東方宿儺譚    作:雅之幻想

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三期死滅回遊とモジュロおもしれーッ!


62.紅楼

「お嬢様!」

 

 甲高い、悲痛さを交えた声が響く。理由は勿論、主を守れなかったことだ。

 脇腹に剣が刺さった。別にそれだけならいい。吸血鬼の再生能力は実力者揃いの幻想郷でも

 折り紙付き。あの程度の傷であれば瞬きする間に治る。

 

 問題は、この戦いにおいて瞬きする間というのが命を刈り取るには十分な時であることだ。

 

 幾度か時を止めて状況を把握しようと努めたが、残念ながら彼女_十六夜咲夜はこの速度の戦闘に追いつけなかった。時を止めを解除した瞬間から状況が転々とする上、素の動体視力では主の速度を捉えられない。

 故に彼女は、この場におけるもう一人の危険人物_宿儺に注意を向けることにしていた。首元にナイフを宛がい、宿儺の動きを牽制する。余裕綽々とはしていたが、動くことはなかった。

 

 だからこそ、彼女の方も動かなかった。

 

 だからこそ、主を守れなかった。

 

 主は脇腹を黒く染め、頬を歪ませて__

 

「キイ」

 

 主の声が、耳元で聞こえた。気がした。

 

 ──瞬間、主の体は無数のコウモリとなって、四方八方に飛んでいった。

 


 

 七重奏(セプテット)で見えたのは、脇腹を突き刺される自分だった。

 見えてしまった以上、『脇腹を刺される』という未来は避けることができない。

 ならば、脇腹だけをコウモリにしてしまえばいい。元はといえば自分の身体なのでその分のダメージは免れないが、こっちの方が被害は少なくて済む。

 

 そして再び『見る』。相手の動き。未来への動きの軌跡を。

 

「……どうやら、運命は私()を選んでくれたようね」

 

 ──運命の通り、全身をコウモリにした。

 

「キイ」

 

 四方八方、縦横無尽、あらゆる方向へと飛んでいく。白巨躯は一瞬、何が起きたのか分からないといった様子で辺りを見回した。が、すぐに構え直し、追撃に備えた。

 だが生憎、こちらから攻撃する気は毛頭ない。

 

「禁忌『カゴメカゴメ』」

 

 白巨躯を中心に、網目状の弾幕が展開されていく。

 

 真の目的は、この行動を悟らせないこと。気配を分散させ、魔力の探知を鈍らせるための一手。

 

 そして当然、弾幕を張ったのは他でもない__

 

 

「うしろの正面だーれだ」

 

 

 私の可愛い妹だ。

 


 

「良い」

 


 

 正直、今まで何があったのかというのはよく覚えていない。微かに、白いのが私を吹き飛ばしてお姉様が割って入ったことくらい。頭を殴られていたらしく、頭痛がして顔には血の感覚がある。

 

「でも、むしろすっきりした気がする!」

 

 今なら何でもできる、そんな全能感が心を満たしている。

 

「さっきのお返し!」

 

 弾幕に気を取られている白い奴を背後から叩く。体勢を崩し、凹んだ頭から地面にめり込んでいった。

周りを飛んでいたコウモリは一所へと集まって、人の形を型取り始めた。それが誰であるかは、シルエットな状態でも分かる。

 

「おーねーえーさーまー!」

 

「フラン……フフ、全く可愛い子」

 

 姿を現した姉に思いっきり抱きつく。姉も抱き返してくれる。

 本当はこんなことをしている場合ではないのだが、なぜだろう。今は無性に甘えたい気分だ。

 

「お姉様。私を守ってくれて、ありがとう」

 

「あなたのお姉様だもの。当然よ」

 

 人肌の温かさを感じる。ああ、ずっとこうしていたい。ずっと抱き合っていたい。

 でもそれをするには、ジャマなものがある。

 

「ねえお姉様、あの白いやつ倒していいよね?」

 

「ええ。でも私もあいつには恨みがあるの。だから、二人でやりましょう」

 

「……! うん!」

 

 やっぱり、お姉様はすごい。今の私達なら、なんでもできる。気がする。

 


 

 地面にめり込んでいた魔虚羅が起き上がり、吸血鬼姉妹を見据えた。「見据えた」と言っても、魔虚羅には視力がない。故に「見た」のは、二人の魔力。2つの大きな魔力の塊が存在しているように見えている。そして、そのどちらも敵意を有していると認識。最適な行動を思案する。

 ……否、思案ではない。それは意思ある者にのみ許された行動だ。式神(コンピューター)には意思がない。後天的に式神と成った八雲藍のような者とは異なり、魔虚羅は初めからそういう存在。宿()()()()()()()という術式(プログラム)に沿っているだけで、そこには思いも考えも無い。

 

 故に、魔虚羅は愛を知らない。

 

「オォッッ──」

 

 二人の少女を握り潰さんと両の手を広げ、迫った。

 だが現在絶好調な少女達の目には、腹部をがら空きにした標的(ターゲット)が攻撃されに来ているようにしか見えなかった。

 

「はあっ!」

「やあっ!」

 

 素早く身を屈め巨体の腹へと回り込むと、二人同じタイミングで拳を放った。

 吸血鬼の怪力が赤月によって強化され、更に今は精神的に絶好調。それが同じタイミング、同じ場所に2つ重なった。結果、魔虚羅は天井を突き抜け、赤月の照らす天へと上がっていく。

 

「ォ、オッ──」

 

 しかし、魔虚羅はまだ動く。腹を風が通り抜けようと、一撃で破壊されない限り、適応に適応を重ね続け、いずれは阻む者供を打ち倒す。それこそが、魔虚羅という式神だ。

 

「スピア・ザ・グンニグル」

「レーヴァテイン」

 

 槍と剣、膨大なエネルギーの凝縮された2つの光。並ぶようにして放たれた二撃が、中空でぶつかり、一つの紅い槍となって魔虚羅の頭を貫通した。不思議なことに、これまた同時に同じ場所を貫いた。これは奇跡と言っても差し支えないだろう。

 運命の赤い糸によって結ばれた姉妹の愛によって起きた、()()()()()奇跡。

 

 だが、たとえ奇跡が起ころうとも、一撃での破壊がされなければ意味がない。

 現に魔虚羅は今、ギギギと音を立てながら槍剣の刺さる頭を__

 

 

 

「きゅっとしてー……ドカン!」

 

 

 

 ──赤月の夜、紅魔館上空。闇を照らす紅い光が、目も覚めるような轟音とともに観測された。




「きゅっとしてドカン」で破壊したのは、赤い槍のエネルギーの均衡です。
起爆剤に使っただけなので、魔虚羅が適応にしていようと関係ありません。 爆裂!
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