「宿儺、あの薬取って。」
「ほれ、あと抽出器。」
「ウチに来ない?悪いようにはしないわよ?」
そう言われた八意の顔は、驚きに満ちていた。
「いくら何でも突拍子がなさ過ぎる。理由を言ってやれ理由を。そんな話は俺も初耳だぞ。」
「そうね、なんたって今思いついたもの。」
「なぜお前の信仰が失せないのか、俺には理解が及ばん。」
「月が美しいからよ。それはさておき理由だけど、大きく2つあるわ。」
「何でしょう。」
「一つは今後を見据えたとき、あなたを仲間とすることが私にとって有利に働くと思ったから。」
「有利...ですか。」
「姉貴にしては珍しい。俺もそれには同意見だ。」
天岩戸から天照を出す。その策を講じたのは、他でもない八意だ。その活躍から、今後の彼女の発言力は大きくなると考えられる。そんな者を仲間に加えるなど、どうなるかは愚者でも察せる。
「お言葉、感謝します。ですが今の私を配下に加えるということは、私を狙う他の神々の怒りを買うということに・・・」
「そんなの関係ないわよ。そもそも私はそんじょそこらの神とは訳が違う、三貴神の一角よ?あなた一人を抱えて、他の神々と対立する程度どうってことないわよ。」
胸を張り、月夜見はそう言い放った。
認めたくはないが、宿儺がこれ程月夜見を頼もしいと思った事は、今日含めて三回しか無い。その内の二回はまだ姉の本性に気付く前のことなので、同列に加えるべきかは悩むところだが。
「もう一つは単純に面白いと思ったから。まあ貴方がヤダって言うなら諦めるけど。」
「い、いえ!そんな事はありません!」
「なら決まりね。さあ、今日から賑やかになるわよー!」
「・・・と、こういった流れで私は月夜見様の配下となったのです。」
「姉貴は俺と八意を対等の立場に置いた。お陰で今では互いにタメ口を利く仲だ。」
「そうだったんですね。」
「で、結局二人はどんな関係なの?」
「同僚だな。」
「同僚ね。」
友人や相棒と言っても差し支えはないだろうが、八意との関係を端的に言うならやはり「同僚」だろう。そう認識することで一線を越えずに済むだとか、そんなものではない。只々、これが1番しっくり来るのだ。
「もっと恋仲とかそういうのを期待してたから、ちょっと残念だわ〜」
「あまり面白い話ではなく申し訳ありませんでした。」
「悪かったな、お姫さま・・・さて。」
「宿儺様、お帰りですか?」
「もっとゆっくりしていけばいいのに。」
「姫様、宿儺にも都合がありますから。それに、また来るでしょう?」
「ああ、そう遠くない頃にな。」
「怪我でもするの?」
「直に判る。またな、八意。蓬莱と、優曇華も。」
「 ええ、また。」
「いつでもいらして下さい。」
「また面白い話聞かせてね。」
三者三様の挨拶を背に受け、宿儺は永遠亭を後にした。
廊下を歩いている途中、1羽の兎とすれ違ったが、宿儺は気にしなかった。
「すぐに判るって、一体どういう意味なんでしょう?」
「さあねえ・・・ところでウドンゲ、てゐはどこ?」
「てゐですか?さあ...あの子はいつも自由ですから...」
「お師匠、私を呼んだ?」
「あら、丁度良かった。兎たちに伝えてくれる?」
「何を?」
「宿儺の前を走って竹林から脱出させて、って」
そろそろ虹龍洞の話を書く予定です。