こっちでの生活も慣れたものだ。
紅白の巫女・博麗霊夢に幻想郷のルールを説明された。
白黒の魔法使い・霧雨魔理沙に『弾幕ごっこ』や『スペルカード』なるものを教わった。
縁記を使い、重要人物の顔と名前、能力を学んだ。
__幻想郷に、八意が居ることも知った。
32.同僚
『八意はかぐや姫とともに地上へ逃げた。』『かぐや姫は既に月へ帰った。』
長らく謎だった2つの真実。その謎に終止符が打たれたのは昨日だ。何気なく幻想郷縁記を眺めていたところ、見知った顔を見た。それは、幾千年前の忘れかけていた顔。
その者の名は、『八意永琳』とあった。間違いない。八意思兼だ。その次の頁にあった蓬莱山輝夜といい、彼女らは幻想郷にいたわけだ。地上のどこを探しても見つからないわけだ。
宿儺は久方ぶりに、同僚に会いたくなった。
「できたわよー」
「あ、ああ。」
同僚との思い出に馳せていた思いは、少女の声と温かな匂いによって引き戻された。ちゃぶ台に並べられた小鉢には、おひたしや煮物などの料理が盛り付けられていた。
「いただきます。」
「いただきます。」
どこの家庭にも並ぶようなラインナップ。食べることを生きる楽しみとしていたかつての宿儺であれば、ソムリエのように味付けを細かく評価し、気に入らなければ料理人を粉微塵にしていただろう。だが、今の宿儺はそうではない。誰かと共に生きる。そういう生き方を選んだのだ。
「・・・」
「何だ。人の顔をジロジロと。」
「いえ別に。考え事してたみたいだから。」
「なぜ分かった?」
「眉間にシワができてるわよ。」
普段は何も考えていなさそうな癖に、こういうときは鋭い。人を思うとはこういうことか。
「・・・今日は出掛ける。」
「気になるところでも出来たの?」
「まあな。俺の分の食はいらん。」
「無駄遣いはしないようにね。」
その後は何も話さなかった。箸や食器の音だけが、静寂の中に響いていた。
「ご馳走様でした。」
「ご馳走様。」
食器を霊夢に預け、宿儺は身支度をした。
服を変え、草履を履き、宿儺は博麗神社を出た。
「先生!ありがとうございました!」
「いいのよ。何かあったらまたいらしてね。」
「はい!本当にありがとうございました!」
お礼の言葉を口にして去る男。もう何度この光景を見ただろうか。最近では日常となっていた。
「でもこの日常も、そろそろ終わりね。」
「石油の噴出が収まってきましたからね。」
先日まで石油が吹き出す異変が発生していた。その石油が生活用水にも混ざってしまい、体調不良を訴える患者が来院するようになっていた。石油というのは100ml飲むと死に至るため、入院を強いてしまうことが多い。大半の人間は体調不良で済んだが、二人ほど重症化した患者がいた。勿論治したが。
「お師匠様ー来客ですー」
そう言ってパタパタとやってきたのはてゐだ。
「来客?私に?」
「何でも、お師匠に会いたいそうで。待合室で待たせてますー。」
「分かった、今行くわ。」
そう言って八意永琳は立ち上がった。
治療目的でここに来る人間は少なくないが、八意個人に会いに来る客は殆どいない。いるとすればサグメ位だ。ただ彼女の場合てゐも顔を知っているため、「サグメが来た」と言うはずだ。
待合室についた八意は、その扉を開けた。
「お待たせしました。八意で__」
そこで言葉を切った。部屋に入った途端、気配がガラリと変わったからだ。どこか懐かしい気配。月にいた頃。否、それよりも遥かに昔の気配。
「貴様は何も変わらんな。髪以外は。」
「貴方は...っ!」
突如男から放たれた拳を寸前で避けた。
驚きはあった。だが不快感はなかった。
間違いない。懐かしいこの気配は。
「貴方は随分変わったのね。宿儺。」
「久しいな、思兼…いや、永琳か。」
かつての同僚との、久し振りの再会だった。
この展開は絶対やろうと思ってました。
宿儺と永琳。