東方宿儺譚    作:雅之幻想

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紅魔館の”近く”に湖があるのか、紅魔館を”囲う”ように湖があるのか。


53.上海紅茶館

 フランドール・スカーレットは吸血鬼である。

 吸血鬼は満月の夜に特に力が増す。それが紅い月ともあれば尚の事。

 だがしかし、力は自我と関係なく増してしまう。もし、その力をコントロールできるだけの精神力が無ければ、心は力に飲まれてしまうだろう。

 そして残念ながら、フランドール・スカーレットはコントロールが効かなくなるタイプだった。

 

「──で、その召使いの屋敷のお抱え魔法使いが、近々その赤月の夜が来ると言う。故に誰かが、そのフランドールとやらの暴走を止めねばならんらしい」

 

「……それ、引き受けたの?」

 

「興が乗ったのでな」

 

 帰った時には、既に昼食の支度がなされていた。あとは主菜だけだったので、釣ってきた魚を御厨子で捌き、(フーガ)で丸焼き。卓に並べ、食べながら今日あったことを話し、今に至る。

 

「絶対碌なこと無いわよ……って言ってもどうせ聞かないでしょ?」

 

「そういう訳で、今晩から暫く留守にする。釣ってきた魚の残りは干物にでもしておけ」

 

「やっぱり。じゃあ行く前に臓物取っておいてくれる?」

 

「良いだろう。ひまわりの茶葉は好きにするといい」

 

 本当は残しておいてほしいが、茶葉入れを勝手に借りて使っている手前、文句は言えない。

 

「何かあったら駆けつけるわ」

 

「問題になったら、な。それがお前(博麗の巫女)の仕事だろう」

 


 

「ここが、紅魔の館か」

 

 西の空はオレンジ色に輝く一方、東の空には闇が押し寄せている。そんな背景設定ながらやってきたこの館は、逆光のせいもあるだろうが、なんとも不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「幻想郷は懐かしき景観が多かったからな、洋風建築は新鮮だ」

 

 そもそも宿儺は平安から今までの時間の流れをすっ飛ばしてきている。日宋貿易やザビエル来日、蘭学や鎖国、黒船来航に文明開化と、外国との交流やそれによる発展を一切知らない。精々、伏黒恵の知識や羂索から聞いた話ほどのモノだ。

 だがそんな宿儺でも、ここが幻想郷の中でも浮いている場所だということは理解った。

 

「さて、門番に紹介状を見せれば良いと言っていたが……この寝てる奴がそうか?」

 

 立ちながら寝ている。何なら鼻提灯まで。とても気持ちよさそうに寝ている。

 

「んん……咲夜さん……もう食べられないです……」

 

 起こすか?というかこれでは門番の意味が無いのではないか?それともこれが西洋流なのか?

 そんな疑問が頭を廻る。

 しかし廻る頭を余所に、()()は起こった。

 ──空中に突如、ナイフが現れた。その数、ざっと十数本。もれなく門番の方を向いている。

 

「あだ────っ!」

 

 見事に脳天へと命中。普通はそんな反応では済まないだろう。

 

「また昼寝なんかして。門番としての自覚はあるのかしら」

 

 不意に、背後から声がした。問題なのはそれが纏う良い香りではなく、それが『不意に』という点である。宿儺は基本的に、常時全方位へと気を配っている。誰かが背後に立てば、当然気づく。奇妙なのは先刻、ナイフが現れるまでは()()()()()()()()()()という点だ。

 というかそもそも、突然ナイフが出現した時点で既に奇妙だ。瞬間移動の類か、或いは……

 

「ひ、昼寝じゃありません!もう夕方なので夕寝でsドーーッ!」

 

 既に二、三本ナイフの刺さった頭にもう一本が差し込まれた。眉間を的確に射抜く辺り、投げ物の扱いには慣れているようだ。

 

「屁理屈を聞きたいんじゃあないのよ、全く……」

 

 咲夜は言葉を終えるとそのままこちらに向き合い、一礼をした。

 不快感や違和感を一切抱かせない、完璧なお辞儀だ。

 

「本日はわざわざお越し頂き、ありがとうございます。先刻は大変見苦しいものを……」

 

「構わん」

 

「ご厚意、感謝いたします。一応、紹介状を確認させていただきます」

 

「ほれ」

 

「なるほど、私の書いたものに相違ないですね」

 

 あったらどうしていたんだ。そこの門番と同じ目にでも遭わされるのだろうか。まあその時は全て叩き落とすなりしてどうとでもしたが。

 

「では改めまして。──ようこそ、紅魔館へ」

 

 こうして、宿儺の紅魔館での生活が始まった。

 


 

 館の中は赤_もとい紅を基調として、装飾依頼者の紅好きを全面に押し出している。外観は逆光のせいでほぼ黒だったが、これを見ると”紅”魔館の名の如く紅かったのだろうと思える。

 通された客室も当然紅い。赤色の下敷きを通して周りを見たときのようだ。

 

「……こんなところで彼奴(虎杖悠仁)のしょうもない記憶が役に立つとはな」

 

「紅茶をお持ちしました」

 

「お前、今の今まで俺と行動していただろう。何をした」

 

「本当の手品というのは、種も仕掛けもないのですよ」

 

 能力の真相を聞きたかったが、はぐらかされてしまった。やはり頭はかなり回るようだ。

 

「只今、主を呼んで参ります。紅茶でも飲んでまったりお待ち下さい」

 

 そう言って彼女は出ていった。言われた通りという訳では無いが、紅茶を口にする。

 

「美味い……が、少々甘いな」

 

 もう少し苦みがある方が好みだが、まあ偶にはこんなのも良いだろう。

 

「それにしてもあの門番、武人としては中々に仕上がっているな」

 

 重心の据え方が上澄み武芸者だ。おまけに脳天にナイフが刺さっても何ら問題のないタフネス。

 尤も後者は慣れによるもののところが大きいだろうが。

 

「そしてそれをあのように扱う召使いか……」

 

 人間が妖怪よりも上の立場であるということ、それ即ち、彼女の実力もまた相当なものであるということだ。

 

「いや、単に主が従属関係に厳しいだけやもしれんな。或いは瞬間移動の能力に依るところ……」

 

 そこまで考えたとき、ノックの音がした。

 

「失礼します」

 

 戻ってきた十六夜はドアを開け、そのまま押さえた。

 そして、その後から入ってきたのは──

 

「──何時ぞやの吸血鬼か」

 

「久し振りね。3ヶ月ぶりかしら?」

 

二月(ふたつき)だ。久しいといえば久しいな」

 

 レミリア・スカーレットは、2ヶ月振りに宿儺と再開した。




レミリアの『運命を操る能力』は、ここでは『エピタフ』として扱います。
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