「随分と伸びたな。切らんのか?」
「切っても伸びるもの。切る余裕もないし。」
髪の毛を弄りながら、八意永琳はそうこぼす。
頭髪など、かれこれ1000年は切っていない。
尤もその殆どは、永遠の術式で伸びていない期間だが。
「しかし意外だったな。」
「何がよ。」
「お前が医者をやっている事が、だ。」
月の民というのは、地上の生物を道具としか思っていないような存在だ。勿論、八意もその一人だった。輝夜のように、地上に興味がある方がイレギュラーなのだ。その
「そうね。私も最初はこうじゃなかったわ。でも、
「そうか。変わったのだな。蓬莱の薬を飲んで尚。」
「あら、知ってたの?」
「研究者が研究対象をよく知らん、などということがあってはならん。」
「でもあの時とは作り方も、力の内容も違うのよ。」
「どういう意味だ。不老不死ではないのか?」
「結果は一緒かもしれないけど、過程や副作用はあなたが作ったものとは違うわ。穢れの流出による不老不死ではなく、不変性の副作用による不老不死。あなたの言葉を借りるなら、器に溜まる穢れの量が変わらなくなるの。それこそが、私の作り上げた蓬莱の薬。」
その答えに、宿儺は関心した。逐一量を調節するのではなく、最初から穢れの量を固定してしまおうという訳か。理屈はわかるが、それを実現するためには障壁が多過ぎる気がする。特に穢れの生成と吸収。その2つはどうやって解決したのか。
「答えてあげましょうか?」
「やめろ。こういうのは自分で考えてこそだ...ナチュラルに人の心を読むな。」
ニコリと微笑む八意。ここまで来ると恐怖に近い感情を抱いてしまう。
「不変性があっても、髪は伸びるのだな。」
「髪は寄生虫のようなものよ。肉体であって、肉体ではない。神も汚れも煩悩も宿る、混沌とした人の心の象徴よ。」
一応聞いたが、宿儺もその結論には至っていた。日車寛見の『処刑人の剣』で髪を切られたにも関わらず、術式効果が発動しなかった。あれはそういうことなのだろう。
「頭皮は不変性を保つから、髪が抜ける事はないわよ。」
「その結果が白髪か。見た目は変わらずとも、中身は老い__」
そこで止めた。
八意の刺突が、宿儺の顔前で止まっていたからだ。
一体何処に隠し持っていたのやら。
「腕は落ちていないでしょう?何が『老いた』よ。次言ったら本気で刺すわね。」
「すんでで止めただろう。かつての同僚にそんな真似が出来るか?」
「あのまま頭を貫いても良かったのよ。」
「その時は、治すまでだ。」
やはり、八意は八意だ。その腕前がかつての八意と変わっていない事に、宿儺は安堵した。
「談笑中失礼します。お茶をお持ちしました。」
そう言って入って、うさぎ耳の少女が入ってきた。
「貴様、玉兎か?」
「あ、はい。鈴仙・優曇華院・イナバです。かつては月兎でした。今は地上の民です。玉兎の存在を知っているなんて、お客様は一体?」
「ウドンゲ、この人は月人よ。昔の私の同僚みたいなもの。」
「月人、ですか...。ここへは、私達を捕らえに?」
「貴様らを捕らえる気は毛頭ない。そもそも月の命令でここへ来た訳では無い。俺の意思で地上へ降りた。尤も貴様らと違い、穢れの影響を受けん俺はほぼ自由に地上と月を行き来できるがな。」
「そういえば、結界はどうなったの?あなたがいなきゃ機能しないんじゃ無かったの?」
「長い時を経て、結界の基盤が俺ではなく
「あなた1000年前に抜け出したの?」
「貴様らが隠れた後だな。帝に聞いても『月に帰った』と言われて八方塞がりだった。まさか
「私達の存在が忘れられて、自然に流れ着いたのでしょうね。」
まあそんなところだろうとは思っていた。千年も生きる人間などいない。羂索や天元くらいだ。奴等が知らなければ、知っている人間など存在しないだろう。
「あら永琳。お客様?」
「あ、姫様。」
そう言ってやってきたのは、黒い髪で着物を着た少女だ。姫様と呼ばれているところから推測するに、彼女はおそらく...
「蓬莱山輝夜...だったか。」
「あら、私を知ってるの?」
妹紅の髪が白いのもそういう訳(なはず)です。
結界の話は堀川雷鼓の理屈に近い感じです。
理屈が解らない人はpixivの堀川雷鼓のページをお読み下さい。