全身に力が巡り、迸るエネルギーが溶岩のように滾っている。それは恐らく、赤月の夜という特別な時間だからだけではないのだろう。
「フラン……」
妹の名前を呟いた。それが、それこそがエネルギー。姉妹愛こそ、彼女の力の源泉。
「ォォッッ──」
魔虚羅が素早いラッシュを繰り出し、レミリア・スカーレットにダメージを与えんとした。
右ストレート、左ジャブ、ボディブロー、右フック、左アッパー、etc……
一撃でも喰らえば骨が砕ける__そんな一撃が瞬きする間に数多放たれる。
「悪いけど、今は絶好調なの」
そのすべての拳が、寸分の狂いもなく正確に捌かれていく。躱され、いなされ、流され。
その事実も恐ろしいものだが、真に目を見張るべきはそこではない。
「魔虚羅、貴様……」
驚くべきことに、魔虚羅のラッシュは正確だった。
__そう、正確だったのだ。
違いといえば魔虚羅の方が拳速が少し遅い程度で、しかしそれでもそうした筈だ。
「魔虚羅は未調整ゆえに仕方がない」としていた面があるが、そこを差し引いたとしても違和感を覚えずにはいられない。__妙に記憶がざわつくが、今はそれどころではない。
「……何かしたな?」
仮にそうだとすれば、レミリア・スカーレットの方だ。
赤い月のお陰で全体的な能力が向上しているのは分かる。実際スペック上は魔虚羅の攻撃への対応はできるだろう。が、同じ吸血鬼であるフランドールが反応に苦すのを見ている。得意不得意があれど、あそこまで正確に対応できるとは考えにくい。
それに得手不得手の話をするなら、レミリアは武術に長けていない。一週間で見てきた立ち振舞や今の魔虚羅との戦いから断言できる。武術者としてだけなら、紅美鈴の方が上だ。
「そうなると、後疑うべきは能力だな」
──と、ここまで考えて思い出したことがある。
それは、つい先程抱いた違和感。記憶の蠢きの正体。
かつて、乙骨裕太の領域内で味わった感覚。
自身の行動に対して先回りされている、あの不快感。
「──予知か!」
首元のナイフから少し血が滴ったが、気にしなかった。
運命というのは、はるか昔から決まっている。
いかに頑張ろうとも、どう回避しようとも、運命からは逃れられない。そして誰にもわからない。そう、分からないのだ。いつ何が起こるのか分からないというのは人間にとっては__否、意思のある存在にとっては非常に恐ろしいのだ。だがもし、運命を見ることができたなら。この先何が起こるのか、覚悟を決めることができるだろう。
私の『運命を操る程度の能力』は、まさしく覚悟を決めさせてくれる能力だ。
「
運命を操るとはいっても、本当に運命を操るような力はない。できることといえば精々少し先の
だがその時間は、僅か7秒。
普段使いするうえで7秒というのは、ハッキリ言って短いことこの上ない。
「右、左、腹、右、左__」
ただし、刹那のやり取りで命を落とす戦闘においては、それこそ生死を分けるほど長い時間だ。丁度今の攻撃を捌けた様に。尤も、未来を見たから対応できた、という訳では無い。未来視したうえで行動した結果が”運命”として見えただけだ。見えた運命をその通りなぞる
「でも、今はそれでいい」
兎に角、フランが回復する時間を作ることが最優先。撃破できるならそれに越したことはないが、どうもこの威力では無理らしい。手応え自体はあるので、最大火力を出せば話は別だろうが。
「大体なんで私と同じくらいのパワーがあるの、よ!」
運命の通り、掴みかかってきた腕を下に抜け、懐に入り込んでアッパー。怯んだ隙を見逃さず、連撃を叩き込む。決め手に欠けるというだけで、腕や足をあらぬ方向へと曲げることはできる。
これで徒手空拳は封じることができた。戦局としてはこちらが圧倒的に有利。あとは相手の体力が尽きるまで、損傷を追わせるだけ。……だが、念には念を。何が起きるか見ておこう。
「
何もなければそれでいい。タコ殴りにしている自分が映れば尚良い。
そういう未来を信じて、運命を見る。見る__
ガゴンッ
「ッッ!」
距離を取る。間に合わない。運命は既に決まっている。
白巨躯の、折れたはずの足が即座に修復。地面が爆ぜ、一直線に向かってくる。
この幻想郷に
だが今の
ドスッ
鈍い、音がした。お腹の辺りに、言葉にし難い妙な感触があった。熱いものが込み上げてきた。
見ると、今まで目立って使われることのなかった右腕の剣が、私の脇腹を貫通していた。
「か、はっ……」
全く、これも運命の通りだ。
運命を操る程度の能力
7秒先の未来を見れる『
決まった未来のことを”運命”としているため、
自分が見えた運命を周りに言っていたら、周囲からは「彼女が言ったことが起こる」と思われ、運命が操れると勘違いされた。尚本人はそこまで気にしていない。