東方宿儺譚    作:雅之幻想

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あけましておめでとうございます。


60.妖魔夜行

ガコンッ

 

 その音が、魔虚羅の顔面に拳が入るのとほぼ同時に、しかし一瞬だけ早く、鳴り響いた。

 だがそんなのはお構い無しと言うべきか、魔虚羅を拳で捉えたままフランドールは急降下。地下の地面と激突させる。

 

「ウオシャアアアアアッ!!」

 

 地面にめり込んだ巨躯目掛け、唸るような声を上げてラッシュを叩き込むフランドール。その衝撃は地面を伝わり、地震のような揺れを生じさせた。実際この揺れで皿やティーカップ、窓ガラス数枚、飾っていた花瓶などが割れ、妖精メイドたちが慌てふためいているので、地震と扱おうと誰も異を唱えないだろう。

 

 

 

 ここで一つ、残酷なことを言っておこう。

 フランドールは今、能力を込めて拳を放った。喰らえば宿儺ですらただでは済まないその一撃を負傷なしで耐えるなど不可能だ。そんな一発が百を超えて魔虚羅を襲い、全身が消滅する──

 

 

ガコンッ

 

 

 筈だった。

 

 しかし、再びあの音が響いた直後、衝撃がフランドールの肉体を走った。

 

「ガッ──!」

 

 そこから先、彼女はあまりの衝撃──肉体的にも、精神的にも──に情報の整理が追いつかなくなった。だが、もうもうと上がる土煙の中から現れた白き巨躯は五体満足で、フランドールは、そんな異常者からの一撃をまともに受けてしまったということは、ここに記しておこう。

 

「ぁ……」

 

 脳は揺れ、視界はぼやけて歪む。不安定な情緒の中、彼女が確かに感じるのは、次の一撃をまともに喰らってはいけないということ。

 通常、吸血鬼であればこの程度の怪我などなんともない筈である。しかし、妖怪は精神を主軸とする存在。暴走が解けるほど動揺してしまうような出来事と、肉体を大きく打つ一撃が合わさればそうなってしまうというものだ。

 

「ォォッッ──」

 

 そして今、魔虚羅がとどめを刺すための最後の一撃を──

 

「──本当、手のかかる妹なんだから」

 

 横から割って入ってきた誰かに、止められた。

 誰か。その答えは既に、彼女の心が理解している。

 

「おねえ……ちゃん……」

 

 

 乱入者、レミリア・スカーレットの手によって、フランドール・スカーレットは救われたのだ。

 

 


 

 3分、経過

 


 

 フランドール・スカーレットは、この世で最も大切で愛おしく、心配の尽きない、私の妹だ。

 

 勿論、単純な戦闘力では妹には敵わないのは分かっている。なんなら、何をやらせても私よりも良い結果を出すと思う。ただそれでも、心配なのだ。

 

 姉妹喧嘩でボコボコにされ、要領の良さでも敵わない。それでも、心配してしまう。

 

「だって私は、姉だもの」

 

 妹を助けてあげたい。たとえそれが暴走状態だったとしても、そう思ってしまうのが姉なのだ。

 だからこそ、体は動いた。

 

「ォォッッ──」

 

 顔に羽という、幻想郷でも類を見ない異形が吠え、妹へと向かっていく。それよりも、速く。

 白き巨躯の一撃が入る、その前に。

 

 

「本当、手のかかる妹なんだから」

 

 

 その前に、異業の横っ面を蹴り飛ばしてやった。

 


 

「妹を助けに入るか……いい姉妹だな。そうは思わんか?」

 

 余裕綽々という風でそう言い放つ男。横顔は整っており、今の状況に少しの頬を歪ませているのがわかる。その不遜な笑みに、ナイフを突き立てている此方側が恐ろしさを感じる。

 

「俺は双子だったが、腹の中で片割れを食い殺してな。兄弟愛というのとは無縁だった」

 

「何の話を……!」

 

「ただの独り言に近いものだ。反応するというのなら、それはそれで構わん」

 

 こちらが少し、あと3mmでも手を動かせば、ナイフがその首に刺さるというのに。

 対峙する男は、手をポケットに突っ込みながら、異形の白巨躯を眺めているというのに。

 

「魔虚羅をフランドールの方の適応に専念させたいが……十六夜、ナイフをどかせ」

 

 これで優位に立った気が、全くしないのだ。

 

「退かす……とでもお思いですか?」

 

「だろうな。言っただけだ」

 

 チラリとも視線を向けることなく、淡々とした返事をしてくる。腹の中は探ることも叶わず、こちらへの興味は微塵として無いようだった。

 こちらが手出ししなければ、宿儺も手を出してこない。間に流れる重い沈黙を、できればそう受け取りたい。尤も、その比重は明らかにこちらに傾いているが。

 

「……」

 

 一方目の前では、それこそ時を止めなければ目が追いつかないほどの激しい戦闘が繰り広げられている。お嬢様と、確か魔虚羅と言ったか。妹様をダウンさせた化物に、純粋な力勝負で拮抗しているのは、赤月によって強化された吸血鬼の力のお陰だろうか。

 

「魔虚羅がやや押されている……肉弾戦に関する調整はまだだからな。仕方あるまい」

 

 あれでもまだ未完成らしい。完全な調整なら一体どうなっていたのだろうか。現状すら手一杯の自分には、その先を思い描くだけの想像力がない。想像できないということ、イメージできないということは、それが自分の能力の限界ということだ。

 能力というのは、何も時間を操る力だけのことではない。自分の身体能力やナイフの技術、頭の回転等それらを総合した()()()()()()()()()()()のことだ。

 丁度今の状況のように、時間停止(ザ・ワールド)であれば宿儺の背後を取る事もできる。が、背後を取ったとて、ここからどう動けば勝てるのか、そのイメージが湧かない。

 ……イメージは湧かないが、一つだけ思うことはある。

 

「……私では、力不足のようですね」

 

 目の前にいる男と、起こっている戦いを見て、自分__十六夜咲夜はそう確信した。

 

「済みません、お嬢様……」

 

 弱者に齎される、己の無力さの痛感。

 その嘆きは、どうやら聞かれていたらしい。

 そして聴者は、目線をこちらに向けて、一言。

 

「身の丈にあった不幸を噛み潰すといい」

 

 初めて、宿儺がこっちを見た。

 

 それがこの台詞を吐くためとは。

 

 うるさい、馬鹿野郎

 


 

 4分、経過




妖(怪)と魔(虚羅)の夜なので。でも見た目的には魔虚羅の方が古典的な妖怪だし、レミリアはスカーレットデビル、フランは悪魔の妹だし、もしかしたら妖魔の立場は逆かもね
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