「ぐ、強すぎる。」
「ふん、私に隠し事が出来ると思わないでよ。」
流石は博麗の巫女、まるで歯が立たない。それどころか歯型もつかない。
「で、その入口は何?喋って貰うわよ。」
「仕方が無い…降参だ。」
煙管の中身が落ちないように角度を調節しつつ、降参のポーズをとる。ここまで強いと、もはや諦め以外に選択肢はない。抵抗を続けたところで、結局は尋問に遭うだけだろう。
「ここは虹龍洞の洞口。虹龍洞は山の未来を作る夢の鉱坑だ。」
__自分で言っておいて何だが、正直虹龍洞というものが何を掘っているのかは知らない。
守矢神社や天狗が噛んでいるということを知った時点で、何かしら大きなことだろうとは思っていた。掘ること自体に意味があるのか、あるいは掘っているものが大きなものなのか。一介の見張り役に、知る由はないが。
「私は、関係者以外が近寄らないように見張っていたんだよ。」
「ふん、見張りがついてるって事はよからぬ事を企んでいそうね!」
「いやいや。私が見張っていたのは、中は大変危険だから…だよ。」
まあ良い商売になるから、でもあるが。こっちとしても、そう少なくない額を貰っているのだ。
ここで仕事を果たさなければ、天狗に何と言われるか。
「…むむむ。ちょっと気合を入れないとね。」
一応本当に危険であるのだが…まあ、止めはしたのだ。後は自己責任ということにしてもらおう。
鉱坑__恐らくは伊弉諾物質の採掘場なのだろう。
「採掘場か…そういえば、伊弉諾物質採掘場の一つは彼奴の管轄だったな。」
伊弉諾物質の採掘場を保有している神はそう多くない。そもそも伊弉諾物質は金や銀よりも希少なので、神のうちの誰かが適切に管理しなければならない。八百万の内の1000にも満たない神々が、伊弉諾からのお告げか何かで管理職へと任命され、特に大きい採掘場には特別な指名があったとかなかったとか。
「彼奴から直に聞いたわけではないからな…」
依頼以外では一対一で会ったことがない程度の仲だ。その依頼での対面すら、両手で数えられる回数しかなかった。先刻の話も、姉が夕食中につらつらと述べていたのを聞いただけだ。
「そういえば、夕餉の準備を何もしていなかったな。」
時刻にして既に5時。獣を狩って焼肉にでもしようか。
「…いや。」
目前の鏡_そこに映る答えで、自らの心は満ちる。腹が満ち飢えが消える、ということはない。
だがそんなものがどうでも良くなるほどに、満たされる筈なのだ。
好奇心は、
「__やはりお前か、玉造魅須丸!」
「この洞窟、一体何処まで続いているの?」
もう十分は飛んでいるというのに、景色は全くと言っていいほど変わっていない。洞窟の薄暗さも地面に敷かれた線も、少なくとも人間の目には変化があった様に見えない。
「まさかこんなに深いだなんて、入口からは想像も付かなかったわ。」
よからぬ事どころか、何もないとは思わなかった。危険だから見張っていた、というのは本当だったのか。
「誰もいないみたいだし、ここはハズレね。戻ってまた情報収集しな」
「そこの人間!止まりなさーい!」
奥の方からやってきたのだろうか。こんな怪しいところにいるなど、何か企んでいるに違いない。
「これ以上潜ると死ぬよ。悪い事は言わない、今すぐ引き返しなさい。」
「死ぬ…って、嘘でしょ?何かを隠すつもりなんでしょ!」
そんな話はもうさっき聞いた。見張っていたというあの妖怪も、目の前のコイツも、やっぱり何かよからぬ事をしているのだろう。だから「死」で脅して引き返させようとしているに違いない。
「この先は無酸素エリアです。つまり、人間の貴方は呼吸が出来なくなります。__それでも貴方は進みますか?」
「呼吸が出来なくなる…」
なら、やることは一つだろう。
「じゃあその前に調べきってやるわ!この洞窟の秘密をね!」
「__やれやれ。これは脅しでは無いと言うのに…。窒息死なんかで陰陽玉の継承者を失うわけにはいかない。それに…」
空気が変わった、かと思えばブツブツと独り言。妖怪というのは本当に気味が悪い。退治しよう。
「貴方から感じる、その神宝の気配__確かめない訳にはいかない!」
〜設定考察〜
宿儺が月歩をできるのは、烏鷺亨子の術式で空間を面として捉えているのを見たからだと思っています。日車?アイツはただの天才。