東方宿儺譚    作:雅之幻想

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だいぶ更新が遅れました。ちゃんと生きてます。


39.理想郷

「八意は、俺の意を汲んだようだな。」

 

 

竹林を歩いていた際に突然現れた兎の後を追い、無事に竹林を抜けた宿儺。兎は宿儺の前を導くように走っていた。おそらくは最後の言葉の意図を理解した八意の使いだろう。

 

 

「小一時間かかった竹林が、ものの十分で抜けられるとはな。」

 

 

やはりあの地形は特殊だ。微妙な高低差により平衡感覚を狂わされ、同じような竹の景色が延々と続いていた。その二つの要因が掛け算となって、脱出難易度が大きく跳ね上げられている。正に天然の迷路だ。

 

 

「そんな竹林を抜けるとはな。動物の感覚とは不思議なものだ。」

 

 

なにはともあれ、これで早めに帰れる。

 

宿儺は一度背伸びをし、再び歩き出した。飛ぶよりも時間がかかるが、その分幻想郷の景色を見ることができる。ここで暮らしていくのであれば、土地勘を育てておく必要がある。

 

 

「・・・」

 

 

無言で歩く宿儺。その心の中はひどく穏やかだった。

 

宿儺にとって、他者は暇つぶしのためのもの。目障りならば殺し、面白ければ遊ぶ。

なければ、それはそれで構わない。目標も、目的も、地位も、名誉も、他人も、存在理由も。

その生き方を選び、それを為すだけの強さがあった。その時の心中もまた、穏やかだった。

だが、今宿儺が感じているものは、それとは全く異なる穏やかさだ。今までの感覚が「減らないことへの穏やかさ」であれば、今の感覚は「満たされていることへの穏やかさ」だ。

 

隔絶した”個”として完成されていた宿儺を、強者として、従者として、友人として、最強として、畏怖の念を抱く者として、答を求める者として、人々は常に上に見た。

だが隣に立つものは、ただの一人も居なかった。宿儺自身は、それでも良いと思っていた。他者に依存することもせず、気ままに生きる。そういう生き方しか知らなかったからだ。

 

それは、この幻想郷でも変わらなかった。だが、接し方が違った。彼らは、彼女たちは、宿儺の強さを受け入れた。上に見るでもなく、比類するでもなく、只々受け入れた。特別扱いされることがない平穏。宿儺にとって、それは心地が良かった。

 

 

「幻想郷は全てを受け入れる、か。」

 

 

幻想郷(ここ)こそ、宿儺が暗に望んでいた世界だったのかもしれない。宿儺は新生活に期待を寄せ、博麗神社へ続く階段を上った。

 

                       

 

「ああ、遅かったじゃない。」

 

「おお、宿儺じゃん。」

 

階段を上った先には、見慣れた巫女服を着た霊夢と白黒の服を着た魔理沙がいた。見慣れていないのは、博麗神社の境内の様子だ。あちこちにシートが敷かれている。

 

 

「昨日は帰らず悪かった。」

 

「別にいいわよ。昨日作ったものは魔理沙が食べてくれたし。」

 

「美味かったぜ。」

 

 

どうやら怒ってはいないようだ。そのことに安堵しつつ、改めてこの状況の理解が欲しくなった。

 

 

「お前たちは、何をしているんだ。」

 

「何って、宴会の準備だ。」

 

「宴会?何故だ。」

 

「あなたを幻想郷の一員として、改めて迎えるためよ。」




平安宿儺のように腕が四本で腹に口があっても、幻想郷の少女たちは受け入れてくれるのだろう。
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