよ。ゆっくりしていってね。」

 

 

番頭の女にタオルを渡され、脱衣所に案内される。服を脱いだが、かなり汚れていて臭いもする。

 

 

「これをかごに入れるのは気が引けるな。」

 

 

ふと、自分が神に戻った事を思い出した。

調整にはいい機会だ。

 

 

「捌」

 

 

そう唱えた途端、服は霧状に散った。原型どころか、チリの一つすら見えない。

 

 

「替えは(ひれ)でなんとかするとしよう。」

 

 

タオルを手に持ち、温泉へと繋がる扉を開ける。

その先には誰一人いない、広々とした露天風呂が待っていた。

 

 

「まるで貸し切りだな。」

 

 

体についた汚れを落とし、この時点でかなりスッキリした気になった。

石油の落ちづらさには辟易したが、それ以上にお湯の熱さに驚いた。

真の源泉かけ流しだが、こうも熱いのか。

 

 

「慣れるのには時間がかかりそうだな。」

 

 

とは言ったものの、入ってみればものの10秒で慣れた。

体の芯から癒える感覚。疲れを癒やすには最高だ。少し濡らした温かいタオルが、浸かっていない頭の疲れをほぐしてくれる。

 

 

「思えば随分、脳を酷使したものだ。」

 

 

短時間での連続領域展開。魔虚羅の適応が中断になる展延の運用。呪力による脳の破壊と再生。

 

 

「人の身でよくやったものだな。」

 

 

どれも一度でも失敗すれば死を招く所業だ。

やり直しの効かない人の身でやることではない。

 

 

「フーッ」

 

 

我ながらよくやったと言いたい。今は一服だ。

 

 

「お、なんだ先客か。」

 

 

そう聞いた耳を疑った。

 

 

「ここは女湯だったか?」

 

「この街の温泉の半数は混浴だよ。」

 

 

そう返したのは、豊満な胸を持ち、赤い盃を片手に持った女だ。それ以上に目を引く額に生えた一本角。そこには星のマークが入っている。

 

 

「相湯失礼するよ。」

 

「ああ、構わん。」

 

 

女はそう言って入水する。その体には古い傷跡があり、腹筋が少し割れている。その内に秘めた力は、おそらく人間のそれとは比較にならない。

 

 

「見ない顔だねぇ。新入りかい?」

 

「そんなところだ。お前は鬼か?」

 

「あっはっは。正解だ。まあこの角見れば誰でもわかるか。アンタ名前は?」

 

「宿儺だ。」

 

「ほう、宿儺か。」

 

「お前は誰だ。ただの鬼ではないだろう。」

 

「アタシは星熊勇儀。この辺りの元締めさ。」




宿儺は無闇に女に欲情しなさそう。そこ変われ。
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