──朝。
案内された部屋で配膳された
問題というのは、丁度真正面に座っている人物だ。
一週間真紅に囲まれた生活を送っていれば色彩感覚が狂うというもの。ここに来る前であれば「赤」と認識できた服も、今では赤色というより朱色に見える。例えとしては鬼灯に近い。
「で? 一体何があったわけ?」
見慣れた顔が見慣れない表情をしているのに少し新鮮味を覚える。眉間にしわを寄せる少女は、厄介事を持ち込まれたことにイライラしているらしい。異変のときは大抵この調子なのだろうか。
「夜中の爆発であれば、あれは俺ではなくレミリア・スカーレットとフランドールの所業。その当人供は今寝ている。また暮にでも出直せ」
「でも、あんたも当事者なんでしょ。知ってることさっさと話しなさいよ」
お祓い棒で肩をトントンと叩き続け、不満そうな空気を醸し出す少女_博麗霊夢。眉間のしわは益々深まり、より苛立ちが伝わってくる風となった。ここで怒らせるとあとが怖い。折れよう。
「……ゆうべの爆発は、俺の式神を倒すためのものだ。フランドールとレミリア・スカーレットの技が融合し、一本の槍となって炸裂した。式神は破壊され、その後はお前の悩みのタネの通りだ」
「『式神』って、紫のところのアレみたいな?」
「在り方はかなり違う。あの狐は元々の妖怪に式を与えたもの、早い話後天的に式神と成ったに過ぎない。方や俺の式神は、先天的な式神として、式だけが組み込まれている。前者は元々の質によって得意不得意が決まっているが、後者は比較的自由に能力が設定できる」
魔虚羅に関しては一般的な式神とは根本から異なる生成方法をしているが、本質としては説明した通りだ。完全なコントロールができないことと、時間制限があるという致命的な欠陥があるのでそこは改良の余地ありだ。特に後者に関して、それこそ昨夜の運用時間は5分13秒。適応に相当な穢れが必要故、最後の一撃では気での防御が間に合っていなかった。穢れを共有できるようになれば、時間を気にせず運用できるようになって『適応』をより活かすことができるはずだ。尤も最後の合わせ技は、たとえ防御したとしても防げなかったであろうが。
「よくわからないけど、あんたの式神と吸血鬼が戦ったせいでああなったってことね」
「まあ、そうだな」
外国の宗教では、神に罪を告白する「懺悔」というものをするという。今の行為は、正にその『懺悔』に当たるのだろう。違うことといえば、懺悔しているのは本来それを告白される神であるという点と、聞き入れる側は神妙な面持ちではなく、寧ろ微笑みだした点だろう。
「丁度、買い出しと屋根掃除しようと思ってたのよね〜」
唇を歪ませ、独り言のようにそう言った。その笑顔に少し恐怖を覚えたのはきっと気の所為だ。
まあ詰まるところ、買い出しと屋根掃除で今回の件は流してくれるということなのだろう。
「……雨漏りがないかも確認しておく」
「あら、気が利くわね」
眉間のしわがなくなり、霊夢も
ようやく問題が片付いたことには、こちらも気が休まるというものだ。
……それにしてもあのメイド、なぜ客人に客人の対応を任せたのだろうか。
「にしても咲夜の奴、なんであんたに任せたのかしら。ご主人サマがいないときはあいつが客人の対応してるのに」
どうやら霊夢も同じことを思っていたらしい。こんなふてぶてしいのを相手にしたくないから……とは言わないが、改めて考えても少し変だ。
思い当たる節としては、暴走したフランドールのその後のケアか、或いはレミリア含め赤月による身体強化の反動を心配してのことか。
「あー、もう紅茶なくなっちゃった」
「おかわりをお持ちしました」
「「うおっ」」
思わず博麗とともに声が出た。意識の外から来られると、流石に驚きを隠せない。
『探知できない』というのはいつの時代も厄介だ。平安であれば彌虚葛籠、少し前は禪院真希、そして今は十六夜咲夜。対処がほぼ不可能という点であれば、東堂葵も挙がるだろうか。
「宿儺様、妹様が呼んでおります。どうぞこちらへ」
そんな思考もつゆ知らず、与えられた役割をきっちりと遂行してくる。いい従者だ。
「ちょっと、私は?」
「お嬢様がまだ起きていないので、もう暫くお待ちを。『待て』なら犬でもできますわね」
「あ゛あ゛ん?」
主人に忠実な犬に言われたくない気持ちは分かる。
が、ここで変に飛び火されるのも嫌なのであえて口は挟まない。
「案内しろ。
「承知しました」
逆に俺に対しては非常に忠実な従者だ。間違っても先のようなことを口走りはしないだろう。
「ちょっと待ちなさい! 話はまだ──」
対応に怒る霊夢を尻目に、その場を後にした。
「お、宿儺じゃん。紅魔館に居るとは聞いてたけど、会えるとは思ってなかったぜ」
図書館の前に差し掛かったあたりで、金髪の少女と鉢合わせた。霧雨魔理沙だ。
「霧雨か。なぜここに居る」
「ん、ちょっと本を借り来ただけだ」
懐から魔導書を取り出してみせた。成程。魔法使い同士、本を貸すほどの仲らしい。
……それにしては目を逸らしたのが気になる。
「で、先日借りた本は戻したのですか?」
「返却期限はまだだぜ。死んだら回収してくれ」
「丁度今夜はステーキにしようと思ってたところよ。狩りに行く手間が省けて助かるわ」
前言撤回。以前レミリアが言っていた『盗みに入る』マヌケは霧雨のことだったらしい。
と思っていると、霧雨がやって来た方向から大きな魔力の塊が近づいてくるのを感じた。
「まぁーりぃーさぁー!!」
「おっと、いつもより早いな」
近づいてきていたのは、パチュリー・ノーレッジだ。魔力を迸らせながら鬼の形相(といっても大して怖くない)でこちらへ向かってくる。風魔法の応用なのか、かなりの速度だ。
「じゃあな宿儺! 今度また魔法の研究に付き合ってくれ!」
「夕食にはなるなよ」
箒に跨り、こちらも凄まじい速度で廊下を駆け抜けていった。
『
「待ちなさい! 今日こそ逃さないわよ!」
……飛び去っていく風圧で髪が乱れるのも日常茶飯事なのだろうか。
「コホン。お見苦しいところをすみません。ネズミが入り込んでいました」
「夕食がネズミ肉なのは勘弁だな」
(別に特別整えていたわけではないが)乱れた髪をもとに戻しつつ、律儀な謝罪を軽口で返す。
ネズミ肉_もとい人肉が夕食になることは多分ないだろう。……そういえばこちらに来てから人を食べたことがなかった。裏梅の料理が懐かしい。
「彼奴、地獄でどうしているだろうな」
「…………」
思い出に浸る中、二人の間に沈黙が流れた。ただし、沈みはせども決して重くはない。
思い返す時、かけられる言葉は寧ろ邪魔になる。十六夜咲夜はそのことを理解しているのか。
本当に、良くできた従者だ。
裏梅の扱いをどうしようか死ぬほど悩んでます