東方宿儺譚    作:雅之幻想

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58.魔法少女達の百年祭

 戦い? ええそうね。確かにあれは凄まじいものだった。

 死の恐怖で腰を抜かして、魔法陣まで這っていたあの時、死ぬんじゃないかと思ったわ。だって頭上で二人の怪物が争ってるんだもの。生きた心地がしないったらありゃしない。何なら、余波だけで十分恐怖だったわ。でもそのおかげでさっさと立ち去りたい一心になれた、とも言えるわね。

砂埃は舞う、轟音は響く、時々血も飛んできてたわね。兎に角、あの場所は本当に地獄だったわ。

 ……でも一番恐ろしかったのは、彼の顔ね。笑ってたのよ、自然に出たのかは知らないけれど、それはもう衝撃だったわ。私も一週間彼を見てきたから言えるけど、あんまり笑うとかの感情表現をしないのよね。笑ったり、怒ったり、泣いたり、喜んだり。泣くことは私もあんまりないけど、とにかく、そんな彼が笑ってたのよ。それも中々邪悪な顔でね。元々顔立ちはかなり整っているから、カッコよくはあるんだけど。

 ……話がちょっと逸れたわ。二人の戦いの話に戻るけど、勢いはフランの方が上だったわね。縦横無尽に素早く動いて、攻撃を放って、残像が見えるほどだったわ。

 でも、宿儺のほうが全然余裕なように見えたわ。いや私は武術的なことは全然わからないから、詳しいことも確実な事も言えないけど……殆ど動かずにフランの攻撃を捌いて、出血までさせてたんだから、余裕があったはずよ。それに、なんていうか、余裕そうなな気配? オーラ? を感じたのよね。よくわからない? まあ当然でしょうね。私もはっきり見えたわけじゃないもの。気になるなら直接見に行った方がよく分かるわ。まだ続いてる……まあ私がこっちに戻ってきたのは3分くらい前だから、当然の話ね。まあ私はもう行きたくないから、案内はできないけど。

 ……そういえば妙蓮寺の僧侶が身体強化系の魔法を得意としてるらしいわね。機会があれば話してみたいわ。

 


 

「領域展延」

 

「ガァッ!」

 

 突き出された拳に対し、こちらも正面から拳をぶつける。すると衝撃波が生まれ、周囲の物を吹き飛ばす。この戦い(遊び)の中では、もう何度も体験したことだ。そしてそのまま、両者の力は拮抗し、どちらかが行動を起こさぬ限り均衡状態が続く__

 

「駄目か」

 

 とはならない。

 少女の拳は領域展延をも貫通し、肘のあたりまで腕を”破壊”した。それは別にいい。もとより破壊される想定ではあったので、気にする理由がない。それよりも気になるのは、

 

「領域展延による中和も不可能。相手に破壊する術式を流し込む線も外れか」

 

 五条悟の見様見真似で落花の情という技を使い、カウンターを狙っても見たが失敗した。単純に効かなかったのか、式が悪かったのかは分からないが。

 

「打てる手は打った。”破壊”を正面から突破するのは諦めた方が良いな」

 

 触れること、それ以外の発動条件がわからない。否、発動条件はおろか、術式の仕組みもまるでわからない、ほぼ完全なブラックボックス。

 

 術式の仕組みというのは魔法と違い、それを知ったからといって扱えるようになる訳では無い。生得術式の仕組みというのは、あくまでもその術式そのものの持つ性質のことだ。例えば五条悟の無下限術式や饕餮の能力は、外部から領域で干渉する事ができ、領域展延での術式の中和が可能だ。相手に直接術式を流し込む類のものも、領域展延で防ぐことができる。釘崎野薔薇の数霊呪法やあのツギハギ呪霊の術式はこれに該当するだろう。

 逆に本人そのものが性質を持つもの、例えば万の構築術式や星熊勇儀の能力などは、たとえ領域展開しようとも貫通することができない。

 フランドールの術式は前者だと踏んでいたのだが__

 

「……いや、後者にしては妙だ」

 

 破壊の性質を自身に持たせるモノにしても、最初の一撃で骨が砕けただけなのが気になる。

 もし破壊という能力を込めた一撃を放つものであれば、腕は今と同じように潰されていたはずだ。

 

「解」

 

 内蔵を裂き、右腕を切り落とし、勢いそのまま壁に激突。まだ試したい事があるので、この程度でダウンされては困るところだが……

 

「おっと」

 

 突如放たれた弾幕の嵐に回避が遅れ、数発被弾してしまった。

 神社の境内でよく弾幕ごっこが行われるが、その流れ弾が飛んでくることがある。その威力はお世辞にも”ごっこ”などという可愛げのある言葉で片付けられるような代物ではなく、人間が真正面から弾幕を受ければ良くて火傷、当たりどころが悪ければ普通に死ぬ。

 ましてや今の弾幕の放ち主は赤月によって全てのステータスが大幅に上昇している吸血鬼。それこそ普通の人間であれば当たった部位が吹っ飛ぶ威力だ。宿儺の場合、素の防御力と反転術式のお陰でそんなことにはならないが、何度も当たれば隙の一つもできてしまうだろう。

 

「破壊相手に隙は見せるのはな……『解 蜘蛛の巣』」

 

 格子状に組んだ斬撃を放つ小技。正面からの弾幕をまとめて消すにはこれがいい。

 切られた弾幕は爆発とともに消えていく。だが次から次へと飛んでくる弾幕をその都度迎撃していては埒が明かない。やはり本体を叩くべきか。

 

「龍鱗 反発 番いの流星」

 

 弾幕に妨害されても届く一撃、詠唱を用いた解の威力上昇。次元斬ではないただの強化された解だが、放った線上の弾幕を消しとばしたうえで少女の胴を泣き別れさせるには十分な威力だ。

 

「死ぬなよ。『解』」

 

 ──鮮血が、舞った。

 斬られれば、当然出血する。それ自体は別段気に留めるようなことでもなんでもない。そんなことに逐一気を取られていては、真に必要なことに意識が向かなくなってしまう。

 ではなぜ、そんな事を気にしたのか。……否こればかりは気を取られない方がおかしいだろう。

 自分の胴を、他人の腕が貫いているとなれば、誰だって気になるものだ。

 

「誰だ……お前は……」

 

 聞かずとも、わかっている。この腕は既に何度も見た。驚いたのはそこではない。

 

「フランドール・スカーレット……ッ!」

 

 弾幕を放っていたフランドールも、変わらずそこに居ること。それに驚きを隠せなかった。

 二人。いや、視界の外からもう二人。四人だ。四人の同一人物が、宿儺を囲んでいたのだ。

 


 

 油断、していた。打つ手はないと、そう思い込んでいた。そう思い込んでいた結果防御を怠り、吸血鬼の手刀を許してしまった。

 

「まさか、分身とは、な……」

 

 予想外故に、心臓を貫いた腕を振りほどくのが一手遅れた。

 残りの三人が一斉に牙を剥き、腕を、顔を、腹を、攻撃しだした。

 

「ゴッ……!」

 

 少女にタコ殴りにされるとは情けない限りだが、それ以上に一撃が強い。虎杖悠仁や呪力を捨てた禪院真希の拳よりも遥かに、流石に星熊勇儀のには劣るが、それに準ずるだけの威力がある。

 それが4手分となれば、総合のダメージ量は星熊勇儀の上回るだろう。

 

「受け続けるのは……しんどいな……」

 

 とはいえ、救いもある。どうやら分身中は破壊の能力は使えないらしい。そして、もう一つ。

 

「『竈』」

 

 最初の『捌』そして今までの『解』。2つの調理工程を経て、『竈』の扉は開かれている。

 

「『開』」

 

 炎を纏った手を、胴を貫いた腕に押し当てる。すると、少女の腕が燃えた箇所からボロボロと崩れていく。

 

「ギャッ──!」

 

 悲鳴を上げ、咄嗟に腕を引いて炎を消そうとする。が、中々消えない。

 

赤開荒縄(レッド・フーガ・バインド)

 

 その隙に残りの三人へと新技を放ってみる。

 というのもこの一週間、魔法のお試しということで火熱技法論を学んでいたのだ。その中で最初に使った赤い荒縄(レッド・バインド)が中々面白いものだったので、開の術式に結びつけて扱うことにしてみた。拘束を重視したこの技は火力を必要とせず、その分を速度と精密動作に回せる点で非常に相性が良かったのである。

 そして何より、この技は吸血鬼側としては致命的に相性が悪かった。

 

「俺の『開』は、元々御廚子の術式ではない。姉……天照大御神が授けた力だ。強大な力故、完全なコントロールを得るために御廚子の術式に組み込んで利用しているが……その本質は太陽の光と同じ。お前達吸血鬼には非常によく効くだろう?」

 

「ァァッ! ァァァァッッ!」

 

「ほれ、頑張れ頑張れ。分身供はすぐに消えたからな、後はお前だけだぞ」

 

「ッッ! ガ、ァァッ!」

 

 フランドールは、自分の燃える腕を自ら引き千切り、延焼を防ぐことを選んだ。吸血鬼ならば、この程度の怪我はすぐに治る。無意識下で、そう判断したのだ。そして距離を取った。片腕の欠けた今、相手の懐に飛び込んでいくのは得策ではない。これもまた、無意識での判断だった。

 ──その判断は、宿儺へ隙を与えてしまったのだ。

 

 

「布瑠部由良由良」

 

 詠唱の、隙を。




前置きが長すぎて自分でもちょっと引いた
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