東方宿儺譚    作:雅之幻想

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大蛇
勾玉という器に対し、(ひれ)という肉体・穢れという中身を与える事により式神として駆動することが出来る。式神は器に注がれた穢れを消費して活動し、勾玉に刻まれた宿儺の思考回路を元に動く。式神のデザインは伏黒恵の十種影法術を元にし、この運用方法はこちら(幻想郷)に来てから半年で編み出した。実践での運用は二度目、大蛇としての運用は初である。


50.百足蛇封

「イヤミか貴様ッッ!」

 

 それを蛇だと認識した瞬間、怒りの声が洞窟に響いた。

 それが自分の喉から、しかし自分の意志ではない魂の叫びであることには、腕を失った痛みによって意識が戻ってきた時に気付いた。自らの肩に風が刺激加え、反射的に左腕があるはずの所へ目を向けると、ほのかに虹色に輝く地面が見えた。

 

 腕が、無い。

 

 いくら妖怪とはいえ、四肢が欠損することはそう無い。まして漲る気力が全身に回る今この状態で腕を欠くなど想像もしなかったことだ。

 

「お前の、本気って訳か」

 

「さあな。とはいえここまでとは思わなんだ」

 

 前に男、後に蛇。元々逃げると言う選択肢を用意してはなかったが、退路を断たれてしまった。

 その退路に陣取る蛇に関しては、大きさもさることながら、腕を一瞬で噛み千切るほどの速度と力がある。仮に男がこの腕の状態から更に手加減し、かつこちらが逃げに徹したとしても、あのみすまるという奴が逃がしてはくれないだろう。

 

「じゃあ、やることは一つだな」

 

「腹は決まったか?」

 

「待っててくれるたぁ、優しいこったな。__ああ、決めたよ」

 

 逃げることは考えない。今は、この力の許す限り、最大限暴れるだけだ。

 

「全部、ぶち壊してやるよ!」

 


 

 柴田宵曲執筆の「妖異博物館」その内の一章「百足と蛇」の一節にはこの様な記述がる

 

田原藤太秀郷の矢に斃れた三上山の大百足(むかで)にしろ、日光の權現と戰はれた赤木明神の百足にしろ、「今昔物語」に見えた百足にしろ、大抵の場合、百足は蛇に對し優位に立つてゐる。蛇は自分だけでは勝算がないため、人間に助力を求め、弓矢の力を藉りて勝名乘りを受けてゐるが、もしさういふ助力者に出逢はなかつたら、常に敗軍の將たるに甘んずる外はなかつたであらう。

 


 

「シッ──ー!」

 

 かかと落としの要領で振り下ろしたシャベルは外皮に流されたが、続くツルハシの一撃を通すための誘導としての役割は十二分に果たした。

 

「ッッ──ー!」

 

 無防備になった蛇の胴にツルハシの先端が突き刺さり、傷口から紅い血液が吹き出した。

 しかしその傷口は直に塞がり、お返しとばかりに蛇は尾を振った。

 それを目の端で捉え、回避ではなく防御を選択。左腕でガードしてカウンターを__

 

「出来ねぇ、や!」

 

 0%を選択肢に選んでしまった己を叱咤し、直に選択を修正。左足を上げて尾撃を受ける。

 体が宙に浮いた、という情報が完結するよりも早くに身体を衝撃が貫いた。

 壁に激突したと理解できたのは、足を動かしたときに痛みを覚えたお陰だ。

 

「肋は……1本ヤバそうなのがあるな」

 

 視界も狭い。満身創痍も良いところだ。一月あれば完治するだろうが、すぐの復帰など不可能。大人しくやられる他無い。

 

「──ホントに、そうか?」

 

 ふと、先刻の蛇の再生を思い出した。

 あの一連の流れを、自分は見ていた。

 力の流れも、自分は見ていた。

 

「まさか……やれる……のか……?」

 

 そもそも、なぜやれると思ったのだろうか。そんな可能性を、なぜ脳が掠めたのだろうか。

 掠めたのは、脳ではないのではないか。

 

「龍珠」

 

 それは、力を模倣する力がある魔石。その龍珠が、魂まで根を張ったその力が、叫ぶのだ。

 

 やってみせろ──、と

 


 

「まだだ」

 

 少女が動かなくなってから5秒が経った。

 

「まだまだ」

 

 ここでやられる様なヤワな存在ではない。そう理解している

 

「……」

 

 筈だった。

 

「10経った」

 

 期待外れ。そうなれば蛇の栄養、引いては自身の力の糧にするだけだ。

 なんだかんだ、妖怪を喰うのは初の経験だ。

 

 その身を喰らわんと、少女の体に蛇の大口が迫り──

 

「──良い」

 

 その口を塞ぐように放たれた左アッパーが黒き火花を散らし、蛇の巨体を大きく仰け反らせた。

 

「黒閃」

 

 

 尾の一撃を受け、痛々しい状態であった足の傷口が消えている。今の一撃で反転術式をモノにしたのだろう。肉体から溢れていた負のエネルギーに正のエネルギーが混じり、明らかに上のステージへ上がったと断言できる様になっていた。

 実際、それは戦い方にも現れている。

 

「浪費が少ないな。大蛇の攻撃を無駄なく受けられる様になったか」

 

 静と動の切り替えは激しく、しかし力の流れは滑らかで繊細。ロスも少なく、それまでの乱雑さが嘘のように落ち着いている。

 

「大蛇が押されてきたな。このくらいで良いだろう」

 

 龍珠を喰らったと聞いた時から、他者の技術の模倣が出来るのではと睨んではいたが、ここまで成長するとは思わなかった。嬉しい誤算だ。

 

「宿儺、そろそろ契約の履行を」

 

「分かっている……」

 

 非常に惜しいが、契約には逆らえない。

 

「『獄大門・蛇疆』」

 

 そう唱え、少女を一瞬の内に膨れ上がった大蛇の中に取り込んだ。

 

 宿儺としては、なんとも不本意な決着の仕方であった。




畳み方が雑になってしまったので、いくつか解説
・龍珠の模倣の力は「技術」の模倣であり、力の流れなどを再現することが出来ます。威力まで模倣出来るわけではありませんが、出力次第ではオリジナルよりも高い威力になったりします。ポケモンに例えると「まねっこ」ですな。
・黒閃が出たのはたまたまですが、これのお陰で相手の技術を「まねっこ」するのではなく「スケッチ」できるようになったといった感じです。とはいえ、スケッチ出来るのは黒閃の効果が効いている間です。後のは「まねっこ」止まり。
・姫虫百々世の纏っている力は、妖力と呪力がブレンドされた特殊なものです。普通はブレンドされませんが、龍珠のお陰で混ざり合っています。それぞれの力が水と油、龍珠は石鹸のイメージ。
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