神宝
神の時代に作られた、神々のための飾り物。刀剣・勾玉・鏡など、その形状は多岐に亘る。
その本質は、神々が宿る依代であるという点。この点だけであれば、別に特別なものである必要はない。付喪神然り、日常のあらゆる物に神は宿るからだ。では何故、刀剣や勾玉である必要があるのか。込められた意味・成せる役割は二の次三の次__単純に、見た目が良いからである。
刀剣や勾玉のようなものは、それだけで信仰を集めやすい。姿形が美しいものであれば尚更だ。信仰心を集めるために、見た目を重視する。故に神宝には刀剣や勾玉が用いられる事が多いのだ。
──玉造魅須丸は、そんな勾玉を加工する神であった。
「玉符『陰陽神玉』」
円状に放たれた無数の陰陽玉が、狭い洞窟の壁に跳ね返って複雑な軌道を構成している。しかし霊夢は交錯する陰陽玉の隙間を舞うように避け、魅須丸にショットを打ち込んでいく。
「──詰まりましたね。」
そんな幻聴が聞こえた気がした刹那、現実が来る。
パターンを見誤り、迫りくる玉壁に詰められた。
「―ッ!夢符『封魔陣』!」
詰みからの回避を試み、スペルカードを宣言。霊夢を中心に、玉をかき消す領域が広がっていく。
詰みの盤面を無敵で回避し、次の攻撃の心構えをしておく。
「女王珠『虹の扉の向こうに』」
放たれた巨大な陰陽玉。通った跡には小さな陰陽玉が張られ、動き出した。
──先刻、迫りくる玉壁に詰められたと言った。あの程度を壁と評するならば、眼前の光景をなんと表すのか。現代人であれば津波とでも評するだろうが、霊夢には適当な言葉の持ち合わせがなかった。故に、
「────」
黙って、波のように迫る陰陽玉を回避する。時折できる小さな隙間に体を滑り込ませ、挟まれれば抵抗なく砕ける様な攻撃を避けていく。恐怖に怯えていてもおかしくない瞳に、ただ目の前の弾幕を映し、脳へと指示を送っている。__少しの疲れを除けば、無駄な感情は一切ない。
「あとがあるんだもの ハアハア こわいわけないでしょ。」
とはいえ、後に頼るようなことはしない。宿儺から貰ったカードはあくまでも保険。故にここは回避し切る。その決意で妙に動かない肉体を強引に動かし、描いた未来を現実のものとする。
「…流石は陰陽玉の継承者ですね。」
女王珠を避け切り、息の上がった霊夢を見る玉造。
その目には、微かに悲哀の感情が浮かんでいた。
「これで最後です。『陰陽サフォケイション』」
無造作に放たれる大陰陽玉と、回転をかけながら放たれる円環状の小陰陽玉。最初のスペルと違い大きいほうが無造作な分、完全なパターン作りは不可能。気合で避けるしかない。だが__
「なん、か…おもうように、うごけ…」
酸欠の症状の出てきた霊夢には、パターン作りも気合避けも無理だった。
そしてその症状には、視界の狭窄も含まれていた。
「────ぁ」
故に、横からやってきた陰陽玉に気が付けなかった。
本来の霊夢であれば、この距離でも回避は容易だった。しかし今の霊夢には、回避行動を取る体力が残されていない。あるのは、己の命を守る為の必要最低限のものだけ。
その、最低限すら刈り取らんと陰陽玉が迫り__
「──頃合いだな。」
薄れゆく意識の中、それだけは鮮明に聞こえた気がした。
直後、美しい切断面を見せて陰陽玉が割れた。
触れれば、その滑らかさに鳥肌が立つであろうほどの切断面。
その切断者は__
「…宿儺、ですか。」
「そろそろ、俺の勾玉の点検をしてもらおうと思ってな。」
──博麗霊夢の記憶は、ここで途切れた。
〜オマケ〜
魅須丸の専門は勾玉や陰陽玉で、神々から依頼を受けて特注のものを作っています。
彼女以外にも勾玉制作者はいますが、彼女ほど腕の立つ者はいません。
刀剣や鏡の神も居てほしいところ。