東方宿儺譚    作:雅之幻想

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40.宴会

見渡す限りの人・人・人。しかし、そこに人間はほとんどいない。

翼が生えている者、角が生えている者、尾が生えている者、獣耳が生えている者・・・

挙げればキリがない。人間を数えていったほうが早いか。1、2、3・・・

 

 

「この場にいるのは二人だけか。」

 

「なにがよ。」

 

「人間。」

 

 

博麗に独り言を聞かれていたらしい。顔が紅く、既に酔った様子だ。

酔ってからが強い人間もいる。宴はこれからだ。

 

 

「あんた全然酔ってないわね。ちゃんと呑んでる?」

 

「呑んでるとも。お前達よりも、肝臓が丈夫なだけだ。」

 

「肝臓?よくわかんないけど、もっと飲みなさいよ〜。」

 

 

そう言って空だった盃に酒を注いでいく。一体どこにそんな量の酒があったのか。

そんな問は酒と共に流す。楽しい宴に無粋な疑問は不要だ。

 

 

「・・・そうか、俺は今楽しんでいるのか。」

 

「...?宴会は楽しむものでしょ?」

 

 

その言葉に、宿儺は呆気にとられた。

博麗霊夢の思考には、全く頭が上がらない。

ひとまずは下げた視界に入ってきたつまみを食べてお茶を濁す。

 

 

「・・・美味いな。」

 

「あーそれ私が狙ってたヤツ」

 

「知らんな。早い者勝ちだ。」

 

 

酒に合うだろうと思い、先程博麗霊夢が勝手に注いだ酒を呑んだ。案の定相性が良い。

そんな折、霧雨魔理沙が手を振りながら近づいてきた。

 

 

「おーい霊夢、饕餮はいないのか?」

 

「あー、それがあれから足取りが掴めなくってねぇ。」

 

 

そう言いながら博麗は立ち上がり、霧雨のほうに歩いていってしまった。霧雨がこちらに向かっているのだから、わざわざ行く必要は無いというのに。そう思いながら、宿儺は誰もいない虚空へと話しかけた。

 

 

「饕餮は、お前が管理していたのではないのか?」

 

  言い訳、聞いてくれるかしら?」

 

「聞くだけ聞こう。」

 

 

刹那、虚空に裂け目ができ、そこから八雲紫が出てきた。

 

 

「実は、誰かに攫われてしまったのよ。」

 

「幻想郷の賢者が聞いて呆れるな。」

 

「まあでも、犯人の目星は付いてるのよね。」

 

「犯人か。まああの饕餮を攫うとなれば、さぞ強いのだろうな。」

 

「私と同じ、幻想郷の賢者の一人、摩多羅隠岐奈よ。」

 

「摩多羅隠岐奈?摩多羅といえば、摩多羅神が思い当たるが・・・」

 

「ええ。その認識で合ってるわ。」

 

「その摩多羅神が饕餮を攫った、と?」

 

「多分ね。あの石油事件も隠岐奈のせいみたいだし。」

 

「石油事件もか?目的は・・・その様子では知らんと見えるな。」

 

「まだ、ね。今度会った時に聞くわ。」

 

「そうか。」

 

 

摩多羅神については、殆ど何も知らない。知っているのは名前と、うろ覚えの神格くらいだ。

 

 

「確か秘匿の神・・・いや、今は関係ないか。一連の騒動の裏には、その摩多羅神がいたと。」

 

「そ。あいつはコソコソ隠れて何かするヤツだから。」

 

「俺の聞いている限りでは、摩多羅神の行動は不審者のそれだな。」

 

 

摩多羅神が、今まで幻想郷で何をしていたのかについては見当がつかない。そもそも幻想郷に来て一週間と少しの者が、幻想郷について詳しく知っている訳が無い。

 

 

「そこは追々、博麗にでも聞くとするか。」

 

「ところで、一つ聞いていいかしら?」

 

「何だ。言ってみろ。」

 

「あなた、この先どうするの?生涯幻想郷(ここ)で暮らしていくの?」

 

「ん?なんだ、そんなことか。」

 

「どうなのよ。」

 

「そのつもりだ。ここには様々な輩が居る。神に妖怪、幽霊、そして人間。退屈することは、今後数百年はなさそうだからな。」

 

「・・・そう。良かった。」

 

 

八雲紫は、柔らかな笑みを浮かべた。

 

 

「では、幻想郷で暮らす貴方には、幾つかルールを説明するわね。」

 

「ルール?・・・まあいいだろう。」

 

「1.人間は無闇に殺さないこと

 2.幻想郷を崩壊させないこと

 3.妖怪は人間よりも上の存在であるが、妖怪は人間の存在が必要不可欠である

 ざっとこんなところかしら。」

 

「概ね了解だ。一応、無闇の範疇を聞いてもいいか?」

 

「食べるとかの目的がなく殺すのはアウト。鏖殺なんて以ての外よ。」

 

「分かった、分かったからその目を止めろ。」

 

 

少しニヤついた目をする紫に嫌気が差した。腹が立つ。

 

 

「幻想郷は、全てを受け入れる。それは残酷な話ですわ。」

 

「・・・」

 

「たとえ本人が望まなかったとしても、受け入れられる条件を満たしてしまえば、合う合わない関係なく入り込んでしまう。郷が受け入れたからと言って、郷の中の者が迎え入れてくれるとは限らないの。受け入れられた次にいる場所は胃袋かもしれないじゃない。」

 

「何が言いたい?」

 

「貴方は幻想郷に受け入れられた。ここで暮らすのなら、それだけは忘れないで。」

 

「・・・そうか。」

 

 

どうやら幻想郷は、思っている以上に厳しい所らしい。

 

 

「飽きることも無さそうだな。」

 

「肝が胡座をかいて座ってるわね。」

 

「頭痛が痛いみたいな事を言うな。」

 

「フフッ」

 

 

そう笑うと、紫は盃を差し出した。

それに自分の盃を交わす。

 

 

「貴方の幻想入りを祝して、乾杯。」

 

「乾杯。」

 

 

夜空に月が浮かぶ中、宿儺と紫は盃を交わした。

この夜、宿儺は真に幻想郷に受け入れられたのだった。




永遠亭編はこれにておしまいです。ありがとうございました。
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