東方宿儺譚    作:雅之幻想

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書きたい話は筆も捗る


57.U.N.オーエンは彼女なのか?

 夜、宿儺は珈琲(コーヒー)を片手に窓から月を見ていた。

 月は太陽への嫉妬に燃え、血のように赤く輝いていた。きっと血涙でも流しているのだろう。

 

「久々に見たが、相変わらずの醜さだな。止めるものも居ぬだろうに」

 

 まるで魔法のような美しさに常人であれば手を止め足を止めてしまうだろうが、タネを知っている宿儺は微塵として美しさを感じなかった。寧ろ面倒事ができたと辟易するところだ。

 

 興味をそそられる存在の話を聞かされ、赤月の時を待ち続けて一週間。普段であれば姉を止めるという面倒事はやりたくないと、赤月が来ることを待つことなどなかった。だが、今夜は違う。

 

「フランドール・スカーレット。さて、如何程のものか」

 

 少しの期待と楽しみを胸に、カップの珈琲を飲み干す。

 その時だった。

 

 轟音とともに、館全体が揺れた。

 

「……来たか」

 

 カップを自室のテーブルに置き宿儺は部屋を後にした。カップの底には、紅い月が写っていた。

 


 

「来たわね」

 

「ああ来た。状況は?」

 

 大図書館の中央、半径20m程の空間に魔法陣が書かれている。絨毯の模様だと思っていたが、有事の際の備えだったらしい。その真ん中に、パチュリー・ノーレッジが立っていた。

 

「張ってた結界が破られそうだわ。今はこあに維持させてるけど……あの震動じゃあ長くは期待できないわね」

 

「結界はいつから?」

 

「今朝よ。攻撃されたのはついさっきだけど」

 

 破壊の力というのが結界術にも有効なのか、それともただの馬鹿力か。いずれにせよ、パチュリー程の優秀な魔法使いの結界を破るというのは、予てから聞いていた通りの規格外ということなのだろう。

 

「案内してもらえるんだろうな」

 

「寧ろさっさと止めてほしい位よ。さあ手を出して」

 

「手?」

 

「空間転移よ。いちいち地下まで行くのは面倒だし、そのための魔法陣よ」

 

 効率重視の喘息持ち引きこもり少女が考えそうなことだ。が、嫌いではない。

 随分と細い、最早病的なまである彼女の手を握る。

 

「これでいいか?」

 

「いいけど、ちょっと痛いわ」

 


 

 見た瞬間に分かった。結界は既に限界を迎えている。こあがギリギリのところで繋ぎ止めてくれていなければ、結界はとっくに割れていただろう。一重にこあが、自分が来ることを信じて止めていた。そういうことなのだろう。

 

「こあ、あとは変わるわ。ゆっくり休みなさい」

 

「パ……パチュリー様……」

 

 ひどい汗だ。鼻血も出ている。結界の維持に脳へ負担を掛け過ぎてしまった。尤も、それでも来るのがもう少し遅かったら確実に突破されていただろうが。

 

「パビロン…コーラン…マカラカーン…アウトサイダーソーダ…」

 

 呪文を唱え、一度結界を張り直す。そして結界内で宿儺と戦ってもらう。その方が被害は抑えられるし、何かあったときにも対応ができる。結界の条件は、元の結界を張り終えてから──

 

 

 カシャン

 

 

「……え?」

 

 眼の前の空間が、窓ガラスが割れるように崩れていく。

 暗く覆われていた空間が開け、そこに見えたのは到底現実とは思えない惨状だ。

 原型を留めていないベッド、頭だけになったクマの人形、暴れたのがよく分かる壁のクレーター

 それら全てが、彼女の手によって行われたのだ。部屋だった場所に佇む、彼女の手で。

 

「──フラン」

 

 暴力的なオーラに包まれた少女。それが牙を剥き出しにしてこちらを睨んだ。その顔立ちは知っているが、まるで知らない者(UNKNOWN)のような、獣のような、子供が思い起こす鬼のような、自分の知らない形相だった。その理性なき眼は白目をむき、しかし真っ直ぐにこちらを見据えてきた。

 

 その瞳に自らを見た気がしたその瞬間、少女は真っ直ぐ突っ込んできた。先刻のオーラが死を感じさせながら向かってくる、そんなことを思っていると、悪魔の妹は死神の如く命を奪わんと拳を突き出した。

 自分は決して、動体視力が良い方ではない。弾幕ごっこのお陰で常人よりは良いと思うが、吸血鬼や天狗の速度を目で追える程ではない。そんな自分がなんで拳を目で捉えられたのだろう。昔読んだ本では確か、生命の危機に際したときにはなんかの脳内物質が過剰分泌されて集中力がとんでもないことになるとか、ショックで記憶が混乱して、一瞬の出来事を長時間のように記憶しなおすとか書いてあった気がする。まあ要はそういうことなのだろう。

 死ぬ直前にこんな時間が用意されるのは走馬灯を見て人生の反省がどうという話もあったが、不思議と反省する気分になれない。恐怖が行き過ぎて死が怖くなくなったというか、寧ろ死ぬ覚悟ができたというか、まあ今はそんな感じだ。

 ……いや、嘘だ。普通に怖い。どうしようか。とりあえず、拳が向かってくるのが怖いから目を閉じよう。あーあ、もっとやりたいこととか読みたい本とかあったんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 拳の衝撃がやって来ない。感じるまでもなく死んじゃった? でも目もとが動かせる感覚はある。目を開けたらあの船頭と目が合ったりするのかな。とりあえず、目を開けて確かめよう。

 

「──成程な、中々の衝撃だ」

 

 死を思わせた拳は、鼻先くらいで腕に止められていた。あのほんの一瞬で、腕を割り込ませて威力を殺した。そんな芸当を成し遂げたのは、他でもない()だった。

 

「今は機嫌がいい。頼むから興を削ぐなよ?」

 


 

「思っていたより強いな。これが破壊の力か」

 

 破壊の力と聞いていたときから、一撃一撃の攻撃には最大限警戒していた。故にガードにも穢れを集中させて全力で臨んだ。が、少女はそれすら貫通して、腕の骨を砕いてきた。咄嗟に左手も動員させて止めなければ、ガードした腕ごとパチュリーの顔面は粉砕されていただろう。

 

「捌」

 

 ガードした腕とは反対の手で少女の白い腕を掴み、そのまま肘のあたりで切り落とした。

 

「────ッ!!」

 

 甲高い悲鳴を上げ、しかし一瞬で出血がストップ。反対の手で殴りかかって来た。

 

「シッ───!」

 

 そこに指を滑り込ませて軌道をそらし、流れるように少女の顔面へと拳を叩き込む。

 その痛みに顔を押さえようとした一瞬の隙を突き、ガラ空きになった胴体へ蹴りを入れる。思ったよりも軽い少女の体は壁に激突、人型にくり抜いて奥の方へと消えていった。

 

「距離は稼いだ。パチュリー・ノーレッジ、2つ伝える。心して聞け」

 

 反転術式で腕を治しつつ、後ろでへたり込んでいたパチュリーに声を掛ける。

 

「一、小悪魔は反転術式で治し、既に逃げた。

 二、正直居られても邪魔なだけだ。結界を張り直すのというのなら早くしろ」

 

「あ……え、えっと……」

 

 混乱残る頭の中で精一杯、最善の選択しようとしているようだが、悲しいかな、悪魔は長く待ってはくれない。瓦礫の煙残る中、宝石のような羽をした少女がゆらりと現れる。ないはずの腕の影を見て、五体満足を確認。再生能力はそこらの妖怪より断然高いようだ。

 

「顔面も完治か。流石は吸血鬼といったところ……いや、再生力も増しているのか?」

 

 何にせよ、こんな疑問を抱くのなら、レミリアの方で腕を試し切りしておいたほうが良かった。

 

「とはいえ、久々の強者。俺も最近は鈍っていたところだ。適度に全力を出すとしよう」

 

 

 赤い月の夜。その光の届かぬ地下で、悪魔と穢神の戦いが始まった。




呪文はかなりテキトーに考えてるので、特に深い意味はないです
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