「これで終わり、ということで?」
「封じ込めただけで生きてはいるがな」
蛇と同じ模様の描かれたキューブを拾い、術式が正常に動いていることを確認。百足の妖怪(戦闘中は気に留めなかったが、確か百々世)の封印は完了した。
自分の中では不本意な決着だったが、仮に戦闘を続けていた場合、未調整の
「その様なやり口があるのなら最初からやればよかったのでは?」
「これは俺の趣味だな。才ある者を導くのは殊の外楽しい」
「まあ、気持ちは分かりますが」
霧雨然り博麗然り、幻想郷には才能がある者が多い。それらを導き、才能を活かせる様になれば退屈紛れになる。尤も、前者はこの世界の魔法体系に興味が、後者は教えると逆に強みを潰すことになりそうなので、どちらもまだ見守るに留まっている。
「ところで魅須丸、今何時だ」
「出る頃には朝でしょう。私の住処で一息ついていきますか?」
「いや、博麗の朝食を作ってやらねばならん。どうせ異変の後で疲れているだろうしな」
それに、酸欠による身体への負担も無視できないはずだ。
「それよりもこいつの処遇だ」
「ずっと封じ込めておけば良いのでは?」
「俺の御厨子が持ち腐れる。却下だ」
それに羽織も一枚使えなくなる。不便だ
「処遇に関しては博麗と相談だな。どうせ宴会で首謀者勢揃いとなるだろう」
「では私も、それに参するとしましょう」
もうこれ以上処遇について考えても仕方が無い。そもそも百足を封じ、外に持っていけばそれで契約は終了するのだ。深入りする理由がない。
「いや、処分となったら折角の代物が台無しだな」
「蜈蚣も蜈蚣であの狐に唆されていたようなので、そこまで悪いようにはしませんよ」
「なら良い」
懸念も消え、今回の件が他人事になった。個人的には百足さえ生きていればあとはどうでもいい。
「宴会か……。酒やら食材やらを準備せねばな」
宴会は、終わりの証。一つの異変が、終わりを告げる。
異変とは、退屈な日常に差し込まれるイレギュラー。時々のモノだからこそ、面白い。
初の異変を、宿儺はそう評した。
暗がりの洞窟の中で、虹だけが異変の終わりを祝福していた。
変化の薄いこの地では、天気の変化はほぼ無い。雨も雪も降らないし、虹も架かることがない。
窓から外を眺めながら、不意にそんなことを思った。
「……」
丸型の窓からは、病的なまでに綺麗に並べられた町並みを見ることができた。悲しいかな、この景色が雨でかき消されたことはない。この窓から外を見るということは、病を眺めるということだ。
「……でも」
それでも、眺めてしまう。
あの人の
「__失礼します」
一人の兵が入ってきた。こちらの返事はまだだが、下手に言を紡げないこの力を考えると正しい判断だ。
「そろそろ時間です。大広間へお願いします」
直に兵士は後ろを向き、自分に付いてこいと言わんばかりに部屋を出ていった。
喋れない自分が評議に出る意味は果たしてあるのだろうか。
そんな疑問をよそに、黙って兵士に付いて行く。
──稀神サグメは、自分が月の都の運命を動かす歯車になるとは、この時はまだ知らなかった。
虹龍洞編 完!