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見渡す限りの人・人・人。しかし、そこに人間はほとんどいない。
翼が生えている者、角が生えている者、尾が生えている者、獣耳が生えている者・・・
挙げればキリがない。人間を数えていったほうが早いか。1、2、3・・・
「この場にいるのは二人だけか。」
「なにがよ。」
「人間。」
博麗に独り言を聞かれていたらしい。顔が紅く、既に酔った様子だ。
酔ってからが強い人間もいる。宴はこれからだ。
「あんた全然酔ってないわね。ちゃんと呑んでる?」
「呑んでるとも。お前達よりも、肝臓が丈夫なだけだ。」
「肝臓?よくわかんないけど、もっと飲みなさいよ〜。」
そう言って空だった盃に酒を注いでいく。一体どこにそんな量の酒があったのか。
そんな問は酒と共に流す。楽しい宴に無粋な疑問は不要だ。
「・・・そうか、俺は今楽しんでいるのか。」
「...?宴会は楽しむものでしょ?」
その言葉に、宿儺は呆気にとられた。
博麗霊夢の思考には、全く頭が上がらない。
ひとまずは下げた視界に入ってきたつまみを食べてお茶を濁す。
「・・・美味いな。」
「あーそれ私が狙ってたヤツ」
「知らんな。早い者勝ちだ。」
酒に合うだろうと思い、先程博麗霊夢が勝手に注いだ酒を呑んだ。案の定相性が良い。
そんな折、霧雨魔理沙が手を振りながら近づいてきた。
「おーい霊夢、饕餮はいないのか?」
「あー、それがあれから足取りが掴めなくってねぇ。」
そう言いながら博麗は立ち上がり、霧雨のほうに歩いていってしまった。霧雨がこちらに向かっているのだから、わざわざ行く必要は無いというのに。そう思いながら、宿儺は誰もいない虚空へと話しかけた。
「饕餮は、お前が管理していたのではないのか?」
「 言い訳、聞いてくれるかしら?」
「聞くだけ聞こう。」
刹那、虚空に裂け目ができ、そこから八雲紫が出てきた。
「実は、誰かに攫われてしまったのよ。」
「幻想郷の賢者が聞いて呆れるな。」
「まあでも、犯人の目星は付いてるのよね。」
「犯人か。まああの饕餮を攫うとなれば、さぞ強いのだろうな。」
「私と同じ、幻想郷の賢者の一人、摩多羅隠岐奈よ。」
「摩多羅隠岐奈?摩多羅といえば、摩多羅神が思い当たるが・・・」
「ええ。その認識で合ってるわ。」
「その摩多羅神が饕餮を攫った、と?」
「多分ね。あの石油事件も隠岐奈のせいみたいだし。」
「石油事件もか?目的は・・・その様子では知らんと見えるな。」
「まだ、ね。今度会った時に聞くわ。」
「そうか。」
摩多羅神については、殆ど何も知らない。知っているのは名前と、うろ覚えの神格くらいだ。
「確か秘匿の神・・・いや、今は関係ないか。一連の騒動の裏には、その摩多羅神がいたと。」
「そ。あいつはコソコソ隠れて何かするヤツだから。」
「俺の聞いている限りでは、摩多羅神の行動は不審者のそれだな。」
摩多羅神が、今まで幻想郷で何をしていたのかについては見当がつかない。そもそも幻想郷に来て一週間と少しの者が、幻想郷について詳しく知っている訳が無い。
「そこは追々、博麗にでも聞くとするか。」
「ところで、一つ聞いていいかしら?」
「何だ。言ってみろ。」
「あなた、この先どうするの?生涯
「ん?なんだ、そんなことか。」
「どうなのよ。」
「そのつもりだ。ここには様々な輩が居る。神に妖怪、幽霊、そして人間。退屈することは、今後数百年はなさそうだからな。」
「・・・そう。良かった。」
八雲紫は、柔らかな笑みを浮かべた。
「では、幻想郷で暮らす貴方には、幾つかルールを説明するわね。」
「ルール?・・・まあいいだろう。」
「1.人間は無闇に殺さないこと
2.幻想郷を崩壊させないこと
3.妖怪は人間よりも上の存在であるが、妖怪は人間の存在が必要不可欠である
ざっとこんなところかしら。」
「概ね了解だ。一応、無闇の範疇を聞いてもいいか?」
「食べるとかの目的がなく殺すのはアウト。鏖殺なんて以ての外よ。」
「分かった、分かったからその目を止めろ。」
少しニヤついた目をする紫に嫌気が差した。腹が立つ。
「幻想郷は、全てを受け入れる。それは残酷な話ですわ。」
「・・・」
「たとえ本人が望まなかったとしても、受け入れられる条件を満たしてしまえば、合う合わない関係なく入り込んでしまう。郷が受け入れたからと言って、郷の中の者が迎え入れてくれるとは限らないの。受け入れられた次にいる場所は胃袋かもしれないじゃない。」
「何が言いたい?」
「貴方は幻想郷に受け入れられた。ここで暮らすのなら、それだけは忘れないで。」
「・・・そうか。」
どうやら幻想郷は、思っている以上に厳しい所らしい。
「飽きることも無さそうだな。」
「肝が胡座をかいて座ってるわね。」
「頭痛が痛いみたいな事を言うな。」
「フフッ」
そう笑うと、紫は盃を差し出した。
それに自分の盃を交わす。
「貴方の幻想入りを祝して、乾杯。」
「乾杯。」
夜空に月が浮かぶ中、宿儺と紫は盃を交わした。
この夜、宿儺は真に幻想郷に受け入れられたのだった。
永遠亭編はこれにておしまいです。ありがとうございました。